ー揺れるまなざしー
神谷「ただの……演技だろ」
自宅のリビング、静かな部屋に響いたその独り言に、神谷は自分で苦笑した。
いつもなら、こういうシーンは酒でも飲んで気を紛らわせるけれど、今日は手が伸びなかった。
頭にこびりついて離れない。
あのセリフと、自由の“目”。
『それ、演技じゃなかったら困ります?』
あんなの、軽口だ。自由の悪い癖。
人懐っこくて、でもときどき妙に距離を詰めてくる。
ただ、それがいつもより“男の顔”をしていた気がして……神谷は自分に腹が立った。
神谷(後輩の、ただの冗談に……俺は何を動揺してんだ)
年下に翻弄されてどうする。俺は先輩だろ。
それに、男同士だ。相手は入野自由――あんなにキャリアもあって、ルックスも良くて、人気もあるやつだ。
わざわざ俺みたいなオッサンに構う理由なんか、あるわけない。
ソファに深く沈みながら、神谷は目を閉じた。
まぶたの裏に浮かぶのは、笑いながらもまっすぐ見つめてきた自由の目。
神谷(……ずるいよ、お前)
その目は、まるで「全部知ってるよ」と言わんばかりだった。
翌日。事務所での打ち合わせの合間。
スタッフに呼ばれて待合室へ向かうと、先に来ていた自由が、紙コップのコーヒーを片手に座っていた。
入野「神谷さん、こっちこっち。ここの椅子、柔らかいっすよ」
神谷「お前な……俺は年寄りか」
入野「違うんですか?」
神谷「……殴るぞ」
そんな会話を交わしながらも、神谷の心は落ち着かなかった。
昨日の“あの言葉”が、頭の片隅から消えてくれない。
隣に腰を下ろした瞬間、自由がふっと呟いた。
入野「……神谷さん、顔、赤いですよ」
神谷「なっ……! そりゃ暑いからだ」
入野「そっか、俺のせいかと思いました」
神谷はぐっと言葉に詰まった。
自由は、真顔だった。
“また軽口か”と片付けられない。
そのまなざしに、どこか切実な色が混じっているように感じて――
神谷は思わず、視線を逸らした。
そして自由は確信犯的に、少しずつ本気を滲ませながら神谷を追い詰めていく――という展開にもできます。
次は、自由視点で「神谷を好きだと気づいたきっかけ」や、「今の想い」を掘り下げてみましょうか?それともこのまま神谷視点で続けます?
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