テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
しゃかな(本垢)
12
79
みあ🎸🍪
1,160
25
玄関からリビングへ戻ってきたのあは、そのままキッチンへ向かった。
そこでは、シヴァが最後の料理を皿に盛り付けているところだった。
「シヴァくん、今日は料理担当してくれてありがとう」
「ん? ああ、いいよ」
シヴァは振り返ることなく答える。
「のあちゃん今日部活だったんでしょ?疲れたと思うし今日は座ってていいからね」
「でも、何か手伝うことあります?」
「もうほとんど終わってるから大丈夫」
そう言って、シヴァが盛り付けた料理をテーブルへ運ぶ。
「ほら、これのあちゃんの分だから持ってって」
「はい!」
のあも一皿受け取って、テーブルへ運んだ。
その様子を見ていたじゃぱぱが、待ちきれないとばかりに身を乗り出す。
「ねえ、まだ!?俺めっちゃお腹すいたんだけど!」
「さっきからそればっかりやな」
隣ではたっつんが呆れたように言う。
「だって今日めっちゃ腹減ってるんだもん!」
「知らんわ」
「たっつんもお腹空いてるでしょ?」
「……まあ」
「ほら!」
「何が『ほら』やねん」
そんな二人のやり取りを聞きながら、のあがくすっと笑う。
「じゃあもうみんな揃ってるし、食べませんか?」
「そうしよ!」
じゃぱぱがすぐに反応した。
それぞれが席につく。
最後にシヴァも席についたところで、じゃぱぱが両手を合わせた。
「それじゃあ――」
「いただきます!」
声が重なる。
「……うまっ!」
一口食べたじゃぱぱが、すぐに声を上げた。
「ほんとですか?」
のあも料理を口に運ぶ。
「うん。美味しいです!」
「だろだろ〜」
シヴァは満足気に腕を組んで頷いている。
「シヴァ、これは何が入ってるん?」
たっつんが料理を指差す。
「それは秘密」
やけに色っぽく口に人差し指を当てているシヴァを何人かは白い目で見ていた。
「なんでやねん!」
「自分で考えてみなよー」
「いや、分かるわけないやろ!」
「じゃあ食べて当ててみ」
「……絶対なんか変なもん入ってるやろ」
「料理なんやから何か入ってるに決まってるやん」
「そういう意味ちゃうわ!」
「ふふっ」
のあが笑う。
「たつやくん、諦めた方がいいんじゃない?」
「のあまで言うな!」
また、テーブルに笑い声が広がった。
学校であったこと。
部活のこと。
明日の予定。
誰が先にお風呂に入るか。
そんな、特別でもなんでもない話。
それでも、こうしてみんなで食卓を囲んでいると、不思議と時間がゆっくり流れていくような気がした。
「そういえば、明日って――」
誰かが話題を変える。
「え、マジ?」
「知らなかったの?」
「聞いてない!」
また誰かが笑う。
そんなやり取りを繰り返しながら、少しずつ料理が減っていく。
「ごちそうさまでした!」
じゃぱぱが一番に箸を置いた。
「シヴァ、今日もありがと!」
「はいはい。じゃあ片付け手伝ってな」
「もちろん!」
「私も手伝います」
のあが立ち上がる。
「じゃあ俺も」
たっつんも続いて立ち上がった。
「え、たっつんも手伝ってくれるの?」
「なんやねん、その言い方」
「いや、意外だなって」
「お前なぁ……」
「ふふっ」
また笑い声が響く。
食器を重ねる音。
水の流れる音。
誰かが廊下を歩いていく足音。
夕飯の時間が、少しずつ終わっていく。
ーーーーーーーーーーーーー
夜ご飯を終えると、リビングではみんながゲームをしていた。
画面をみんなで見て、誰かが叫んで、誰かが笑っている。
私はソファに座りながら、その様子をぼんやり眺めていた。
ゲームをしているとみんな騒がしいけど、こうして過ごす時間がなんとなく心地よかった。
――ぽろん。
遠くから、ピアノの音が聞こえた。
ゲームの音に紛れてしまいそうなほど、小さな音。
けれど、私はすぐに分かった。
「うりかな」
誰かがそう呟く。
「たぶんそうじゃね?」
続いて、また音が響く。
柔らかくて、少し寂しくて。
なのに、聴いていると不思議と心が落ち着く。
うりのピアノだった。
