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「ところでまもりんさ」「うん?なんだ桜花姉」
ザザーン。
耳に届くのは波打つ潮騒。
潮風が、俺たちの髪や散りゆく桜を乱す。
散った桜の花びらは、海にぷかぷかと浮いていた。
「紫音ちゃんと蕾さん、どっちが好きなの?」
爆弾が投下された。
「けっけっけ、そろそろ決着つけなきゃねぇ。つぼっち」
「そうだねぇ、しおちゃん」
しおりんと蕾さんはニコニコとお互い見つめ合っている。
なんだろう、火花が散ってる気がする。
「希導よ。わかっているな?」
「なんの事だか、さっぱり分かりません」
ゴゴゴと笑顔を向ける美咲先生。
無言で「蕾を選ぶよな?」という圧を感じる。
美咲先生ってシスコンだよな、という爆弾はそっとしまっておく。
さて、そろそろ俺たちがどこで何をしているのかの説明をしよう。
今日は12月31日、母が帰省してくる日だ。
場所は鬼道島港。
母さんを乗せた船が現れるのを待っている。
本当は俺と桜花姉だけで迎え入れるはずだったが
「「お義母さんに会わせて」」
「未来の親戚に挨拶する必要がある」
ということで、みんなでこうして集まっているわけだ。
ちなみにしおりんの車椅子は俺が押している。
本人たっての希望だ。
手術が成功したと言っても、今まで車椅子生活だったんだ。リハビリは始まったばかりで、まだまだ1人では歩けない。
ちなみに島田さんは、この島を去っていた。
理由は、しおりんのことでしばらく大変だろうからと、気を使わせてしまった。
桜花姉は一応島田さんから名刺を貰っていた。
蕾さんは島田さんが「ヒナコ」の監督と知るやいなやサインを貰っていた。
「ネッ友に自慢しよー」
と頬を緩めてヒナコのフィギュアと共に、写真を撮影しSNSにアップしていた。
しかし、この写真がバズり、この島にオタクがゾンビのように群がる光景を目にするのはまたあとの話し。
ブオオオオオオオオオオオオ!!!
しばらくすると、1隻の船が煙突から煙を吹き出し、エンジン音と共に近づいてきた。
「鬼道島へ到着しました」
アナウンスが流れる。
乗客が次々降りていく中、待ち人が現る。
ガラガラ。
真っ黒のキャリーケースを引いてその人は俺の姿を見つけるや手をブンブンと振る。
「愛しの我が子よー!」
「頼むからその呼びかたやめてくれ」
近づいてき来る我が母。
ボブカットに紺のアウターを腕に引っ掛けて、薄い水色のトレーナー。下半身はピンクのスエットだ。随分派手である。
「にしたって随分大所帯だねぇ」
「君は……もしかして紫音ちゃん?」
最初に目をつけたのは、車椅子に座っていたしおりんだった。俺が引いていたので気になったのだろう。
「覚えて頂いて光栄です」
ぺこり。
頭を下げる。
「いやぁだって、このバカ息子があなたに会うためにだけに、意味もなく病院に通ってたからね。具合の調子はどう?」
「実は手術大成功して今は、自分の足で歩けるようにリハビリ中です」
「え!?心臓病良くなったの!?」
「おかげさまで」
驚いて左手で口元を抑える母。
「そう良かったわねぇ。ええっとこちらの黒髪のあなたは?」
「は、初めまして、まま守君とお付き合いさせて頂いてる、さささ咲倉蕾です」
ガッチガチに緊張してる蕾さん。
「お付き合い!?このバカと!?」
空いた口が塞がらない。
ちなみに恋人役とは美咲先生は知らない。
後で母さんに説明せねば。
「というか、咲倉さんってお隣よね?」
「は、はい!」
「両親は?」
「えっとぉ……」
言葉に詰まる。
「あたいらの両親は島を離れたままです」
「「ら」ってことはあなたはこの子の身内?」
「はい。咲倉美咲です」
「あの小さい子がこんなに大きくなって……」
しみじみと昔を懐かしむような声音だ。
「あたいを知っているんですか?」
「そりゃそうよ!私はあなたの父親の幼なじみよ?あなたの小さい頃はよく知ってるわ」
「ということはあたいらの両親は……!?」
「まだ逃亡中。早く見つかって欲しいわ。罪滅ぼしさせないと」
「そうですか、ありがとうございます」
美咲先生が頭を下げる。
「そ・し・て!もしかしてもしかするとあなた桜花ちゃん!?」
「はい!伯母さんご無沙汰してます」
栗色の前髪を指で流しながら、挨拶する桜花姉。
「大きくなったわねぇ!」
わしゃわしゃと豪快にくせっ毛の髪を撫でる。
「えへへ、ありがとうございます」
照れながらお礼を言う桜花姉。
「さて!それじゃあ、うちに行きましょうか!」
「「「「「はーい!」」」」」
「この島は変わらないわねぇ」
桜並木の住宅街をガラガラとキャリーケースを引きながら母がこぼす。
桜が舞う。もう今年も終わるのに、不思議な光景だ。
「この中で鬼のこと信じてる人っている?」
桜花姉としおりんが挙手。
蕾さんと美咲先生は我関せずといった感じだ。
「咲倉姉妹はわかるけど、なんであんたは手ぇあげないのよ?」
ずいっと目を吊り上げて顔を近づける。
フローラルの香りが鼻を通る。
「いや、だって実感無いし」
