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タングルド

204 - 第204話 番外編 <姉妹の会話>

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2024年02月27日

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「うわ〜夜は本当に綺麗」


「昼にはよく来てるけど、夜は初めてか」


「わたしだって空気は読めるんですよぉだ!新婚夫婦の家に夜に訪れるなんて二人から恨まれるでしょ」


「いやいや、そんなことは無いから」


世田谷のウォーターフロントのマンションは天気の良い時は富士山が見え眺望は抜群だ。

夜は河川敷が暗い分、対岸に広がる町の明かりは美しく輝いて見える。


「今日は泊まっていってもいい?」


「もちろん、簡易ベッドがあるから空いている部屋に設置するね」


花は窓の外を見ながら

「今夜はカーテンを開けっぱなしにしてリビングでお姉ちゃんと寝たい」


「それも良いかもね、ラグだけだと身体が痛くなりそうだからありったけのクッションを敷こうか」


そう言うと二人でクッションを集めて窓際に並べてからココアを二人で作った。

牛乳にココアパウダーをゆっくりと溶かしていく、そこにチョコを削りながら入れていくと甘い香りが立ち上がった。


電気を消すと窓からは月の光が優しくそそぎこむ。

二人で並んで毛布を膝に掛けると子供の頃を思い出した。


「そういえば昔、電子レンジとトースターを一緒に使ったらブレーカーが上がって真っ暗になった事があったよね」


「そうそう、お姉ちゃんもブレーカーの事がわかってなくてお父さんが帰ってくるまでカーテンを開けて月明かりの下で二人で毛布にくるまった事があったよね」


「今思うとあのスイッチを上げるだけとか、でもなんか部屋の中が魔法が掛かったみたいだった」


「うん」

「そういえば、お義兄さんは台湾に出張だっけ」


「そう、あまり無理するといけないから2泊したほうがいいって言ったんだけど、1泊だけで強行帰国するみたい」


「本当にお姉ちゃんのこと好きなんだね」


改めて言われるとなんか恥ずかしい

「ところで、何か私に言いたいことがあるんじゃないの?」


「へへっ、バレたか」



カップに入ったココアの香りを楽しんでから一口含んでゆっくりと飲み込むと身体に染み込んでいく。


「お姉ちゃんはお母さんのことどう思ってる?」


「お母ん?う〜ん、もうなんとも思わないかな。お母さんは私たちの“母”ではなくて“女”だからね。しっかり私たちにトラウマも刻みつけてくれたし。花はどう?少しは母さんの呪縛は解けた?」


「わたしは一生、母さんを許さないし顔も見たくないと思っているのに」


「母さんに会ったの?」


「うん」


「またお父さんにたかりに来たの?」


「復縁を迫りに来てた。わたし、子供の頃はお母さんに捨てられた事が悲しかった、でも、成長するとともに母さん(あの女)が醜悪な化け物に見えて」


今まで花とお母さんについてじっくり話すことは無かった、お母さんの話をすると決まって花の感情が不安定になっていたから、だから私は何も言わずとにかく花が吐き出したいだけ吐き出させようと思って、ただじっと耳をかたむけていた。


「あの人がお父さんよりも大好きな人に巡り会って、その愛を貫く覚悟があったのなら、ここまで嫌いにならなかったかもしれないけど、二つの家庭を壊したくせに、あっけなくお父さんの元に戻ろうとして拒絶されたら次の男を、その男に捨てられるとまたお父さんの所に来るとか、ずっとその繰り返しで、癌になった時はお父さんしかお母さんを助ける人がいなかったし」


花はカップを持つ手に力を込める。

お母さんに甘えたかったはずが、捨てられたことに傷ついて町で仲が良さそうな母娘を見ると目を腫らしていた。


「お父さんとしては、あくまでも私たちの母親だからという気持ちがあったんじゃ無いのかな?お父さんはもっと自由にしてくれてもいいのにね」


「そうそう、お父さんねお付き合いしてる人がいるみたいなの」


母親の時には硬い表情も父親の話となると花の表情が和らぐ。


「えっ!そうなの!!いつから!!!」


「お姉ちゃんの結婚が決まった後くらいかな、お姉ちゃんが片付いて安心したって言ってたから」


「どんな人?」


「凄く優しそうな人だったよ」


「会ったことがあるの?」


「うん、一度だけね。だから、母さんに出てこられるのが嫌なの」


「そっか、お父さんにも春が来たか、ところで花はどうなの?」


花は急にモジモジとし始めた。


もしかすると、これが本当に言いたいことなのかも。


「好きな人ができたの?」


「母さんのことを始めてお姉ちゃん以外の人に話したの、その人はお姉ちゃんのように何も言わずにずっと話を聞いてくれて、ただ隣に居てくれたの」


「その人のことが好きなのね」


話をする花の表情が柔らかくて幸せそうで、どれほどその人が好きなのかよくわかる。

今まで、誰かを好きになることに嫌悪感を持っていた。

そんな花がこんな風に誰かを思いながら穏やかに話をするのを見てホッとした。


「うん、好き・・・だと思う」


「思う?」


「好きな気持ちってどんなものかよくわからないから」


「でもその人を思い出すと、ふわふわとした気持ちになる?」


「なる」


「それは恋ね」


「やっぱり」


二人で顔を見合わせて笑う。


「どこで知り合ったのか聞いてもいい?」


「お姉ちゃんの結婚式」


「へぇー」

ってことはISLANDの社員?

