テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#オカルト
リユ
7
聖次
693
【フィルモア王国・修練場】
「オラオラ、お前の剣筋は全くなっていない! もっと鍛錬しないとダメだ」
召喚魔法によって地球から呼び寄せられた異世界人は、日本人に限らずアジア系、白人、黒人も混じっている。数十名の勇者候補者らは皆、冒険者の出で立ちで大型直剣を持ち、銀色の甲冑を着た騎士と手合わせしている最中だ。
「ひゃーもう無理、握力が無くなってきました……」
ガキンと鈍い金属音が響き渡り、重い剣の破壊力に晒された若い男はギブアップ寸前だ。手合わせするフィルモア騎士は(こいつら、勇者の『神聖魔法』スキルが無ければ単なる木偶の坊だな)と心の中で呟く。
神聖魔法とは光属性の究極の攻撃魔法。剣に纏わせることで魔人族や魔物に再生不可能なダメージを与えられ、槍や鏃にも付与することができる。だが、それは剣技や技術があってこそ発揮される魔法スキルであって、下支えするレベルが低ければ魔王城にすらたどり着けないし、そもそも下位の魔物に返り討ちに遭ってしまうのだ。
「さて、仕事、仕事……」
周りを見渡しても、圧倒的に強い奴など皆無だ。騎士の男は半端な諦め顔をしつつ、兜を脱ぎ小脇に抱え、木製の朝礼台の上に立つ。
「さあ《《候補》》《《者》》諸君、試験に合格しなければまた冒険者暮らしが待っているぞ。お前らもっと気合を入れていけ!」
気合の入った号令が飛ぶと、先ほどまで疲れ果て座り込んでいた連中は立ち上がり、真剣な表情へと変化する。今日は半年に一度執り行われる「勇者選抜試験」の日なのだから当然だ。
「俺は合格して勇者になるんだ! そうすれば名誉も女も思いのままだ」
「帰りたい……俺は絶対合格して地球に帰るんだ!」
強制的にフィルモアに連れてこられた勇者候補たちは、なぜか一様にレベルが低かった。測定後、謁見の際に国王から「選抜試験に合格しなければ何も始まらない」と突き放されたのも無理はない。
もちろん、その場で抗おうとする者もいた。だが、抜剣した騎士団に囲まれ「これがここのルールだ、異論は認めない」と断言されれば、諦めて従うほかになかった。生殺与奪の権を握られた彼らは、是が非でも合格しようと必死の形相で武器を握り直した。
【数時間後・試験終了】
「召喚勇者諸君、残念だが全員不合格だ! 次に期待しているから頑張ってレベルを上げてくれ」
「えーっ!? 俺達は候補者なのにそりゃないぜ!」
「候補者は候補者でしかないのだよ。せいぜいレベル上げに勤しむんだな。さぁ解散だ、解散!」
近衛騎士団によるテストに合格しなければ、彼らは単なる冒険者扱いのままだ。次回、半年後に行われる再試験の日まで地道にレベルを上げるしかない。落ちた数十名はガックリと肩を落としながら試験会場を後にする。
もうこのような状態がフィルモアでは数十年以上続いている。必然的に諦めた候補者連中は散り散りバラバラになり、そのまま冒険者を続けるか、または農夫などにジョブチェンジして一生を終えていた。
「召喚勇者は、どれもこれも使い物にならないではないか」
合否発表の場には必ず出席するミラード国王は、結果を聞くなり深く落胆した。
これでも難易度を少し下げてやったのだから尚更だ。苦虫を噛み潰したような表情をした途端、隣に控える近衛騎士団長を鋭く睨みつける。
「陛下、申し上げます。スキル自体は本物でございますので、とりあえず騎士として取り立て、様子をみては如何でしょう」
魔王討伐には神聖魔法が不可欠なため、能力を持ち合わせているポンコツ勇者をひとまず囲い込み、時間を掛けて育てた方が良いのではと進言してきたのだ。
しかし、これほどまでに初期レベルが低いと全く成長を期待できないことを知るミラードは、頑なに首を縦には振らない。
「なあウィラードよ。スキルウィンドウを見れば、レベルが低すぎて可能性が無いことぐらい分かっておるだろう」
ミラードの言うスキルウィンドウとは、探査スキルが100を超えた段階で、頭の中で「スキルウィンドウ」と念じることで呼び出せる半透明のシステム画面のことだ。
画面上では、自身のステータスや魔力値、所持スキルといった詳細な情報を一目で確認することができる。さらに、他人のレベルも覗き見れるが、それには「レベル50が限界」という制限があった。
召喚されたポンコツ勇者たちのレベルは、いずれも上限に遠く及ばない40以下。そのあまりの低さゆえに、彼らの実力は文字通り丸見えの状態だ。
この世界最強と謳われる魔王のレベルは『700』と目されている。だが、この世界の人類の限界値(上限)は『666』との認識が一般的だ。つまり魔王は、世界のシステムすら超越したバグのような絶望の存在だった。
「数は力なり、とも申します。圧倒的な人数で押すという手立てがございます!」
