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ありんす
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隼人
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うわあ、テウルくんの「絶対安全圏からの高みの見物ライフ」がどんどん崩れていくのが面白すぎる……! 特にヴェイン先生との初遭遇シーン、あの「逃がさないよ」の冷たさと脅迫の汚さのギャップに笑った。そしてまさかのレイきゅん救出イベント! 「ビジネスライクな無表情」を貫いたつもりが、もうすでに攻略対象たちに情報共有され始めてるの、フラグ回収が早すぎて震える。ここからどう転がっていくのか、続きが気になりすぎます!
中世ファンタジー世界における「小学生」にあたる学びの場――貴族幼年学院(初等部)。「家庭教師だけで十分です!」という俺の必死の懇願も虚しく、父上の「社交と教養を身につける素晴らしい機会だぞ!」という笑顔によって、俺(テウル・エクス、9歳)は幼年学院へと通わされることになった。
(ヤバい……ヤバすぎる。幼年学院といえば、将来の攻略対象(攻め)やモブ貴族が一堂に会する破滅フラグの展示場じゃないか……!)
カゼル(脳筋狂愛)の舎弟にされ、シオン(マッドサイエンティスト)の共同研究者にされた俺の命は、すでに風前の灯火。
せめて幼年学院では「陰キャ・影薄・無害」を貫き、目立たず卒業する――それが俺の唯一の生存戦略だった。
だからこそ俺は、学院の「保健室」を最大の聖域(アナザー・ヘブン)として目をつけ、休み時間になればコソコソと保健室のベッドに潜り込んで身を潜めていたのだ。
しかし、俺は失念していた。
(……待てよ? 『ほら滅』において、保健室が安全な場所だったことなんて一度でもあったか……!?)
前世の記憶が警報を鳴らした瞬間、カチャリとドアが開いた。
現れたのは、学院の非常勤講師兼・保健医として着任したばかりの青年。
黒髪を少し崩し、白衣を羽織り、怠惰で色気のある笑みを浮かべた男――ヴェイン・クロウ(当時22歳)。
(出たァァァ!! 【年上背徳攻め】のヴェイン先生!!)
表の顔は怠惰な保健医、裏の顔は王国の暗部組織のトップ。のちに学園に入学してきたレイ(主人公)に怪しい薬を処方しては「先生が優しく教えるからね」と大人(物理)の魅力で迫る、コンプライアンス皆無の危険人物である。
「おや……? 先客かい」
ヴェインは煙草(あるいはそれに近い嗜好品)の煙をくゆらせながら、ベッドの上の俺を見下ろした。その瞳は笑っているが、奥の光は完全に「暗部の殺し屋」のそれだ。
「体調不良かと思ったが……脈拍も肌の艶も完璧だねぇ、テウル・エクス坊っちゃん。ここはサボり場じゃないんだよ?」
(ヤバい。暗部の男に目をつけられたら一瞬で消される……!)
「申し訳ありません、ヴェイン先生。すぐ退出いたします」
俺は即座にベッドから降り、頭を下げて去ろうとした。関わらない、絶対にだ。
しかし、その時、ヴェインのデスクの上に置かれた「怪しい液体が入ったフラスコ」が俺の視界に入った。
前世で全108ルートを走破した俺のオタク脳が、瞬時にその薬品の正体を弾き出す。
(……あ、あれは『ほら滅』のファンディスクで出てきた【飲むと本心が喋れなくなる(あるいは真反対の行動をとってしまう)暗殺・取調用の劇薬・ヴァイオレット・ナイト】……!)
「……先生、差し出口を叩くようですが」
俺は思わず足を止めてしまった。
命が惜しいなら無視すべきだ。だが、俺の「前世のオタクの知識」と「エクス家の存続」が警報を鳴らした。この薬、将来的に王位継承争いとかで使われて、巡り巡って我が家に火の粉が飛んでくる奴なのだ。
「その薬品……甘い香りが漂っていますが、還元反応が不完全です。そのまま放置すると約3分後に微弱な爆発を起こし、部屋中に麻痺毒が充満しますよ」
ヴェインの目が、すっと細められた。
怠惰な雰囲気が一瞬で消え去り、ゾッとするような冷気が部屋を満たす。
「……ほう? 子爵家のガキが、なぜ暗部秘伝の調合薬の欠陥を知っているのかな?」
(あ、しまった。言っちゃった……!)
