仕事が終わるまでに、京香のLINEを削除して念のためブロックしておく。
佐々木とのやり取りも、見られたくないところは削除する。
「あ、グループLINEはどうしよう?」
抜けるのも変に思われるだろうし。
最近は誰も何も書き込まないので、それはそのままにしておいた。
_____京香もグループLINEには何もしないだろうし
紗枝とは何も連絡をしていなかったから、こんなことに気をつかわなくてもよかったのにと比べてしまう。
紗枝は大人の女だということか。
いつもより早い時間に家に帰れたのに、気が重い。
「ただいま」
ドアを開けたら、いつもより賑やかな声がした。
「お帰りなさい、雅史さん。お邪魔してますよ」
圭太と一緒に俺を迎えてくれたのは、杏奈のお母さんだった。
「え、あ、いらしてたんですか?」
_____もしかして、浮気のことで杏奈が自分の親を呼んだのか?
「突然ごめんなさいね。杏奈と話したいことがあってね。明後日土曜日の朝には帰るから」
「杏奈とですか?」
_____やはり俺の浮気のことか?
「ちゃんとしたら、雅史さんにも話すわね」
その言い方から、俺のことではないと確信してホッとする。
「お帰りなさい、ご飯できてるから、先にお風呂入って」
奥から杏奈が出てきた。
「あー、わかった。圭太も入れようか?」
ここで点数を稼いでおくために、圭太のお風呂を申し出る。
「ありがとう、お願いね」
義母がいたのには驚いたけれど、おかげで杏奈との距離を取れると思った。
「おとーたん、パシャパシャする」
圭太が水鉄砲を出してきた。
「ん?いいぞ、お湯を入れるから貸してみろ」
水鉄砲を俺に向けて発射しながら、キャハハハと大笑いする圭太。
やっぱり子どもは可愛いと、あらためて実感した。
_____なんとしても、浮気は認めない
俺は大切な家庭を壊す気なんてないんだと、杏奈にキッパリと言うことにした。
圭太や義母のおかげで、杏奈と二人きりになる隙がなくて助かった。
あとは土曜日の、『証人喚問』を乗り切ればいいだけだ。
_____それにしても、杏奈のお義母さんは何を話しに来たんだろう?
まぁ、いつにもまして元気で、楽しそうにしていたからいい話だったのだと思った。
◇◇◇◇◇
土曜日の朝、義母は早くに帰って行ったようだが、俺はギリギリまで寝て過ごすことにした。
佐々木たちが来る前に、杏奈に問い詰められると厄介な気がしたから。
寝たふりをしながらゴロゴロして、枕元のスマホを見たら正午になっていた。
_____起きるとするか
「あー、よく寝たわ」
欠伸をしながらリビングに行く。
できるだけいつも通りに振る舞う。
圭太と杏奈はオムライスを食べている。
「何か食べるなら作るけど?」
杏奈の言い方がいつもより冷たく聞こえるのは気のせいだろうか?
「あー、いや、コーヒーだけくれ」
「わかった、その前に着替えて顔洗ってきたら?もうすぐ佐々木さんたちが来るころよ」
「はぁ」
そんなこと言われなくてもわかってる、と言いたいところだが今は堪えた。
着ていたスウェットを洗濯カゴに入れ、顔を洗って髭を剃り、普段着に着替えた。
リビングに戻ると、圭太はソファで寝てしまっていた。
「ベッドに連れて行くね」
杏奈が圭太を抱え上げようとしたのを、止める。
「移すのはかわいそうだから、ここに寝かせとけよ」
圭太がいた方が、ややこしい話になった時に誤魔化しがきく。
「は?無理でしょ?大人のややこしい話ができなくなるし、修羅場になるかもしれないのに、圭太にそんなところ見せられないよ」
「修羅場って……」
_____まさか、そんなことにはならないだろう?
ハッキリとした浮気の証拠があるわけじゃなし、紗枝の香水の時は女の子がいる店に飲みに行ったことにして、京香の時は酔っ払って帰るのが遅くなった、ただそのことを説明するだけなのに。
頭の中であれこれ考えていたら、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
佐々木夫婦がやってきたようだ。
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