龍の呪いを受けた仙人 ガロウは、仙術魔法 神威により、龍の結界から離れた、南の島に飛んでいた。
「ここは……南の島か……。どこの国だったか……」
ガロウは、咄嗟に海を想像して魔法を発動した為、どの国に移動したのか把握出来ていなかった。
「ぐぅっ……!」
そして、右肩に刻まれた呪いが疼き始める。
ガロウの受けた呪いは、少しずつ人体を腐らせると言うものだった。
「む……アレは……社か……?」
少し歩いた先には、鳥居と小さな社があった。
ガロウは、身体を休ませる為、小さな社へと入って行く。
「ふむ……」
しかし、鳥居を抜けると、小さな岩に座り込み、眠る男の姿があった。
「この魔力……この世界の人間か。私たち異郷の仙人が関わり合ってはいけないだろう……」
そうして社を出ようとしたが、ガロウは気付いた。
「此奴、寝ている訳ではない。気絶している……! この魔力の流れ……放っておくと死んでしまうぞ……!」
ガロウは、男に手を当て、自らの魔力を注ぐ。
暫くすると、男はパチっと目を開いた。
「んっ……アンタは……?」
「通りすがっただけだ。礼など要らん」
「礼……? 俺に何かしてくれたのか?」
「分かってないなら尚のこと気にするでない」
そして、ガロウは背を向けたが、
「ぐうぅっ……!!」
魔力を注いだことで、傷は更に悪化していた。
フラフラになりながらも去ろうとしたが、倒れそうな瞬間、男に肩を支えられた。
「ちょ、ちょっとアンタ……フラフラじゃないか!」
「お前、私の姿を見ても恐れないのか……?」
こんな角の生やした人間など存在しない。
普通の神経なら、驚いて逃げるか、魔物と勘違いして戦闘になるところだろう。
「え、何が……? 俺になんかしてくれたんだろ? それに、なんか俺……記憶がなくなってるっぽいんだ……」
頬を掻きながら、ヘラヘラと男は笑った。
「記憶がなくなっているのに呆けて笑っておるとは、なんとも危機感のない奴だ。死にかけても仕方ないな」
「えぇ!? 俺って死にかけてたのか!? じ、じゃあアンタは命の恩人じゃないか!」
「そこまで大袈裟なものではない……」
話の途中、ガロウは違和感に気付いた。
男に支えられ始めてから、少し身体が楽になっていた。
そして、よく見ると、男からは魔力が全身から漏れ出てしまっているのが分かった。
「お前、魔力が漏れ出てることに気付いてないのか?」
「え……まりょく……って、なんだ……?」
ガロウは驚きの顔を浮かべる。
この世界の人間は、身体に流れている全魔力を失うと死んでしまうのだ。
「それよりも、アンタの名前、教えてくれよ!」
「名前などどうでも良い。私の掌にお前の手を翳せ」
「ん? こうか?」
その瞬間、男はブルッと全身が震えた。
「なん……だ……? この、全身の奥底から巡ってくるような……エネルギー……?」
「それが魔力だ。今、私がお前に魔力を送り込むことで強制的に魔力の流れを巡らせている。しかし、この魔力を自身で操れなければ、お前は死ぬぞ」
「ま、マジかよ……。俺、死んじまうのか……」
手を離し、男の目を見つめる。
「お前の魔力は今、全身から漏れ出ている状態だ。まずは自身の魔力の流れを感じろ。目を瞑れ」
男は、言われるがままに目を瞑る。
「両手を合わせ、集中しろ……」
暫くすると、男から魔力は漏れ出さなくなった。
「ふぅ……。アンタの言う通りにやったら出来たよ! これで俺は死なないんだな! 二度も救われちまったな!」
満面の笑みをガロウに向ける。
「もっと自在に扱い、武器などを介せば魔法の発動も出来るぞ。色々と試してみろ。それでは、私は……」
去ろうとしたガロウを、男は腕を担いで並ぶ。
「見たところ、そっちも死にそうじゃんか。助けてもらったのに、放っておけないだろ……!」
「…………」
男と共に海岸沿いに出ると、男は自分の着ていた服を海水に浸し、ガロウから溢れる血を拭った。
「これ、どうすれば止まるんだ?」
「呪いだ。止めることは出来ない」
「チッ……!」
焦る男に、ガロウは不思議な気持ちが芽生えていた。
ただの人間と話すのは初めてだったからだ。
「そう言えば、さっきお前に支えられた時、身体が少しだけ楽になった。可能性の話ではあるが、お前は治癒魔法の使い手だったのかも知れない」
「治癒魔法……?」
「ああ。傷を手当てする魔法だ」
しかし、治癒魔法を発動するにも、この世界の人間は、素手から魔法を放つことが出来ない。
