メリーゴーランドの階段を一段のぼるごとに、周りの空気が少しずつ変わっていく。
霧は薄くなり、かわりに淡い金色の光が漂い始めていた。
音楽も、さっきまでの歪んだメロディから、どこか懐かしいリズムに変わっていく。
「……なんだろ、これ。聞いたことある気が……」
だけど思い出そうとすると、また頭の奥がズキンと痛んだ。
じゃぱぱは深呼吸して、近くの木馬へ歩く。
木馬は全部で三十頭ほど。
どれも古びているはずなのに、どこか優しい顔をしている。
なかでも、一番外側の列にある白い木馬だけ、なぜか色が少し鮮やかに残っていた。
じゃぱぱが近づくと――
カラン、と木馬の足が勝手に揺れた。
「……っ!」
驚いて後ずさるじゃぱぱ。
けれど、木馬はただ少し、前後に揺れただけだった。
その揺れ方が、妙に“誰か”に似ている。
(この乗り方……誰だっけ……?)
記憶の奥に、楽しそうに笑う声がこだましているのに、輪郭はまだぼんやりしている。
じゃぱぱは恐る恐る木馬に手を伸ばした。
触れた瞬間――
ふわり、と視界が白く揺らいだ。
耳元で、元気な声が弾む。
『じゃぱぱさん!これ見てこれ!!俺、この木馬めっちゃ速くできる!!』
『おい!危ないからそんな揺らすなって!落ちるって!!』
『大丈夫大丈夫!!じゃっぴも乗りなよ!ほらっ!』
『押すな押すな!!わ、わ、わっ!?』
映像の中の“自分たち”が、息が苦しくなるほど笑っているのがわかる。
木馬はただ回っているだけなのに、なぜか最高に楽しい時間だった。
その光景の中心にいたのは――
「……ど、ぬ……?」
じゃぱぱは、小さく名前をつぶやいた。
つぶやいた瞬間、頭の中で何かがカチリと音を立ててつながる。
そうだ。
あの日、どぬとふざけまくって、メリーゴーランドの係員さんに
「揺らさないでくださいね〜!」
って注意されたんだ。
木馬の影が、まるでどぬの姿を映すように揺れた。
『じゃっぴ!次はあれ乗ろうよ!!ほら、あれあれ!!』
『まだ乗るの!?もう三回目だよ!?』
『いいじゃん!楽しいんだもん!』
“楽しいんだもん”というあの無邪気な声は、じゃぱぱの胸の奥に深く刺さった。
思わず、目頭が熱くなる。
「……どぬ、いたんだ……ここに……」
そうつぶやいた時、木馬の鞍の上に、小さな光が落ちた。
じゃぱぱが手を伸ばすと、それはゆっくりと形を固め――
虹色の欠片(2つ目) になった。
今度の欠片は、どこか“白色”の光を帯びている。
じゃぱぱの手のひらの上で、温かく脈打っている。
まるで“また会おうな”と笑うどぬくさんの声が光になったみたいだ。
じゃぱぱは欠片を胸ポケットに入れ、もう一度メリーゴーランドを見上げた。
音楽は再び弱く歪み、メリーゴーランドは速度を落としながら止まっていく。
そして、最後にひときわ明るい光を放つと――完全に静止した。
「……ありがとう、どぬ。」
誰にも届かないかもしれない声。
でも、この遊園地のどこかには、きっとどぬの記憶が眠っている。
そう思うと、胸の中にふっと力が湧いた。
そのとき。
遊園地の奥へ続く道が、またぽうっと光り始めた。
次の“記憶の場所”が、じゃぱぱを静かに呼んでいる。
じゃぱぱは顔を上げ、ゆっくりと歩き出した。
メリーゴーランドの影が、最後に優しく揺れた。
まるで「行ってこいよ!」と背中を押すように。
コメント
2件
どの立ちどこ行っちゃったの!!?気になる!
わぁーお描くの上手いね(゚∀゚) 考察してみたんだけど、その流れてきた曲マイヒーローとかオンパーティかな? どぬくさん、もう死んでるとか?