第13話 【憑依霊真の力】 竜之介編 ― 武田信玄 川中島の戦い ―大嶽丸との死闘を終えた竜之介たち。
夜明けとともに戦場には静寂が戻ったが、
その地にはなお妖気の残滓が漂っていた。
竜之介は肩で息をしながら、刀を鞘に納める。
晃平は地面に座り込み、疲れ果てたように息をついた。
晃平
「はぁ……これでやっと、一息つけるか……?」
しかし、千姫は険しい顔をしていた。
千姫
「でも、まだ四天王が三人も残ってるのよ。
ここで立ち止まってる場合じゃ——」
そのとき、修道がゆっくりと口を開いた。
修道
「いや、今は休むべきだ。」
その言葉に、一同が修道を見つめる。
修道
「到底、今回の戦いの後に無理をして戦っても
勝てる相手ではない。
お前たちの傷も癒えねばならぬし
戦略を練る時間も必要だ。」
竜之介も頷く。
竜之介
「確かに、今は体力を回復させるのが先か……
でも、どこで休めばいい?」
修道は穏やかに微笑み、そっと杖を突いた。
修道
「それについては、大天狗の庵がいいだろう。」
晃平
「大天狗の庵!」
修道
「実は大天狗殿に呼ばれておる。
それに、あそこは霊気に満ちた場所。
体力を回復させるには最適だし、何より安全だ。」
蓮司が腕を組みながら頷く。
蓮司「確かに、それなら
四天王の連中に奇襲される心配も少なそうだな。」
⸻
修道に導かれ、竜之介たちは高尾山にある
大天狗の庵へと向かった。
そこは霊気に満ちた静かな場所で、
周囲には大樹が立ち並び、清らかな川が流れている。
庵の中には、大天狗が待っていた。
彼は静かに竜之介たちを見つめると、
ゆっくりと頷いた。
大天狗
「おお、お前たち来たか。
傷はどうじゃ?」
千姫
「少し休めば、なんとか……」
大天狗は扇を軽く動かし、
庵の中に霊気を巡らせる。
大天狗
「ここでしばし休むがいい。
そして、次なる戦いに備えよ。」
竜之介は少し息をついた後、真剣な表情で尋ねた。
竜之介
「それで、大天狗。
俺たちは次に何をすればいい?」
大天狗は静かに目を閉じ、
少し考えた後、こう言った。
大天狗
「人間界に潜む、ある妖怪に会え。
善妖怪の長・ぬらりひょんだ。」
晃平が驚いたように眉を上げる。
晃平「ぬらりひょん?
あの昼間に人間の家に忍び込むっていう妖怪の?」
大天狗は静かに微笑んだ。
大天狗
「確かにそういう話もあるが、
彼は善妖怪たちの長でもある。
彼がおまえ達と話しがしたいそうじゃ。
仮に彼らと手を組めれば、お前たちの戦いは
新たな局面を迎えることになるだろう。」
蓮司が腕を組む。
蓮司
「妖怪と手を組む、か……。」
千姫も少し考え込んだ後、頷いた。
千姫「でも、本当に信用できるのかしら?」
大天狗
「それはお前たちが決めることだ。
だが、これからは妖怪四大天たちは
総力をかけて攻撃してくる。
お前たちだけでは、他勢に無勢じゃ。
ぬらりひょんは間違いなく、
この戦いにおいて重要な鍵を握っている。」
竜之介
「そうか…そうだよな…よし!
行ってみよう!」
大天狗
「ぬらりひょんは京都に住んでおる。
お前たちは今傷を負ってるので
わしらの移動で使ってる馬車を貸してやる!
こやつは、疾風御者(しっぷうぎょしゃ)
風の精霊が操る透明な馬車じゃ、風と一体化し、
瞬時に目的地へ到達できる。
風に乗るので、障害物を無視して移動可能じゃ」
竜之介
「やった!助かる!