誰だろ?


「披露宴の時に話をして、凄く楽しかったらそれから何度か会って、告白されたの」


花の乙女モードは初めて見た。

我が妹ながら、めちゃくちゃかわいい。


「ISLANDの人?私が知ってる人かしら?」


「うん、お姉ちゃんは知ってる」


「誰だろ、秘書課の人??」


「うううん、その・・・住販の方」


「ISLAND住販って、橘社長じゃないよね?」


「そんなわけないでしょ」

花は私の腕をポカポカと叩く。


「ふふふ、降参。一体誰?」


花は落ち着きなく指をいじりながら、ぽそりとつぶやいた。





「大島 新二さん」



え???

新二くん??


「お姉ちゃんは反対?」


「そうね、反対する」


花の肩がピクリと弾ける。


「って、言ったら交際を止めるの?」


「え・・・それは」


「でしょ、私は母さんのことで恋を諦めたりして欲しくなかったから、花が誰かを好きになってそれは嬉しいけど、後悔だけはしてほしくないかな」


「うん、わたしは母さんの血が入っているから、恋をするとあの人のようになるじゃ無いかと怖い、でも新といると心がやすらいで、自分は母さんのようにならないって思えるの」


新二くんか、詰めの甘い策略家なイメージだから何か企んでいなければいいけど、本当に花を好きなら反対はしたくない。


「そっか」


「でね、週末に新の部屋に呼ばれてるんだけど、それって、あ・・・れかな?」


「あれ?」


「その、あれ」


あれ!!!

新二!アイツ!!!


「どうしたらいいかな?初めてだし、どうするればいいんだろ?こんな事、誰にも相談出来なくて」


「う〜ん」


「お姉ちゃんの初めての時ってどうだった?」


甦るクソ男!

「そうね、初めてだから痛いのもあったけど、それ以上に恋人になれたっていう悦びもあったわね、でもあっけなく浮気されて別れたけど」


「あっ」

花は気まずそうに窓の外を見始めた。


「こういうのは、私がどうの言うことじゃないけど、一つだけ約束して」


「何?」


「自分を守って」


窓の外を見ていた花が振り返る、月明かりが逆光になって縁取りしたように見える。


「避妊」


花が手の先まで赤くなっていくのがわかる。

かわいい。

ってそんなことを考えてる場合ではなく、母親がするべき教育を私がしないといけない。


「何も言わなくてもきちんとしてくれる人もいけるけど、中には言わないとしてくれないひとや言ってもしてくれない人がいる。ゴムをつけるつけないが愛の大きさじゃない。人によっては好きだから付けたくないとか言うやつがいるかもしれないけど、その先の覚悟があるのかも見極めないと」


「覚悟・・・」


「もし、妊娠したら花は今の仕事を休職もしくは辞めなくちゃいけなくなるし、身体的にも精神的にも負担を受けるのは花になる。相手が花を本当に大切に考えているなら、きちんとするべきなの」


てか、新二は前科者だし。

森川彩香を手に入れるためにわざと妊娠させようとしたし。思い出すと腹が立つな!


「もし行為の最中だって、相手がきちんと付けてくれないなら急所を蹴ってでも終了しちゃって。そもそも、ゴムを付けてって言っても付けない男なんて、のちのち苦労することにもなるからね」


話を聞きながら、さっきまで赤かった顔が青くなっていく。

でも、きちんと言っておかないと。

何かあって泣くのは花なんだ。


「わかった?絶対に避妊をしてね!してくれない男ならすっぱり切り捨てて!!」


「うん、わかった。お義兄さんはどうだった?」


「賢一?そりゃ、野獣のようだけど基本は紳士だから」


花が吹き出したタイミングで私も笑う。

二人の笑い声がさらなる笑いをよんで、沢山のクッションの中で転げながら笑った。


「賢一もようやく落ち着いてきたら、そろそろ考えているのよ」


「そうなんだ、わたしも二人みたいになりたい」



「私は花に最高の恋をして幸せな人生を送ってほしい」


「うん」



月明かりに照らされながらいつの間にか眠りに落ちた。



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