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夜の街は、昼とは別の顔をしている。
ネオンの光。
湿った空気。
人の気配と、そうじゃないものが入り混じる時間。
俺は建物の影を伝うように移動していた。
足音は立てない。
視線にも映らない。
『対象を処理せよ』
命令は、いつも簡潔だ。
理由も、感情も、いらない。
それが俺の役目。
路地の奥に、歪んだ気配が見えた。
人の形をしているが、
中身はもう、人間じゃない。
俺の足元から、影が伸びる。
触れているのは影だけ。
それでも、相手の呼吸が乱れるのが分かる。
魂が、少しずつ削られていく。
終わったあと、そこに残るのは
“生きているけど、何かを失った存在”だ。
それを見届けるのも、もう慣れた。
罪悪感は、とうの昔に削り取られている。
終わらせるだけ――
そう思った、その瞬間。
「……やっぱり、ね」
背後から、静かな声。
反射的に振り向く。
路地の入口に立っていたのは、
昼間、教室で見た顔。
白羽 澪。
街灯の下で、彼女は無表情のまま俺を見ていた。
人間なら、ここで立ちすくむ。
それなのに、彼女は一歩も動かなかった。
「こんな時間に、何してるの?」
「それはこっちの台詞だ」
短い会話。
でも、空気が張り詰める。
彼女は、俺を怖がっていない。
それどころか――
見定めている。
数秒の沈黙のあと、
彼女は小さく息を吐いた。
「あんたも、人間じゃないでしょ」
心臓が、わずかに跳ねた。
否定すべきだった。
言い逃れはいくらでもできた。
けど――
言葉が、出てこない。
夜風が吹き、
俺たちの間を通り抜ける。
彼女は、答えを急がなかった。
「まあ、いいや」
そう言って、ゆっくり背を向ける。
「どうせ、また夜に会う」
街灯の影に、彼女の姿が溶けていく。
俺は、しばらくその場から動けなかった。
任務も、命令も、
一瞬だけ――頭から消えていた。
同類。
その言葉が、
胸の奥に、静かに残り続けていた。