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霧の中を歩き続けて、どれくらいの時間がたったのだろう。
じゃぱぱは自分の足音しか聞こえない静けさの中で、胸の鼓動だけがやけにうるさく感じていた。
やがて霧が少しずつ薄くなり、
ぼんやりと巨大な影が姿を現した。
それは、色あせた遊園地のゲートだった。
壊れた電球が並ぶアーチは、今にも崩れ俺落ちそうで、
看板にはかすれた文字でこう書かれている。
“WELCOME!! からぴちワールド!”
「……からぴち……?」
その言葉に反応したように、じゃぱぱの胸がズキッと痛んだ。
“知っている”
“思い出せるはず”
そんな感覚だけがあるのに、具体的な記憶は霧のように指の間から逃げていく。
ゲートをくぐると、遊園地の道はあちこちで枯葉に覆われ、
ベンチにはひびが入り、ポスターは何年も雨ざらしになったように色が抜けていた。
「……誰もいないのか?」
返事はない。
風も吹かない。
まるで時間が止まってしまった世界だ。
その時だった。
コトン、と足元で何かが転がった音がした。
じゃぱぱがしゃがみこむと、そこに落ちていたのは――
**小さな“虹色の欠片”**だった。
指先に乗せると、欠片はふわっと光る。
温かい。
懐かしい。
不思議なのに、なぜか涙がこぼれそうになる。
「これ……俺の、記憶……?」
言葉にすると、胸の奥で何かが確かにうなずいた。
その瞬間。
遊園地の奥、薄暗い霧の彼方で、ぽうっと光が揺れた。
光はゆっくりと動き、壊れた道案内の看板の上に止まる。
その看板には、薄くなった文字でこう書かれていた。
〈メリーゴーランド →〉
光はじゃぱぱに「来て」と言うように揺れ続ける。
「……案内してるのか?」
返事はない。
でも、じゃぱぱは歩き出していた。
理由はわからない。
でも、そこに“何か大事なもの”がある気がしてならなかったのだ。
霧の中、かすかな音楽が聞こえてきた。
ゆっくり回る、木馬の足音。
誰かの笑い声の残響。
そして――ここに来たことがあるという確かな感覚。
「……ここは、俺の……」
言葉はそこで止まった。
メリーゴーランドの前に着いた時、じゃぱぱは立ち尽くした。
壊れかけたはずのメリーゴーランドが、
まるで誰かが乗っているかのように、ゆっくりと動いていたのだ。
音楽は少しだけ歪んでいて、懐かしさと怖さが入り混じっている。
じゃぱぱは無意識に、胸のポケットを押さえた。
さっき拾った虹色の欠片が、少しだけ震えている。
まるで――
この先に“誰かの記憶”が待っているよ
と知らせるように。
「……行くしかない、よな」
じゃぱぱは小さく息をのみ、
ゆっくりとメリーゴーランドの階段へ足を踏み出した。
木馬たちの影が、風もないのに揺れている。
――まるで、昔の仲間たちが笑いながら待っているみたいに。
遊園地の最初の記憶が、
今、静かに動き始めた。