「ちょっと行ってこよ」
私はまたゲームに夢中になっているリビングをあとにして廊下へ出る。
先程までの騒がしさが嘘かのように廊下は静まり返っていた。
一歩進むたびに音が少しずつ近くなっていく。
その旋律は、いつも聴いているはずなのに。
今日は、なんだかいつもより綺麗に聞こえた。
窓から差し込む月の光みたいで。
静かな部屋の中で、ひとりだけ誰かに話しかけているような音だった。
私は、うりの部屋の前で足を止めた。
扉は少しだけ開いている。
そっと中を覗くと、うりは椅子に座って鍵盤に指を滑らせている。
そっとうりの部屋に入るも、うりは私が入ってきたことに気づかなかった。
声をかけようとして、やめる。
ピアノを弾いている時のうりの顔が好きだから。
いつものふざけてて騒がしいうりとは思えないほど、静かな顔をしている。
ただ鍵盤を見つめて、音だけを追いかけて。
長く白い指が、白と黒の上を静かに滑っていく。
私はしばらく、その様子を眺めていた。
やがて、最後の音が静かに消える。
余韻だけが部屋に残った。
うりがゆっくり息を吐いて、椅子の背もたれに少し体を預ける。
そして、ふと振り返った。
「……え?」
琥珀みたいな深い橙の目が私を捉えた。
「えと?」
「やっと気づいた」
「……いつからいた?」
「結構前」
「声かけろよ」
「だって、すごい集中してたから」
「……そう?」
「うん」
うりは少し気まずそうに目を逸らした。
私はそのままピアノのそばまで近づいて、鍵盤を眺めた。
「ねえ、うり」
「ん?」
「もう一曲、弾いて」
「……なんで?」
「聴きたいから」
うりが少しだけ目を細めた。
「何がいい?」
「えーっと……」
私は深く考えた。
どうせならいちばん好きな曲を聞きたい。
「あれ!中1の時のコンクールで弾いてたやつ!」
「あれがいいの?」
「うん。それ聴きたい」
「分かった」
うりは短く返して、もう一度鍵盤に指を置いた。
そして、また音が生まれる。
今度はさっきよりも穏やかで、柔らかい。
私は少し離れたところに座って、その横顔を眺めた。
うりは、ピアノを弾いているときだけ少し違う。
普段より静かで。
普段より綺麗で。
まるで知らない人みたいな。
それがたまに怖くなるけど、うりのピアノは暖かい毛布のように私を包んでくれる。
音が、部屋いっぱいに広がっていく。
私はその音を聴きながら、ぼんやりと思った。
やっぱり好きだな、うりのピアノ。
この音も。
この時間も。
それから。
「私、好きだなぁ」
ぽつり。
自分でも気づかないくらい、小さな独り言だった。
けれど。
ーーガンッ。
綺麗に続いていた音の中に、ひとつだけ異質な音が落ちた。
「……え?」
うりの指が止まっている。
さっきまで流れるように動いていた指が、鍵盤の上でぴたりと止まっていた。
そして。
うりが、こちらを見る。
「……誰が?」
「え?」
「誰が、好きなの?」
その声は、いつもより少しだけ早く感じた。
顔もどこか焦っているような、答えを待ちきれないような。
そんな顔。
私は思わず首を傾げた。
「なにって、うりのピアノだけど」
「え……」
うりが固まった。
数秒間、部屋に沈黙が走る。
やがて、うりはほんの少しだけ視線を落とした。
「……そっちか」
「?」
「いや、なんでもない」
そう言って、うりは鍵盤に視線を戻す。
けれど、その横顔はどこか残念そうだった。
そして、小さく。
「……ちぇっ」
「え?」
「なんでもないって」
今度こそ、うりは何事もなかったみたいに鍵盤を叩いた。
また、綺麗な音が部屋に響く。
私は首を傾げながら、その音を聴いていた。
さっきの不協和音だけが。
なぜだか、いつまでも耳の奥に残っていた。
ーーーーーーーーーーー
時計の針が、約束していた時間を少しだけ過ぎていた。
俺はベッドから身体を起こして、もう一度時計を見る。
……そろそろかな。
部屋の電気を消して、ドアを開ける。
廊下は静まり返っていた。
さっきまで聞こえていた笑い声も、足音も、今はもうほとんど聞こえない。
みんな寝たんだろうな。
俺はなるべく音を立てないように、そっと階段を下りた。
一段。
