「すごいです。このベーグルで使ってる小麦粉は、うちが昔からお世話になってる東堂製粉所の強力粉っていう粉なんです。もちろん、他のパンも、東堂製粉所のそれぞれのパンに合う強力粉を使ってます。本当に良い物を卸してくれてるので、あんこさんのパンもさらに美味しくなるんです。ちなみにこのベーグルは、焼く前に1度茹でるんですよ」
あれ……
私、パンのことになると祐誠さんの前でも夢中で話せてる。
この感じなら……いいかも。
できることならずっとパンの話をしていたい。
「茹でるパンがあるなんて知らなかった。また『杏』に行って、このベーグルを食べたい」
「はい、ぜひお待ちしてます。祐誠さんが来てくれたら『杏』のみんなも喜びます」
パンを食べ終えて、私達は早速ジムに行くことになった。
部屋を出ようとしたその時、
「今日はここまで来てくれてありがとう。また頼むな」
そう言って、祐誠さんは私の後ろから頭を優しく2回ポンポンってしてくれた。
ドキッとして、思わず肩をすくめる。
イケメンに頭をぽんぽんされるなんて、女性の憧れのシチュエーション。
そんなことをされてキュンとなってる私を追い越して、ドアに向かう祐誠さん。
その背中はとても広くて大きい。
きっと今、私がどんな思いでいるかなんて、この人には全くわからないんだろうな……
エレベーターで下まで降り、ジムまで歩いて向かった。
いつもはランニングするらしいけど……
今日は、私の歩幅に合わせて歩いてくれた。
夜の街並みは、昼間とはまた違う顔を見せていて、木々がライトアップされたりしてとてもオシャレな雰囲気だった。
しばらく行くと桜の木があった。
「綺麗……」
「ああ。この場所を通る時は必ず足を止めてしまう」
「そうなんですか? 一緒ですね。私も桜があるとじっと見てしまいます。夜桜は、こうやって下から見上げると本当に綺麗ですね。こんな風に1本だけライトアップされてると、ちょっと妖艶な感じがします」
「妖艶……確かにな。桜の花は綺麗でもあり、可愛くもある。女性に例えるにはぴったりの花だ」
綺麗で可愛い……
祐誠さんもそういう女性が好きなんだ。
男性なら誰だってそうだよね。
「やっぱり……花も人も美しい方がいいですよね」
私なんかは、きっと誰からも相手にされない。
「桜には人を惹きつける魅力がある。美しいとか可愛いとか以上に、魅力的な女性であるかどうかが1番大事なんじゃないか。もちろん男性だってそうだ。少なくとも俺は、魅力に溢れた女性に興味を持ってしまう」
「……魅力に溢れた女性」
「ああ」
だったら本当に、私は女とは思われてないんだろうな。
「ゆ、祐誠さんの彼女さんとかは、きっと魅力に溢れた素敵な人なんだと思います。想像がつきます。だから、私なんかと行くより、やっぱり自分の彼女さんとジムに行った方がいいんじゃないですか?」
私、かなり意地悪なこと言ってる?
嫌な女だよね、何だか自分が情けなくなってきた。
さっきから続く、この激しい気持ちの揺れはいったい何なの?