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「何をムキになってる?」
「ム、ムキになってなんかいません。だって綺麗な彼女さんとかがいるのに、わざわざ私みたいな地味な女を誘ったりして、からかってるんですか? だったらやめてもらえませんか?」
祐誠さん……黙ってしまった。
やっぱり、私はからかわれてたんだ。
1人でドキドキして舞い上がって、すっごく恥ずかしい。
「ちょっと、しつこくないか?」
「えっ?」
「言ったはずだ。俺には彼女なんかいないって。いたら雫を誘ったりしない。自分で言うのは変だけど……俺は何人もの女性を同時に扱える程、器用じゃない」
「祐誠さん……」
「本当に彼女なんかいないんだ。それは信じろ、俺は嘘は嫌いだから。とにかく早く行こう」
それ以上は、もう何も言ってくれなかった。
「彼女はいない」、そのことは……ちゃんと信じようと思った。
だけど、この胸のモヤモヤした感情は、消えずに私の中に残ってしまった。
焦っちゃいけないってわかってるのに、ああ、もう本当に私ってかなりめんどくさい女だ。
自分が嫌になる。
きっとこのままじゃ……祐誠さんにも嫌われてしまうね。
「着いた、ここだ」
私は、さっきまでの変な感情を一旦心の奥にしまい込んで、必死に笑顔を作った。
会員制のオシャレなジムに入ると、祐誠さんはマシンの使い方を丁寧に教えてくれた。
まるで私の専属トレーナーみたいに。
さっきまでのことは何も無かったみたいに、だんだんと祐誠さんと普通に会話ができるようになってきた。
すぐ近くにいるせいでドキドキは止まらないけど、祐誠さんがリードしてくれるおかげで、すごく楽しく運動ができた。
祐誠さんはやっぱり……大人だ、紳士というべきか。
優しい時、強引な時、微笑む時。
パンの話をした時、私の頭をポンポンしてくれた時。
一緒に桜を見た時。
ムキになってしまった時も……
全ての時に、私はあなたに何かを感じた。
祐誠さんの行動と発言の全てに胸がキュンとなることは、隠しようもない事実だった。
「ここ、もっと腕を上げてごらん」
「は、はい」
マシンを使って筋トレをする。
祐誠さんの手が私の体に触れる……すごく自然に。
不思議だけど、全くいやらしく感じない。
「頑張って、あと5回」
「はい! 頑張ります!」
背筋を鍛えるバーを上から両手で引き下ろす。
「うわぁー!!」って、思わず大声をあげたくなったけどさすがに我慢した。
「無理しなくていい。急に激しい運動をするとよくないから。深く息を吸って、吐いて……」
「フゥー」
「いいね。よく頑張った」
祐誠さん、褒めて……くれるんだ。
「ありがとうございます。すごくスカッとしました」
2人で顔を見合わせて笑う。
何だか、ちょっと……嬉しい。
でも、ずっと目が合ってることに気づくと、急にちょっと恥ずかしくなってお互い視線を逸らした。
本当に……
祐誠さんと会ってから、ジェットコースターみたいに感情が激しく揺れ動いてる。
「つ、次はランニング……しようか」
「は、はい。そうですね。走りたいです」
マシンが動き出し、少しずつスピードをあげていく。
しばらくすると汗が噴き出してきた。
気持ち……いい。
走りながらいろいろ考える。
私には、祐誠さんの真意がわからない。
どうしてこんなに関わってくれるのか?
こんな風にドキドキしてるのは私だけなのか?
からかわれてるのか、それとも……
だけど、今日、今の感じはすごくいいなって思えてる。
これから先、いったいどうなるのかわからなくても、目の前に祐誠さんがいて、時々こうやって話したりジムに行ったりできたら……
それは、それで十分楽しいだろうな……なんて、思ってしまった。
あんこさんに話したら、きっと「まだまだこれからだよ。満足してどうするの!」って言われそうだけど。
もう少し、このまま……
私は、あなたの側にいたいと思った。