「そうか、じゃあ、さっきの止めるやつとは逆に、その傷口に魔力を流せばいいんだな……!」
そう言うと、男は徐に傷に手を当てた。
「無理だ。魔法とは、武器や防具を介さねば……」
先程、ガロウが男に魔力を流したように、今度は男が同じようにガロウの傷に魔力を流し込んだ。
「何故だ……!?」
すると、綺麗に外傷は消え去って行った。
「お、出来たじゃねぇか! やってみるもんだな!」
ガロウは、不思議なものを見る目で男を見つめる。
「ハハっ、二借り一返だ。あと一借り、しっかり返させてくれよ。俺の名前はアズマ。名前だけはしっかり覚えてるんだ。アンタの名前、教えてくれるよな!」
アズマはヘラヘラと笑い掛ける。
「仙人 ガロウだ……」
「仙人様だったのか! そりゃすげぇ訳だ!」
「仙人を知ってるのか……?」
「いや、知らないけど、七神とか守護神みたいに称号があるってことは、すげぇ奴ってことだよな!」
「七神や守護神の存在は覚えてるんだな。あと、様は要らない。ガロウで良い」
「良くねぇって! 命の恩人で、俺に魔法の扱い方を教えてくれた先生でもあるんだ! な! 仙人様!」
どこか忠誠心の強さが見られる男だった。
時は、現在に戻る。
「アズマ、あの異郷者の手助けに行くんだ」
アズマは、首を傾げ、悩む。
「いやぁ……まだ一借り返せてないし……」
「私の呪いを解いた、あの異郷者を連れて来てくれた。私の命の恩人、だろう? 二借り二返しだ。それならば、今度は彼奴に借りを返す番じゃないか?」
「ふむ。まあ、それはそうなんだけど……」
「何か不満でもあるのか?」
アズマはヘラっと笑う。
「いやぁ、なんかアイツら見てたら、結束力っつーか、絆みたいなもんが強く感じられてさ。その輪の中に入れないって言うか……俺から言いにくいよ……ハハ……」
ガロウは呆れたように鼻から息を吹き出す。
「お前は、変なところで勇ましく、変なところで臆病だ」
「ハハ…………」
「お前はどうなのだ。真意を答えてみろ」
「俺の真意か……」
アズマは、もう不要になった医療道具を片付け終わり、自分の手を見つめる。
「着いていってみたい……。俺には記憶がないから、他の世界とか、他の国の人と触れ合ってみたい。ヤマトたちと話してみて、そう感じた」
ガロウは、何も返さずに洞窟から出て行った。
「ああ、もうアイツらが来る頃か。俺も見送りくらいはしてやんねぇとな! 仙人様! 待ってくれよ!」
浜辺で待っていると、ヤマトたちの姿が見えた。
「お、来たみたいだな!」
すると、ヤマトは手を振っている。
「ハハっ、あんなに手、振んなくても分かってるっつーの!」
次第に、ヤマトが何か言っていることに気付く。
その声に、アズマは耳を傾ける。
「アズマさん! もしよかったら、僕たちの仲間になってもらえませんかー!!」
そう叫ぶと、ヤマト、アゲル、カナン、セーカは走り出し、二人の元へ駆けて来た。
「ハァハァ……ダメですかね、仙人様……。アズマさんのこと、連れて行ったら……。みんなで話し合ったんです。龍族のことも知ってるし、僕らのパーティには治癒師がいないから、防御も出来て治癒も出来る……。でもそれよりも何よりも、アズマさんはすごく優しいから!」
ヤマトは曇りのない目付きで向き合う。
「好きにしなさい。アズマ本人が決めるんだ」
「ど、どうかな……アズマさん……」
アズマはニカッと笑った。
「しっかたねぇな! ヤマト! その代わり、さん、も、敬語も要らないぜ! 仲間になるんだろ?」
「はい! ……じゃなかった。あ、ああ! ありがとう! アズマ!!」
「よかったですね。これで、ヤマトが馬鹿みたいに魔法を使ってまた倒れても、治癒してもらえますね!」
アゲルも後ろから嫌味ったらしく言葉を添える。
「ヤマトより背たかい! つよそう!」
「ま、私の足を引っ張らないように気を付けなさい!」
二人の言葉に、アズマは頬を掻いた。
「ハハ……背は高いけど俺は強くない。治癒師だからな。あと、そうだな。足も引っ張らないようにする……!」
「ちゆ……?」
「ふ、ふん! それなら……いいけど……!」
あまりにも素直に応えるアズマに、二人は少し、リズムを狂わされたような表情を浮かべる。
そんな光景に、ヤマトは思わず吹き出していた。
こうして、また一人仲間が増えた。
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