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「じゃあ、俺ん家来る?」
いるまの何気ない一言で、流れは決まった。誰も断る理由なんてなくて、むしろ全員がどこか楽しそうで――ただ2人だけ、違った感情を抱えていた。すちとこさめは、同時に同じことを考えていた。いるまの家に行ける、それはつまり距離を縮めるチャンスだと。
「部屋どうする?」
らんが部屋を見渡しながら笑う。
「人数多いし、ペアで分けるか」
「じゃんけんでいいだろ」
なつが軽く言うと、全員が手を出す。その瞬間、すちとこさめの視線がぶつかった。言葉はなくても分かる。狙いは同じ。
「じゃーんけーん、ぽん」
最初に負けたのは、らんだった。らんは少し考えてから、あっさり口を開く。
「じゃあ、こさめ」
「え?」
予想外の指名に、こさめが固まる。
「なんで?」
「なんとなく」
軽い理由。それだけで決まってしまうのが、余計に苛立つ。
「……いいよ」
こさめは笑う。でも、その目はまったく笑っていない。ちらっと、いるまの方を見る。何も言わない。止めもしない。それが、少しだけ刺さる。
次に負けたのは、みことだった。みこちゃんは少しだけ考えてから、静かに口を開く。
「……すちで」
「へぇ、俺?」
すちは一瞬だけ驚いたように見せて、すぐに笑う。
「いいよ、みこちゃん」
そのまま決定するかと思った、その時。
「待って」
こさめが口を開いた。
全員の視線が集まる。
「そのペア、変えていい?」
空気が一瞬で変わる。
「なんで?」
らんが面白そうに聞く。
「……別に」
こさめは少しだけ視線を逸らす。でもすぐに、すちを見る。
「すちくんとがいい」
はっきり言う。
その瞬間、すちが笑った。
「……へぇ」
楽しそうに、でもどこか冷たい笑み。
「いいよ」
あっさり受け入れる。
みこちゃんは何も言わず、小さく頷いた。
「じゃあ俺はらんでいい」
「お、俺?」
「うん」
これで、ペアは決まった。
いるまとなつ。らんとみこと。そして――すちとこさめ。
最悪の組み合わせ。
⸻
部屋に分かれたあと、空気は完全に違っていた。いるまとなつの部屋からは、笑い声が響いている。
「お前それは反則だろ」
「いやお前が弱すぎるだけ」
「うるせぇな」
ケラケラと笑い合う声。距離の近さが、声だけでも分かる。
その音を、すちとこさめは同時に聞いていた。同じ部屋で、同じ沈黙の中で。
「……うるさいね」
こさめがぽつりと呟く。
「だね」
すちも短く返す。
しばらく沈黙が続く。その間も、隣の部屋からは楽しそうな声が聞こえてくる。
「……ねぇ、すちくん」
こさめがゆっくり口を開く。
るふ
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「なに?」
「なんで平気なの?」
その問いに、すちは少しだけ目を細める。
「なにが?」
「いるまくん、あんなに近くにいるのに」
声が少し低くなる。
「他のやつと、あんなに楽しそうにしてるのに」
完全に、“俺”のトーンに変わっていた。
「……平気じゃないよ」
すちが静かに答える。
「全然」
一歩、近づく。
「でもさ」
こさめを見る。
「だからって、焦ったら負けでしょ」
「……は?」
「今のあいつ、誰にでもああいう距離だよ」
少しだけ笑う。
「だからこそ、最後に残るのが誰かって話」
こさめの表情が歪む。
「……余裕だね」
「余裕に見える?」
「見える」
即答。
その一言に、すちは少しだけ笑う。
「じゃあさ」
さらに一歩近づく。
「試してみる?」
「なにを」
「どっちが本気か」
空気が、張り詰める。
その時。
隣の部屋から、また笑い声が響く。
「はは、やめろって」
いるまの声。
その瞬間。
「……っ」
こさめの手が、強く握られる。
「……無理」
低く呟く。
「見てらんない」
目が暗くなる。
「取られるくらいなら」
すちを睨む。
「壊した方がマシ」
その言葉に、すちは一瞬だけ止まったあと――笑った。
「いいね」
楽しそうに。
「やっと本音出た」
「……は?」
「俺も同じこと思ってるし」
静かに言う。
「渡すくらいなら、壊す」
その言葉は、冗談じゃない。
本気の温度。
⸻
その頃、別の部屋。
「なぁ」
なつが笑いながら言う。
「さっきの空気やばかったな」
「そうか?」
いるまは普通に答える。
「いや絶対気づけよ」
「なにを」
なつは少しだけ笑って、言う。
「お前、取り合われてるぞ」
「は?」
「気づいてないの、お前だけ」
その言葉に、いるまは少し眉をひそめる。
「意味わかんね」
「だよな」
なつはケラケラ笑う。
でも、その目は少しだけ真剣だった。
「……まぁいいや」
小さく呟く。
「その方が、面白いし」
⸻
同じ家の中で、感情だけがどんどん歪んでいく。独占したい気持ちも、嫉妬も、全部抑えきれなくなってきている。それでも、まだ決定的な何かは起きていない。ただ――時間の問題だった。
そしてその中心にいる、いるまは。
まだ、何も知らない。