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第一章 “ 灯の届かぬ場所で ”
第三話 「 真偽 」
ねぇ 、伊作くん____
「伊作くんはさー 、
喜八郎くんをどう思っているのかな?」
『…..はい?それは 、どういった意味で……』
「そう聞く時点で 、もうわかっているんでしょ?」
『っ 、それは……』
「一体 、本当の彼を知っているのは
どのくらいいるのかな。まだ君みたいに
気にかけてくれる人がいるだけマシだけどね」
『……雑渡さん 。』
「ねぇ 、伊作くん 。
今から話す事は単なる雑談話さ 。」
「ここに来る途中に 、面白いものを見てね
喜八郎くんと 、きっとアヤメ城の者かな 。
ふたりで真剣な顔で話していたよ 。」
『…!?』
「まぁ 、私の見間違いかもしれないし
実際に見てみるのがいいんじゃないかな?」
「ほら 、走って 。走りなさい 。」
僕は 、結局あのあとすぐに動くことはなかった
僕一人で喜八郎を確かめてどうするのか 。
きっと喜八郎は密会なんてせずただ別の用事で
町を訪れただけなんだ。って思い込んでた
でも 、昨日の実習でそれは確信に繋がった 。
だから 、僕はいまここにいる六年生に
その事を伝えてみようと思う 。
「….伊作 、それだけで言うのは
流石に喜八郎が可哀想じゃないか??」
「こればっかりは 、留三郎の言う通りだ。」
「おおー!お前ら今日は息が合ってるな!
まぁ 、私もその意見には同意見だ!」
「…….小平太の言う通りだ 。」
「…….」
皆が僕の考え、雑渡さんからの報告を信じない。
でも 、仙蔵が少し反応が違ったのが気になった
『…..僕だって 、喜八郎を信じたいよッ….』
『信じたいから 、僕は確かめたいんだ!!!』
僕の切羽詰まる思いを打ち明けることで
みんなの心が動いたように感じだ 。
「….伊作 、頭を上げてくれ 。」
『….留三郎 、どんなに止めても僕は行くよ』
仲間がこんなにも後輩思いで 、
僕を諭すほどに優しいみんなだけど 。
それでも僕は 、喜八郎が好きだから___
好きな人には 、いつだって笑っててほしい 。
「…….なら私も行く 。」
「は!?何言ってんだよ仙蔵!!」
『仙蔵…….?』
「止めるな文次郎 、お前は行かないんだろう?
そもそも 、そんな噂が流れてしまうのは
私の注意不足でもある 。付き合うぞ伊作 。」
やっぱり 、仙蔵はそう言うと思っていた 。
でも 、場面は予想外に動いていった 。
「…….ったく 、思ったらすぐ行動しやがる。
仕方ない 、俺も行く 。」
「はっ 、なんだ文次郎 。見栄を張ったか 。
本当は行きたかったんじゃないか 」
「おまッ…….はぁ 、仙蔵お前本当に….」
「なははァ!面白そうだ!私も行くぞ!!」
「…..私も行こう 。」
「は 、?お前ら … 本当に行くのかよ 。」
『……….留三郎 、
喜八郎を思う気持ちはみんな同じなんだ 。』
「…あー 、ほらさっさと行くぞ馬鹿留三郎!」
「なッ….. 私に指図するなッ文次郎のくせに!!」
「…….くそッ….俺も行くよ 、行けばいいだろ!」
『!!!』
『ありがとうみんな!!!』
そうして 、僕達は
喜八郎が出かけるであろう日程まで
徹底的に作戦を練り続けた 。
「あれ〜?六年生の皆さん 、今日はどちらへ?」
「なッ…一年は組 、、」
「あ〜!!立花せんぱいー!!」
「どこ行くんですかぁ!」
「そうだよな….お前らもいるよな 、」
「仙蔵 、落ち込んでいるバヤイか!」
「そうだぞ仙蔵!!
早くしないと喜八郎を見逃してしまう!」
「綾部先輩??」
「 あ 」
「 「 「 小平太!!! 」 」 」
勘のいい兵太夫をどうにか丸めこんで
さっさと小松田さんに出門表を出しては
雑渡さんの言われた通りの場所へ向かった 。
『…….確か 、ここなんだけれど、、』
「おいおい伊作…..まさか店間違えたのか?」
「また不運………」
『もうッ…長次まで酷い!いや絶対この店!