正直、京都って聞いて遠いいなって
気が遠くなったよ…」
大天狗の言葉を受け、竜之介たちは
京都の外れにある霧に包まれた町並みへと
足を踏み入れた。
道中、晃平がぼそっと呟く。
晃平
「ぬらりひょんねぇ……なんか
掴みどころのない妖怪って感じがするな。」
千姫も慎重な表情を崩さない。
千姫
「そうね…でも、大天狗が
わざわざ紹介するってことは、
それだけの理由があるってことよ。」
霧の奥に現れたのは、
静かな佇まいの古びた屋敷だった。
門をくぐると、静寂に包まれた日本庭園が広がっている。
竜之介が慎重に屋敷の奥へと進むと、
そこには和室に座る一人の男の姿があった。
ぬらりひょん——善妖怪を束ねる長。
落ち着いた佇まい、涼しげな笑み。
手には茶碗を持ち、まるで客人を迎えるかのように
彼らを見つめていた。
ぬらりひょん
「おお、来たか。」
ぬらりひょんは静かに茶をすすり、穏やかに語る。
ぬらりひょん
「お前たちが人間界を守る為に妖怪と
戦っていることは聞いている。」
彼はゆっくりと茶碗を置き、扇を軽く広げた。
ぬらりひょん
「悪妖怪どもが好き勝手暴れたせいで、
我々善妖怪も住みにくくなった。
本来、人間と共存してきた妖怪たちが、
悪く思われ
今では隠れて生きるしかない。
このままでは、我らは
歴史の闇に埋もれてしまうだろう。」
竜之介は目を細める。
竜之介「それで……俺たちにどうしろって?」
ぬらりひょん
「わしらも悪妖怪と戦う決意を決めたんじゃ…
が、わしらだけでは戦力が足りぬ。
わしらだけでは到底、四天王たちに抗うことはできん。
そこで、お前たち人間と手を組みたい。」
そして、ぬらりひょんはさらなる提案を持ちかける。
ぬらりひょん
「更に、一つ提案がある。
お前たちの憑依している武将たちは
どうやら皆、生前の無念に囚われ、
本来の力が発揮出来ておらんみたいじゃ。
そこで、武将たち個々の無念の地に向かい、
過去に遡り無念を晴らせば、
本来の力が発揮出来るであろう!
お前たちは**時を操る妖怪・時戻し(ときもどし)**
の力を借り力を解放してくるのじゃ。」
千姫
「妖怪って過去にも戻れるの?凄い…」
晃平
「過去に戻る…てことは、
戦国時代に行くと言うことか…」
竜之介
「命がけ…だな…」
こうして竜之介たちは、新たなる試練へと
向かうこととなった——。
時戻しは静かに竜之介たちを見据え、こう言う。
時戻し
「おう!人間たち!俺は時戻し!
よろしくな!
お前たちが宿す武将霊は、
未だ“無念”を晴らしていない。
その無念を乗り越えねば、彼らの真の力は目覚めん…
しかし、本来、人間には時戻しは使わないんだよ…
ま、ぬらりひょんに言われたら仕方ないんだけど…」
千姫
「嫌なの?」
時戻し
「え…嫌じゃないんだけど、この力疲れるんだよね…
ま、今回はこんな事情だから仕方ない…」
千姫
「なんか、生意気ね!」
時戻し
「ふん…」
彼の力を使えば、
過去の戦国時代へと遡ることができる。
しかし、強力な力が必要な為、
遡れるのはたえず一人のみ。
更に3兄妹が行うのは、単なる過去視ではない。
「時の狭間に入り、武将霊の宿命を体験し、
彼らの無念を晴らす」ことが試練となる。
行き先は、かつて名将たちが戦った歴史の舞台。
彼らの最後の戦いや未完の想いを知り
受け入れ、乗り越えなければならない。
「八幡村(やわたむら)の藪知らず」——そこは、
時戻しの力を増幅し、過去へ導く禁忌の地だった。
時戻し
「時の狭間を越え、真実を知り、己を高めよだってさ!」
こうして竜之介たちは、一人ずつ過去の戦国時代へと旅立つことになる……。
時戻し
「さあ、最初は竜之介だね!
憑依している武将は武田信玄
竜之介、信玄に無念を聞いてみて!」
竜之介
「わかった!
今憑依する…」
武田信玄
「竜之介、この時を待っていたぞ…我の無念は…
宿敵、上杉謙信との決着じゃ…おお、無念無念じゃ。
川中島の戦いにて4度合戦を交えても決着がつかなんだ…我はその後、病に倒れて遂に再戦出来ず決着が
つかなんだ…次こそは…次こそは謙信を打ち取れたはず…
決着を…川中島にて決着をつけようぞ!」
時戻し
「川中島の戦いか…よし!竜之介
川中島の戦いまで時を戻すから
上杉謙信と戦って武田信玄の無念を
晴らしてこい!行くぞ…」
竜之介
「わかった!
