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取り敢えず身なりを整えた私達は、フェルの転移魔法でそのまま異星人対策室へと飛んだ。
転移した先に物や人が居たら大変なことになるから、事前に転移先をビルにある私の部屋にしている。これは予めジョンさんにも許可を得ており、万が一の事故を防ぐため立ち入りを固く禁じられている。
無事に転移を済ませた私達はそのまま4階の執務室へ向かった。そこにはジョンさんと朝霧さんが居た。
「ティナ!調子はどうかな?大丈夫かね?」
心配そうなジョンさんが駆け寄ってきた。また心配かけちゃったね。
「はい、お陰さまで。ジョンさん、またご迷惑をおかけしてごめんなさい」
「いや、君が謝る必要ないよ。むしろ私達は感謝しなければいけない。ありがとう、ティナ。君の活躍で、尊い命が救われた。まあ、色々あったが人命に勝るものは無いよ」
「ジョンさん……」
「あの親子についても、安心してください。母親は一命を取り留めました、
女の子も軽い怪我で済んでいますよ」
朝霧さんが経過を教えてくれた。良かった、無駄にはならなかったみたいだ。
「じゃあ、お見舞いに行きたいので場所を教えてください」
アリアが調べた方が早いだろうけどね。
……あれ?ジョンさんと朝霧さんが困ったような顔をしてる。またなにか失敗した?
「あー、病院へ行くのは止めておかないか?私から君の言葉を伝えよう」
「出来れば避けた方が良いでしょう」
んー?隣に立つフェルを見ると……困ったような笑顔だ。
「ティナ、止めておいた方が良いと思いますよ?」
「なんで?」
経過観察をしたいし、何か出来ることがあるかもしれないのに。
「うーんと……不公平になっちゃいます」
「不公平?」
首をかしげる私にフェルは優しげに口を開いた。
「今回の人は、ティナが居たから助かったんですよね?地球の皆さんからすれば、死ぬかもしれない怪我を治してしまったんです。当然自分も治してほしいって思う人はたくさん居ると思いますよ?」
あっ。
「その病院だけじゃなくて、たくさんの地球人が助けを求めてきますよ?全員を治療するのは、ティナの身体が持たないですよ……?」
そうだ、今回のは地球人からすれば奇跡なんだ。それに縋るのが人だ。まして不治の病を抱えている人なら当然。そして私は皆を救うことなんて、出来ない。
「君の気持ちはありがたいよ。地球人として心から感謝している。だからこそ、その気持ちを踏みにじるような真似はしたくないし、経験してほしくないんだ。君の善行は止めないが、病院へ行くのだけは避けてほしい」
「申し訳ありません、ティナさん。我々地球人はまだ寛容になれないのです」
実際問題、ティナが持ち込んだ医療シートはトランクより遥かに注目されている。
疾病等の病には効果はないが、外傷に関しては奇跡と言える治癒効果を発揮するのだ。政府が厳重に管理しているが、密かに手に入れようとする動きは各所にあり、既に実力行使に踏み切った者まで現れている。
これに対して合衆国は全力で対処し、下手人は秘密裏に処理されている。間違っても露見させるわけにはいかないのだ。
ちょっと重くなった雰囲気を掻き消すように、ジョンが笑みを浮かべて明るい声を出す。
「さて、昨日の騒ぎの後だが明るい話をしよう。フェルにちょっとだけ時間を貰いたくてね」
「私に、ですか?」
「ああ、夕方から大統領が記者会見を開く予定なんだ。その場でフェルを紹介したい」
「あー、なるほど。フェルの御披露目ですね?でも、私がやらかしちゃいましたけど……」
「政府が公式に発表しないとね。実際皆半信半疑らしいから、ちゃんとした御披露目をすれば混乱も収まるよ」
その日の夕刻、合衆国大統領が記者会見を開くとの知らせは全世界の注目を集めた。数日前よりネット上に流れる新たな異星人の件についての発表があると各国メディアは挙って記者会見へと参加し、前回同様会見の場となったオペラハウスには大勢の報道陣が詰め掛けていた。
各国メディアは記者会見に合わせて臨時の報道番組を組み、其の時に備えていた。
ただ、日本のある放送局だけはまるでそれこそが使命だと言わんばかりに世間の流れを無視して『地球創世記~その誕生から現代まで~』という特番を組み。
『こいつらは本当にwww』
『ここまで来ると、こいつらがティナちゃん絡みの特番を組むのはどんな時か楽しみだなwww』
『なんで宇宙の話題なのに地球なんだよwww』
『今日も日本は平和だ』
彼らの熱意はネット界隈を盛り上げた。
そして、現地では会場に現れたハリソンが静かに口を開いた。
「先ずは前回同様この場を快く提供してくれた関係者の皆さんに感謝を捧げたい。この数を収容するにはホワイトハウスだと手狭でね。今後もティナ嬢関係についてはこのオペラハウスを利用させていただく予定です」
千を越える報道陣を前にしても彼は余裕を崩すことなく、話を進める。
「さて、先日日本のとあるインターネット掲示板に現れたティナ嬢についてだが。彼女が本人であることを合衆国大統領として証明しよう。彼女は様々な角度で地球との交流を図っている。今後も彼女が現れた際には、快く歓迎してほしい。また同時に、ティナ嬢を騙るような真似をした者は国籍を問わず速やかにプロフィールを全て公表して重罪に処することをここに明言しよう」
突然の宣言に報道陣がざわめくが、彼は気にすることなく話を続けた。
「これに関しては、あらゆる隠蔽手段が無意味だと断言しておく。ハッカー達よ、君達がどれ程の腕前を持っていてもそれは無意味だ。現に、先ほどまでに6名の名前を公表している。皆、ティナ嬢を騙って混乱を招こうとした。我が国に属する三名は既に逮捕しており、残る三名も所属する国に要請を出している。逃げられるとは思わないことだ」
今朝の段階、まだティナが目覚める前にアリアはインターネット上でティナを騙る人物を複数確認。それらの情報を全てハリソンのプライベートPCに送信。ハリソンは胃を痛めつつも速やかに対処した。いや、対処せざるを得なかった。
スーパーマーケットの一件でアリアの実力を垣間見た結果でもある。
「申し訳無いが、ティナ嬢を含めた異星人関係については人権その他を一切無視させていただくことを予め了承していただきたい」
記者会見冒頭に出されたハリソンの宣言は、地球全土に衝撃を与えることになる。