テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あや🎀さーん!!
リクエストありがとう!
※注意
キャラ崩壊あり
パクリなし
ご本人様には関係ありません
悲しい描写が出て来ます
嫌な方はブラウザバック推奨
配信は、静かに進んでいた。
おんりーは集中していた。
操作は正確で、判断も速い。
表情は画面には映らないが、声はいつも通り落ち着いている。
視聴者も、それを“当たり前”として見ていた。
コメントは流れる。
褒め言葉と、軽い茶化し。
そして、どこにでもいる“外側”の声。
「最近、無難すぎない?」
「昔ほどの尖りなくなったよな」
「正直、今の時代のスピードについてこれてない感じする」
ただの感想。
誰かを深く知ろうともしない、表面だけの評価。
おんりーは、少し笑った声で返そうとした。
いつも通りに。
だが、次の一文が流れた。
「おんりーって、時代に置いてかれた代表例って感じ」
指が、一瞬止まった。
置いてかれた。
たったそれだけの言葉。
悪意すら薄い、軽い決めつけ。
なのに、その単語は
鍵穴にぴったり合う鍵みたいに、
おんりーの中の何かを開けてしまった。
最初に思い出したのは、音だった。
ドアが閉まる音。
乾いた、冷たい音。
まだ幼い頃。
玄関で、親の背中を見ていた。
「すぐ戻るから」
そう言われた気がする。
でも、どれくらい待てばいいのか、教えてもらえなかった。
時計は読めなかった。
ただ、外が暗くなっていくのを、じっと見ていた。
帰ってこなかった。
理由は、後からならいくらでもつけられる。
仕事が忙しかった。
連絡が行き違った。
でも、その夜の記憶にあるのは、
“理由”じゃない。
寒さと、静けさと、
「忘れられたかもしれない」という感覚だけだった。
そんな頃。
おんりーには、癖ができていた。
一人になると、
床の模様を数える。
畳の縁。
フローリングの木目。
壁紙の小さな点。
一つ、二つ、三つ。
数えていないと、
不安で、息が詰まりそうになった。
理由は、はっきりしている。
“いつ誰かがいなくなるか分からなかった”からだ。
親は、よく言った。
「いい子にしてなさい」
「待ってて」
「すぐ戻るから」
でも、その“すぐ”は、
子どもにとっては永遠だったんだ。
約束の時間は守られない。
連絡もない。
静かな家で、
おんりーは一人、床に座っていた。
泣くと怒られるようになった。
「うるさい」
「そんなことで泣くな」
だから、泣かなくなった。
代わりに、
息を止める癖がついた。
どれくらい我慢できるか、
自分で試す。
息を止めていれば、
胸の中の不安も、
少しだけ静かになる気がした。
誰にも見せなかった。
見せたら、
また「変な子」と言われる気がしたから。
コメントは、止まらない。
「環境に守られてるだけだろ」
「一人じゃ何もできないタイプ」
「どうせこれからずっと置いてかれる」
“これからずっと”。
その言葉で、別の記憶が引きずり出される。
小学校の校庭。
グループで遊んでいたはずなのに、
気づいたら、自分の名前だけ呼ばれなくなっていた。
理由は分からない。
何かした覚えもない。
ただ、
「あとで合流して」
そう言われて、
振り返ったら、誰もいなかった。
追いかけようとした。
でも、足が動かなかった。
追いかけて、
「なんで?」と聞いて、
もし嫌な顔をされたら。
それが怖かった。
気づいたら、
おんりーだけが輪の外にいた。
給食の時間。
机をくっつける時、
自分の机だけ、少し離れている。
誰も何も言わない。
でも、それが“答え”だった。
帰り道、
「先行ってるね」
その言葉を聞くたびに、
胸の奥が、きしんだ。
追いかけなかった。
追いかけて、
迷惑そうな顔をされるのが怖かった。
だから、
置いていかれる役を、自分から選んだ。
親は、”忙しくなった”。
真偽はわからない
話を聞いてもらえる時間は、ほとんどなくなった。
勇気を出して言っても、
返ってくるのは、ため息。
「気にしすぎ」
「みんなそんなもの」
「お前が弱いだけ」
弱い。
その一言で、
全部、自己責任にされた。
助けてほしい、とは言えなかった。
言っても、
どうせ置いていかれる。
だから、
我慢することだけが、上手くなった。
部屋で一人、
膝を抱えて、
息を止めて、
床を数える。
“誰かが来るまで”
でも、来なかった。
「おんりーって、捨てられる側の雰囲気あるよな」
コメント欄に流れたその一文で、
胸の奥が、はっきりと痛んだ。
捨てられる。
その言葉は、
過去の出来事すべてに、名前をつけてしまう。
友達が突然、距離を置いた日。
昨日まで一緒に話していたのに、
今日はもう、視線すら合わない。
理由を聞く前に、
相手はもう別の輪にいた。
必要なくなった。
それだけ。
呼吸が、少しずつ乱れる。
息を吸うたびに、
胸の内側が、ざらつく。
「昔は天才扱いだったのにね」
「今はもう、替えがきく」
替えがきく。
その言葉で、
過去の夜が、鮮明になる。
約束していたはずの人が来なかった日。
待ち続けて、
連絡しても、返事がなくて。
後日、別の人と楽しそうにしているのを見た。
自分じゃなくてもよかった。
最初から、選ばれていなかった。
画面の文字が、滲む。
コメントが、
昔の声と重なっていく。
「また今度ね」
「忙しいから」
「ごめん、忘れてた」
全部、
“お前はいらない”
と言われているみたいだった。
心臓の音が、うるさい。
頭の内側で、鈍く叩く。
ガン、ガン、ガン。
まるで、
思い出すたびに、罰を与えられているみたいに。
「……」
声を出そうとして、失敗する。
喉が、固まっている。
息が、入らない。
