文化祭の日の後夜祭で、若井たちに呼び戻された元貴は、その場で俺のキーボードとしてのバンド加入を発表した。
若井、高野、綾華は驚きつつも、どこか「やっぱり」というような顔をして、俺のことを喜んで受け入れてくれた。戸田さんと松嶋先生にも集まってもらってその発表を聞いてもらっていたが、戸田さんは少し考えた後、頑張ってね、と俺の肩に手を置いた。松嶋先生も、笑顔で頷いただけだった。
 10月中旬、文化祭が終わってすぐの休日に、俺と元貴はキーボードを買いに楽器屋さんに来ていた。色々と試し弾きをさせてもらって、元貴と「これいいね」と初めてのキーボードを決めて、購入した。
後日受け取りに来る手筈を整えてから、楽器屋さんを後にする。店前の歩道に立ち、腰に手を当てた元貴がキョロキョロと周りを見渡した。
 「さて。どこ行く?」
「え? キーボード見るだけじゃないの?」
「はあ? まだお昼前だけど」
「うん…え?」
 俺は腕時計を確認して、元貴を見る。
 「…これ、もしかしなくても、デート?」
「…そーですけど」
 意識してなかった俺を少し睨むようにして、元貴が口を尖らせる。俺は、ふは、と笑って、元貴の右手を握った。
 「ごめん、普通にバンドの為だと思ってた」
「いやもちろんそーだけど。でも、もう終わったし、別にいいでしょ」
「うん、嬉しい。どこ行く?」
「だから俺がきーてんの!」
「んー…」
「…あ、ハロウィンの衣装、買いに行こっか」
「ハロウィン?」
「うん。31日にスタジオでハロウィンの仮装生配信すんの」
「え?! 聞いてないけど!」
「あ、涼ちゃん入る前か、決まったの。ごめんごめん」
「えー、仮装ってどんな?」
「んー…。まあ、お店見に行ってみよ」
 そう言って、俺の手を引いて、激安のジャングルと呼ばれる大型ディスカウントストアに向かった。中に入ると、ごちゃごちゃとした雰囲気の陳列棚に囲まれ、何処に何があるのかいまいち分からない。とりあえず、衣料品がありそうな場所を探して、ウロウロと歩く。
 「…あ、これかぁ」
 ふと、元貴がある商品を手に取る。何かと手元を覗いてみると、美容マスクだった。
 「これ、結構良かったんだよなぁ、買っとこうかな」
「へえ、そうなんだ」
「うん。こないだ綾華にもらってさ」
「へえー、なんで?」
「え? 誕生日だったから」
「ふーん」
 うんうんと頷いてから、俺は眼を丸くして元貴を見た。
 「え!!??」
「っ、うるさ…」
 肩を竦ませて、元貴が呟く。
 「元貴、誕生日だったの!? いつ!?」
「え、9月14」
「…うそ…」
 愕然とする俺を、元貴は不思議そうに見た。
 「なに?」
「なにって…彼氏の誕生日…知らなかった…」
 プッと吹き出して、元貴が笑う。
 「だってまだ付き合ってなかったじゃん」
「そーだけど! そーだけど…」
「じゃあ、涼ちゃんも誕生日教えて」
「5月19…」
「遠!」
「…実は実習初日が誕生日だったんだよね…」
「へえ! そーだったんだ。じゃあ、誕生日に出逢ったんだね、俺ら」
 ドキッとして、元貴の顔を見る。嬉しそうに、微笑みながら俺を見つめていた。
 「ねえ、元貴、何が欲しい?」
「んー? いいよ別に。ホントに、まだ付き合ってなかったんだから気にしないでよ」
「…でも、皆からはもらったんでしょ?」
「…まあ。soFt-dRinkの練習の時に、ついでにスタジオでお祝いされただけだよ」
 あ、そうか。俺が参加していないバンド練習の時に、お誕生日だったんだ。少し、胸がちくんと痛んだ。
