家庭科室の道具は陸太朗が片付けると言っていた。だから、使ったものを洗い、元の場所に戻しただけで家庭科室を出た。
駅でミヤちと別れ、十字路でトモヤと別れ、一人、歩きながら家庭科室に思いをはせた。
もう、部活であの場所に入ることはないのだろう。
まだ実感はわかないが、作品を完成させた興奮と、同じくらいの寂しさを感じている。
これで、完全に陸太朗とのつながりもなくなった。
クラスは違う。委員会も違う。今まで何の接点もなく、話したこともなかった。そういう関係に戻るのだ。
――でも、もし、一次選考を突破できたら、陸太朗は……。
そこまで考えて、あたしはぶんぶんと首を横に振った。
たとえ本選に進めたとしても、きっと陸太朗は出場しない。立花屋が再開しないのなら、今更宣伝したって意味がないから。
これは、あくまで、あたしが自分のためにやったことだ。
「……あたしは結局、陸太朗の力になれなかったのかな……」
そうかもしれない。だが、後悔はしていない。
自己満足でしかない結果だろうと、自分なりにけじめをつけたつもりだ。それが陸太朗の助けにならなかったとしても、それはそれで仕方ないことだと思う。
あくまであたしは傍観者で、やれることは限られているのだから。
――でも、だからこそ。
あたしは、返事の来ないスマホの画面を見て、願った。
――だからこそ、陸太朗が報われますように。
彼がどちらを選ぶのか、本当にこのまま和菓子の道を諦めるのか、それはまだわからない。
だが、陸太朗は頑張っていた。迷いながらも、前に向かって歩いていた。
努力したら、努力した分だけ報われるなんてのは幻想だ。もう、そんなことを信じるほど子どもじゃない。
それでも、たまにくらい、そういうご褒美があってもいいと思う。
頑張れば、願いはかなうのだと。
陸太朗に、どうか……。
あたしは、画面に浮かぶ陸太朗の名前を見つめながら、スマホをぎゅっと握りしめた。
――それから、二週間が経った。
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