「知識として嗜んでいただけです! 魔法薬学の基本ですよ! 失礼しました!!」
俺は脱兎のごとく逃げ出そうとしたが、パチンとヴェインが指を鳴らすと、影のような魔法でドアが完全にロックされた。
「逃がさないよ。……面白いねぇ、テウル・エクスくん。ただのモブ貴族かと思ったら、僕の薬のレシピを見抜くどころか、対処法まで知っているとは」
ヴェインはゆっくりと歩み寄り、俺の頭にポンと手を置いた。その手は恐ろしいほど冷たかった。
「決まりだ。君、僕の『助手(兼・口封じの監視対象)』ね。放課後は毎日ここに来て、僕の薬品調合を手伝いなさい。断ったら……エクス家の裏金事情でも洗ってみようかな?」
「(大人の脅迫の仕方が汚すぎるだろ!!!)」
◇
放課後。
幼年学院の裏庭で、俺は頭を抱えて蹲っていた。
「どうしてだ……どうしてこうなった……」
カゼル(騎士のタマゴ):「テウル! 剣の稽古だ! 舎弟なら付き合え!」
シオン(魔導の天才): 「テウル、今日の共同研究のテーマだが……」
ヴェイン(暗部の保健医): 「テウルくん、今日の助手作業の時間だよ~」
(攻め(男たち)の執着が学園入学前から俺に大渋滞してんじゃねえか!!!)
俺は主人公(レイ)じゃない! 遠くの屋根の上から彼らのドロドロの総受けライフを双眼鏡で観賞したいだけの、前世・腐男子のモブ悪役令息(テウル)なんだ!!
「にいさま……? きょうは『大人のあやしいおにいさん』が増えたの……?」
学院の門までお迎えに来てくれた天使(弟のルーク)が、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「ルーク……俺はもうダメかもしれない……。学園に入学する前に、俺自身が攻めたちのフラグに押し潰されて滅びそうだ……」
「にいさま、しっかり! 500メートル離れるんでしょ!?」
「相手から囲い込まれて逃げられないんだよおおお!!」
小学生(幼年学院)時代にして、すでに「3人の攻略対象」と濃密すぎる関わりを持ってしまったテウル・エクス。
彼の夢見る「絶対安全圏からの高みの見物ライフ」は、ますます遠のいていくのであった。
俺(テウル・エクス、10歳)は、攻めたち(カゼル、シオン、ヴェイン)との関係性を完璧に「ドライな知人・作業仲間」として固定することに成功していた。
* カゼルとは「たまに剣の手入れのアドバイスをする知人」
* シオンとは「図書館でたまに遭遇して数式を修正してやるドライな知り合い」
* ヴェインとは「放課後に時給をもらって危険薬品の監視をする助手」
よし、完璧だ。誰一人として俺に恋愛感情も友情の過剰摂取も抱いていない。俺はただの「都合の良い優秀な知人A」だ。
そんなある日、俺はさらなる生存戦略として、父上のお供で王都の平民街にある「素材市場」を訪れていた。
目的はひとつ。
将来、学園で『ほら滅』の地獄絵図が始まった際、遠くの屋根から4K画質で彼らのドロドロ総受けライフを観賞するための魔法具――「超高倍率・超小型マジックオペラグラス」の自作パーツを調達するためだ。
「よし……このレンズ素材さえ買えれば、遠巻き鑑賞環境は整う……!」
前世の腐男子としての情熱を燃やし、市場の露店を巡っていた、その時だった。
「……あ、あの! これ、僕が持って帰りますから……っ!」
露店の裏路地から、聞き覚えのなさすぎる、けれど前世の記憶が警報を鳴らす「儚げなボイス」が聞こえてきた。
(……ん? この声、まさか……)
気になって壁の隙間からこっそり覗くと、そこには――。
大きな野菜の籠を抱え、必死に汗を拭っている、当時8歳ほどの栗色髪の少年がいた。
守ってあげたくなるような華奢な身体、吸い込まれそうな瞳、そして幼少期にしてすでに漏れ出している**「無自覚な愛されフェロモン(災難体質)」**。
間違いない。
『ほら滅』の絶対的総受け主人公――レイ・シルフィード本人だ!!
(キ、キターーーーーーッ!! 幼少期バージョンのリアル『レイきゅん』だ!! 画質が高すぎる!! 天使か!?)
前世の腐男子の血が沸き立ち、俺は壁の影で尊さのあまり拝みそうになった。
だが、幼少期のレイも相変わらず災難に見舞われていた。
彼のフェロモンに当てられたのか、市場の柄の悪い大人(モブ)数人が、レイを取り囲んでいたのだ。
「おいおい、そんな重いもの子供一人じゃ無理だろ? おじさんたちが家まで送ってやるよ(ニヤニヤ)」
「あ、大丈夫です……お父さんの言いつけで……!」
(出たァァァ!! テンプレの『幼少期遭遇・路地裏のピンチイベント』!!)
