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付き合って三ヶ月の彼女がいるというのに、相も変わらず幼なじみと塾の自習室などで過ごしているのには、理由がある。
同じ趣味の子だし、最初は一緒に過ごすのが楽しかった。ファミレスで漫画を一緒に書いたり、推しのコラボカフェに出かけてみたり(男1人だと入りにくいから助かった)、オススメの漫画を貸し借りしたり…
だけど、一ヶ月を過ぎたくらいから、雲行きが怪しい。
(どうして、いつもデート、私から誘うの?)
(女の子から、言わせないでよ、もっと色々したいとか、さぁ…)
(ほんとに、雪也って、私のこと好き?!)
そう言われて、ほんとに好きなのか?と自分で振り返ると、自信があるとは言えない…
好いてもらえることが嬉しいだけじゃ、駄目なのか。
一緒にいるのが楽しいだけじゃ、駄目なのか。
「動機が不純だったからなんかな…」
自嘲するように呟いてから、ふと、それが声に出ていたことに気がついた。
目を上げて、雪也は息を飲んだ。
裕真の瞳は、外国人めいて薄い茶色だ。その眼が、ちょっと見たことがないくらい真面目に自分を見ていた。
「なに、それ」
普段の彼には似合わない不機嫌な声音で、裕真は言った。「不純な動機って…」
「あ、つい声に出てたな」
雪也は苦笑した。一つため息をつく。
「なんか、上手く行かなくてさ…彼女と」
裕真の声が低い。「不純な動機で彼女と付き合ったってこと?」
「おい、おまえ…」らしくもなく裕真が怒っているらしいことに、雪也は動揺した。「違うよ、そういうんじゃないって。なんか、変な想像してるだろ」
「違うの?」
「まあ、不純は不純なんだけどさ…」
雪也はため息をついた。
当の本人に向かって言うのは言いにくい。
「おまえばっか、いつももててムカついてたから、告白されたとき、俺も悪くないじゃんって嬉しかったんだよ。でもなぁ…」
物憂げに手の中で鉛筆を回転させる。「なんかさ、難しいよな、女子って。そういうのじゃ駄目なんかな」
「駄目そうなの?」
「んー…」
下書きを取り上げ、消しくずを払いながら言う。「あれしてくれ、これしてくれ…とか。愛が足りない。とか…めんどくさいよ、正直…」
修正線を書き出しながらつぶやく。
「でも、やっぱ、不純だったからだな、俺が。ああいうのは、駄目だわ。ちゃんとしなきゃな…」
「なんだよ、それ…」
不意に、喉が詰まるような声で、裕真が言ったので、雪也はちょっと驚いて顔を上げた。
「おまえと付き合えて、隣にいられるようになって、それでまだ足りないとか…言ってんの、その子」
…雪也の前ではいつも、裕真は笑っていた。何かを覆い隠すように、整えられた笑みを茶色い瞳に浮かべていた…
なのに、今、裕真は、怖いほど真顔で、雪也を見つめてくる。
「俺なら、もっと大事にするのに」
乾いた唇の間から、幼なじみはひび割れた声で囁いた。