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あなたのその倫理観のかけている考えが好きだった。
「好きな奴に彼氏がいても寝取ってでも俺のものにする」
それが貴方の口癖だった。
俺が育ったのはあなたの元。
あなたに育てられて、あなたの料理を食べて、一緒に寝て。
そんなあなたは今や、煙の中に消えて俺の元を去った。
どこに行ったんだろうか。
俺は今、世界各国を回るカメラマンになっている。
いつか、あなたを、このカメラで、収めたい。
カメラを首にぶら下げながら今日もぶらぶらと目的もなく歩く。
正直、特に用もないのに歩くのは日常茶飯事だ。
金も底をつきそうで、残り少ない。
依頼もなければ声をかけられることもない。
ただ、いいなと思った背景を撮るだけ。
フリーっつーのがダメなのかなあ。
今日も猫背のまま歩いていると、ふわっと金木犀の香りがする。
懐かしくて、どこか儚げで。
急いで振り返ると昔、世話になった人がいた。
こんなとこであなたに会えるとは思わなかった。
気がついたらカメラを向けて、シャッターをきっていた。
写真のなかに映るあなたはきれいだった。
今でも、倫理観、ねぇのかなあ。
残高5600円。
近くのカフェの席に座りながら、財布の中身を確認する。
5600円あったら何ができっかなあ。
食料はカップ麺だろ、服は無理、やっすいホテルならいけっかな。
どーしよ。
そんなことを考えながら背もたれに寄りかかっている。
するとまた、金木犀の香り。
香りの方を見ると、あの人だった。
咄嗟に手を掴んでいた。
あなたは俺のことを覚えていなかった。
「あんた、昔、ちっせーガキ育ててなかったか?」
強く手首を握ったまま、あなたの方を見て問う。
あなたは目を見開き
「修二か?」
そう聞いてきた。案の定、あなただった。
そこからあなたは俺のことを良くしてくれた。
カフェの金も払ってくれて、新しい服も買ってくれて。
その上家まで連れてってくれた。
倫理観なかったけど、俺のことをまだ良くしてくれる。
そんなあなたが好きだった。
「修二、今はなんの仕事してンだ?」
酒を一杯、俺の前に置きながら聞いてくる。
「フリーのカメラマン、目的もなくそこらへん歩いてンだ」
カメラを置いて、そのまま出された酒に口をつける。
そこから話は弾んで、俺は酔いが回って寝てしまった。
ガサガサという物音で目が覚める。
「………………………………」
静かに目を開けると、あなたが俺の財布から金を抜き取っていた。
あなたは俺が起きたことに気づいていない。
でも、怒ったりなんてしない。
俺はこの人の“こういうところ”が好きなのだ。
「なにしてンの?」
声をかけると、あなたはビクッと体を跳ねさせ、振り向く。
「し………修二…?」
苦笑いを浮かべながら青い顔をして。
「こりゃだめだなァ〜〜?それ、“セットー”だぜ?」
ニヤニヤと口角を上げながらあなたに這い寄る。
あなたは口を開閉させると、じんわりと目尻に涙を溜める。
「これ、警察に言ったら…アンタ、捕まるぜ?」
クスッ、と笑いを漏らしながら、あなたの頬を撫でる。
「でも安心しろよ。言わねぇから。」
そう言われるとあなたは安心したように深く息を吐く。
「でもよォ〜…そしたら、俺に得がねェよなァ?」
「アンタ、俺と一緒に地獄まで逝けよ。」
「そしたら許してやる」
あなたはその言葉に唖然とし、冷や汗を垂らす。
辛そうに、怖がっているのか眉を下げて。
「ヒャハ♡俺と一緒に狂おうなァ〜」
身体を震わせ、子供のように泣きじゃくり項垂れるあなた。
ごめんなさい、と何度も謝罪の言葉を言うあなた。
カシャッ____
カメラを向けてシャッターをきる。
「今日から俺のモンだからなあ♡」
ちゅ、と写真の中で泣いているあなたにキスを落とす。
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