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ねむ
「この遺書だけどさ……文字自体はバルカム司祭が書いたものなんだよね?」
ルイスさんの質問に、レオンとセドリックさんはふたり揃って頷いた。司祭が過去に作成した書類やサイン等と照らし合わせて検証した結果、文字の癖や特徴が一致しており間違いないそうだ。
「そっか。どうせならもっと具体的なこと書いて欲しかったよね。犯した罪ってのも漠然としててよく分かんないしさ。死ぬ間際の人間が残したものにダメ出しするのもアレだけど……」
「家族や親しい者へ向けた言葉は無し。あるのは女神に対しての懺悔のみ……殿下の仰る通り、不自然な印象を受けますね」
「そうは言っても、これから自殺をするという人間の精神状態がまともであるはずがないからな。行動や言動に整合性を求めるのも酷ではないか?」
司祭の遺書について考察が始まってしまった。私もどことなく文章に違和感を覚えているけど、セドリックさんやルイスさんの言うことも分かるのだ。なんせ極限まで追い詰められた状況で残されたもの。第三者から見て、理解するのが難しい言葉や表現があってもおかしくはない。
様々な意見が交錯する中、ルーイ様が動いた。彼は問題の封筒を右手に、文字が書かれた紙を左手へと持ち変える。ルーイ様の紫色の瞳が細まった。見た目は特に変わったところもない普通の手紙に見えるが、ルーイ様はふたつを見比べて何かに気付いたみたいだ。
「なるほど……そういうことか……」
「先生、どうかしましたか?」
「うん。この遺書の正体が大体分かったよ。もし俺の考え通りなら……バルカム司祭は自殺ではなく、他殺の可能性がより高くなる」
ルーイ様の言葉に私たちは驚きを隠せない。彼は封筒と便箋を交互に眺めていただけに見えた。たったあれだけで、この遺書の秘密が分かったというのか。
「レオン、今すぐ調べて貰いたいことがあるんだけど……」
ルーイ様はレオンの側まで移動すると、彼に耳打ちをした。内容を聞いたレオンは驚愕の表情を浮かべ、ソファから立ち上がる。そして、私たちへの対応もそこそこに部屋から出て行ってしまった。
あまりにも唐突な展開。私は口を挟むこともままならず、ふたりのやり取りを見守るしか出来なかった。皆が呆然とする中、最初に口を開いたのはセドリックさんだった。
「先生、レオン様に何をお伝えになったんですか?」
「言ったでしょ、調べて欲しいことがあるって。レオンは警備隊に指示を出したら戻ってくるよ。結果もすぐに分かるだろう」
ルーイ様の言う通り、レオンは10分程度で部屋に戻ってきた。ルーイ様からお願いされた調べものに関する指示を出していたそうだ。結果が出るのに最低でも一日はかかるらしく、私たちは一旦解散することになる。
ルーイ様は遺書を見て何に気付いたのだろう。非常に気になるけど、詳細の説明は明日以降に持ち越されることになった。
――――2日後。
バルカム司祭の訃報はリアン大聖堂にも知らされた。死因が病気や事故でもない自殺ということで、聖堂内は騒ぎになっているらしい。
ルーイ様とレオンの見解だと、まだ自殺とは断定できないという話だったはずだが……最初の一報から情報が更新されずに噂が一人歩きしているみたいだ。ますます事件の解決が急がれる。
バルカム司祭がこのような形で発見されたことで、相変わらず行方知れずになったままのニコラさんの安否が懸念されている。まさか彼女も……なんて嫌でも想像してしまう。
「正直なところ、ここまで探して見つからないとなると……既に亡くなっている可能性も視野にいれなければならない段階でしょうね」
「ニコラ・イーストンの罪状はほぼ明らかになっているからね。捕まれば間違いなく死罪。どうせ殺されるならと自暴自棄になって……てのは十分あり得る話だよ」
バルカム司祭よりよっぽど自害していてもおかしくない状況だと、クラヴェル兄弟は語る。どんな理由があれど私を殺そうとしたのだ。関係ない人たちまで巻き込んで……決して許されることではない。
同情なんてしてはいけない。分かってる。それでも……ニコラさんの事を考えると、胸のあたりを締め付けるような痛みが走るのだった。
「司祭の死の真相はニコラさんの行方にも紐付いていくと思うよ。結局どちらも背後に『予言者』がいるのは明白だからね」
「ルーイ様……」
やはりルーイ様は司祭が亡くなったのは自殺ではないと考えている。そして、やはりここでも『予言者』が関与しているのだと――――
バルカム司祭の死について……レオンたちから説明を受けた日から2日が経過した。ルーイ様がレオンに頼んだ調べ物の結果も出たらしい。私たちはその結果を聞くために再び集まった。今回場所はレオンの部屋ではなく、応接室になった。話し合いをするなら客室よりも広い場所がいいという理由からだった。メンバーに関しては前回と同じである。
「みんな、待たせてすまない」
「レオン。遅かったな、待ちくたびれちゃったよ」
一番最後に応接室に来たのはレオンとセドリックさん……そして――――
「申し訳ありません。私が準備するのに手間取ってしまったせいで……」
「フェリスさん!!」
召集をかけた張本人であるレオンがなかなか現れないので不思議に思っていたが、二番隊のフェリスさんが屋敷に到着するのを待っていたからだった。
「シャロンさんが来たってことは……俺の推理は当たっていたってことかな?」
ルーイ様は思わずといった風に口角を上げた。そんな彼に対して、レオンは眉をひそめて溜息を吐いた。
「はい。先生の仰る通りでした。今から説明致します。みんなも聞いてくれ」
2日前にルーイ様とレオンの間でされた会話の全貌が明らかになる。私は姿勢を正し、レオンの言葉に意識を集中させた。
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