また一段。
誰かが起きてきたら、何してるんだって思われそうだ。
別に悪いことをしてるわけじゃないんだけど。
そう思いながらリビングの扉を開ける。
すると――
「遅い」
「……なおきり?」
ソファに座っていたなおきりが、こっちを見ていた。
その隣には、ヒロもいる。
「二人とも、もう来てたんだ」
「うん。結構前から」
「なおきりが早すぎるんだよ」
「え、俺のせい?」
「そうでしょ」
「まあまあ」
俺は小さく笑いながら、二人の向かい側のソファに腰を下ろした。
電気はつけていない。
窓から入ってくる月明かりと、時計の小さな明かりだけが、この部屋をぼんやり照らしていた。
こうして三人で集まるのは、別に今日が初めてじゃない。
だけど、何を話すかはその日によって違う。
しばらく三人とも黙っていた。
それが嫌な沈黙じゃないことも、俺は知っている。
「……今日さ」
ぽつりと、ヒロが口を開いた。
「たっつん、ちょっと機嫌悪かったよね」
「あー……」
俺は今日の夕飯のときのことを思い出す。
いつも通りふざけていた。
いつも通り騒いでいた。
だけど。
「のあちゃんが帰ってきてから、ちょっと変だったかも」
「やっぱり?」
「うん」
なおきりが小さく笑う。
「分かりやすいよね、あの二人」
「……二人?」
俺が聞き返すと、なおきりは少しだけ目を細めた。
「たっつんとのあちゃん」
「ああ」
「たっつんは隠してるつもりなんだろうけど」
「のあちゃんも?」
ヒロが聞く。
「うん」
なおきりは少し考えるように黙った。
「のあちゃんも、気づいてるでしょ」
「……そうかな」
「気づいてないふりしてるだけじゃない?」
その言葉に、俺は今日の夕飯を思い出した。
たっつんがのあに何か言うたびに、のあは笑っていた。
普通に、いつも通りに。
だから俺は、そこまで深く考えていなかった。
「……なんで分かるの?」
思わず口に出た。
なおきりが俺を見る。
「何が?」
「いや、二人がそこまで考えてるって」
「見てれば分かるよ」
あっさり言って、なおきりは背もたれに身体を預けた。
「そんなもんじゃない?」
「……そんなもんかなぁ」
俺が呟くと、ヒロが小さく笑った。
それに釣られて三人で小さく笑う。
それから少しだけ、沈黙が落ちた。
その静けさを破ったのは――
「……あれ?」
階段の方から声がした。
三人とも、同時にそちらを見る。
「まだ起きてたの?」
じゃぱぱだった。
寝る前だったのか、少し眠そうな顔をしている。
「じゃっぴ?」
「うん。お茶飲もうと思って」
じゃぱぱはキッチンへ向かいながら、俺たちを見る。
「何してんの?」
「ちょっと話してた」
「そっかぁ」
冷蔵庫を開けて、お茶を取り出す。
ごくごくと飲んでから、じゃぱぱは俺たちに笑いかけた。
「じゃあ、おやすみ!」
「おやすみー」
じゃぱぱは手を振って、階段へ向かう。
「じゃあねー」
その背中が、階段の向こうへ消えていく。
しばらくして、足音が聞こえなくなった。
「…………」
なおきりだけが、まだ階段を見ていた。
「……なおきり?」
俺が声をかける。
「ん?」
振り返ったなおきりは、いつものように笑っていた。
「どうしたの?」
「いや」
なおきりは一度だけ階段の方へ視線を戻す。
「……なんでもないよ」
そう言って笑った。
でも、その笑顔はさっきまでのものとは少し違って見えた。
俺は何も聞かなかった。
聞いても、たぶん今は答えてくれない気がしたから。
ただ静かなリビングに、時計の針の音だけが響いていた。
コメント
1件
第4話、じわじわと染みるお話だった〜!!🌸 夕飯のシーンの温かい空気感、みんなの何気ない会話がすごく心地よくて、思わず一緒に食卓囲みたくなったよ🥺 特にうりのピアノシーンがめっちゃエモかった!!「誰が好きなの?」って聞き返すうりの早口と、その後の「ちぇっ」が最高に可愛くて萌えた😭💕 それに、深夜のリビングでのなおきりの「なんでもないよ」の笑顔、なんか含みある感じで気になる…!! 香さんの描く世界、すごく優しくて、でもちゃんとキャラたちの心の動きが丁寧で、本当に好きだなあ…✨ 続きが楽しみすぎる!🧡