テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#王道
涙乃
1,144
#御曹司
うめぼっち

742
うめぼっち

847
#溺愛
うめぼっち

966
「話の腰を折ってすみません。どうしても気になる事柄でした」
蒼波様は「構わない」と、小さく頷いてくれた。
クリス様もそれに同意してくれた。
「問題なければ、後日詳しいお話を聞かせて下さい。私にわかることがあるかも知れません……では、クリス様。続きの話をお願いします」
「分かった。マナ用に資料をまとめておく。僕もマナが言った、その輸血と血液型とやらも気になるしね。でも今は話を続けよう」
「はい。よろしくお願いします」
「──そのサロンではリクを中心に、よく分からない赤い液体の点滴とチューブ。用途不明の機械が広がっていた。どこから、ずっと耳障りな機械音や細かい振動音が聞こえていて、まるでなにかの実験場のようだった」
「それは……なんと言っていいかわかりません。でも、健全な治療が行われていたとは思えないです。そんな場所は誰でも不安を抱くと思います」
「マナ、その通りだ。あそこを訪れた者は皆、不可解で不愉快な同じ気持ちになった。僕もリクの身に何が起きたのかはわからない。それしか言えない。僕もチヒロも、リクに会ったのはそれきっりだ」
重い言葉のあと、ため息を吐く代わりに、クリス様は長いまつ毛を憂鬱気にそっと伏せた。
「その石田と言う、お医者様からの説明はなかったのでしょうか。普通、お医者様は病状の説明などを家族にするのですが」
「ないね。母君が『陸は生きているでしょ?』と、うわ言のように繰り返すだけで、サロンにいたのは雇われ従者達のみ。誰もリクの容体を正確に説明するものはいなかった」
その後も、クリス様は淡々と話された。
陸君と面会に来た親族達はすぐに施設から追い出された。以後、面会禁止。
中の様子も不明。面会はその一度きり。
それからは母君は狂ったように『陸は生きているから、蒼波家当主は陸だ』『蒼波千尋を隠居させろ』などと、蒼波の家に騒いで来たり、軍の施設にも押し掛けた。
それだけではなく、大量の抗議や誹謗中傷の手紙を蒼波家に送ったり行動が常軌を逸していたと言うことだった。
クリス様の言葉は滑らかなのに、重みがあった。
気がつけば私は蒼波様へと寄り添い、両手を蒼波様の手に重ねていた。
そっと見上げる蒼波様の美しい横顔に一点の曇りもない。
きっと今のように、当時も不平不満などは口に出さないだけで──心は痛んだはずだ。
私はその痛みを分かち合いたい。
蒼波様を思う気持ちがあれば、この後どんな怖い話が待っていても大丈夫だと思ったけど──話の終わりは唐突にやってきた。
クリス様は言った。
そんなことが続いたある日。
サロンは焼失した。
出火元は不明。
それは一年の出来事。
そこから出てきた二体の死体。
二つの焼死体は小さな少年と成人女性。
少年はがっちりと成人女性の背後に抱きつき、成人女性はまるで逃げるように、うつ伏せ状態で見つかった。
焼けた床には成人女性の爪痕がいく筋も残っていたと言う。
その二人は遺体の損傷が激しく、顔で判別は出来なかった。きっと蒼波陸とその母親だろうということで決着した。
「決着したってそんな」
謎だらけが残り、あっけない終着点に眉根を寄せてしまう。
コメント
1件
第36話、読み終えました。サロンの実態とリクの母親の悲痛な執着、そしてあの焼失事件――謎が深まると同時に、蒼波様がどれほどの過去を背負っているのかがひしひしと伝わってきました。特に、マナが無意識に蒼波様の手に自分の手を重ねる場面が美しくて、胸が締め付けられました。ラストの「決着したってそんな」というマナの違和感が、まさに読者の気持ちそのもの。この炎の真相、絶対にまだなにかありますよね…続きが気になります。