「おんりーって、最終的に一人になるタイプ」
その一文が、
決定打だった。
視界が、一気に狭まる。
―まただ。
―結局、俺は。
置いていかれる側。
選ばれない側。
最後に、誰も残らない側。
過去も、今も、
全部同じ結末に向かっている気がした。
手が震える。
感覚が、指先から抜けていく。
「……やめて」
小さな声は、
マイクにも届かなかった。
息ができない。
吸っているはずなのに、
足りない。
頭が、割れるように痛む。
視界が白くなり、
音が遠のく。
親に。
友達に。
信じた人に。
全部、
“いらなかった”という結論に繋がってしまう。
視界が白くなる。
“ここでも、置いていかれる”
“また、俺は置いていかれる”
そう思った瞬間、
体の力が、完全に抜けた。
椅子から、崩れ落ちる。
配信画面は、
何事もなかったかのように、止まった。
―彼がどんな過去を背負っているか、
コメント欄の誰一人、知らないまま。
配信が突然、途切れた。
画面が止まり、音が消え、
ただ静寂だけが残る。
最初に異変に気づいたのは、
別室にいたドズルだった。
「……おんりー?」
返事がない。
いつもなら、
「ちょっと待って」
「今そっち行く」
そう返ってくるはずの声が、なかった。
嫌な予感が、背中を這う。
事務所のドアを開けた瞬間、
空気が変わった。
床に、倒れている影。
「……っ!」
駆け寄る音が重なる。
おんりーは、椅子の横で横たわっていた。
マウスは床に落ち、
片方の手は、胸元を掴むように固まっている。
「おんりー! ねぇ!」
ドズルが肩を揺らす。
ぼんじゅうるが名前を呼ぶ。
おらふくんが震える声で続ける。
おおはらMENは、何も言えず、ただ息を詰めて見ていた。
「聞こえるか? おんりー!」
「お願い、目開けて!」
「なあ、冗談だろ……?」
誰の声も、返ってこない。
全員が、
彼を囲むように膝をついた。
離れなかった。
一瞬たりとも。
「大丈夫だ」
「いるから」
「離れないから」
それは、
祈りであり、
おんりーがメンバーにだけ話した過去を
否定する言葉でもあった。
呼吸はある。
でも、浅く、不安定。
ドズルの手が震える。
ぼんじゅうるは何度も、
「救急車……救急車……」と呟いている。
救急車を呼ぶまでの数分が、
永遠みたいに長かった。
その間ずっと、
四人は輪を作り、
名前を呼び続けた。
置いていかせない、
その一点だけで。
その頃。
おんりーの意識は、
深い、暗い場所に沈んでいた。
そこは、音のない世界だった。
気づくと、
幼い自分が立っていた。
古い家。
見慣れた、でも寒い場所。
親の背中が、そこにある。
「ねえ」
声をかける。
小さく、震えた声。
親は、振り返らない。
「ねえ、いかないで」
その言葉に、
ようやく、振り向いた。
でも、そこにあったのは、
困った顔だった。
「……もう無理」
その一言。
「お前の相手をする余裕、ないから」
決定的だった。
説明も、慰めも、なかった。
ただ、切り捨てるような言葉。
「一人でいられるでしょ?」
「もう大きいんだから」
大きくなんて、なかった。
ただ、置いていかれただけだった。
場面が、歪む。
次に現れたのは、
学校の教室。
笑い声。
楽しそうな輪。
その中に、
自分はいない。
「一緒に帰ろう」
そう言った時、
友達は顔を見合わせて、笑った。
「え、無理無理」
「今さら?」
その笑いは、悪意がない分、残酷だった。
「なんでついてくるの?」
「空気読めよ」
冗談みたいな口調。
でも、目は本気で、
“いらない”と言っていた。
背中を向けられる。
置いていかれる。
まただ。
「……やだ」
意識の底で、
声にならない声が漏れる。
でも、誰も聞かない。
親も。
友達も。
ここでは、
誰も迎えに来ない。
だから、
何も感じないようにした。
何も覚えないようにした。
そうすれば、
もう傷つかなくて済む。
その瞬間。
世界が、真っ白になった。
白い光が、そこにあった。
眩しい、とも思わない。
冷たい、とも感じない。
ただ、白い。
次に、音。
ぴっ、ぴっ、ぴっ
一定の間隔で、同じ音が繰り返されている。
それが何かを知らせる音だと、
理解しようともしなかった。
音は音。
光は光。
疑問は、生まれなかった。
目が開いていることにも、
閉じていたことにも、
意味はなかった。
視界の端に、影が動く。
人の形をしている。
複数。
「……っ」
かすかな声が、どこかで震えた。
でも、それが誰の声か、
なぜ震えているのか、
おんりーには関係がなかった。
ただ、
音として、耳に入っただけ。
顔が、近づく。
男の人。
知らない顔。
もう一つ、顔。
また、知らない。
三つ。
四つ。
知らない男の人の顔が、四つ。
それを見て、
恐怖も、警戒も、安心も、
何一つ起きなかった。
「……おんりー?」
名前を呼ばれる。
その音は、
他の音と、何も変わらなかった。
呼ばれた、という感覚がない。
呼ばれる“自分”が、どこにもいない。
だから、少し間を置いて、
素直に聞いた。
「……それは誰ですか」
声は、驚くほど落ち着いていた。
それを聞いた瞬間、
四つの顔が、同時に固まった。
ぴっ、ぴっ、という音だけが、
変わらず、世界を刻む。
「…おんりー、だよ…」
一番前にいた男が、
喉を詰まらせたように言う。
でも、
“おんりー”が誰なのか、分からない。
「……分かりません」
それも、
感情のない、事実の報告だった。
ぼんじゅうるが、
顔を伏せる。
肩が、小さく揺れた。
泣いているのかもしれない、
と、頭では理解した。
でも、
心は、何も反応しない。
おらふくんが、
口を開こうとして、
何も言えずに閉じる。
おおはらMENは、
立ったまま、動かない。
その全てが、
