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【武装煉翔外伝~真の義を継ぐ侠~】
其ノ壱
煉翔三年、煉翔四国を統一せんと各地の豪傑が名乗りを上げた。
しかし激戦を極めていく四国の間…密かに、その力を奮わんとする侠がいた。
「いい加減、何もなく平和だと…体が鈍ってくんな…」
この侠の名は、日下部真義。
日下の賊と呼ばれる侠である
「この海岸付近はどの軍も近づきやしないからな。」
「真義…そろそろ、時間じゃないのか?」
「わーってるッ!…少し出かけてくる。」
煉翔四国には、誰も踏み入れることの無い、場所がある。それが日下部海岸である
「調子はどうだ真義。」
日下部賊兵軍・筆頭…日下部大義
「調子がいいも何も、どういうことだ?オヤジ…、俺に日下部の賊長を継げって…」
そう、真義の父親である。
「時間が無い……」
「時間が無い?それはどう…」
二の句を言いかけた真義の言葉を遮るように、大義は続けた。
「巌登が賊狩りを開始した。」
「え?!巌登が?!」
「話を聞け!…そしてこの日下もヤツらの配下になりつつある、そこでお前に日下部賊兵軍の…」
はるか東の地・真砂、そこには巌登という武将がいた。
煉翔四国で一に勢力が強く何者もその牙城を崩すことが出来ず、苦戦を強いられていた…その最中に行われた「賊狩り」で、各地にいた賊達はその数を減らしていた。
「いや、オヤジ…オヤジがいる間は、日下部賊兵軍の筆頭はあんただ。」
賊狩りから逃れた者は大義を頼り、日下部賊兵軍へ名乗りをあげる
真義は、大義の弱気な姿を今まで見たことはなかった
「真義。」
「今いる賊兵も、みんな…オヤジを頼って…ッ!」
すると、大義は静かに話を続けた。
「真義、これからの賊兵軍はお前に任せたい。」
「な、なんだよオヤジらしくねぇ…」
それは、大義との別れが近いことを報せていた。
「俺は、このまま戦い続けるつもりは無い。」
「…ッ!?…オヤジ…その傷…」
「そうだ、数日前に巌登と戦った時に出来た傷だ。そしてつい最近も…ヤツらはここへ来た。そりゃ、俺1人じゃ奴に傷すすら…」
不安そうに視線を向けた真義に、大義は
一言、「大丈夫」とだけ告げた。
しかし真義は気づいていた
自分たちを守るため大義は賊兵軍を離れたこと、家族を危険に晒すまいとした大義の行動の意味を。
「ちょっと来い、真義。」
「…?」
「お前は俺に似て強い…」
「オヤジこれ…?」
「家族を頼む…」
この、数日後…
「日下部賊兵軍筆頭・日下部大義、…日下の地で…自害……」
大義の訃報の報せはすぐに届いた。
「自害?!…親分が?!」
何も知らされていない、賊兵達には驚きを隠せずうろたえている者の姿もあった…しかし、真義は力強く続けた。
「オヤジは俺たちを守るために、賊兵軍を離れた…そして俺に、賊兵軍を託して散った。なら…やるべき事は一つ!」
「真義…」
その後、真義をはじめとした日下部賊兵軍は一路、鋼軍が治める北の地・日鉱へ進むことを決めた。
「お前、何故…」
「なぜ?…これ以上、オヤジ達のような犠牲を出さないためだ。それに、幸いなことに鋼の噂はこの日下まで届いている。」
真義にはなにか考えがあるようだった。
「同時に、鋼の方にも俺達の噂が届いている。」
「真義、お前の気持ちは分からなくもないが、今は軍の立て直しが…」
その眼は、くすんではなかった…それどころか何かを見据えているようだった。
「いや、まだ俺達にも勝機はある。煉翔四国…東の龍に西の虎…この二軍、どちらも勢力が大きい。賊兵の俺達では太刀打ちは出来ない。」
「となると、残りは南の亀と北の鋼…このどちらかに就く…そういうことだな?」
「そういうこと、と言いたいところだが…厄介なことに、東は赤龍だけじゃなく巌登のおっさんが遠東の真砂に陣取っている。」
その上、巌登軍は南の村雨の地に軍を進めていることを真義は知っていた
「ここが一番にどの軍も手こずって、牙城すら崩すことができていない。それに奴は俺達のような賊紛いを討伐している。真砂を通っての侵入・村雨を通っての侵入は完全にできない。」
「だとすると、残りは…」
その話を遮る声があった。
「日下部真義殿はおられるか」
それは、意外な訪問者だった。
「日下部真義は俺だがなんの用だ?…ってあんた、その家紋…鋼の!」
「何ッ?!」
「名乗るのが遅くなり申し訳ない。俺は、鋼軍・一等戦副将 龍だ。今日は、総大将・一等戦大将の代わりに出向いた次第。早速ではあるが、真義殿…」
なぜ、日鉱から?
謎が深まるまま、話を続けようとした龍に待ったをかけた真義。
「ちょ、ちょっと待て…少し休めよ。話はそれからだ。大したもてなしはできないかもだが、ゆっくり話を聞かせてくれ。」
日鉱からの距離は数千にして、なにか急用だったのだろうか…すると、話は続けられた。
「俺は、この後すぐ日鉱へ帰らねばならない…」
「そうか…」
鋼に加勢しなくとも、事足りるはずの鋼軍…。
「で?あんたが、なぜこの日下に?」
「単刀直入に言う。我々、鋼軍へ御力添え願いたい。」
どこから噂を聞きつけたか分からないが、これは真義達にとっても願ってもないことだった。
「また急な話だな…だが、俺達は中々の強運みたいだな。」
「それはどう言うことだ?」
「あんたが来る少し前に、ちょうど日鉱へ出向こうと話していたところだ。俺達としても、遠東の巌登にちょっとばかし手を焼いていてな。」
日下部だけに限らず、どの軍もと言いたげに、龍は話を続けた
「なれば交渉成立、ということか?」
「一つ言っとくぞ。この日下、既に巌登の配下になりつつある…あんたがどうやって日下のこの地に来たかは知らねぇが、帰りは生きて帰れると思うな。」
日下の地に賊兵士を残し単身、龍と共に日鉱へ向かった真義。
ここから先は、何があってもおかしくは無いと話した頃には日が傾きつつあった。