直弥side
哲「でさ、今日の昼休み、また俺がパン買ってきたらさ――」
哲汰がいつもの調子で話している。
俺はベッドにもたれかかって、
相槌を打ちながら彼の顔を見ていた。
直「ふーん……お前、ほんとクラスの雑用係みたい」
哲「いやいや、俺は救世主。直弥の分も買ってくればよかったなー」
直「いらないし」
哲「ツンツンしないの。俺ほんと心配なんだからさ」
そのときだった。
胸の奥に、ぎゅっと何かが
押し込まれるような感覚が走る。
息が急に詰まって、胸が苦しくなった。
直「っ……はぁ、はぁ……うっ……はぁ、はぁ……」
声にならない息が漏れる。
視界がじわりと滲む。
哲「直弥? おい、直弥! 大丈夫か?!」
哲汰の声が一瞬で焦りに変わった。
俺が答えようとしても、
喉が塞がってうまく声が出ない。
直「はっ……はぁ……っ」
哲「クソっ……ナースコール!」
カチッ、とボタンを押す音が
やけに大きく響いた。
すぐに看護師さんたちの足音が
廊下から聞こえてくる。
看「患者さんどうされましたか!」
哲「急に胸が苦しいって……息が……!」
バタバタと人の気配が増えていく。
俺の視界の端で、哲汰が立ち上がる。
看護師に腕を掴まれて外へ誘導されていた。
哲「俺も――!」
看「一旦外でお待ちください!」
扉の向こうに連れて行かれながら、
哲汰が必死にこちらを振り返った。
その目と、俺の目が合う。
(……いかないで)
言葉にできないまま、
胸の奥が締めつけられる。
医師と看護師の声が遠くなる。
視界の光が淡くぼやけていく。
(ああ……また、真っ白だ……)
そう思った瞬間、
俺はそのまま意識を手放した。
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