ただの“光景”だった。
「……ここは?」
質問をしたのは、
知りたいからではない。
情報が欠けていると、
判断しただけだ。
「病院だ」
低い声が、答える。
病院。
そういう場所があることは、
知識として知っている。
でも、
“自分がここにいる理由”が、
どこにも繋がらない。
「……そうですか」
その返答に、
誰かが息を飲んだ。
軽すぎた。
重さが、何もなかった。
医師が、病室に入ってくる。
白衣。
名札。
落ち着いた声。
「目は覚めましたね」
おんりーは、
その言葉に、頷いた。
言われたことを、
そのまま行う。
首を動かしてください。
目で追ってください。
手を握ってください。
全て、
言われた通りに。
抵抗も、疑問も、ない。
医師は、
静かに質問を重ねる。
「ご自分の名前は?」
「……分かりません」
「年齢は?」
「……分かりません」
「こちらの方々は?」
おんりーは、
もう一度、四人を見る。
何度見ても、
同じだった。
知らない。
分からない。
「……知らない人です」
その瞬間、
空気が、はっきりと沈んだ。
ぼんじゅうるが、
声を殺して、息を吸う。
ドズルの拳が、
ぎゅっと握られる。
おらふくんの目が、
赤くなる。
おおはらMENは、
視線を逸らした。
それでも、
おんりーの中は、静かだった。
医師が、
一拍置いてから、聞く。
「悲しい、とか。
怖い、とか。
何か、感じますか」
おんりーは、
少し考える。
考える、というより、
探す。
でも、
何も引っかからない。
「……何も」
正直な答え。
医師は、
それ以上、表情を変えなかった。
「分かりました」
その声は、
慣れている音だった。
説明が始まる。
「強い精神的な負荷による、
一時的な記憶と感情の欠如です」
「今は、無理に思い出させない方がいい」
「時間をかけて、
少しずつ、様子を見ます」
言葉は、
全て、頭に入る。
でも、
“自分のこと”という実感がない。
他人の話を、
聞いているみたいだった。
ドズルが、
何度も頷く。
ぼんじゅうるは、
唇を噛んでいる。
おらふくんは、
袖で目元を隠す。
おおはらMENは、
深く息を吐いた。
その全部を見ても、
胸は、動かない。
「……俺は」
ふと、
口から言葉が落ちた。
全員が、
一斉にこちらを見る。
「……俺は、
何をすればいいんですか」
義務感でも、
不安でもない。
ただ、
“指示”を求める声だった。
医師が答える。
「今は、
安静にしてください」
「分かりました」
その一言で、
また誰かが、崩れそうな顔をした。
夜。
病室は静かになる。
誰かが、
交代で、そばにいる。
話しかけられる。
「無理しなくていい」
「俺たちはここにいる」
その言葉も、
意味としては理解できる。
でも、
心に残らない。
残る場所が、ない。
「……帰らなくていいんですか」
そう聞くと、
ドズルが、首を振った。
「ここにいるよ」
理由は、
説明されなかった。
説明されても、
きっと、分からなかった。
おんりーは、
天井を見つめる。
白い。
ぴっ、ぴっ、という音が、
まだ続いている。
不安も、
安心も、
悲しみも、
何もない。
それが、
“異常”だと気づけないまま。
ただ、
目を閉じて、
また、開いた。
病院での時間は、
驚くほど規則正しく流れていった。
朝。
カーテンが開く音。
白い光。
「起きられますか」
そう言われれば、
おんりーは目を開ける。
起き上がってください。
血圧測ります。
体温測ります。
全部、言われた通りに。
疑問も、抵抗もない。
従う理由を考える必要がなかった。
必要だから言われている。
それだけだった。
食事の時間も同じだ。
トレーが置かれる。
「食べられそうですか」
「……はい」
“はい”という返事に、
意味はほとんどなかった。
食べ始める。
味は、分かる。
でも、美味しいとも、不味いとも思わない。
ただ、噛んで、飲み込む。
「……前はさ」
ぽつりと、ドズルが言う。
「こういう病院食、
絶対文句言ってたよ…、」
冗談めかした声。
いつもの調子を、必死に再現している。
おんりーは、
一度、箸を止めて考えた。
前。
その言葉に、何も引っかからない。
「……そうなんですか」
それだけ返した。
ドズルの笑顔が、
一瞬、固まる。
ぼんじゅうるが、
視線を落とした。
「そうだよ、
『味薄すぎ』ってさ」
続ける声は、
少しだけ、震えている。
おんりーは、
もう一度、食事に視線を戻した。
「……今は、
特に何も思いません」
その正直な言葉が、
誰かの胸を、深く抉った。
検査の日。
「では、こちらに移動します」
車椅子を押される。
「寒くないですか」
「……分かりません」
医師の質問にも、
看護師の指示にも、
淡々と従う。
右を向いて。
深呼吸して。
息止めて。
全部、正確に。
優秀な患者だった。
感情がない分、
混乱もしない。
それが、
一番残酷だった。
面会時間。
メンバーは、
必ず誰かが来ていた。
一人になる時間を、
作らなかった。
椅子に座って、
話しかける。
「今日はな、
外、ちょっと寒かったぞ」
「これ、前に一緒に行った店の写真」
「覚えてなくてもいいから、
聞いてくれ」
おんりーは、
頷く。
聞いている、という動作はできる。
でも、
心には、残らない。
「……すみません」
ふと、そう言った。
全員が、息を止める。
「……何が?」
ドズルが、
慎重に聞き返す。
「……俺、
期待されてる反応が、
できてない気がして」
謝罪だった。
悪意はない。
ただ、
“場の空気”を読もうとした結果。
ぼんじゅうるが、
顔を歪める。
「謝るな……」
声が、掠れていた。
「お前が謝ること、
一個もない」
おらふくんが、
無理やり笑って言う。
「そうそう!