上杉謙信…最強の武将と言われた男…
行くぞ!うおおお!!」
時戻しの力によって、竜之介の身体は淡い光に包まれ、時の狭間へと落ちていく——。
気がつけばそこは、霧深い平原。
遠くで軍鼓(ぐんこ)の音が鳴り響き、
空には重々しい雲が垂れ込めていた。
ここは、1561年 川中島。第四次合戦の決戦前夜。
しかし、これは「本来の歴史」ではない。
これは信玄の無念が作り出した「もう一つの川中島」。
“決着のつく川中島” である。
戦場・武田本陣
竜之介(=信玄)は、甲冑をまとい、軍議の席に座っていた。
目の前には、山本勘助や高坂昌信、そして武田四天王たちが揃う。
信玄(竜之介)
「おおおお!!遂に!遂に!
今度こそ…決着をつける。
上杉謙信との因縁を、ここで断つ。」
軍議が終わると、信玄は一人天幕の外へ出た。
そこには、すでに彼を待つ影がいた。
上杉謙信——白銀の鎧に身を包み、静かに剣を構えている。
謙信
「信玄……今度こそ、終わらせよう。我らの因縁を。」
信玄(竜之介)
「ああ……お前との戦い、それが我の宿命だったのだろう。」
——そして、戦が始まる。
剣と剣がぶつかり合うたび、大地が震え、風が巻き上がる。
ギィィン!!
信玄の太刀を、謙信が受け止める。火花が散る。
二人は互いの呼吸を読み、技と技、意思と意思をぶつけ合う。
謙信
「お前のような男がいるから、戦は終わらぬ!」
信玄
「違う……!終わらせるために戦うのだ!!」
流れが変わる。
謙信の動きが、次第に鋭さを増していく。
風すら裂く剣速、神懸かりのような気迫。
信玄は防戦一方となり、肩口を斬られ、膝をつく。
信玄(竜之介)
(……くそっ、速い……!このままでは……)
謙信
「終わりだ、信玄!!」
謙信が一気に踏み込み、全力の斬撃を放つ——その瞬間。
信玄の目が細く光る。
——“見えた”。
謙信の全てを賭けたその一撃。
それはまさに“勝利を確信した者”だけが見せる一瞬の隙。
信玄(竜之介)
「今だ……!!」
信玄は自ら倒れるようにして回避、
すぐさま体勢を立て直すと、
地を蹴って、渾身の太刀を振り上げた。
ザシュッ!!!
謙信の肩に一撃が深く入る。
その刹那、時間が止まったように静寂が訪れた。
謙信は、驚いた表情を浮かべる。そして、静かに微笑む。
謙信
「……見事だ、信玄。
己が敗北の“機”を、読み切るとは……
まさに、風林火山の極みよ。」
信玄(竜之介)
「お前との戦いがあったからこそ、
我はここまで来れたのだ……」
謙信はゆっくりと膝をつき、空を見上げる。
謙信
「これで……我らの因縁も終わったな……」
信玄
「ああ……終わった。」
雲が割れ、陽光が差し込む中、
二人を包む霧がゆっくりと消えていく。
謙信は地に膝をつきながらも、満ち足りた笑みを浮かべ、ゆっくりと霧の中へ消えていった。
信玄(竜之介)は、その場にしばらく立ち尽くしていた。
肩で息をしながら、ふと天を見上げる。
信玄(竜之介)
「これで……終わったんだな。」
その瞬間、彼の中から静かにもう一つの意識——武田信玄の魂が姿を現す。
戦装束の信玄が、穏やかな眼差しで竜之介を見つめていた。
武田信玄
「見事であった、竜之介。
我が長年抱き続けた無念、お前が晴らしてくれた。
もはや、思い残すことはない。」
竜之介
「信玄…
もし、少しでも力になれたのなら、それでいい。」
信玄は微笑み、腰に差していた刀をゆっくりと抜いた。
それは、鋭く美しい一振り。
柄に施された金の龍、刃文は雷のように走る波紋。
信玄
「これは、我が長きにわたり共に戦った刀——
虎徹(こてつ)。
戦場で幾度も我を救い、共に勝利を手にしてきた。」
彼は、虎徹の刃を静かに竜之介の前に差し出す。
信玄
「今、この刀を……お前に託したい。
これはもはや、武田信玄のものではない。
新たな時代を生きる、お前の刃となれ。」
竜之介は、思わず目を見開く。
竜之介
「……俺が、この刀を……?」
信玄
「この刀には、我がすべてを刻んだ。
お前ならば扱える。
風林火山の魂を受け継ぐに、最もふさわしい男よ。」
竜之介は、両手でその刀を丁寧に受け取った。
ずしりとした重みの中に、信玄の“想い”が感じられる。
魂の芯にまで届くような、力と温もり。
竜之介
「……ありがとう、信玄。
この虎徹、必ず……俺の命を懸けて振るう。」
信玄は深く頷き、霧の中へと静かに溶けていった。
信玄
「竜之介。風となり、山を動かせ。
——その刃に、天下の風を宿せ。
さすれば、真の力を発揮しようぞ。」
次の瞬間、時戻しの扉が目の前に現れ
静かに開く。
時戻しの光に包まれた竜之介は、ふたたび現代へと引き戻される。
霊気の流れる庵の一角、突如として風が巻き起こり、
空間が揺れる。
バシュウッ!!
