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オドオドしまくりの歩を後ろに引き連れ、診療所の扉を開け放つ。


「ただいま~!」


診療所とは別の玄関もあるが、あえてここから入ることにより、必然的に親父と対面するので、こっち側から入ってやった。自分から逃げたくはないからね、当然の行動だ。


島の住人はお元気のようで、診療所の玄関には靴ひとつない。それを確認したところで、面倒くさそうな顔をした、自分とソックリな親父が診察室からダルそうに出てくる。まるでさっき逢ったばかりの歩と、いい勝負のツラの悪さだ。


「お帰り。向こう側から帰ってくればいいのに」


親指で後方を指し示し、今からでもあっちに行けと言ってるのが伝わってきた。


「どこからでもいいだろう。全部、家みたいなものなんだから。歩、脱いだ靴を持って、廊下を突き進むぞ」

「はい……」

「武……母さんなら今頃、台所で晩飯の支度をしてるはずだ」


親父の横を通り過ぎたら、何故だか慌てた様子で、声をかけてくる。その意図が分からず、首を傾げながら振り返って、分かったと返事をしたら。


「とりあえず話は、晩飯が終わってからだ。昨日みたいに中途半端なところでしたら、酒が不味くてかなわん」


吐き捨てるように言い放ち、逃げるように診療所の外へと出て行ってしまった。


「おい、中途半端なところで話をしたのか?」


親父が出て行ったのを確認して歩に訊ねてみたら、微妙な表情を浮かべ、コクリと頷く。


「中途半端っていうか乾杯して突然、お母さんが俺たちの馴れ初めを質問してくれて……だらだら話をした感じ」

「そうか。分かった」


両手が塞がっていたので、軽く歩に体当たりし、変に落ち込むことはないというのを伝えてやった。


「タケシ先生……」


口にしなくても、伝わる想いはある。目が合ったときには、嬉しさをにじませる眼差しが、しっかりと俺を捉えていた。


ふたりして並んで、自宅に続く廊下をひたすら歩き、玄関に靴を置いて、そのまま台所に直行した。


「ただいま、お袋。元気そうでなにより」

「あら、早かったのね。お帰りなさい武」


お袋の声を聞きながら歩に向かって、手に持っていたバックを差し出してやった。


「悪いけど、居間に置いてきてくれないか? そのまま座って待っていろ、お茶持っていってやるから」

「わかった。あのさタケシ先生」


バックを受け取りながら、どこか渋い表情を浮かべる。


「……何だよ?」

「ケンカしちゃ、ダメだからな」


ぼそっと告げてそそくさと居間に走っていく後ろ姿に、苦笑するしかない。


「あらあら、なんでもお見通しなのかしら?」


どこか茶化すようなお袋の言葉に、肩を竦めてみせた。


「お見通しというかアイツの場合、動物的な勘だろうね」


残念ながら歩は、非常に勘が鋭い。お袋と話をすべく歩を遠ざける理由をつけたのに、ピンときたんだろう。親と争って欲しくない気持ちはわからなくはないが、それを口に出すとか、こっちの身にもなってほしい。


「やぁね。目尻を下げて、デレデレした顔をするなんて」

「してないって」

「してるしてる。イケメンの息子が男を見て、デレデレしてる姿なんて正直、見たくなかったわよ」


さらりと本音を漏らすお袋。そのことにため息をついて背中を向けたというのに、躊躇なく俺に声をかける。


「ねぇ、いつから男好きになったの? 大学生のときは、彼女がいたわよね?」

「確かに。だけどそれはフェイクだったんだ。彼女と付き合いつつも、キモチは別に好きな男がいたから」

「なにそれ……。そんな器用なことが出来るの?」

「そういう器用なトコ、お袋に似たんだと思うんだけどね。親父は無理でしょ?」


笑いながら顔だけで振り向いてやると、呆れた眼差しとぶつかった。


「そうね。あの人は可哀想なくらい、不器用を絵に描いたような人だから」

「ねぇ、俺たちの馴れ初め聞いて、どう思った?」


聞きたかったことを、単刀直入に訊ねてみる。お袋はまな板で人参を乱切りしながら、そうねと呟いた。


「やっぱり恋人にするなら、性別関係なく若いほうがいいのかしら」

「それ、親父が聞いたら、不機嫌になるネタじゃないの?」

「だからこそ今、口にしたんじゃない。ちょっとそこを退いてくれない? お鍋に人参を入れたいのよ」


俺の質問をはぐらかしたいのか、変なことを口走るお袋に難儀してしまう。親父は自分と似ているので、うまいこと誘導尋問が出来るけど、お袋に関しては昔から頭が上がらなかった。


「今夜はカレー?」

「息子の好物だもの、作って当然でしょ」

「ありがと。久しぶりにたくさん食べよーっと」


後ろに退きながら言ってやると、お袋は驚いた顔して振り返る。


「俺ってば、何か変なことでも言ったっけ?」

「ビックリするわよ……。今までそんなふうにお礼を言われたことがなかったから。いつもなら「ふーん、そっか」で終わらせるじゃない」


頭の先から足先まで、ジロジロ見ながら口を開かれても、対処に困ってしまう(汗)


「そんな感じだったっけ?」

「恋をすると変わるのねぇ、相手が男でも。これじゃあ、反対が出来ないじゃない、どうしましょ」


どうしましょと言いながらも、どこか嬉しそうな感じのお袋に、苦笑いするしかなかった。


「武の性格がいい感じに変わってしまったし、王領寺くんは結構いいコだし、粗探しするのも一苦労するわね」

「粗探し、してくれるんだ?」

「するに決まってるでしょ、一応反対している身としては。だけどお父さんは、ちゃっかり認めちゃってるみたいよ。王領寺くんとのやり取りで、なにかを感じたのかしら」


炒め物の上に水をダバダバ入れて、煮込み作業に入る背中をじいっと見つめる。


「まぁ私としては、作ったカレーを全部食べてくれたら、認めちゃうかもしれないわ。昨日作ったご馳走も、全部食べてくれたしね」

「わかった、全部食べさせる。何が何でも食わせてやる!」


お袋の言葉に勇んで答えてやり、コップにお茶を注いで、リビングにいる歩のところに向かった。


「おい、お前。今夜はカレーだぞ、残さずに全部食べろよ」

「いきなりなにを言い出すかと思ったら。俺、昨日食べすぎて、あまり胃の調子が良くないんだけど」

「ダメだ、とにかくなにも考えずに食べろ。そうすれば俺たちの関係を認めてやるって、お袋が言ってるんだから」


かくてお腹を押さえながらカレーを全部平らげた歩に、俺は心の中で拍手を送ってやったのだった。勿論、あとから胃薬を渡すことは忘れない。

恋わずらいの小児科医、ハレンチな駄犬に執着されています

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