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今日は七夕。織姫と彦星の御伽噺は有名だけど、どうやら僕の兄は星の方が気になるらしい。
子供の頃両親に買ってもらった天体望遠鏡を、彼にしては珍しく丁寧に管理しているようで、いそいそとベランダにセッティングしていた。
部屋の電気を消してから僕もベランダに出ると、ぬるい風が頬を撫でた。
「晴れて良かったね」
「うん。七夕に晴れるって意外と確率低いんだよ」
晴れたのは10年で2回だったっけ。
曇りの年を除くと10年にたったの2回しか会えないなんて、可哀想だな。
そんなことを考えながら夜空を眺めていると望遠鏡の準備が終わったようで、問は無邪気に星を観察し始めた。
「あ、火星はっけ〜ん」
火星はマイナス等級にまでなるとても明るい星。
肉眼でも捉えられるので、問が望遠鏡で見ている星を僕は目で見ていることになる。
なんだか不思議な気分だ。
「言ちゃん、天の川ってどのへんに見えてる?」
「待って…もうちょっと右」
自分で確認すればいいのにとツッコミながらも、僕も天の川を見たいので素直に従う。
「あ、見えた!」
「どう?」
「やっぱり綺麗だよ」
真面目な顔で瞳を輝かせて言うものだから、さっきよりも興味が湧いてきた。
「僕にも見せて」
「どうぞ〜」
わくわくとしながらレンズに目を近づけると、予想以上の明るさに目を細める。
「……すご、」
明かりが少ない地帯だからか、銀河の全容がはっきりと捉えられる。
「…冷たっ!」
夢中で見入っていると、ふいに頬に冷たいものがふれて驚いた。
「はい、これあげる」
やっとレンズから目を離すと、問は缶ジュースをこちらに差し出していた。
「こういうのって、」
相場はビールだよね。
重なった声に、顔を見合わせて笑う。
夜空に光る数多の星が、僕たちを照らしていた。