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「…………」
彼が人外レベルの速さで消え去ってから数分。
シーンと静まり返った結界の中で、ふと我に返ったわけだけど。「自由にしててくれ」って言われても、これ暇すぎない!?
そりゃあさ、一緒に行ったって足手まといだけど!
そもそも一緒に行けるような移動速度じゃなかったけど!
ひとしきり盛大に愚痴ったら、急激に悲しさと寂しさが襲ってくる。
どうみてもこの状況って、「俺ひとりでAランク倒して来るから、邪魔しないで大人しく待ってろ」って、そういうことだよね。分かってても、やっぱり悲しい。
魔力だけは豊富にあるのに、どうしてあたし、魔法として紡げないんだろう。
先生に習ったとおり、目を閉じて体の中の魔力を探してみる。でも、やっぱりそんなの、あたしにはこれっぽっちも感じ取れなくて。
だってさ、血だって体中に巡ってるけど、そんなのいつもは分かんないじゃん。ケガして、体の外に赤いのがでてくるから分かるわけでさ。
そもそもの初歩から一向に抜け出せないあたしは、結果的に魔力を体の中から集めて、魔法として外に出すという第一歩すら踏み出せないままでいる。
その状態で一年は長いわ。
とんでもない魔力量がこの体の中に眠っている、暴発が危ぶまれるって言われたし、使いこなせるようになれば、国の財産になるってお偉いおじいさんから説き伏せられてこの学校にきたものの、本当はもう、おうちに帰りたい……。
「……っ」
うっかりこぼれそうになった涙を腕でぐいっと拭き取って、あたしは大きく息を吸い込んだ。
いけない、いけない。ちょっと落ち込みそうになっちゃったよ。泣いてる暇があったら、何かできる事をさがさなくっちゃ。
ほっぺたを軽くパンパンと二回叩いて、あたしは結界の中をぐるりと見渡した。
結界は、シーフォレスト樹海とレッドラップ山の狭間のわずかな平地に設けられている。大部分は赤茶けた土と、山から転がり落ちてきたんだろうごつごつした大小の岩や石、点々とある草むら。割と何にもないだだっぴろい空間だ。
でも、少しだけ樹海の入り口も結界の中に含まれていて、ここには蔓やシダ類、背の低い樹々なんかも生えていて、様々な植物が身を寄せ合って生きている。
……この結界の中で、できる事かぁ……。
結界の中を見回してみても、あんまりいいアイディアが浮かばない。うろうろしてるうちにちょっと疲れてきたあたしは、根本的な問題にやっと気が付いた。
この結界の中、だだっ広いだけで、くつろげる場所が全然ない!
座るのにちょうどいいサイズの岩とか。
食事できるスペースとか。
そうだよ、とにかく多分、数日はこの結界の中で過ごすことになるんだから、せめて快適に過ごせるように工夫しよう。首席騎士様が帰ってくるまでに、お茶とか、おいしいご飯とか、できれば用意して待っていよう。
それが、今のあたしにできることだろう。
幸い、しばらく野宿になることだってあるって思ってたから、一通りの準備はあたしだってしてきたし。ナイフと携帯食と、お水のもとは買えるだけ買ってきた。
……まぁ、首席騎士様なら水なんかホイホイ魔法で出せるだろうけど、あいにくあたしは頑張ってもコップ一杯程度を出すのだって精一杯だからね。
さっき、首席騎士様は数刻で戻るって言ってた。つまり、ある程度時間はあるってことだ。彼が戻ってくるまでに、どれだけのことができるだろう。
「よし!」
腕まくりして、あたしはまず小ぶりな石をたくさん集める。かまどまでは作れなくても、焚火で料理できるくらいのものは作りたい。
腕力がないから、石を運べるのだってちょっとずつで、思ったよりも時間がかかるし疲れる。それでも、広めの結界の中で拾える分でそれなりにしっかりした石組みができた。
お次は焚火の材料だ。早めに切って、乾かしておいた方がよく燃える。樹海部分で手に入る草をナイフでザクザクと刈り込んでいたら、奥まったところに赤い可愛らしいベリーが群生しているのが目に入った。
「うわぁ、美味しそう」
携行食だけじゃ味気ないよなって思ってたんだ。
そうだ、この長い葉っぱを編みこんで簡易的なお皿を作ってそれに携行食を盛り付ければ、お皿の緑とベリーの赤が映えて、きっと美味しそうに見えるに違いない。
そう思ったのがそもそもの間違いだった。
届かない。
どれだけ必死で手を伸ばしても、全然ベリーに届かない。
よせばいいのに、結界内に足先だけを残し、めっちゃ全身を伸ばしまくればベリーに届くんじゃないか、なんて浅はかな希望を持ってしまったのだ。
「もうちょっと……」
ここは根性でしょ! ほら、手が届いた!
そう思った瞬間。
「!」
あたしの体はぐらり、と大きく傾ぐ。
バランスを崩したあたしの体は、なんともあっけなく、結界の外に転がり出てしまった。
「いたたたた……」
情けない。ベリー一つ収穫するにもこのありさまだなんて。
しかもさっき刈ったばっかりの植物の切り口が肌にあたってそこそこ痛い。もちろんかすり傷だからたいしたことないし、すぐに結界の中に戻れば問題ない筈だ。でも、せっかくだから、ベリーだけは収穫していこう。
ナイフで手早く枝ごと切って、結界に戻ろうとした時だった。
「グルルルル……」
背後から、唸り声が聞こえてきた。
「……!」
いきなり体に襲い来る、桁外れのプレッシャー。間違いなく、これまであたしが対峙したことがある魔物とは格が違う。気配だけで、あたしにさらにまた一歩近づいたのが分かる程、強力な魔力を帯びた魔物だった。
震えそうになる足を奮い立たせ、あたしは結界に飛び込む。
だって転がり出ただけだ。一、二歩の距離だ。
だから。