俺はワクワクしながら、壁の影でオペラグラスの試作品(ズーム魔法)をかざした。
(来るぞ……! ここでカゼルかジュリアス殿下あたりが颯爽と現れて『俺の獲物に手を出すな』ってモブを散らすやつだ! 頼むぞ公式イベント!!)
……しかし。
1分経過。
2分経過。
一向にヒーロー(攻略対象)が現れる気配がない。
それもそのはず、カゼルは今頃騎士団で稽古中だし、シオンは自室で引きこもって研究中だ。ここは原作のゲームでは発生しない、ただの「日常の災難」だったのだ。
(嘘だろ!? 誰も来ないのかよ! このままだとレイきゅんが普通に嫌な思いをして終わるぞ!?)
モブ男がレイの細い腕を強引に掴もうとした、その瞬間。
俺の前世の腐男子としてのパッションと、現在の常識人としての思考が、命の危険(フラグ)を振り切って暴走した。
(……ちくしょう! 攻略対象たちと『ただの知人』のポジションを確立した俺なら、ここで一瞬介入してもモブ貴族Aとして処理されるはず……!)
俺は路地裏の影から、すっと優雅に姿を現した。
「――そこまでにしていただけますか?」
凛とした(ように作った)声を響かせ、俺は胸元の子爵家の紋章を見せつけるように前に出た。
「ひっ……き、貴族のガキ……!?」
「その子は我がエクス子爵家が贔屓にしている仕立て屋の使いの者です。非礼を働くのであれば、衛兵を呼びますが?」
ハッタリだ。だが貴族の紋章効果は絶大だった。
モブ男たちは「ちっ、覚えてやがれ」と捨て台詞を残し、捨て捨てと逃げて行った。
よし、無血開城! 完璧なモブの立ち回り!
「あ……あの……! 助けてくれて、ありがとうございました……!」
レイが泣きそうな目で、抱えていた野菜の籠を落としそうになりながら頭を下げる。
(尊い……生レイきゅんの『お礼』スチルだ……脳内保存完了……!)
俺は前世のオタク心を押し殺し、あくまで「過度な親切もせず、ビジネスライクな無表情」を貫いた。関わりすぎたら俺の「絶対安全圏高みの見物計画」が狂うからだ。
「お怪我はありませんか。……その籠、重そうですね。私は通りかかっただけですが、父の馬車が近くにあります。市場の出口まで運ぶくらいなら手伝いましょう」
「えっ……でも、貴族様にそんなこと……」
「身分など関係ありません。困っている子供を助ける、ただそれだけです。……ほら、持ちますから」
俺はレイの手からひょいと重い野菜籠を引き取ると、さっさと歩き出した。
レイは目を丸くして、俺の少し後ろを小走りでついてくる。
「あの……僕、レイ・シルフィードって言います! お兄様のお名前は……?」
「テウル・エクスです。……レイ殿、あまり私をじっと見つめないでください。私はただの通りすがりの子爵家の長男ですから」
「テウル様……! あの、これ……お礼にならないかもしれないけど……!」
レイはポケットから、小さな紙に包まれた「手作りの干しぶどう」を差し出してきた。
「お父さんが作ってくれたんです。すごく甘くて美味しいんですよ!」
俺は一瞬迷ったが、ここで断ると逆に印象に残ってしまう。
「……ありがとうございます。美味しくいただきます」とビジネスライクに受け取り、市場の出口で「では、お気をつけて」とだけ言い残して、疾風のごとく立ち去った。
ふぅ……完璧だ。
これなら「たまたま路地裏で助けてくれた、名も知らぬ親切なモブ貴族A」として処理されたはず。
……俺は、知らなかったのだ。
俺が立ち去ったあと、レイが干しぶどうの紙包みを渡せたことに胸を安堵させ、小さな手をぎゅっと握りしめていたことを。
「みんな……僕を獲物みたいに見たり、強引に手を引いたりするのに……。テウル様だけは、僕を困らせないで、遠くから優しく助けてくれた……」
レイの心の中で、『将来出会うであろう狂愛の男たち』とは明らかに一線を画す、圧倒的な【安心感と癒やしの光(テウル)】が爆誕してしまったことを。
そして、帰宅後に俺が知人であるカゼルやシオンと話した際、
「テウル、今日市場にいただろ。なんか平民のガキと一緒に歩いてるの見かけたぞ?」とカゼルに言われ、
「へぇ、君が自分以外の人間を手伝うなんて珍しいね」とシオンに冷たく観察され、
すでに攻略対象(攻め)たちの間で『テウルと謎の平民のガキ』の情報が共有されかけているという絶望的な事実を、俺はまだ何も知らなかったのである。