テラーノベル
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いつもより遅い帰宅時間。第8セクターの街はまだまだ騒がしく、眩いネオンや宙に浮くホログラム広告の光が、行き交う生徒や市民たちを色とりどりに照らしていた。
喧騒の中を歩いているのに、私の足取りはどこか現実味のない、フワフワとしたものだった。
宙を浮いているような、頭の芯に心地よい霞がかかっているような不思議な感覚。居住区へと向かう地面を蹴る靴音だけが、まるで他人のもののように遠く聞こえる。
やがて見慣れた自室のドアの前に立ち、手をかざして電子ロックを解除した。
カチャリ、と無機質な音が鳴り、重い扉を押し開ける。
「…………」
暗くて、静かな部屋。
机の上には読みかけの分厚い教科書が置かれたままだし、ベッドの端には今朝まで着ていたパジャマが丸まっている。
あの地下実習室で、ルシアンさんに抱きしめられ、開発される前の日常の跡が、部屋の端々にそのまま手付かずで残されていた。
靴を脱いで部屋に上がり、カバンを床にことりと置く。 間違いなく、いつも通りの私の部屋だ。
壁に背中を預け、一つだけ大きく息を吐き出す。
ズルズルと床に座り込んだ途端、どっと重い疲労感が全身にのしかかってきた。けれどそれは、これまでの実習の後に味わってきたような、乱暴に絶頂を迎えて気絶した時の嫌な疲れじゃない。
実習着の首元を引っ張り、鼻を近づける。自分の匂いに混じって、あの甘いバニラの香りが微かに漂ってきた。
(ルシアン、さん……)
『——ボクだけを見てて』
耳をくすぐるハスキーな声や、魔力を帯びて彩度を増していく淡い青の瞳。しなやかで美しい身体、背中に触れていた柔らかな胸の感触。そして、口の中に指をねじ込まれて迎えたあの甘い絶頂の余韻が頭に蘇ると、身体の芯にまだ熱い火種がくすぶっているのが自分でもよく分かった。
この匂いを洗い流してしまうのは、少しだけ勿体ない気もしたけれど。
「……お風呂、入らなきゃ」
独り言のように小さく呟いて、私はゆっくりと実習着のボタンに手をかけた。
熱いシャワーを浴びて、パジャマに着替えても、身体の奥に居座る熱気は少しも引いてくれなかった。
散らかった部屋を片付ける気にもなれず、ベッドに倒れ込む。早く寝てしまおうと目を閉じた、その時だった。
(……今日、凄かったな……)
ぼんやりとした頭で、ふと、自分の唇の隙間にそっと指先を滑り込ませてみた。 甘く噛み、吸い、舌を挟むようにして指を動かす。
その瞬間、びくん、と下腹部に跳ねるような力が入り、秘部の奥がきゅっと疼いた。
「っ……あ、ダメ……」
慌てて口から指を抜き、必死に雑念を振り払おうとする。
毛布を頭まで被り、何度も体勢を変えて強く目を瞑った。けれど、一度火がついた肉体は眠りを受け付けてくれない。
バッと起き上がり、気を紛らわせようと机に向かって教科書を開き、ペンを握る。けれど、文字を目で追うことすらできず、結局は机に突っ伏してしまった。
トクトクと耳の奥で早鐘を打つ鼓動。 恐る恐る、再び震える指先を唇へと伸ばす。
ちゅぷ、と音を立てて自分の指を吸い、ルシアンさんにされたように舌を絡める。途端にキュンキュンとお腹が甘く脈打ち、太腿の付け根へとじゅわっと熱い蜜が染み出してくるのが分かった。
もう、我慢なんてできなかった。
私はふらふらと立ち上がり、部屋の遮光カーテンを固く閉めた。
ベッドの傍らに立てかけてあった大きなクッションを引きずり下ろし、抱きやすい形へと整える。深呼吸を一つ落としてからパジャマをすべて脱ぎ捨て、少し肌寒い夜気の中、全裸でそのクッションに跨がり、覆い被さるように抱きついた。
最初は、乾燥した布地の生地が素肌に擦れて、ザラリとした荒い刺激が走った。
未熟な包皮に包まれた小さなクリトリスも、ぷっくりと充血し始めた陰唇も、摩擦の強さに思わず声が漏れそうになり、顔をクッションに深くうずめる。
