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私達がカウンターに辿り着くと、そこには真っ白な銀髪に、ルビーのような赤色の瞳をした女性が座っていた。 私と同様に尖ったその耳―彼女は、私のようにフォーレンエルフとなっている。
普通のフォーレンエルフは黒髪赤眼だが、稀に赤目や黒髪のみが変化する時がある。
「…いらっしゃいませ。ギルドへようこそ」
彼女は一瞬、私の血のような赤い瞳を覗き込むようにして目を丸くしたが、すぐに熟年の受付嬢らしい微笑に戻った。
「じゃぁ、私は手続きしてくるね。ここを教えてくれて、ありがとう」
フィオナが名残惜しそうに、彼女は頷き、奥へと消えていった。SSランクの彼女が去った後も、周囲の荒くれ者達の視線は、置き去りにされた「エルフの子供」である私に突き刺さっている。
「冒険者カードを作りたいんだけど」
私がフォーレンエルフの彼女に告げると、彼女は「承知しました」と手際よく一枚の羊皮紙を取り出した。
「では、こちらの登録用紙に記入をお願いします。項目は、名前、種族、年齢、それから…現在の役職、所謂、担当役です」
差し出された紙を眺める。五百年前とは少し書式が違うが、内容は単純だ。
私は、嘘を吐くのも面倒なので正直に記入することにした。
名前はリリアーナ。種族はエルフ。
年齢の欄には千歳と書き込み、役職は魔法使いと埋める。
ふと、種族欄の『エルフ』の文字を、『フォーレンエルフ』と書き直すべきか迷い、彼女の目を覗き込んだ。だが、彼女は私の意志を察したように、小さく首を振った。
…余計なレッテルは貼らなくていい、ってことか。
書き終えた紙を差し出すと、彼女は内容を上から順に確認していき―年齢のところで、ルビー色の瞳を大きく見開いて、息を飲んでいた。
多分、理由は、フォーレンエルフは百歳で亡くなるという御伽噺があるからだ。
「…リリアーナさん、あの…年齢のところが、千歳と見えますが…?」
「君の目は正常だよ。私は大体、千歳だよ」
私が事も無げに答えると、周囲で聞き耳を立てていた荒くれ者達が、一瞬の静寂のあとにブハッと吹き出した。
「ガハハ!千歳だってよ!こんなガキが千歳以上じゃねーって」
「おいお嬢ちゃん、盛りすぎだろ!百歳の間違いじゃないの?」
笑い声がホールに響く。フォーレンエルフの受付嬢は苦笑いを浮かべながら、年齢をそのまま受理してくれた。彼女の瞳の奥は、冗談だと笑い飛ばせないほどの「何か」を感じ取ったような、微かな戦慄が走っていたけれど。
…うるさいな。
「はい、お待たせしました。リリアーナさん。こちらが冒険者カードです。私はカトリーナと申します。何かあれば気軽にお呼びください」
「うん、ありがとう。カトリーナ」
受け取ったのは、鈍い輝きを放つ銅製のカード。
そこには『Eランク』という最低ランクの刻印が刻まれている。
私はその場から離れ、壁に背を預けてカードを指先で弄んだ。
…Eランク、ね。まぁ、何ランクでもいっか。
私は弄んでいた手を止め、掲示板のでも見ようと歩き出そうとした。すると、不意に私の前に大きな影が差した。
「君が、フィオナを助けてくれた子だね?」
頭上から降ってきたのは、涼やかだが芯の通った声。
顔を上げると、そのには靱やかな体つきの、眩しい金髪にアイスブルーダイヤモンドのような淡い青の瞳をもつ美青年が立っている。
彼が姿を現した瞬間、ギルド内が喧騒がスッと引き、荒くれ者達がゴクリと唾を呑む気配がした。
「そう。それが、どうした?」
「…はは、度胸あるね。彼女の仲間―彼女達のリーダーとして、礼をしたいんだ。少し時間をくれないかな」
彼の真剣な眼差しは、普通の女子だったら黄色い悲鳴をあげ、目がハートになってしまいそうだ。
だが、今の私にとっては「顔が整った若造」以上の概念はない。
「分かった」
私は短い返事をし、彼に着いて行くことにした。
ギルドを去り際、背後から「あいつ、アルベルト様にあの口の聞き方…」「何者なんだ…?」という戦慄混じりの呟きが聞こえてきたが、私は無視してバッグの中の駄猫を軽く叩いた。
『痛いじゃないですか。もうちょっと優しくしてくださいよ』
『あんたがわざわざ周囲の声を拾って、私に伝えたんでしょ?普通なら、あんな距離の囁き声は聞こえない。それも、二回も』
バッグをひと睨みしてから、もう一度軽く叩いて前を向く。
辿り着いたのは、先程のフィオナに招き入れられたあの白亜の屋敷だった。
アルベルトは、慣れた手つきで重厚な扉を開け、私を中に招き入れた。
そのまま客間へと促され、勧められるままに柔らかなソファへと深く腰を下ろす。私が座ったのを確認してから、彼もまた、対面の席に音もなく腰を下ろした。
「改めて自己紹介をさせてくれ。俺はアルベルト。SSランクパーティ『|暁獅子の刃《ぎょうじしのやいば》』で前衛兼リーダーを務めている」
「それで、お礼って何?別にお礼をされたくて助けたわけじゃないし。それと、宿を取ってないから話を早くして欲しい」
窓の外に目をやると、空は既にオレンジ色に染まり、太陽の残滓が沈みかけていた。
この規模の王都だ。夜になれば宿は埋まり、路地裏には昼間以上のゴロツキが這い出すだろう。早くしないと、野宿する羽目になる。
「なるほどね。…なら、良ければここで泊まっていかないか?衣食住は保証する」
彼の提案に、私は思考を巡らせた。
今から宿を探しても、空きがある保証はない。この規模の都市で夜を彷徨うのは非効率だし、何よりここで断れば彼らの面目を潰すことになる。
拠点と食事を確保できるのなら、今の私には願ってもない条件だ。
「…そう。なら、その言葉に甘えることにする」
私が頷くと、アルベルトは満足げに目を細めた。
「決まりだね。…ああ、それから。ここを拠点にするのなら、当然、俺達の仲間になってもらうことになるけど。まぁ、もう返事はもらったし、今更意味のない確認かな」
私の全身が、氷のように固まった。
「…どういうこと?」
「だから、『|暁獅子の刃《ぎょうじしのやいば》』の新しいメンバーになってもらうってことさ」
にこやかな笑みを浮かべてはいるが、その瞳の奥には、狙った獲物を決して逃がさない猛獣の光が宿っていた。