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記者会見冒頭で行われたハリソンの宣言は全世界に衝撃を与えた。異星人関係に限定しているが、人権その他を一切無視するという宣言は様々な議論を巻き起こすきっかけとなる。
報道陣が騒がしくなるが、ハリソンは静かに手を挙げて再び注目を集める。
「この方針を撤回するつもりはないし、大半の国からも了承を得ている。地球には主義主張の自由があるし、私を批判する意見も甘んじて受け入れている。だが、それは地球人限定の権利だ。異星人に対する誹謗中傷の類いはもちろん、批判も一切許すつもりはないと考えてほしい。もちろん内心で思うだけならば構わないが、それを行動に移した瞬間速やかに対処するものと認識してください」
「それでは報道の自由がないではありませんか!」
「表現の自由にも触りますよ!」
記者たちから批判が飛び交う。ハリソンの宣言は異星人関係に関しては報道内容にも厳しい制限を掛けると言うものだからだ。ジャーナリストからすれば噴飯ものである。
「静粛に。ティナ嬢を含めた来訪者達は幸運なことに極めて友好的だ。SFにあるような侵略者ではないと断言できる。だが同時に、彼女達には最大限の敬意をもって接する必要があるのです。彼女達は遥か彼方、10万光年離れた惑星の住人。そして我々が知る限り2ヶ月で3往復出来るほどの科学技術を持っている。更に言えば、翼を持ち空を自在に飛んで奇跡のような力、魔法を操る。この意味を正しく認識していただきたいのです」
聡い者達は気付いた。ハリソンの言葉は警告なのだ。相手は遥かに格上の存在、間違っても怒らせてはいけないと。
だがそれでも批判の声は止まない。
「宇宙人に迎合するというのですか!?」
「言論の自由さえ許さないとは何事ですか!」
「大統領!貴方がファシストだとは思いませんでしたよ!」
「にも拘らず!!!!」
それらの声は、ハリソンのより大きな声で静かになる。
「にも拘らず!ティナ嬢が私達にしてくれたのはなにか!?それをお忘れではありますまい!?」
背後に用意された巨大なモニターには、マンハッタンの奇跡の映像が流され、そこには消防士や医師達と共に懸命な救助作業に従事するティナが映し出されていた。
「我々より遥かに優れた文明と力を持ちながらも、彼女は驕る処か命懸けで同胞を救ってくれた!彼女が持ち込んだ医療シートは幾人もの命を救った!それは紛れもない事実であります!」
大振りに手を振りながら、彼は言葉を続ける。
「中にはマンハッタンの奇跡こそが異星人の陰謀だと論じる者が居るのも事実ですし、それに関連した誘拐事件が発生したのもまた事実です。
が、彼女に対する疑惑は全て事実無根であるとこの場で断言しましょう!十万光年、我々地球人類からすれば気の遠くなるような遠方です。
そんな場所からはるばるやって来た彼女は、極めて好意的であり協力的です。僅かな期間ではありますが、彼女と接してその人柄は充分すぎる程に理解できました。彼女は、ティナ嬢は善意の塊です!」
大きく息を吸い込み、言葉に力を込める。
「正しいことを躊躇なく行う。我々人類が久しく忘れていたそれを、彼女は短い期間にも拘らず何度も示してくれた。何処までも真っ直ぐな彼女に、どうして誹謗中傷が行えましょうか!どうして悪意があると断じられるのか!
我々合衆国、いや地球人類は今こそ襟を正し、彼女と向き合わねばなりません!未知が恐怖となるなら、知れば良い!彼女と触れ合えば、彼女が敵でなく良き友人であることが理解できます!」
更に力を込める。
「私、合衆国大統領ジャック=ハリソンは政治生命を賭けて断言する!彼女達は敵ではなく良き友人であると!決して悪意を持たず、我々との交流に心を砕く彼女達を手を取り合うことこそが、地球人類の輝かしい未来を約束してくれると!」
ハリソンによる再度の宣言は報道陣の目を見開かせ……。
「ハリソンさん……」
舞台裏でモニターを見つめていたティナは静かに涙を流す。自分の立場をも賭けて信じてくれたこと。その気持ちが涙として現れたのである。
もちろんハリソンはアードの閉鎖的な社会をティナから聞いている。決して友好的ではないことも理解している。だが、たった一人で交流のために努力する少女の姿は彼の心を動かしたのだ。
「私に対する反論や批判は甘んじて受け入れます。宣言を撤回するつもりもありませんからな。とは言え、今回の記者会見の本題は私の意思表明ではありません。先日ティナ嬢がインターネット上に公表したご友人を紹介しましょう!」
ハリソンの宣言に続くメインイベントにメディアの注目が再び集まる。
「ご紹介しましょう!フェラルーシア嬢です!」
ハリソンの言葉に応じるように、ハリソンの隣に大きなエメラルドグリーンの魔法陣が現れる。そしてそこから一人の少女が現れた。
美しく決め細かな金の髪をサイドテールに纏め、幼さを残しながらも整った顔立ちは美少女と表現するには充分であり、女性にしては背が高く出るところは出て引っ込むところは引っ込む抜群のプロポーションを草色のワンピースタイプの衣服に包んでいた。
なにより特記すべきは、その背中からはえる二対の透明な羽根である。
会場の誰もが口を開いて唖然としている中、フェルはゆっくりと口を開く。
「ご紹介に預かりました。リーフ人のフェラルーシアです。地球の皆さん、初めまして」
優しげな声で柔らかい笑みを浮かべた彼女に対して。
「「「フォオオオオーーーーーーッッッ!!!!!!!」」」
大歓声と拍手喝采が包み込んだ。ハリソンの衝撃的な宣言はフェルの御披露目と言うより衝撃的な特ダネで世間の目を逸らして。
「待て!私は変質者ではない!」
「いきなり全裸で踊ろうとしたら変質者だろうがぁあっ!」
「誤解だ!私の裸体に恥ずかしい場所などない!」
「何で自信満々なんだよ!?こいつ生粋の変態だぞ!」
「失礼な!私は紳士だ!」
「なら淑女の前で脱ぐんじゃねぇよ!」
最前列では全裸でオタ芸を披露しようとしていたジャッキー=ニシムラ(未遂)が警備員たちに連行され行き、ハリソンとフェルは決して見ないように努めた。