今は休憩中ってだけ!」
その笑顔が、
すぐに崩れそうなのを、
おんりーは見ていた。
でも、
どうして崩れそうなのか、
分からなかった。
夜。
消灯時間。
「眠れそう?」
「……分かりません」
同じやり取り。
ドズルは、
ベッドの横で、
しばらく立っていた。
「……なあ」
低い声。
「思い出さなくていい」
おんりーは、
その言葉の意味を、
頭で分解した。
思い出す、という行為。
それを、
しなくていい。
「……分かりました」
素直な返事。
でも、
ドズルは、
それを聞いても安心しなかった。
「忘れててもいい」
「何も感じなくてもいい」
「それでも、
おんりーは——」
言葉が、途切れる。
最後まで、言えなかった。
“大切だ”
“仲間だ”
“置いていかない”
どれも、
今のおんりーには、
届かない気がして。
別の日。
医師が、説明をする。
「今日は、
病棟内を歩いてみましょう」
「ここから、
ここまで」
指示は、明確だった。
おんりーは、
立ち上がる。
足元が、少しふらつく。
すぐ、
誰かの手が伸びる。
支えられる。
その手の意味を、
深く考えない。
支えが必要だから、
支えられている。
それだけ。
「……前はな」
おおはらMENが、
初めて、口を開いた。
「こういう時、
絶対一人で歩こうとしてた」
おんりーは、
その言葉を聞いても、
何も浮かばなかった。
「……今は、
支えてもらった方が、
安全ですね」
理屈として、正しい。
でも、
それが余計に、
胸を締め付けた。
日々は、
静かに、繰り返された。
泣かないおんりー。
笑わないおんりー。
怒らないおんりー。
ただ、
指示に従う存在。
それでも、
メンバーは離れなかった。
「今日も来たぞ」
「いるからな」
「帰らない」
その言葉は、
何度も、何度も、
投げられた。
返事は、
いつも同じ。
「……ありがとうございます」
丁寧で、
距離のある言葉。
そのたびに、
メンバーの表情が、
少しずつ、削れていく。
でも、
誰もやめなかった。
離れる、という選択肢だけは、
最初から、なかった。
おんりーは、
その事実を、
まだ、知らない。
無反応な日々は、
続いていく。
心が戻る兆しも、
記憶の影も、
まだ、どこにもなかった。
退院の日は、
驚くほどあっさりしていた。
「では、本日で退院になります」
医師のその一言に、
おんりーはただ頷いた。
嬉しいとも、
不安とも思わない。
“終わった”
それ以上でも以下でもなかった。
病院の外は、
少し眩しかった。
「眩しいな」
ドズルがそう言って、
おんりーの前に立つ。
影ができる。
視界が落ち着く。
配慮だと理解する。
でも、胸は動かない。
最初に連れていかれたのは、
事務所だった。
エレベーターの扉が開く。
見覚えのない空間。
機材。
机。
壁に貼られた写真。
「ここが……」
ぼんじゅうるが、
少し詰まった声で言う。
「俺たちの事務所」
おんりーは、
ゆっくりと中を見渡した。
「……仕事場、ですね」
その言葉に、
空気が一瞬止まる。
「そうだけど……」
おらふくんが笑おうとして、
失敗する。
スタッフが、
遠慮がちに声をかけてきた。
「おんりーさん、お久しぶりです」
「……初めまして」
丁寧な返事。
スタッフは、
一瞬だけ固まってから、
小さく頭を下げた。
「……そっか」
無理に明るくならず、
静かに受け止めている。
それが、
逆に重かった。
四人が少し離れた時、
スタッフと話をする。
「前は、
一番最初に来てたんですよ」
「配信前、
ずっと無言で準備してて」
「でも、
誰かがミスすると、
一番最初に助けに行く人で」
おんりーは、
それを“情報”として聞いた。
「……そうなんですね」
感想は、
それだけ。
スタッフの一人が、
言葉を選びながら続ける。
「倒れたって聞いた時、……」
そこで、
一度、黙る。
「会社で、
お見舞いに行ってるドズルさん以外の三人が、
別の部屋で……」
言わなくても、
分かる内容だった。
「……泣いてました」
事実だけを、
淡々と。
「誰か一人は、
必ず病院に行ってて」
「残りの人も、
仕事にならなくて」
「……正直、
あんな空気、初めてでした」
おんりーは、
少し考えてから、言った。
「……迷惑、
かけましたね」
その言葉に、
誰もすぐには返せなかった。
次は、
家。
鍵を開ける音。
「ここがおんりーの家」
ドズルが言う。
中に入る。
整った部屋。
生活感のある配置。
「……シンプルなんですね」
その一言が、
また、刺さる。
冷蔵庫を開けられる。
「ほら、
これ、お前が好きだったやつ」
「……そうですか」
クローゼットを開けられる。
「服、
ほとんど黒ばっかでさ」
「そうなんですね」
ソファに座らされる。
「ここでさ」
おらふくんが、
声を落として話す。
「入院してから、
僕、ここに何回も来た」
「電気つけて、
誰もいないのに話して」
「……戻ってきてほしくて」
おんりーは、
その話を聞いて、
少しだけ間を置いた。
「……そうだったんですね」
胸の奥が、
ほんの少しだけ、
ざらつく。
悲しい、ではない。
苦しい、でもない。
「……すみません」
それが、
自然に出た。
「違う!」
ドズルが、
思わず声を上げる。
「謝らないでって……!」
途中で、
言葉を切る。
怒鳴りたかったわけじゃない。
感情が、
溢れただけだった。
夜。
全員で、
事務所に戻る。
「今日はここまでにしよう」
「疲れるからな」
おんりーは、
頷いた。
「……分かりました」
帰り際、
スタッフがぽつりと言う。
「おんりーさんが入院してから、
ドズルさん……」
言葉を探して、
続ける。
「ほとんど、
笑わなくなりました」
その情報が、
胸の奥に、
小さく引っかかった。
「……そうですか」
でも、
それ以上、何も出てこない。
家に戻る。
ベッドに座る。
静か。
一日の出来事を、
順に思い返す。
誰かが泣いた。
誰かが心配した。
誰かが付き添った。
それらを、
“理解”はしている。
でも、
“感じ”てはいない。
ただ、
一つだけ。
胸の奥に、
小さな重さ。