 「ほら、じゃあ仮装探しに行こ」
 カゴに美容マスクを数枚入れて、元貴が俺の手を引いて歩き出す。衣料品売り場について、イベントゾーンを探した。
ハロウィン用の仮装として、メイド服や魔女、囚人服やドラキュラなど、様々な衣装が並べられていた。
 「俺なんにしよっかな〜」
 元貴が、色々商品を手に取る。俺も、吊るしてある衣装を取って、自分に当ててみたりした。
ふと、文化祭の時の蓮くんを思い出し、似たような商品を探して手に取る。元貴の肩を、後ろからトントンと叩く。
 「ん? なに?」
「これ、どう?」
 灰色でもふもふの大きな尖った耳を、頭に乗せる。もふもふの手袋と、もふもふの尻尾ももちろんセットのやつだ。
元貴が、じっと見つめて、そのまま動きが止まった。
 「ん? 似合わない?」
「…それはやめとこっか、涼ちゃん」
「あ、そう」
 俺が商品を棚に戻そうとすると、元貴が俺の手から奪って、カゴに入れた。
 「え? 買うの?」
「いーから。他の探して」
「え?」
 それは使わないのに買うの? どういう事?
首を傾げながら、俺は他の仮装を探した。
 
 
 結局、元貴はドラキュラ衣装を、俺は警察官の制服を選んで購入した。
 「ハッピーハロウィーン!」
 31日、金曜日なので元貴たちの学校終わりに菜穂さんの事務所のスタジオに集まって、18:00からネット配信でライブを行った。この日までキーボードを猛練習した俺は、無事に演奏し終えてホッと胸を撫で下ろしていた。
綾華はゾンビナース、若井は海賊、元貴はドラキュラ、俺は警察官、そして高野はガイコツ柄の全身タイツ。
ライブの後に、次のライブハウスでの出番を告知して、1時間程で配信は終了した。
 「涼ちゃん加入をちゃんと紹介できて良かったね」
 若井が、にこにこと話しかけてきた。
 「うん、ありがとう。キーボード、まだまだこれから頑張るよ!」
「俺も、ギター頑張んないと」
 そう言いながら、若井が荷物を纏めて、いそいそと帰り支度をする。着替えもせず、海賊のまま帰るようだ。
 「あれ? 若井着替えないの?」
「なんで着替えんのさ。今日はハロウィンだよ?」
「え…まあ…」
「あやみ嬢とデートだろ」
 元貴が横から呆れた声を投げかける。若井は、へへ、と笑って帰っていった。
 「ハロウィンて、デートするもんなの?」
「…さあ?」
 元貴は興味なさげに、自分の荷物を取りに行った。
 「私もこのままデートに行くよ?」
「俺は流石に着替える。けどデートには行く」
 綾華と高野も、ハロウィンデートをするらしい。
 「え、ハロウィンって、なに?」
「深く考えないの」
 元貴に突っ込まれながら、ほら行くよ、と腕を取られてスタジオを後にした。外を歩いて駅の方へ行くと、ちらほらと仮装をした人たちの姿が見えた。
 「おお、結構ちゃんとハロウィンしてるね」
「渋谷の方がもっと凄いんじゃない?」
「渋谷? 行くの?」
「行くわけない」
 そのまま手を繋いで、電車に乗り込む。2人で元貴のスマホを覗き込み、今日の配信についてのファンの反応を読む。しばらく電車に揺られていると、元貴の家の最寄駅に着いた。
 「あ、元貴降りなきゃ」
「んーん」
「え?」
 スマホに眼をやったまま、元貴は俺の隣に座り続けた。プシュー、とドアが閉まり、また電車に揺られる。
 「え? もうすぐ8時だよ?」
「大丈夫」
「えぇ…?」
 俺は困惑しながら、自分の最寄駅に着くのを待った。アナウンスと共にドアが開くと、元貴が俺の手を引いて降りて行く。
