コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
俺たちは今、ゲートの中を移動している……はずなのだが、とてもそうは思えない。なぜなら、まったく出口が見えてこないからだ。
はあ……いったい、いつになったら異世界に着くんだろうな……。
そういえば、みんなはどうしているのかな。なんだかさっきから妙な気配がするのだが……。俺はそれを気にせず振り返った。すると、そこには……。
「えっと、何も横一列で歩くことはないと思うぞ」
思わずそう言ってしまうほど、きれいに横一列で歩いている者たちがいた。
それこそ、日本体育大学の学生たちによる集団行動にも後れを取らないような見事なものだった。
言い換えるなら、コミケで走っていそうで走っていない参加者たちがチームで動いているような感じだ。
いったい何が彼女らをそこまでさせているのか、俺にはさっぱり分からなかったが、間違いなく俺が関係しているということだけは分かった。
俺は今もなお、その不思議な行動を継続中の彼女らを一旦停止させると、こう言った。
「お前らの目的が何なのかは分からないが、やるなら向こうについてからにしてくれないか?」
現在、俺たちがゲートのどこにいるのかは分からないが、このままの状態で進むわけにはいかない。
だから、俺は思い切ってそう言った。だが、その行為は逆に事態を悪化させてしまった。
「あんた、もしかして今の状況を全く理解できてないの?」
「ナオトさん、よく考えてみてください」
「ナオ兄は、いつからそんなに頭が悪くなったの?」
「兄さん、これくらい察してください」
「マスター、私は今ほどあなたのことをバカな人だと思ったことはありません」
俺は彼女らが何を言っているのか、全く理解できなかった。しかし、俺が今の彼女らに言ってはいけないことを言ってしまったことだけは分かった。
しょうがない、ここはさっさと降参しよう。
俺は、みんなに思い切って訊いてみることにした。
「……降参だ。正直、俺にはお前たちがどうしてそんなに怒っているのか全く分からない。だから、教えてくれ。この通りだ」
俺はみんなに頭を下げた。しかし、事態はさらに悪化してしまった。
「あっ、そう。じゃあ、あんたの頭に叩き込んであげるわ」
「そ、そうですね! ここは私たちがしっかり教えてあげないと、ですよね!」
「ナオ兄のために……私、頑張る!」
「じゃあ、まずは兄さんの脳みその大きさを図るところから始めましょう」
「それは名案ですね。ですが、それではマスターの知能レベルが正確には分かりませんよ?」
コユリ(本物の天使)がそう言うと、みんなは一斉に俺の方を見た。あ、これやばいやつだな……と思った瞬間。
「『アブソリュートドミネイト』発動!!」
そう叫ぶと同時にミノリ(吸血鬼)の瞳が一瞬、紅くなった。その直後、他の四人は一斉に俺がいる胸に飛びこんできた。
俺は四人の重さで後ろに倒れ、あっという間に四肢を封じられた。(ゲートに入る少し前の時と同様に)
さらに魔法の効果で身動きが取れない俺にトドメを刺そうと、ミノリがジリジリと近づいてきた。
俺は何も出来ないまま、ただただ、その光景を見ていることしかできなかった。ミノリは俺の目の前に来ると。
「ナオト、今からあんたの脳みそを調べるから……じっとしててね?」
笑顔でそう言った。その時、俺は本能的にミノリの笑顔の裏に何か黒い感情が蠢いているのに気づいた。
俺はこのまま何もできないまま……幼女に脳みそをえぐり取られてしまうのだろうか……?
いや、まだ何か方法はあるはずだ。俺は絶望的な状況の中で一筋の希望の光を探した。
しかし、今回は俺だけではどうにもならないことが発覚してしまった。えーっと、こういう時に頼りになるやつは……。
そんなことを考え始めた俺は、体感時間にして約一分でその答えを見つけ出した。
それは、【サナエのところに行くこと】……だった。
今この状況をなんとかできるのは、あいつしかいない。
サナエのところに行くと少し記憶が曖昧になってしまうが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
俺はミノリの右手が俺の頭に触れる前に、わずかに動かせる自分の舌を死なない程度に噛んだ。
その直後、そのショックで意識が次第に遠のいていくのを感じた。
瞼が重い……。ミノリの手が分身しているように見える。サナエ、頼むから俺を助けてくれ……と、俺が弱々しく心の中で叫ぶと……。
「呼んだ?」
その直後に聞き覚えのある声が聞こえた。俺がゆっくりと目の開けると、目の前には闇しかなかった。相変わらず、この空間では身動きが一切取れない……。俺がそれを再認識すると、近くに気配を感じた。
「よう、久しぶりだな、サナエ……」
「ええ、そうね……」
俺が名前を付けた子の中で未だにその姿を見たことがない不思議な存在だが、ここ『ダークネスパラダイス』の主らしい。
彼女について分かっていることは、それくらいしかない……。
だが、そんなことを気にしている場合ではない。最低限のことを済ませたら本題に入ろう。
「サナエ、本当に久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ええ、あなたがいなくて、とても寂しかったわ」
「そうか……。なんか、ごめんな」
「別にいいわよ。でも、せめて月に一度くらいは来てね?」
「無茶言うなよ。今、どこまで続いてるのか分からないゲートをくぐってる途中なんだから……」
「ふふふ……冗談よ、冗談。で? 何しにここに来たの?」
サナエが俺にここに来た理由を問うた。
「ああ、実はな……」
俺は今の状況に至るまでのことをサナエに全て話した。
その後、サナエはしばらく何も言わなかった。(サナエの姿が見えないのは相変わらずだが、声がする方向からミノリたちと大して変わらない身長だということに気づいた)
それから数分後……サナエは、やっと口を開いた。
「ナオト……それは明らかに、あなたが悪いわ」
俺が悪い……だと? どうしてだ? 俺が何か取り返しのつかないことをしてしまったのか? それとも。
俺は自分がしてきたことを振り返ってみたが、まったく心当たりがなかったため、どうすることもできないでいた。
彼女たちが、俺に対して怒っていた理由や俺の後ろを横一列で歩いていた理由などを理解しようとしたが失敗に終わった。
「いい? ナオト。これから私が言うことを、よく聞きなさい」
「あ、ああ、よろしく頼む!」
俺は考えるのをやめて、サナエの話を聞くことにした。