じっと抱きしめたまま動かず、溢れ出る蜜が布地にじゅわっと染み込むのを待った。
痛くならないよう、自分の愛液を布へ塗り広げるようにして、円を描くようにぎこちなく腰を揺らし始める。
湿り気を帯びるにつれて、布地は私を拒むことなく、極上の摩擦となって充血した粘膜を執拗に弄び始めた。
「……っ、ふ……んっ……」
声は出さない。漏れ出す吐息だけをクッションに吸わせながら、ひたすらに腰をくねらせる。
波が押し寄せてくれば腰を止め、落ち着いたらまた動かす。股を大きく開いて体重を押し付けたり、太腿をきつく閉じて前後に擦り合わせたり。
誰かに遠慮することもない、誰かの濃密なフェロモンに怯えることもない。ただ一人、自分の身体と正直に向き合える時間。淫魔としては落ちこぼれのやり方かもしれないけれど……。
やがて、込み上げてくる圧迫感にもう耐えられない限界が訪れた。
ぎゅーっと小刻みに、一番敏感な突起を濡れた生地へと擦り付ける。押し付けた顔から、くぐもった嬌声が漏れた。
「……っ、いく……っ、ん゙……ぃ゙……っ!」
ぴんと太腿が突っ張り、外陰部がひくひくと波打つ。 度重なる摩擦と圧迫によって、クッションの布地は細かい気泡を含んだ白濁液でぐっしょりと濡れていた。
三度目の絶頂を迎え、ようやく腕の力を抜いた私は、額に滲んだ汗を指先で拭った。
床にお尻を着き、後ろに手をついて肩で息をする。
恥骨のあたりまでぬるぬると濡れそぼった陰毛。ぷっくりと赤く腫れ上がったクリトリス。その先には、クッションに広がった大きな濡れ染みと、どろりと垂れ落ちたゼリー状の愛液。
それを見て、酷い羞恥心とともに、奇妙な満足感が胸を満たしていた。
(今日……すごい調子いいかも……)
身体全体に、静かで甘い熱気が淀んでいる。
乱れた呼吸。肋骨の内側をせわしなく叩く心拍。いつもの実習では味わえない、自分自身で手に入れた心地よい息苦しさ。
この熱が冷めないうちに、感覚が指先に残っているうちに、ふらつく足取りで、クローゼットへと向かった。
一番奥、誰に見られるわけでもないのに、隠すようにして置かれていた小さな袋。
指先が触れた瞬間、ほんの少しの躊躇いが生まれた。けれど、下腹部の奥を突き上げるじくじくとした渇きには、もう抗えなかった。
取り出したのは、手のひらよりも一回りほど小ぶりな、男性器を模した玩具。
随分と前に買ったきり、こうして使うことなど滅多になかったものだ。勉強の一環としてまじまじと眺めたり、おそるおそる指先で質感を確かめたりする程度でしかなかった。
実習用の機材と同じ生体模倣素材で作られており、体温ですぐに温まり、肌の弾力や粘膜の吸い付くような感触が生々しく再現されている。サイズは控えめでも、手に取るとずっしりとした重みがあった。
(……自主練。これは、自主練だから……)
誰に聞かせるわけでもない、何より自分でも嘘だと分かっている言い訳を頭の中で並べ立てる。
床に座り込み、まだ熱を持っている指先で、太腿を伝い落ちていた白濁した蜜をそっと掬い取った。
「……ごめんね」
誰に向けてのものかも分からない謝罪を、小さく呟く。
こんな後ろめたい行為に付き合わせることへの申し訳なさか、あるいは、教科書の中の「知識」でしかなかった神聖な教材を、ただ自分の欲望を満たす道具へと貶めてしまう自分への免罪符か。
掬い取った愛液を、玩具の先端――滑らかな亀頭へと、慈しむように念入りに塗り広げていく。
それだけでは足りない気がして、口内に溜まった熱い唾液を直接たらりと垂らし、指でねっとりと混ぜ合わせた。
ぐちゅっ、じゅちゅ……。
静まり返った部屋に、粘り気を含んだ水音が不自然なほど生々しく響く。私は玩具を両手で包み、根元から先端まで往復するようにしごき上げた。
手の中のそれは人の肌そのものの弾力を持ち、力を込めるたびに淫らな音を立てて、私の掌を白く濁った液で濡らしていく。