眩い閃光の中から、竜之介が姿を現す。
千姫
「竜之介!!」
晃平
「戻ったか!?……無事か!?」
竜之介は、息を整えながらゆっくりと立ち上がる。
その背中には、信玄の魂を継いだ虎徹が収まっていた。
竜之介
「ああ……ただいま。
信玄の無念、俺が終わらせてきた。
そして……これを託された。」
彼は背中の虎徹を静かに抜き、皆に見せる。
鋭く輝く刃、そこに刻まれた金の龍は、
まるで魂を持つかのように揺らめいていた。
大天狗
「……その刀は。まさか……」
時戻し
「うん、信玄の愛刀・虎徹。
見事に無念を晴らした証さ。魂の継承、
完了ってこと。」
蓮司
「……信玄が、認めたってことか。お前を。」
晃平
「すげぇな、竜之介……やっぱ、
お前は俺たちの大将だ!」
千姫は少しほほ笑みながら、歩み寄って竜之介を見つめる。
千姫
「おかえり。……きっと、信玄も安心してるわ。」
竜之介は静かに頷く。
竜之介
「でも、これでようやく入り口に
立てたってだけだ。
俺たちの戦いは、ここから本番だ。」
時戻し
「ま、その通り。四天王はまだ三人残ってるしね。
無念を背負った武将も、あと二人いる。」
大天狗
「そして、次に時を渡るのは
…千姫、君だ。」
一同が千姫を見る。
千姫は一瞬驚いたように眉を上げるが、
すぐに表情を引き締める。
千姫
「……わかってるわ。」
竜之介
「大丈夫か?」
千姫はうっすら微笑み、力強く頷いた。
千姫
「ええ。私も、自分に宿る信長の想い、
ちゃんと受け止めたいの。」
時戻し
「よ〜し、それじゃあ千姫ちゃん。
キミの中にいる信長の霊に、聞いてみて。
どんな無念を抱えてるか、ね。」
千姫は静かに目を閉じる。
その身に信長の霊を憑依する。
意識の奥底へと、ゆっくりと沈み込んでいく——
霊気が身体を包み、その奥から確かな“声”が響いてくる。
——燃えるような情熱。
——烈火の如く貫いた意志。
——誰よりも時代を駆け抜け、誰よりも孤独だった魂。
信長
「我が名は、織田信長。
天下布武を掲げ、戦国の常識を焼き払いし者……
されど、我が最期は謀反の火に包まれ、
無念と共に果てた……
千姫よ……我が無念を、晴らしてくれるか……?」
千姫のまつげがわずかに震え、瞳がゆっくりと開かれる。
千姫
「信長……あなたの炎、受け止める。
その果てなき“夢”、私が見届ける……!」
——空気が張りつめる。
——再び、時戻しの風が唸りを上げる。
時戻し
「さあ、次の“時の狭間”が開くよ。
舞台は……本能寺。炎の中、信長の最後の夜だ!」
次なる旅路へと、時が動き出す。
運命の炎に包まれたその過去で、千姫が見る真実とは……?
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