理由は分かる。
「……申し訳ない」
それは、
罪悪感に、
一番近い感覚だった。
悲しくない。
苦しくない。
でも、
自分の存在が、
誰かを削ったことだけは、
理解できた。
それだけを抱えたまま、
おんりーは、
静かに横になった。
感情のない夜は、
まだ、続いていた。
記憶は、戻らなかった。
日が経っても。
場所を変えても。
誰と話しても。
「何か思い出しましたか?」
医師の問いに、
おんりーは首を横に振る。
「……いいえ」
その返事は、
最初からずっと変わらない。
最初は、
何も思わなかった。
戻らないなら、戻らない。
分からないなら、分からない。
それだけだった。
でも、
周りが変わっていった。
変わったのは、
おんりーじゃない。
周囲の人間のほうだった。
事務所。
「今日も来たぞ」
ドズルは、
毎日同じように声をかける。
「……ありがとうございます」
返事も、
毎日同じ。
ぼんじゅうるは、
以前より口数が減った。
おらふくんは、
無理に明るく振る舞う癖がついた。
おおはらMENは、
おんりーの視界に入る位置から、
ほとんど離れなくなった。
それを見て、
おんりーは考える。
この人たちは、俺に何かを期待している。
期待、という言葉は、
感情を伴わない理解だった。
「焦らなくていい」
「そのままでいい」
何度も、
そう言われた。
でも、
その言葉の裏にあるものを、
おんりーは“知識”として理解できた。
気遣い。
不安。
恐れ。
そして、
願い。
元に戻ってほしい。
ある日、
スタッフが何気なく言った。
「最近、 みんな顔色悪いですよね」
「特に、おんりーさんの前だと」
それを聞いた瞬間、
胸の奥に、
小さな違和感が生まれた。
悲しみではない。
苦しさでもない。
ただ、
“重い”違和感。
夜。
一人で、
ソファに座る。
静かな部屋。
思い返す。
病院に来ていた回数。
毎日、誰かがそばにいたこと。
仕事を止めてまで、
付き添っていたという話。
「……」
口から、
言葉が漏れた。
「……俺だって、戻りたい」
誰に向けた言葉でもない。
その時、
初めて、
感情の“輪郭”のようなものが、
浮かび上がった。
それは、
嬉しさではなかった。
悲しさでも、
寂しさでも、
怒りでもない。
「……悪い、」
小さな声。
自分が、
何も返せていないこと。
心配に、
応えられていないこと。
過去を、
共有できないこと。
それらが、
ゆっくりと積もっていく。
申し訳ない。
それだけが、
はっきりと分かった。
翌日。
「体調どうだ?」
ドズルが聞く。
「……問題ありません」
「そっか」
少し安心した声。
その“安心”が、
胸に引っかかる。
安心させているのに、何も返していない。
「……」
おんりーは、
一瞬、迷ってから言った。
「……俺」
全員が、
一斉に見る。
「……記憶、戻らなくて」
そこで、
言葉が止まる。
何を言えばいいのか、
分からない。
ドズルは、
すぐに首を振った。
「いい」
「それでいい」
「大丈夫」
その反応が、
逆に、胸を重くした。
罪悪感は、
静かだった。
叫ばない。
暴れない。
ただ、
毎日、少しずつ増える。
笑えないことに、
申し訳なくなる。
何も感じないことに、
申し訳なくなる。
期待に応えられないことに、
申し訳なくなる。
でも、
それ以外の感情は、
まだ来ない。
嬉しい、はない。
悲しい、もない。
ただ、
「期待に添えない」という感覚だけが、
確かに存在していた。
それは、
心が戻る“最初の入口”だった。
おんりー自身は、
まだ気づいていない。
でも、
無だった場所に、
初めて根を張った感情。
“罪悪感”。
それは、
誰かを想像できている証だった。
感情のない日々の中で、
たった一つ、
確かに生まれたもの。
そして、
その重さは、
これからも、
少しずつ、積もっていく。
夜の家は、
音がなかった。
冷蔵庫の低い稼働音と、
時計の秒針の音だけが、
一定の間隔で空気を刻んでいる。
おんりーは、
リビングのソファに座っていた。
電気はつけていない。
暗い部屋の中で、
窓から差し込む街灯の光だけが、
輪郭をぼんやりと照らしていた。
今日も、
誰かが心配していた。
今日も、
誰かが「大丈夫だ」と言ってくれた。
今日も、
誰かが笑おうとしていた。
それを思い返すたびに、
胸の奥が、
ぎゅっと狭くなる。
悲しい、ではない。
苦しい、とも少し違う。
ただ、
重い。
「……」
息を吸う。
吐く。
それだけなのに、
胸が追いつかない。
戻らないんだ、と。
俺は、戻れてない。
それが事実だと、
何度も確認する。
そして、
その事実の周りに、
人の顔が浮かぶ。
心配そうな目。
無理に作った笑顔。
「気にするな」という声。
全部、
俺のため。
「……」
喉が、
ひくりと鳴った。
次の瞬間、
頬に、
一粒、落ちた。
何が起きたのか、
すぐには理解できなかった。
泣いている、
という自覚はない。
ただ、
水が落ちた。
もう一粒。
また一粒。
視界が、
ぼやけていく。
「あ……」
声にならない音。
胸の奥に溜まっていたものが、
理由も形も分からないまま、
溢れ出していく。
感情が戻った、
わけじゃない。
楽になった、
わけでもない。
ただ、
心が限界だった。
「……っ」
気づけば、
肩が小さく震えていた。
呼吸が、
乱れる。
「……なんで」
答えはない。
「……俺だって」
言葉が、
途切れ途切れに落ちる。
「……戻りたい、です」
誰に聞かせるでもない声。
「……みんなの、ために」
それは、
義務感でも、
使命感でもない。
ただ、
そうでありたかった。
「……どうしたら、いい、?」
分からない。
何も分からない。
気遣われるたび、
胸が重くなる。
優しくされるたび、
申し訳なさが増える。
「……何も、感じないままだったら」
喉が詰まる。
罪悪感を感じない、
ただ従う人間だったあの頃のままだったら。
「……どんなに、良かったか」
罪悪感だけが、
異常に鮮明だった。
戻れない自分。
応えられない自分。
削っている自分。
「……もう、嫌だ」