「まったく……。いいわ。私は紫音ちゃんが信じてることに驚きだわ」
「けっけっk……おっと」
ゴホンと咳払いして続ける。
「信じてるというか実在してたら面白いですね。ということです」
「素で接していいわよー。実在してたら面白いってどういう意味かしら?」
「わかりました」
「わかってないわよ」
笑いならがしおりんの髪をわしゃわしゃと乱す。
「僕、オカルト好きなんですよね。UMAとかパラレルワールドとか怪談話とか」
「へぇ、いいわねぇ」
「でも、半分は信じてます」
「半分だけ?」
「だって桜が一年中咲いてるのは分かりますが、コスモスまで年がら年中咲いてるっておかしくないですか?」
「紫音ちゃんあの場所知ってるの!?」
母は、本日何度目かの驚いて手元で口を覆う。
「はい。だってあそこで、まもっちと婚約しましたし」
「ちょっとまもっち」
俺を睨む母。
「ナンデショウカ?」
「蕾ちゃんと付き合ってて紫音ちゃんと婚約ってどういうことかしら〜?」
ニコニコと笑みを浮かべながらギギギと俺の肩を強く握る。
「いや、蕾さんとはお隣で、たまたま着替え中を覗いてしまったのがきっかけですし、しおりんは子供の頃の約束ですし……」
「「ちょっと待て。着替えを覗いたってどういうことだ?」」
美咲先生と母が同時に問う。
やべ、墓穴掘った。
ダラダラと冷や汗をかく。
「いや、あれっすよ」
俺は初日に起きたことを説明した。
「我が妹よ」
「な、何?お姉ちゃん」
「なんで着替えを見られて一目惚れした?」
もっともな質問だ。
「顔が好みだし、なんとなく優しそうなオーラが」
「我が妹よ」
「な、何?」
たじろぐ蕾さん。
「男を顔だけで判断するな」
うんうん。俺以外みんな頷く。
「まぁ、そこそこイケメンなのは認めるけどねぇ」
母が呟く。
「でも、婚約者がいて普通付き合う?」
真理だ。
「だからあれは子供の頃の……」
「そんな軽いノリだったの……!?」
わざとらしく泣き真似をするしおりん。
「まもりん降参。全部話そ?」
ぐぐぐ……。桜花姉が白旗をあげた。
「蕾さんもいいよね?」
「ここまで来たら、守くん可哀想だし……」
経緯説明開始。
「ふーん、あたいから逃げて仮の恋人と駆け落ちか」
「…………」
咲倉姉妹の間で重たい空気が流れる。
「別に構わんぞ」
「……えっ!?」
意外な返答だった。
蕾さん含む全員の視線が美咲先生に集中する。
「だが、この島を出てどうする?」
「えっと……しばらくは守くんのおうちでお世話に」
「ダメだ」
一閃。バサッと刀の試し斬りのごとく、言葉の刃が振るわれた。
「そうだねぇ……。ただ美咲ちゃんから逃げたいって理由だけで、うちには置けないかな」
母が美咲先生に同調する。
「わ、私一通りの家事はできますので、お2人の助けになるかと……!」
「蕾ちゃん」
母の鋭い刃。
「ただ家事が出来ればいいってことじゃないの。明確な目的がない子の面倒を見る道理はないわ」
「それは可哀想じゃ……」
「ガキは黙ってろ」
俺がどうにか援護しようとしたが、美咲先生に阻まれた。
「蕾、お前があたいのことを迷惑がってたことは知っていた。そして、希導家の皆さんに迷惑をかけていたことも申し訳なく思っていた。だから理由はどうあれ、島を出ること自体は反対しない」
「だったら……!」
「問題は、明確な未来への希望がないことだ」
「……………………」
「希導さんがたとえokしても、その後どうする?守たちの家事手伝いをするだけか?こいつとの恋人も所詮あたいを騙すだけの種だろう?」
「でも、私が守くんに一目惚れしたのは事実だし」
「教え子」
静かに俺を呼ぶ美咲先生。
「はい」
「お前の気持ちは?」
「蕾さんは正直とても魅力的だと思います。けど、今の俺の心は揺れ動いています」
「というと?」
「蕾さんの好意はすごく嬉しいです。けど、しおりんがこうして病気に打ち勝って、幼いながらも婚約したことも事実です。俺は今、2人のうちのどちらを選ぶか非常に悩んでいます」
つい本音をこぼしてしまった。
「ってことねぇ。このバカが蕾ちゃんのことを真剣に考えてたら、ワンチャン考えたけど、まだ答えを出せてない中途半端な気持ちの相手と一緒にいても苦しいだけよ?」
母が腕を組みとどめを刺す。
「……………………」
全体の空気が重くなる。
「みんな知らないっ」
ダッダッダッダッダ!
耐えきれなくなった蕾さんがダッシュでこの場から去っていく。
「蕾さn」
黒煙色の女の子を追いかけようと、足に力を込める。
「待て教え子」
それを美咲先生が阻む。
「なんですか!」
「今追ってどうする?答えは保留ということだが、お前はあいつを傷つけたんだぞ。あいつはお前に縋っていた。それが裏切られたんだ。心の整理が着くまで放置する。これも大事な事だ」
「けど……!」
「私は美咲ちゃんに同意ねぇ」
「正直僕も」
「あたしも」
俺以外全員の意見が一致していた。
俺はそれに反論できず、歯がゆくて悔しかった。
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