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「で、何があった」


流石に、何時迄もあんな場所にいる訳にもいかないのでバーレントは、テオドールを引きずる様にして、場所を中庭に移動した。


2人はガゼボの椅子に腰掛ける。


「ヴィオラ?とか言ってたな。それが、お前の女か」


「別に、彼女は僕の女とかじゃ」


顔をほんのり赤くさせるテオドールに、何故そこで照れるんだ……とバーレントは眉を寄せる。

先程あんなに、誰が聞いてるかも分からない様な場所で「ヴィオラは、僕のヴィオラだっ!」と叫んでいた癖にと、思った。


「その、僕の、片想いだから……」


「……」


テオドールは、頬を染め、瞳を揺らし、視線を逸らした。


やはり、少し会わない間に随分と変わった様に見える……。バーレントの中のテオドールは、なよなよしている様な感じは一切無く、その逆に飄々として、さっぱりとした性格だった筈だ。


バーレントは、テオドールをまじまじと見遣る。今のテオドールは、所謂恋する乙女にしか見えない……少し引いた。


「だ、大丈夫か?何処か悪いんじゃ……」


「やっぱり、そうかも知れない。僕も最近、自分が自分でない様な気がしていて……彼女の事を想うと胸が締め付けられて苦しいんだ。きっと、何かの病かも知れない……」


お前は、乙女か‼︎と言いたいが、バーレントはグッと堪えた。そして、バーレントはその病の正体が何か知っている。


「テオドール、お前は確かに病だ」


バーレントの言葉に、テオドールは驚きこちらを見た。


「お前は……恋の病に冒されている」


瞬間、テオドールはまるで雷に打たれた様な衝撃に襲われた。


これが、所謂恋の病……。


ヴィオラの事は出会った頃から、好きだった。直感で感じたんだ。それは、理屈じゃない。

ヴィオラと婚約もしたいし、無論結婚だって何れはしたい。それは、自分でもずっと認識はしていた。


だが、最近どうもおかしい。以前まではヴィオラの気持ちを優先して、ヴィオラの幸せだけを願っていた。ヴィオラが幸せならそれでいいと、そう思えた。だから1度は身を引いた。


なのに、最近は違う。我慢が出来なくなっている。ヴィオラに触れたくて仕方がない。彼女の中にいる彼を消し去りたくて仕方がない。彼女が欲しくて仕方がない……。


誰にも、彼女を奪われたくない。


「自分が、よく分からないんだ。以前までは我慢出来たのに」


テオドールは、素直に今の心境をバーレントに打ち明けた。






「欲が出て来たんだろう。人間なんてそんなもんだ。始めは話すだけで、側にいるだけで満足だと思っても、いざそれが叶うと今度はそれだけでは満たされなくなる。もっと、もっと満たされたいと欲が出てくるものだ」


テオドールはこれまで、女に散々な目に遭わされ嫌になり、女に関わる事を避けて来た。恋というものの感覚が分からないのだろう。直感的に好きになり、後から彼女に恋をした。

まあ、所謂一目惚れをして、彼女の事を知っていく内に、深みにハマったといった所か。


一目惚れなど、幻想だ……とバーレントは思っている。一瞬の印象だけで、好きだの愛だのと語る事など、宝石や花を気に入るのと大差がない。

恋と呼ぶには些か違うと、バーレントは思っている。他の人間よも、相手に対する好感がたまたま高いと感じるだけに過ぎない。

そして、その幻想が、本物にすり替われば、それが恋や愛に変わるのだろうと……。



「まあ、余り急ぐな。急ぐと回る、と言うだろう。ロクな事にならないぞ」


「……それを言うなら急がば回れ、だよ。急ぐと回るってどんな状況……」


「う、煩い!兎に角、そう言う事だ。これは人生の先輩としての助言だ」


バーレントは、そういうと得意げに鼻を鳴らした。


「君と僕は、たった1歳しか変わらない筈だけどね」


バーレントと話していると疲れると、テオドールはため息を吐いた。


「バーレント、ありがとう。余り役に立ちそうも無い助言だけど、活かせるように頑張るよ。じゃあ」


「お、おい⁈まだ話は終わって」


テオドールは、立ち上がるとさっさと歩いて行ってしまった。














深窓の令嬢は、王太子殿下に持ち運ばれる

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