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夜も更けた百鬼のあとの余韻。静まり返った森の奥、雪が薄く積もる石の上。
そこに、雪女・初兎は静かに座っていた。
月明かりに溶けそうな白い髪が、風にさらりと揺れる。
そこに、ばさっと羽音を立てて降り立つ影。
「……なに、こんなとこでぼーっとしてんの?」
烏天狗・りうらだ。
一見いつも通り。でもその目は、少しだけ沈んでいた。
「風が、落ち着かない夜ってあるでしょ?」
初兎はそう言って、微笑んだ。
りうらはため息混じりに彼の隣に腰を下ろす。
「……なんか、あんたってさ、話聞くの上手そうだよな。」
「どうしたの? またまろちゃんとケンカ?」
「ケンカじゃねぇし。」
「……ふふ、まろちゃん関連は合ってるんだ。」
「……ッうるせぇ。」
初兎は少しだけ目を細めた。
月の光に照らされたりうらの横顔は、赤くなりかけていた。
「好きなの?」
「――違ぇし。まろが、意味わかんねぇこと言ってくんのが悪いんだよ。」
「たとえば?」
「“俺のこと好きになったらどうすんの?” とか……バカじゃね?」
「……それ、わざとじゃないよ。」
初兎の声が、ほんの少しだけ低くなる。
「え?」
「だって、それって”確認”じゃん。冗談っぽく言って、相手の反応を見るやつ。」
りうらは黙り込んだ。
「それで、どう思ったの? ドキッとした?」
「……し、してねぇし。」
「嘘。今、風止まったもん。」
「風でバレんのかよ……」
「うん。恋してる風は、すぐわかる。」
りうらは膝にひじを乗せて、うなだれる。
「……やべぇな、俺。」
「なにが?」
「……“恋”とか、俺、向いてねぇよ。」
「じゃあ、どうして僕のとこに来たの?」
その言葉に、りうらの肩がびくりと動いた。
「……なにそれ、こわ。」
「つまり、認めに来たんでしょ? 好きになっちゃったって。」
沈黙。
でも、その沈黙は、否定じゃなかった。
初兎は、雪のようなやさしい声で言った。
「大丈夫。まろちゃん、ちゃんと見てるよ。あなたのこと。」
「……そう見えねぇけど。」
「恋ってね、見えにくいものの中にあるんだよ。」
「……むず。」
りうらは、風を巻き上げて立ち上がる。
「……じゃ、ありがと。なんか……ちょっとマシになった。」
「うん。あとは、素直になるだけだよ。」
りうらは、背を向けながらぽつりとつぶやいた。
「……素直にさせたの、あいつなんだけどな。」
その背中に、初兎はそっと呟いた。
「知ってるよ。」
夜風が、雪をかすかに舞い上げた。