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――この学校で、あいつを知らない者はいない。
成績優秀、運動神経抜群。
教師からの評価も高く、女子からの人気は学年一。
男子からも、無意識のうちに一線引かれる存在。
なのに、誰も――
あいつが笑っているところを見たことがない。
それが、俺だ。
教室の中心にいながら、
俺はいつも少し離れた場所にいる。
「黒瀬《くろせ》くん、これプリント」
「今日の部活見に来ない?」
名前を呼ばれれば返事はする。
会話も最低限はこなす。
けど、それ以上はいらない。
チャイムが鳴り、教室がざわつき始める。
「黒瀬くん、一緒に帰らない?」
誰かが声をかけてきたが、俺は首を横に振った。
放課後に用はない――人間としては。
「ごめん。今日は用事がある」
それだけ言って、教室を出る。
感情は必要ない。
廊下の窓際で、ふと足が止まった。
向かいの教室から、ひとりこちらを見ている女子がいた。
白羽 澪。
転校してきたばかりの、無口な女。
目が合う。
どちらも、視線を逸らさない。
――こいつ、普通じゃない。
そう思った瞬間、彼女は静かに視線を外した。
感情は、必要ない。
夕暮れ時。
校舎がオレンジ色に染まり、
昼と夜の境目が、静かに近づく。
俺は屋上のフェンスにもたれ、
沈んでいく太陽を見下ろしていた。
校庭から聞こえる笑い声。
部活終わりの足音。
――全部人間の世界だ。
「……もうすぐ、夜か」
小さく呟いた瞬間、
胸の奥が、ひどく冷たくなる。
低く、重い声が響いた。
『時刻が近い』
逃げ場のない声。
拒否権なんて、最初からない。
それは、俺に命令を告げる
“地獄からの呼び声”。
俺は人間じゃない。
この学校で過ごす時間は、仮初め。
名前も、立場も、全部偽物だ。
――俺は、
人間界に紛れ込んだ悪魔だ。
夜が来るまで、
俺はまだ、人間のふりをしていなければならない。