 「…俺の家に行くの?」
「うん」
「こんな遅くに?」
 心配を声に載せて訊くと、駅の構内で元貴が歩みを止めた。
 「…今日、メンバーの家に泊まるって、言ってあるから」
「…え?」
 元貴が振り向き、真っ直ぐな瞳を俺に向けた。
 「誕生日、祝ってくれるんでしょ?」
 手を繋いだままの俺たちの周りを、忙しそうに人々がすり抜けて行く。ザワザワとした音が、やけに耳に煩かった。
 「お邪魔します」
「ごめんね、来るって思わなかったから、すごい散らかってるけど」
「…謙遜でもなんでもないね」
 玄関を上がって、壁際に冷蔵庫やキッチンがある短い廊下を抜け、ワンルームのドアを開けると、元貴が呆れた声でそう言った。部屋の中には、キーボードと、折り畳まれたことのない折り畳みベッド、テレビ、小さなローテーブル、そして座椅子があり、その周りを洗濯物やら段ボールなんかの様々な物が、彩りを添えていた。
 「…賑やかな部屋だね」
「…へへ…」
 とりあえず、一番スペースの空いているベッドに腰掛けてもらい、洗濯物を拾い集めていく。もうどれが洗った物で、どれが脱いだものか曖昧な為、全てを洗濯カゴへと詰めて洗面所へ放り込んできた。
腰に手を当てて、こんなもんかな、と部屋を見渡す。
 「え、もう片付いたと思ってる?」
「え? 片付いてない?」
「これとか、ほら、これも…適当に生きすぎだろ…」
 雑誌や漫画なんかを、元貴がまとめ出す。細かいな、そういえば元貴の部屋はとても片付いていたっけ、と考えながら、俺も段ボールへ床にある物を詰めて、取り敢えず唯一の収納であるウォークインクローゼットへ入れておいた。コップやお皿などを、元貴がキッチンへ下げに行く。せっかく床がよく見えるようになったので、全体的に軽く掃除機をかけておいた。
 「これが、片付いたって言うの」
「はい」
 元貴にぴしゃりと言われ、俺は小さな声で返事をした。くす、と元貴が笑って、さっきコンビニに寄って買ったスイーツや飲み物をローテーブルに出していく。
座椅子が一つしかない為、俺はラグの上に胡座をかいて座る。元貴は、明け渡された座椅子に座って、脚を伸ばした。
 「じゃ、ハッピーハロウィン」
「違うでしょ。元貴、お誕生日おめでとうでしたー」
「ありがとうでしたー」
 炭酸ジュースを入れたコップを、かちん、と鳴らして乾杯する。元貴は、コンビニの数切れ入ったロールケーキの一つを手で掴んで口に放り込んだ。俺は、プリンの蓋を開けて、スプーンで口に運ぶ。
 「ん、うま」
「うん、美味しい。とろとろ」
「ありがとう」
 お礼を先に言って、元貴が口を開ける。一口頂戴って、言えないもんかね。俺はスプーンでプリンを掬って、元貴の口へ運んだ。ふふ、と笑顔を浮かべて、元貴がうんうん、と頷く。
 「ん。んま」
「でしょ? やっぱりプリンにハズレはないな」
「いやあるだろ」
 くつくつと笑いながら、全てのロールケーキを食べきった。俺も、プリンの器の最後に残ったソースまで、しっかり掬って堪能する。机に空容器を置いた時、ほらすぐ片付ける、と元貴に言われたので、仕方なく元貴と俺のゴミを袋に入れてゴミ箱に捨て、スプーンをキッチンでさっと洗った。
 「そうそう。そーしてれば汚れない」
「お母さんみたい」
 座椅子に座って満足そうに俺を迎えた元貴に、口を尖らせてそう言った。俺は床に座っていてちょっとお尻が痛くなったので、元貴の斜め後ろのベッドに腰掛ける。元貴が、自分の鞄の中を探り始めた。
