「湊さん!明日何の日か覚えてますか!」
「……はいはい。花火大会ね。シンちゃん嬉しいのはわかったから…毎日聞いてくんな!うっとうしいわっ!」
「だって湊さんと出かけるの初めてだから…嬉しくて…」
「……」
(初めてじゃねーけどな…)
湊は内心そう呟くが、今のシンにとっては湊と初めて。という事になる。
「あっ…そうだ。シンちょっと待ってろ…」
思い出した様にそう言って奥へ姿を消すと何かを持って戻ってくる。
「これ。明日一緒に着ていかないか」
持ってきた物をシンの前に出した。
「なんですか。これ?」
「お前と一緒に買いに行った浴衣。商店街のお祭りで着たんだけど…ほら、写真に写ってただろ?」
「あっ…」
「お前が買いに行くって聞かないから…せっかくか買ったのに一度だけだともったいないだろ」
「湊さんの浴衣姿、生で見られるんですね!」
「なまって……」
「楽しみだな~」
「お前に散々試着させられて決めたやつだからな。楽しみにしてろよ笑」
「もっと明日が楽しみになりました!」
「ったく…笑」
あの日以来。湊は記憶を無くす前と今のシンを比べるのをやめた。
これ以上シンの苦しむ顔を見たくなかった。
いつ戻るのかを待つより、今、目の前に居てくれるシンとの思い出をたくさん作りたかった。
そして、シンも自身を責める事は無くなった。
どれだけ自分を大切に思ってくれているのか、あの日湊の涙が伝えてくれたから…
次の日、湊は花火大会の時間まで店で残っている仕事を片付けてくると言って出かけて行った。
残されたシンは、家の掃除をして時間まで待つことにした。
「もうすぐ時間だな」
腕時計を見ると、シンと約束した時間が迫っていた。
帳簿を片付けて帰ろうとした時、
「晃くん!」
常連のお客に声をかけられた。
「どうしたの?」
「なんか冷房調子悪いみたいで、店内あんまり冷えてないんだけど…」
「えっ!こんな暑いのに…ちょっと待ってて、業者に電話してみるから」
「湊さん…遅いな…」
約束の時間を過ぎても湊は帰って来ていない。
心配になって、シンは湊に電話をする。
「湊さん。そろそろ時間ですけど…」
「ごめん!シン。冷房の調子が悪くって、業者に電話したら近くに居るから今から行くって言われて…」
「時間かかりそうですか?」
「見てもらわないと、なんとも…あっ、業者来たから!終わったら直に帰るから、準備しとけっ!じゃなっ!」
「あっ、ちょっ…湊さんっ!」
電話は切られてしまった。
「遅くなってごめんっ!」
息を切らして湊が帰ってきた。
「お疲れさまです」
「えっ……」
シンは浴衣に着替えて出迎えてくれた。
その姿がやはり似合い過ぎていて湊はまた見惚れてしまう。
「湊さん。俺に見惚れてないで早く着替えてください笑」
「み…見惚れてねーって!」
「図星だ。笑」
「どけっ!」
赤くなった顔を隠すように湊はシンを除けて部屋に向う。
「シン…お待たせ」
シンが振り向くと浴衣に着替えた湊が立っていた。
今度はシンが湊の浴衣姿に見惚れてしまう。
「……」
「何黙ってんだよ…何か言えよ…」
じっと見ているシンに照れてしまう。
「すごく…すごく似合ってます…」
「ばーか…当たり前だろっ。笑」
(その台詞2回目な笑)
最初に着た日も同じ台詞を言われた事を思い出す。
「やっぱりこの色にして良かった…」
ボソッとシンが呟く。
「……えっ?」
上手く聞き取れなかった湊は聞き返すが
「早く行きましょう。湊さん!」
シンに手を引かれて家を出る。
急いで駅に向う途中、遠くで花火の上がる音がした。
「あー…始まっちゃったな…」
「湊さん。こっち」
「おぃっ!そっちは反対方向!」
「いーからっ!」
シンに引かれるまま駅とは反対方向に向う。
「スッゲ…」
着いた先は高台にある神社だった。
「湊さんが遅くなるかもしれないって思ったから時間までに会場に着かないかもしれないと思って、家の近くで見れる場所探してみたんです」
「こんな場所があったなんてな…良く見つけたなシンすっげーよ!」
シンの頭を撫でる。
「実際来るまで見られるか心配でしたけど…」
「こりゃ穴場だな笑」
「会場で見るより花火は小さくなっちゃいましたけど…」
「いや…十分だ」
「良かった…」
「ありがとうな。シン。…悪かったなせっかく楽しみにしてくれてたのに…」
「俺は湊さんと一緒ならどこでも嬉しいです。それに会場行ったら大勢の人に浴衣姿の湊さん見られる事の方が心配だったから…だから、寧ろ俺はここの方が…」
「おぃ…シン…」
「こうやってあんたを抱きしめながら見られるし…」
「……」
「あんたを独り占めできる…」
「……」
2人は抱き合ったまま花火を見上げていた。
夜空を彩る花火が打ち上がる度、その光を浴びて浮かび出されるシンの横顔に湊は愛おしさが溢れてくる。
「…また…来年も…再来年も…一緒に見ような」
「言いましたね。神様の前ですよ。笑…絶対ですからね…」
「ぁあ…絶対だ…」
「……」
「おぃ…だめだ…」
「どうして…?誰いないのに…」
「だから……だめだって…」
「恥ずかしい…?」
「……俺の理性が…吹っ飛びそうで…怖い」
「湊さん…かわいい…」
「っるっせー…」
「我慢してる…?」
「……」
「俺はあんたのその姿見てからずっと我慢してた…」
「……」
「かわいすぎて…ハグだけじゃ足りない…もっとあんたに触れたい…」
「………」
引き寄せられる様に2人は唇を重ねる。
何度も…何度も…
「大好き…」
シンは湊の首に触れていた手をしたにずらすと首元をはだけさせ、首筋にキスをする。
湊はシンの背中に腕をまわしシンを受けとめる。
「シン…俺も…好きだよ……」
【あとがき】
もう少し続きます…
お付き合いいただけますと嬉しいです。
また、次回作でお会いできますように…
月乃水萌
コメント
5件
めっちゃ良かったです😊 頑張って下さい!