その言葉を合図に、
涙は止まらなくなった。
意味も、
理由も、
整理されないまま。
ただ、
ぼろぼろと。
声を殺すこともできず、
嗚咽が混じる。
夜が、
静かに過ぎていく。
泣いている時間の感覚は、
なかった。
気づけば、
窓の外が、
少しずつ明るくなっていた。
朝。
玄関の鍵が開く音。
「……おんりー?」
ドズルの声。
返事は、
できなかった。
ソファに座ったまま、
顔を覆っている。
肩が、
まだ震えている。
「……っ」
駆け寄る足音。
「どうしたの!?」
「大丈夫か!?」
「……泣いてる?」
全員が、
一気に集まる。
心配と、
戸惑いと。
そして、
ほんの一瞬だけ混じる、
安堵。
“泣いている。感情が、動いている”
でも、
喜びきれなかった。
おんりーの様子が、
あまりにも切迫していたから。
「……ごめん」
掠れた声。
「……ごめん、
ごめんなさい」
何度も、
同じ言葉。
「ちょ、待って」
ドズルが、
しゃがみ込む。
「何に謝ってるの」
「どうしたの?……」
「落ち着いて、ゆっくりでいい」
おんりーは、
首を振る。
涙が、
止まらない。
「……分かんない」
嗚咽混じりの声。
「……何に、謝ってるのかも」
それを聞いて、
全員が言葉を失う。
「……でも」
必死に、
言葉を探す。
「……罪悪感、だけあるんです」
「……戻れなくて」
「……みんなが、心配してるの、分かるのに」
息が詰まる。
「……何も、返せなくて」
「……それが、すごく、苦しい」
ぼろぼろと、
涙が落ちる。
「……戻りたい」
「……戻れないのに」
「……申し訳なくて」
説明は、
上手くなかった。
論理も、
整っていない。
それでも、
必死だった。
おらふくんが、
唇を噛む。
ぼんじゅうるは、
目を伏せる。
おおはらMENは、
拳を握りしめている。
「……そっか」
ドズルが、
静かに言った。
「それが、
最初に戻った感情なんだね」
嬉しい、
という気持ちは、
確かにあった。
でも、
それ以上に。
こんな形で、苦しませてしまった。
その事実が、
胸に重くのしかかる。
「……大丈夫だ」
そう言いながらドズルの声も、
少し震えていた。
「謝らなくていい」
「戻らなくてもいい」
「今は……それだけ泣けたなら」
言葉が、
詰まる。
「……一人じゃないんだよ」
おんりーは、
それを聞いても、
ただ泣いた。
ごめん、と。
ごめんなさい、と。
朝の光の中で、
罪悪感だけを抱えたまま。
それでも、
確かに。
“何もなかった心”に、
初めて、
大きな波が立った瞬間だった。
朝の光は、
前よりも少しだけ、
眩しく感じるようになっていた。
それが何を意味するのか、
おんりー自身には、
まだ分からない。
ただ、
前と同じ景色なのに、
同じはずなのにほんのわずか、
胸の奥が反応する。
「……おはようございます」
キッチンに立つドズルに、
そう声をかける。
「おはよう」
返ってくる声は、
穏やかで、
どこか慎重だった。
「……ドズルさん」
その呼び方に、
ドズルは一瞬だけ目を瞬かせる。
前と同じ呼び方。
だけど少しぎこちない。
でも今はそれが、
おんりーなりの距離感だった。
記憶は、
相変わらず戻らない。
でも、
罪悪感だけだった心に、
少しずつ、
別のものが混じり始めていた。
それは、
ほんの小さな変化。
「……それ、面白いですね」
ぼんじゅうるの話を聞いて、
口から出た言葉。
自分でも、
少し驚いた。
面白い、
と感じた。
大きな感動ではない。
胸が高鳴るわけでもない。
でも、
“無”ではなかった。
ぼんじゅうるは、
一瞬、言葉を失ってから、
柔らかく笑った。
「だろ」
それだけで、
空気が少し、
和らいだ。
おんりーは、
決めていた。
待つだけじゃいけないと。
戻らない理由は、
分からない。
でも、
戻したい、という意思だけは、
はっきりしていた。
「……お願い、いいですか」
ある日、
そう切り出した。
全員が、
少し緊張した表情で見る。
「毎日…… 短くていいので」
言葉を選びながら、
続ける。
「……俺に昔の話を、してください」
沈黙。
「……小さなことで、いいです」
「楽しかったこととか、くだらないこととか」
「……俺が、感じる練習を、したいです」
それは、
おんりーなりの、必死な一歩だった。
その日から、
“時間”ができた。
夕方。
仕事が一区切りついた後。
五分でも、
十分でもいい。
誰かが、
一つだけ話す。
「前、収録中にさ」
「おんりー、ぼんさんのギャグに
絶対笑わないって顔してたのに」
「急に、小さく吹き出したんだぞ」
話を聞きながら、
おんりーは、
頭の中で想像する。
映像は、
浮かばない。
でも、
言葉の温度は、
少しだけ伝わってくる。
「……それは」
間を置いて、
言う。
「……ちょっと、楽しそうですね」
その言葉に、
おらふくんが、
目を細める。
「だよね」
最初は、
感情の幅は、
本当に小さかった。
嬉しい、
0か1か、
その程度。
悲しい、
0か1か、
それくらい。
でも、
毎日、
少しずつ。
「……それ、嬉しいです」
「……それは少し、悲しいですね」
言葉にしてみる。
自分の声で、
確認する。
ドズルは、
そのたびに、
大げさに反応しなかった。
ただ、
ちゃんと聞いた。
「うん」
「そうだね」
否定もしない。
急かしもしない。
呼び方は、
まだ変わらない。
「ドズルさん」
「ぼんじゅうるさん」
「おらふさん」
「おおはらさん」
距離がある呼び方だったり、
ぎこちなさが見える。
でも、前と同じにしてほしいと
誰も言わなかった。
戻るまでの途中だと
全員が分かっていたから。
ある日。
話の途中でおんりーは、
ふと笑った。
声は出ない。
口角が、
ほんの少し上がっただけ。
でも、
それを見逃さなかった。
「……今、
笑った?」
おらふくんが、
小さく言う。
「……?」
おんりーは、
自分の顔に触れてから、
少し考える。
「……多分」
「……少しだけ」
胸の奥が、
わずかに、
温かい。
それが、
嬉しい、
という感情なのかは、
まだ分からない。
でも、