 「さて、着替えようか」
「そうだね、部屋ん中で仮装してる意味ないし。服持ってきてる?」
「うん。涼ちゃんのも」
「ん?」
 はい、と手渡されたのは、この前元貴が何故か購入していたグレーの猫耳セット。俺は、手元のそれを見た後、元貴の顔を見た。
 「え?」
「それ。涼ちゃんの為に買ったの。いや、俺の為か」
「はい?」
「…誕生日プレゼント、くれるんでしょ?」
 座椅子に座ったまま、元貴が俺を見上げる。
 「それ付けた涼ちゃん、俺だけが見たいんだけど」
 顔が、赤くなるのがわかる。やめとけって言ったのは、皆の前では付けるな、って事だったのね。俺は、元貴の独占的な言葉に嬉しさで胸がむずむずした。商品の袋を開けて、中身を取り出す。元貴が袋を取り、四つ折りに畳んでローテーブルに置いてくれた。警察官の帽子を取った頭に耳のカチューシャを付けて、尻尾がついたゴムベルトを警察官のズボンの上から腰に巻く。ふわふわの手袋をつけて手のひらを見れば、柔らかな肉球もちゃんとついていた。指先は空いているタイプなので、細長い指がにょきにょきと出ている。俺は手のひらを前にして、胸の前でグーを作って見せた。
 「できた、ネコ警官だにゃー」
 へへ、と笑って、元貴を見ると、元貴が勢いよく抱きついてきた。あまりの衝撃に、うっ、と言いながら後ろへ倒れる。元貴がベッドに手をついて、身体を起こすと、俺に跨る形になっていた。白いフリルのついたシャツと、黒い立襟マントがよく似合っている。
お互いに、じっと見つめ合った後、静かに元貴の顔が降りてきた。俺は、そっと眼を閉じて、優しいキスを受け入れる。啄むような可愛いキス…と思っていたら、だんだんと元貴の唇がちゅむ、と俺の唇を味わい始めて、そのまま舌が口の中へ入ってきた。身体の中心がぞわぞわとして、甘ったるい口の中を何度も舐められる。
 「…甘…」
 元貴が、ふふ、と笑う。俺は、ぽかんと口を開けて、なんだか吐く息が熱い。元貴の顔が再び降りてきて、今度は俺の首筋にキスをした。ちゅ、ちゅ、と音を立てて、同時に片手で俺のシャツのボタンを外していく。お腹の辺りまで外すと、シャツを横にはだけさせ、俺の肌を直接手でなぞった。胸の尖りを指で摘んで、くにくにと動かす。
 「ん…っ!」
 思わず声が出て、その恥ずかしさに手で口を押さえる。もふもふの手袋が、吐息で熱くなっていく。親指の腹で尖りを潰しながら、元貴が俺の撫で肩に甘く噛み付いた。
 「んん…!」
 噛み付いたまま舌で肌を舐めたり、吸い上げたりして、撫で肩を味わっているようだ。なんだか本当の吸血鬼みたいだな、とそんなことを考えていると、俺の胸元の肌を愉しんでいた手が、ズボンへと伸びていった。薄い生地の上から、硬くなった俺の熱を下から上へ撫でる。手で掴む形にして、上下に動かし始めた。布越しな上に、あまり自由な空間がなく窮屈な中でも僅かな快楽を拾っていく。
 「あ…ぁ… 」
 手袋で口を塞ぎ続けるのが苦しくなって、少しずらした隙間から声が漏れ出る。すかさず元貴が空いた唇にキスをしてきて、また舌を絡め取られた。ジー、と音がして、ズボンも開かれ、下着を降ろさると俺の熱が露わになった。俺も、必死で手を伸ばして、元貴のズボンをなんとか開く。少し下着をずらして、元貴の熱く膨らんだものを両手で包む。先端から漏れる雫を、指先で塗り広げると、ぬるぬると光るそこは滑り良く俺の指が擦るのを受け入れてくれた。手袋で痛くないかな、と少し心配だったが、キスの合間から漏れる元貴の熱い吐息が、そうではないことを知らせてくれる。