国王に一蹴された団長のウィラードは、現状を鑑み焦っているのか、食い下がろうと目力を強めた。彼らとてレベルの低さは承知しているものの、芽が出る者を数字だけで摘み取りたくないらしい。熱血漢だけあって男気があるのは悪いことではないが――。
「数が多くても使えなければ給金の無駄だ。それなら足腰の強い農夫に剣を持たせ並べた方が何倍もマシだぞ」
騎士団の前に出る雑兵は、腕っぷしの強い農業従事者を徴用することが多い。剣技は無いが、ぶっちゃけ今の召喚勇者より腕力があるのでよほど使い物になる。となれば、ひ弱な連中をわざわざ高給な騎士として召し上げようとしないのは道理だった。
「……成長係数が低いのは、確かに仰る通りで御座います」
ウィンドウに表示される成長係数が『1』以下の場合、どれほど苦労して鍛練したところでレベルは良くて80辺りで打ち止めになる。因みにその係数を上げるには、厳しい自己鍛錬を積むか、超高価な魔道具を使う以外に手立ては無い。その全てを知る団長は、これ以上の進言は不敬になると考えたのか、口を一文字に結んだ。
「使えない奴は放っておけ。もし奇跡的に魔王を打ち取れるような奴が現れたら、その時は好きに報酬をくれてやれば良い」
「畏まりました陛下。仰せのままに」
勇者に成りさえすればそれ相応の贅沢な生活が待っていると、ミラードは対外的に甘い言葉を囁いているが、帰還を望むような覇気のない連中など最初から使い捨てにするつもりだ。
「そもそも、理《ことわり》の影響で生身は返せないがな」
地球に返すつもりなど爪の先ほどもないが、それ以前にこの世界の理が影響して、召喚は問題なくとも生身での送還は不可能だったりする。
「こうなれば、まともな奴が現れるまで召喚を続けるしかないな」
「そう申されましても……魔石が足りません。次の召喚は数ヶ月は先になると思われます」
フィルモア王国は古来から召喚術式を駆使して地球から勇者候補者を呼び寄せていたが、精度が悪く優秀な、高レベルの人材を引き当てられず、既に数十年の月日が流れていた。今回の討伐戦で魔人族領の一部を手中に収めたものの、それはミラードの英知と騎士団の活躍があってこその結末だった。
(クッソ、いつになったら魔王の首が取れるのだ……!)
英知に溢れるミラードであっても、今回の戦いにおいて魔王の息の根を止めるどころか、一合も刃を交えることもなく終わっている。仮にトドメを刺するチャンスがあったとしても、真の勇者が不在のいま、魔王討伐など夢物語だ。歯痒い思いをしている王は苛立つばかりで、眉間の皺が消えることは当分無さそうだった。
【ミラードの執務室】
試験会場を後にしたミラード国王とウィラード騎士団長は執務室へと入り、一人の男と向き合っていた。
『剣聖』クライド・シャルペ・フィルモア。
「相変わらず召喚勇者は使い物にならないのか。あはは、もう笑うしかないな」
フィルモアの名を持つ彼は、王権をもつ公爵家貴族だ。シルバーグレイの髪を持つクライドは、常に柔らかな微笑を浮かべ、一見すると優しげに見える。
しかしその実、かつて近衛騎士団長を務め、限界突破後、さらなる高みを目指して近衛より格上の「近衛騎士団指南役」の座を得た凄腕だ。剣技だけなら魔王より強いとすら目されている。
「ミラード陛下。勇者のレベルが芳しく無いのを危惧されるのでしたら、国内外から広く剣士を募り、大規模な剣技会を開いて騎士団の増強を図る所存であります」
実戦力の不足を痛感している騎士団長ウィラードが、真剣な面持ちで提案する。すると、クライドがふわりと肩をすくめて笑った。
「国王様、勇者なんていう肩書きに拘るから碌な奴が集まらないのです。剣技のことならこの私に任せていただけたら、きっと戦場で大活躍して見せますよ?」
「だがクライドよ、勇者だけが持つ『神聖魔法』が使えなければ、魔王にトドメを刺せないのだぞ」
王の指摘は正論だ。しかしクライドは純粋に、魔王と一合交えたいだけなのだろう。
――考えを改めれば、戦うだけ戦わせ、最後にポンコツ勇者にトドメを刺させるというやり方もある。だが、それを実行するにも奴らのレベルが低すぎる。
ミラードは一瞬脳裏をよぎった妥協案にすら、激しい腹立たしさを覚えた。
(あの忌まわしい魔眼女はいつ戻って来るのだ……)
異世界へ送り出したメアリーは、一向に戻る気配がない。手駒のないまま時間だけが過ぎていく現状に、ミラードの内心の苛立ちは、すでに限界を迎えつつあった。
コメント
1件
いや〜今回もめっちゃおもろかった!!😭💕 召喚された勇者たちが全員♡♡♡で、試験も全滅とか切なすぎるけど、ミラード王の「使えない奴は放っておけ」がめっちゃ非情でカッコよかった…✨ クライドの「勇者なんて肩書きに拘るからだ」もズシリと来た。剣聖が魔王と戦いたいって純粋すぎて好き。 次は“魔眼女”メアリー登場か…?!続きが気になりすぎる〜!!🌸