だって雑渡さんがここの店の前で団子を
食べながら話してた………って、』
「それ…….後ろの店でって事じゃないのか」
「 「 「伊作!!!!」 」 」
『ごめんなさいッ!!!!』
「 待て 」
『わぶっ…』
気を取り直してそのお店に入り腰を下ろすために
机に向かっているとき 、
仙蔵の声によってみんなが動きを止める 。
そのせいで 、見た目によらず
鍛えられた仙蔵の背筋にぶつかった 。
(仙蔵 、居たの?)
(ああ 、あの下手側の机にいるだろう)
(…….あれは 、アヤメ城の奉公の服だ 。)
(なぁ 、とりあえず座らないか?)
(そうだね小平太 、座ろう 。)
そうして僕達は 、喜八郎達の座る席から
斜め後ろをとりその話に耳を立てた 。
「…….本当に 、そう言ってたの?お父様が」
「はい 、ですので___までには___ 。」
「ッ………わかった 。」
流石の僕達でもここの距離じゃ
さほどの言葉しか聞き取ることができない。
でも 、喜八郎の表情から
それはいい話じゃないことくらいわかった
でも 、少しでもいいから 。
少しでも喜八郎を知れるならそれでいいんだ 。
「ぼく 、ちゃんと__できているのかな 。」
喜八郎がなにか言った瞬間 、
男がくしゃりと口に握った手を当てて微笑んだ
その瞬間 、背筋が凍るのを感じた 。
「私はずっと貴方様の味方ですよ 、喜八郎 。」
そういって 、喜八郎の頬を
愛おしそうに撫で下ろしている 。
その様子を見れば 、
まるで恋人かのように思ってしまうだろう 。
そんなの 、そんなの嫌に決まっている 。
そんな得体の知れない男より 、僕の方が…
僕の方が喜八郎を好きなんだよ 。
そんな男よりも 、僕の方が_____
「おい伊作ッ…..!!」
『うえぁ!?なに留三郎…って喜八郎は!?』
「今出てったよ 、ほらさっさと追いかけるぞ 。」
『あぁ 、ごめん留三郎 。』
「同室じゃあないか笑
それより 、皆はとっくに外だ 。急ぐぞ 。」
『うん!!行こう!』
でも 、目の前の光景はとても痛々しかった 。
「文次郎ッ ..?!」
『ちょっとアンタなにしてんのさ!!』
「ぐッ…..くそ 、!」
先程の男に文次郎が
棒手裏剣を突きつけられており 、
仙蔵らは己の武器を構えて臨戦態勢で
その後ろでは喜八郎が尻もちをついたまま
ただじっとその光景を見つめるだけだった 。
でも 、それだけじゃなかった 。
『….ちょっと待って 、
喜八郎その傷はどうしたの!?』
「……..伊作先輩 。」
『大丈夫 、話は後で聞くよ 。まず手当を……
「喜八郎に触れるなッ!!!!!」
『!?!』
僕の手を目掛けて棒手裏剣が飛ぶ 。
どうやら喜八郎の頬は
文次郎がつけた傷だと分かった 。
でも……….
「弟切草 、やめて」
喜八郎の声によって 、男の動きが止まった 。
「かはッ….はぁ…」
「文次郎!!!!」
文次郎が解放されたのと同時に
ふたりが去ろうとしているのに気がついた 。
そんなとき 、橫から怒号が飛んだ
「お前はどっちの味方なんだ!!
学園か 、そっちか!応えろ喜八郎!!!」
小平太だった 。小平太だけは 、冷静に問い
喜八郎からの返答を求めたのであった 。
「…..さぁ 、」
「でも少なくとも僕は 、お父様の味方ですので
報告したいのであればどうぞなさってください」
どうして 、なんでそんな事を言うのか
叫んでしまいたかった 。今すぐにでも怒りたい 。
でも 、言葉がつっかえてそれどころじゃない 。
でも 、仙蔵だけは違った 。
「……するわけないだろう 。
何年お前を見てきたと思ってる。」
「……立花せんぱい 。」
「喜八郎 、教えてくれないか 。」
『何が 、喜八郎を縛っているの、?』
「……っ 、そんなの 。
今更言うわけないでしょう…」
「おいッ…まだ話は終わってねぇぞ喜八郎!!」
「喜八郎!!!!」
喜八郎は 、そのまま振り向きもせず
学園へと戻って行った 。
でも 、男はまだ残っていた 。
『…….あの 、貴方は喜八郎のなんなのですか?』
「はぁ 、それを言ってはつまらないでしょうに」
「言わないと分かんないだろ!!」
「…..小平太 、口調を気をつけろ 。」
「それにしても…….