元貴が、足元の鞄からローションを手に取って、俺の手を引き寄せ、そこにたっぷりと液を垂らした。元貴のリュックから出てきたであろうそれを見て、俺は今日の元貴の荷物の大きさに納得がいった。
 「こうして、あっためて」
 元貴が両手を擦り合わせて見せる。俺は言われた通り、にちゃにちゃと音のする手のひらを合わせて、手袋ごと手のひらに潤滑液を行き渡らせた。元貴が俺の膝裏を持って、ぐいと脚を広げる。腰を動かし、俺と元貴の熱を合わせるように体勢を整えた。
 「涼ちゃん、2人のを手で包んでくれる?」
「…こう?」
 両手で、俺と元貴の熱を合わせるようにして包み込む。手袋越しなので、手の熱で液を温めることは出来なくて、少しひやりとした。
 「うん。自分の気持ちいいように、擦ってもいいからね」
 元貴がそう言うと、脚を持ったままゆるゆると腰を動かし始めた。ぬるぬるとした感触で、手袋と元貴の熱とで、自身が擦れ合う。思った以上の快感に、俺は脚が少し震えた。元貴の動きに合わせるように、俺も手を上下に動かしてみたり、先端に指を擦りつけたりして、刺激を与えていく。ぐじゅぐじゅと音を立てて、2人の熱が絡み合う。濡れた手袋の感触が、不思議と気持ちよさを増幅させているようだ。
 初めて会った時から、どうしてか君のことが気になった。何度も会いに行くうちに、会いに来て欲しくなった。2人の似たような傷が、不思議と少し嬉しかった。お別れの時には、君が俺を繋ぎ止めてくれた。
ずっと、ずっと、俺への愛を持って接してくれていた元貴。そして、俺も、いつしか、君の事が大好きになっていた。
今、こうして、俺に欲をぶつけてくれるのが、嬉しい。俺と、欲を交わしてくれるのが、嬉しい。
 元貴の動きが早くなってきて、俺も自分の中心を擦る手が止まらない。下腹部にぞくぞくと快感が溜まって、ぐぐっと波が押し迫ってきた。
 「あ、だめ…い…っ!」
 元貴の肌がぱちぱちと当たり、元貴の熱に後押しされるように、俺は震えて白濁を飛ばす。俺のお腹にぱたぱたと液が飛び、元貴がそれを眉根を顰めて見つめていた。
 「………っ」
 それからすぐに、元貴も息を詰めて下腹部に力が入ったと思うと、俺のお腹に欲を一気に吐き出した。2人のが合わさって、俺のお腹に溜まっている。
ふぅー、と息を吐きながら、元貴が俺の頭の横にある箱ティッシュを取って、お腹を丁寧に拭いてくれた。手袋はローションと精液でどろどろだし、服も汗と液が染み付いている。
 「…涼ちゃん、すごいえろいカッコ」
 口の片端を上げて笑う元貴が、ちゅ、ちゅ、と優しくキスを繰り返した。
 「お風呂、一緒に入ろ?」
「でも、めちゃくちゃ狭いよ?」
「いけるいける」
 俺たちは、簡単にズボンを履いて、俺はべたべたの身体で周りを汚さないように気をつけてお風呂場まで先を歩いた。
マントを脱ぎ捨てた元貴が、お風呂場を見て俺に問いかける。
 「ねえ、お風呂洗うやつは? まだ洗ってないでしょ?」
「あ…そうだ、詰替買わなきゃいけないの忘れてた」
「…スポンジは? どこ?」
「そこだけど、いいよ、俺洗うよ」
「いーよ涼ちゃんベタベタなんだから」
 元貴が手で制し、ボディーソープを使ってさっとお風呂場を洗い、お湯を張ってくれた。