“嫌じゃない”
それは、確かだった。
夜。
一人で、
今日のことを振り返る。
泣いていない。
罪悪感も、
少しだけ薄い。
「……今日は」
小さく呟く。
「……少し、
良かった」
その言葉を、
自分で聞いて、
少し驚く。
感情は、
戻る時、
一気じゃない。
ゆっくり、
慎重に、
怖がりながら。
それでも、
確実に。
おんりーは、
前に進いていた。
記憶がなくても。
さん付けのままでも。
“感じたい”と、
願ったその時点で。
もう、
一人ではなかった。
ドズル社五人で、思い出の場所へ来た。
風が、
強く吹いていた。
高台から見下ろす街は、
夕焼けに染まっている。
おんりーは、
少し後ろで立っていた。
「……きれいですね」
感想は、
それだけ。
胸が動いたわけじゃない。
ただ、
“そう言うべきだと思った”。
ドズルたちは、
誰もすぐに返事をしなかった。
この場所は、
綺麗な思い出だけじゃない。
「……ここさ」
ぼんじゅうるが、
ゆっくり口を開く。
「俺らが、
一番やばい喧嘩した場所だ」
おんりーは、
首を傾げる。
「喧嘩……ですか」
敬語。
距離。
それが、
胸に刺さる。
「覚えてないの、
当たり前だけどさ」
MENが、
笑おうとして失敗する。
「でも、
ちゃんと聞いてほしい」
「ここで、
お前」
言葉を探して、
詰まる。
ドズルが、
代わりに言った。
「『どうせ俺がいなくなっても、
ドズル社は回る』って言った」
空気が、
張り詰める。
おんりーの胸が、
きゅっと縮む。
理由は、
分からない。
夕焼け。
同じ場所。
「……最近さ」
おんりーが、
俯いたまま言った。
「俺、
邪魔じゃない?」
「え?」
ドズルが、
声を荒げる。
「何言ってるの?」
「でも」
おんりーは、
一歩も引かなかった。
「俺がいなくても、
動画は回るし」
「俺が抜けても、
誰も困らないだろ」
その瞬間。
「ふざけないでよ」
おらふくんが、
叫んだ。
「勝手に決めないで!」
「僕らが、
どんな気持ちで一緒にやってるか!」
「……だって」
おんりーの声は、
震えていた。
「今まで、
そうだった」
「今まで?」
ぼんじゅうるが聞く。
「親」
一言。
「友達」
続ける。
「仲間もいなくなった」
「俺だけ置いてかれて、
終わった」
「だから、
ここでも同じなら」
「やめろ!」
おおはらMENが、
怒鳴った。
「一緒にするな!」
「俺らは違う!」
「……違わない」
おんりーは、
目を逸らさない。
「今は違っても、
いつか」
「俺が重くなったら、切る」
その言葉が、
全員を黙らせた。
「……っ」
ぼんじゅうるが、
拳を握る。
「俺は……」
「俺は、
そんなこと考えたことない」
「…それさ」
MENが、
声を張る。
「そう思わせた時点で俺らの負けだよな」
「冗談で流してたのも、事実だ」
「……僕も」
おらふくんの目に、
涙が溜まる。
「強く言えば、おんりーが壊れそうで」
「何も言えなかった」
「……ほら」
おんりーが、
苦笑した。
「誰も、
ちゃんと引き止めない」
「やっぱり、
そうじゃん」
その瞬間、
感情が爆発した。
怒鳴り声。
泣き声。
「勝手に諦めないで!」
「頼れって言ってんだ!」
「怖いんだよ!」
「離れていかれるのが!」
おんりーが、
しゃがみ込む。
「……俺は」
「一人になるくらいなら、
先に離れる」
「そうやって、
生きてきたんだよ……」
沈黙。
次の瞬間。
おらふくんが、
おんりーの手を掴んだ。
「それでも」
震える声。
「それでも、僕らは離れない」
MENも、
手を重ねる。
「逃げても、
追いかける」
ドズルとぼんじゅうるが、
二人を包む。
「ここにいて」
「俺らが、
繋ぎ止める」
「……」
現在。
おんりーの視界が、
揺れる。
胸の奥が、
痛い。
「その後さ」
ドズルが、
静かに言う。
「おんりー、泣きながら言ってた」
「『信じるの、練習する』って」
その瞬間。
何かが、
弾けた。
おらふくんが、
突然手を伸ばす。
ぎゅっと。
反対側から、
MENも。
「あ……」
息が、
詰まる。
その感触。
温度。
力。
同じだ。
ドズルとぼんじゅうるが、
迷いなく抱きしめる。
四方から、
包まれる。
その瞬間。
おんりーの中で、
全部が繋がった。
「……っ、
……ああ……!」
声が、
漏れる。
涙が溢れる。
おんりーは、
ゆっくり顔を上げる。
視界が滲んで、
夕焼けが揺れる。
目の前にいる四人が、
はっきり“知っている顔”として
そこにいた。
怖くない。
遠くない。
分からない人たちじゃない。
戻って来た。
そう思った瞬間、
胸の奥で何かが
静かに音を立ててほどけた。
「……ドズさん」
ぽつりと、
自然に出た名前。
一瞬、
空気が止まった。
ドズルの目が、
見開かれる。
「……え」
「ぼんさん」
次の名前。
ぼんじゅうるが、
息を呑む音が聞こえた。
「……おらふくん」
おらふくんの指が、
ぴくっと動く。
「……MEN」
最後の一人の名前を呼んだ瞬間。
四人が、
同時におんりーを見た。
驚き。
戸惑い。
そして
抑えきれない期待。
誰も、
すぐに声を出せなかった。
「……おん、りー?」
ドズルが、
慎重に名前を呼ぶ。
壊れ物に触れるみたいに。
「今……」
言葉が、
続かない。
おんりーは、
小さく笑った。
泣き顔のまま、
でも確かに、
“いつもの”笑い方で。
「……うん」
「ごめん」
「急に、
全部じゃないけど」
胸に手を当てる。
「……戻った」
その一言で、
堰が切れた。
「……っ!」
ぼんじゅうるが、
顔を覆う。
「……お前……」
声が、
震えている。
「呼び方……」
「それ、
前と同じだぞ……?」
おらふくんが、
ぐっと唇を噛む。
「……ずるい」
「そんな呼び方されたら……」
MENは、
一歩近づいて、
おんりーの肩に手を置いた。
「……無理だろ」
「泣くなって方が」
涙でぐちゃぐちゃなのに、
はっきりした目でおんりーは続ける。
「……俺」
息を吸う。
「俺さ」
「置いていかれるのが怖くて」
「だから、
先に離れようとして」
「……でも」
