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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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【道頓堀 大阪松竹座 】





道頓堀の松竹座劇場では軽快な祭囃子の音と共に、新春の歌舞伎観劇の観覧客でごったがえしていた



大勢の男性はスーツの正装と、そして色とりどりの着物を着た女性達が、間もなく始まる新春歌舞伎公演に期待を寄せ、観客席を忙しく行き来している




その中でも鬼龍院忠彦は誰が見ても美男子なので、松竹座の1階の(コンサートで言うアリーナ)の通路に立ち、彼の腕に手を添えて歩いていると、当然のごとく人々が振り返って見る




しかし女王の様に彼の腕に手を添えて歩いているのは、アリスではなく紫の加賀友禅の訪問着を着た、伊藤アリスの母(琴子51歳)だった



その後ろを桜柄の振袖を優雅に纏った、伊藤アリス(25歳)が静かに歩く




アリスの婚約者鬼龍院は母の大のお気に入りだ、彼は立ち振る舞いにもそつがなく、対面した誰をも魅了する



顔はアリスの好みでは決してないが、世間が言うイケメンなうえに長身で贅肉がなく、着ているものにしても

(母なら数十円の誤差で言い当てられるだろうが)いつもざっと見積もると、80万円相当の着こなしをしている(時計は別だ)


指輪も(男がどうかと思うが)香水も一流ブランド物で、高級品を身に着けているが、香水嫌いのアリスから言わせるととても臭い男だ




それでも輸入業務で財を成し、高収入を得ていて大阪は佐山に美しい豪邸を持ち、この度めでたく我がお母さまに見初められ、上流国民界に仲間入りを果たしている




上手くアリスの母親の目にかなった彼は、母からすると我儘気ままに婚約破棄をする、どうしようもない「愚女」(愚息の女版)を喜んでもらってくれる、これ以上にない心の広い結婚相手だ




いたらない娘にはこの母がフォローしますわとばかりに、いつも鬼龍院とアリスとのデートには我が母がしゃしゃりでてくる




いっそのことお母様が鬼龍院と結婚すればいいのに



アリスはそんなことを考えながら、鬼龍院とその腕を組んで歩ている母の後ろから、贅沢な1階の最前列観覧席に入った




母から鬼龍院を紹介された時は、とりわけ胸のときめく相手というわけではなかったが、自分は崖っぷちで、もう後がなかったし、結婚相手なんて今は正直誰でもよかった



二人目の婚約者・・・・アリスの祖父の大のお気に入りの、メビウスホールディングスのCEO松下竜馬との婚約をアリスが一方的に破棄してから、上流階級でのアリスの評判は地に落ちた




この件に関しては母はもちろん、アリスをとても可愛がってくれている、祖父までもが激怒した


アリスは少なくとも元婚約者松下竜馬に淡い恋心を抱いていた



できればうまくいってほしかった



心をときめかす彼のあの寂し気な横顔を、笑顔で満たしたいと思ったことはあったが、その役目は自分ではなかった、彼には心に決めた人がもうずいぶん昔からいたのだ



辛い失恋をしてから今はアリスはもう婚約者にときめきを求めてはいなかった




アリスは母と鬼龍院を見てため息をついた、やはり周りが進める人と結婚するのが一番良い





自分が辛くなるような、劇的な恋愛なんかもう沢山、今は安らぎが欲しい




母親と祖父が望むように伊藤家の資産を、増やしてくれる人なら誰でもよかった




アリスの学友もすでに母親になっている者もいる




以前から望んでいた子供をぜひ授かりたい、母親になりたい




そして自分の母親とは正反対の子育てをする。そうしてやっと自分は未熟者ではなくなるのだ




家紋付きの訪問着が苦しい、枝を付けた乱れ桜の老舗染めのこの柄は一年間で、桜が咲き始めるこの1~2か月しか着れない。とんでもない贅沢品だ




母親にやたらと締め付ける嫌な着付け師を、変えてほしいと頼んだのに、今朝もアリスの着付け師は彼女だった





おかげで前かがみにすらなれない、操り人形のように背筋をピンと張ったまま、明日には背中が筋肉痛になるだろう





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