低学年向けの実習用モデル。まだ何も知らない子供を相手にするかのように、太さも形も控えめで、カリの段差も浅く、包皮のひだも指先で容易に動く。柔らかくもしなやかな弾力が心地よい。
じゅちゅ、と自分の愛液と唾液が混ざり合い、細かな泡を噛んで白濁していく様子を、私はただ熱い吐息を漏らしながら見つめていた。
やがて、しごき続けていた手をゆっくりと離す。 指の間から、白濁した糸がキラキラと銀色に伸びて千切れた。
ねばねばに濡れそぼった指先を、私は一本、また一本と、確かめるようにゆっくりと口の中へ招き入れた。
「ん……っ、……ちゅ……」
高鳴りすぎた鼓動を宥めるように、丹念に指先を舐めとる。
——その瞬間、不意に脳裏を掠めたのは、あの地下室で嗅いだバニラの香りだった。
じゅわっ、とお腹の奥から蜜が湧き出す。 フラッシュバックした残像を振り払うように、私はきつく目を瞑った。
(ダメ……っ。あんなに優しくしてくれた人を、こんな……)
申し訳なくて、胸が潰れそうになる。
けれど、低い段差のカリや包皮のひだに、自分が塗りたくった白濁液がねっとりと溜まっているのを見つめていると、頭の芯がどうしようもなく痺れていく。
無意識に誰の影を重ねているのか、今の私にはこの小さな凹凸が、狂おしいほど官能的なものに見えていた。
「……ごめんなさい……っ」
消え入りそうな声で、誰へともつかない謝罪をもう一度零す。
私はベッドへ仰向けに倒れ込み、シーツを握りしめながら、脚を左右へと大きく開いた。
冷え切った深夜の空気が、剥き出しの秘部に触れてぞくりと身震いする。
充血してひくひくと開いた蜜口に、体温と同じ温度まで温められた先端を、そっとあてがった。
「……っ……、……ふぅ……」
ここには誰のフェロモンもない。邪魔するアナウンスも、冷たい視線もない。
それなのに、心拍数は収まるどころか、激しく肋骨の裏を叩いている。
私はルシアンさんに教わった通り、深く、深く、肺いっぱいに空気を吸い込んだ。そして——ゆっくりと、本当にゆっくりと、身体の隙間を埋めるように沈めていく。
「……っ、……ふ、……ぅっ……!」
痛くないかな。苦しくないかな。もし少しでも辛いと思ったら、すぐに引き抜こう。そんな言い訳じみた思考が、うるさい心音の中で何度も繰り返される。
けれど私の心配をよそに、丹念に手入れされた男性器は、ぬぷ、ぬぷ……と湿り気を帯びた音を立てながら、驚くほど滑らかに私の奥へと吸い込まれていった。
(……はいっ……た……、)
最奥まで到達し、先端がコツンと私の核心に触れた、その瞬間。
じゅわ……っ、と、全身の細胞を甘く書き換えてしまうような多幸感が広がった。
脳の裏側で火花がパチパチと弾け、熱が脊髄を一気に駆け下り、つま先までが甘美な痺れに支配される。
一人の部屋。誰もいないはずなのに、私の毛穴からは微かに甘い匂いを孕んだ汗が滲み出し、シーツの上の空気を重く湿らせていく。
(……まだ、もっと、ちゃんと……)
きっと一度イッてしまったら、そこでもう何もできなくなってしまう。そんな自分の過敏すぎる身体を、自分自身で慈しみ、調律するように。
私は手の中に握った玩具を、ゆっくりと、本当にゆっくりと動かし始めた。
ぬちゅ、じゅぷ……、……ぐちゅっ。
静寂に包まれた深夜の自室。 私一人しかいない空間に、粘り気を帯びた、自分でも顔から火が出るほどいやらしい水音が鳴り続ける。
私は自分の立てる淫靡な音に頬を染めながらも、長い、長い時間をかけて、その一突き一突きの感触を、壊れ物を扱うような慎重さで身体の奥深くへと刻み込んでいった。
ぽん
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とうめい
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