四人を見る。
一人ずつ、
ちゃんと見る。
「みんな、置いていかないって
一緒にいるって…っ」
「言ってくれた…、!」
その瞬間。
ぼんじゅうるの目から、
大粒の涙が落ちた。
「……それ」
「それ、
あの時言ってたやつだ……」
おらふくんが、
声を殺して泣く。
「……戻ったんだ」
MENは、
唇を噛みしめて、
何度も頷いた。
おんりーの胸が、
いっぱいになる。
感情が、
一気に溢れてくる。
怖かった。
苦しかった。
寂しかった。
でも
それ以上に。
「……ごめん」
嗚咽混じりに言う。
「置いてかれたって、決めつけて」
「信じるの、やめかけて」
「それでも……」
声が、
震える。
「それでも、
ここに戻ってきたかった」
次の瞬間。
ドズルが、
思い切り抱きしめた。
「……当たり前でしょ!」
声が割れる。
「戻ってくる場所なんだよ、
ここは!」
ぼんじゅうるが、
背中を叩きながら泣く。
「……ばか」
「心配させやがって……」
おらふくんが、
ぎゅっと腕を回す。
「離さないって、
言ったじゃん……」
MENも、
何も言わず抱きしめる。
五人が、
ぐちゃぐちゃに絡まって、
泣いた。
声も、
体裁も、
全部どうでもよくなって。
「……ねぇ」
泣きながら、
おんりーが言う。
「俺さ」
「今度は、
逃げない」
「怖くなっても、
ちゃんと名前呼ぶ」
涙を拭いもせず、
笑う。
「……だから」
一拍置いて。
「これからも、
一緒にいてほしい」
四人が、
同時に笑った。
泣きながら。
「当たり前」
「今さらだ」
「離す気ない!」
「もう逃げんな」
夕焼けの中で、
五人は抱き合ったまま、
しばらく動かなかった。
記憶も、
感情も、
居場所も。
全部
ここに、
ちゃんと戻ってきた。
病院は、
相変わらず静かだった。
消毒の匂い。
白すぎる壁。
やけに柔らかい椅子。
「記憶と感情、戻りました」
医者にそう伝えると、
眼鏡の奥で目が少し細まった。
「そうですか」
それから、
少しだけ笑う。
「お友達の皆さん、
本当に必死でしたからね」
その一言に、
胸がきゅっと縮む。
「……必死、
って」
自分でも驚くほど、
声が低かった。
医者は、
カルテを閉じてから、
思い出すように言う。
「救急で運ばれてきたときからですね」
「まず、
誰一人帰ろうとしなかった」
淡々とした口調なのに、
一言一言が重い。
「処置中も、廊下で立ったまま待ってました」
「椅子、空いてたんですけど」
小さく笑う。
「座る余裕は、なかったみたいです」
喉が、
少し詰まる。
「お一人は、ずっと名前を呼んでました」
「声、掠れるくらい」
誰か、
すぐ分かる。
「別の方は、何度も同じ質問をされました」
『今は?』
『もう少しですか?』
『まだですか?』
「時間、ちゃんと進んでるのに」
医者は、
静かに言う。
「待つのが、怖かったんでしょうね」
「あと」
少し間を置いてから、
続けられる。
「一番印象に残ってるのは、
表情です」
心臓が、
どくんと鳴る。
「皆さん、
無理に落ち着こうとしてました」
「でも」
そこで、
言葉が柔らかくなる。
「目だけは全然誤魔化せてなかった」
頭の中に、
浮かぶ。
笑おうとして、
失敗した顔。
強い言葉で、
自分を保ってた姿。
何も言わずに、
ただそばにいた背中。
「……そっか」
それしか、言えなかった。
「だから」
医者は、
穏やかに言う。
「戻ってきてくれて、本当によかったです」
「きっと皆さん、同じ気持ちですよ」
俺は、
深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
医者にもだけど。
そこにいなかった、
四人に向けて。
事務所に戻る。
いつもと同じドア。
いつもと同じ音。
「お、
おかえり」
ドズさん。
「診察どうだった?」
ぼんさん。
「問題なし?」
MEN。
「疲れてない?」
おらふくん。
一気に来る質問。
それが、
もう答えられる側に戻った証拠。
「大丈夫」
一度息を吸って、
続ける。
「医者が言ってました」
四人が、自然にこっちを見る。
「俺のこと、必死で待っててくれたって」
一瞬、
空気が止まる。
「……それ、言う?」
MEN。
「聞かれたら、答えるしかなくない?」
ぼんさん。
ドズさんは、
少し照れたように
視線を逸らす。
「まあ、
そりゃ必死にもなるよね」
おらふくんは、小さく頷く。
「置いてく理由、あるはずなかったし」
その言葉で、胸の奥が
静かに満たされた。
俺は、
ちゃんと顔を上げて言う。
「ありがとう」
短く、
でもはっきり。
「戻る場所、残してくれて」
「待ってくれて」
「一緒にいてくれて」
誰も、
大げさな反応はしない。
でも。
ドズさんが、
いつも通りの声で言う。
「今さらだろ」
ぼんさん。
「確認しなくていい」
MEN。
「戻ってきたなら、
それでいい」
おらふくん。
「これからも、だよ」
その瞬間、改めて確信した。
俺は、
もう一人じゃない。
置いていかれた過去があっても、
ここでは違う。
必死になって名前を呼んで、
待ってくれる人たちがいる。
それを知れただけで、
全部が報われた気がした。
俺は、
少し笑って言う。
「……じゃあ、
いつも通りで」
「おう」
「それが一番」
そう言って、
日常が再開する。
それが、
何よりの「ありがとう」だった。
以上で完結です。
改めてリクエストありがとう〜!!
よければハートコメント
よろしくお願いしますー!!!!
それでは、また
コメント
11件
まじで泣けました 最初のネットでの軽い言葉で 余計泣いてしまいました。 最近私の友達が ドズル社アンチだって 気がついて ドズル社のおんりーチャンの 悪口を言ってて 余計傷ついたんですよね。 平気で「弱い」とか 言ってきて やっぱり人の言葉は 人をいろいろとできるので 言葉には気をつけないと いけないですよね。 こんなに長くなって すみません🙇🏻
泣きました、!仲間思いのみんなが書かれていてすごかった、、 記憶戻った時、名前呼んだとこが1番感動した!!投稿ありがとうございます!!