取り敢えず、べたべたな手袋と服を全部脱いで、部屋でかき集めた洗濯物と一緒に洗濯機へ放り込み、回しておく。素っ裸で洗濯機を操作する俺に、素っ裸の元貴が後ろから抱きついてきた。さっきと違い、素肌が触れ合うハグは、凄く気持ちが良い。俺は身体の向きを変えると、洗濯機にもたれかかるようにして元貴を抱きしめた。俺より少し可愛らしい背丈をしているので、すっぽりと腕の中に収まっている。
 「幸せ…」
 前を向きながら俺がそう呟くと、顔の下でふふ、と笑う声がした。消えてしまいそうな小さな声で、俺も、とだけ聞こえる。下を向いて顔を覗き込むと、元貴が上を向いて眼を合わす。俺から近づいてそっとキスをすると、元貴も、ぐっと唇を押し付けて応えてくれた。
 お湯が充分溜まったので、本当に狭い浴槽に2人でなんとか身体を沈める。身体の大きさ的に、俺が先に入って、その前に収まる形で、元貴が背中を向けて座った。
後ろから元貴のお腹に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。
 「狭いなー…」
「ほんとだね」
「…俺が卒業したら、もっと広い部屋に引っ越そーぜ」
「え?」
 訊き返す俺の声には返事をしないで、お湯を手で掬ってぱしゃん、と落として遊ぶ。元貴が少し未来の事を、俺を含めて考えてくれているということが、とにかく嬉しかった。元貴が、俺の肩に後頭部をこてんと置く。
 「…涼ちゃんさぁ…」
「うん?」
「…えっちしたことあんの?」
「え…!」
「女と? 男と? 入れる方? 入れられる方?」
「どれもない!」
 突然のとんでもない質問に、顔を真っ赤にして大きな声を出してしまった。ふーん、と元貴は嬉しそうな音で言う。
 「…クリスマスにはさ」
「…ん?」
「最後まで、いきたいなって思ってんだけど」
 今日のアレが、最終形ではないのだということは、なんとなく感じてはいた。が。こうもはっきり言われてしまうと、恥ずかしいような、少し怖いような。でも、こうして前以て言ってくれるということは、心の準備や、身体の準備をさせてくれる、ということだろう。それはきっと、元貴の優しさだ。
 「…うん」
 俺が、静かに頷くと、顔を傾けて、元貴が眼を合わせてきた。
 「…少しずつ、手伝ってね」
「もちろん」
 俺がそうお願いすると、元貴は嬉しそうに笑って、顔を寄せてキスをした。
その夜、狭い折り畳みベッドの上で、抱きしめ合いながら眠りについた。元貴は、俺の腕の中で、安心したように眼を閉じている。夜の苦手な彼が、俺の傍ではそこに安らぎを覚えてくれているのが何よりも嬉しかった。2人で干した洗濯物を見上げ、俺はもう一度元貴の頭にキスを落として、幸せと一緒に彼を抱きしめながら意識を沈めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
コメント
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はあ、やっと読めました💕 すごく元貴君がグイグイ行ってて、最高でした🫠ケモ耳涼ちゃんは自分1人だけのものにしたいですよね🫠初めてのいちゃいちゃがまさかのコスプレって、もうめちゃくちゃ可愛かったです💛 これからクリスマスに向けてがますます楽しみになりました💕 ありがとうございました✨
えーー完結まで楽しみにしてます。灰色の猫の涼ちゃん可愛いんだろうな💛
ハロウィン🎃と聞いて涼ちゃん青髪マーメイド?と想像したけど、普通で安心したよw 元貴くんが涼ちゃん家行くってなった時にセンシティブ突入かなとは思ってた!いや待ってました🥹 でました!鞄からローション!元貴くんエッロ🫶 完結お疲れ様〜👏✨