随分といい目をしておいででしたね笑」
「…….何がいいてェんだよ?」
「いえいえ 、ただお手柔らかに。と
願ってやまぬだけですよ 。
あの子は皆様ほど強くはございませんから 。」
「…..お前たちは 、何をしてるんだ 。」
「私達は 、ただ正当な命を
ただ遂行しているまでです 。それがもしも
正しくない 。と仰るのであれば正しさの定義から
話し合う必要がありますね?」
「ふざけるな!!」
『ちょっと留三郎っ……』
「あぁっ….失礼しました 。
ですが 、“ 知らぬほうが 、よほど罪深い ”
こともございますからね 。ご自覚ください 。」
きっと 、この男が言っていることは正しい 。
そんな気がしてる 。
“ 知らぬほうが 、よほど罪深い ”
その言葉に皆が固まる 。きっとその通りだから 。
でも目の前にいる男は笑っているばかり
そんなヤツにイラつかないわけが無い 。
そんな時 、長次は冷静に再び質問をした 。
「….貴方は 、喜八郎を守っているのか 。」
「守る 。とはまた大きなものですね 。
私達は 、あの方に与えられたモノを示すだけ
それが“ 檻 ”に見えるか“ 救い ”に見えるかは
貴方方の目の曇り次第でしょうね 。」
そう口にして 、
男は喜八郎とは反対方向へ歩き出した 。
「……..何も知らぬ者が 、
優しさを口にするなんて滑稽です。
その言葉が 、あの子をどれだけ傷つけたか__
いつか 、思い知ることになるでしょう」
そう言い残して 、男は人混みへと消えてった 。
そのあとの事は 、大したことは覚えていない 。
ただただ 、喜八郎が学園を裏切ったことへの
悲しみや喜八郎を何も知らないという喪失感が
僕達をおそってやまなかった 。
仙蔵は 、ただただ静かに泣いて
その現実を受け入れ悲しんでいた 。
あんなに懐いていた 、可愛がっていた後輩が
あんな簡単に裏切るなんて思ってもいない 。
だから今でも喜八郎を信じているそうで 。
文次郎は 、そんな喜八郎を許せなかった 。
信じたくても 、目の前で起こったあの出来事が
何よりの真実なのだから 。
信じたくてもそれは無理なのだろう 。
きっと 、文次郎はしっかり者だから 、
責任感からもそう思ってしまったのだろう 。
小平太は 、一見気にしてなさそうに思えたけど
実は影で泣いていたらしい 。そりゃそうだよね
みんな 、喜八郎が大好きなんだから 。
小平太は喜八郎を信じ続けると言っていた 。
あれは 、彼の本心じゃないって思ってるみたい 。
でも 、戦になってしまうなら 。
下級生を守るために戦うと言っていた 。
長次だってそうだ 。本心を聞くまでは 、
まだ分からないだろうって 。
でも 、戦が始まればそうは言ってられない 。
なんせ 、図書委員会はほとんどが下級生で
守らなければいけない下級生が沢山いるのだ 。
留三郎は 、一番喜八郎を思っていたと思う 。
あの日 、喜八郎を疑った僕を叱ってでも
喜八郎の潔白を促していた 。それほど留三郎
にとって喜八郎は大切な存在だった 。
でも 、今はそれが難しいんだよね 。
あの日の夜 、今にも泣きそうな顔で 、
声色で 、寝間着姿の君は僕にこう言った 。
「俺は 、喜八郎を信じないことにしたぜ 。」
僕はというと 、別にどうもしていないんだけど。
いつも通り 、喜八郎の穴には落ちるし
喜八郎の事は好きに決まってる 。嘘 、みんな
喜八郎が好きなことくらいわかってる 。
僕は泣かない 。僕が泣いたって 、
何も変わらないから 。
だけど 、だけどね….
僕は 、いつまでも待ってる 。
喜八郎が 、また笑顔でいれるようになるのを__
「みんなぁ〜!大変大変ッ!!」
「喜八郎がッ … 喜八郎が居なくなりました!!」
コメント
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ああああああああああ続き気になるうううううううううううううううううう