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「…あら、お兄さん。起きてたの?」
「誰のせいだよ。」
「そんなことより!さ、出かけるわよ!」
「は?」
「? 昨日言ったでしょう?人探しよ」
「…俺も行くのかよ」
「そう。こーんなか弱い幼女一人じゃ危ないでしょう?」
“そんなこと”と言う言葉も少し引っかかるが、
何がどうなって俺が着いて行くことになってるのか。
どんな思考回路したらそうなるんだか…
「……」
「ね!ね!行きましょう! 貴方がいないとダメなのよ」
「他の厩舎にも居るぞ、俺みたいなやつ」
「貴方じゃないとダメなの!」
俺を見上げて、しつこく頼む。
どうして俺なんかに執着するんだか。
何度も言うが、コイツは名家の出身、逆らったら何が起こるか…
想像しただけでも鳥肌が…
「わかったよ、途中までな。グラスレットの“お嬢様”?」
「その呼び方やめて」
「じゃあ、なんて呼べばいいんだよ」
「…ナリア」
「…そんじゃ、ナリア? 調べはついてるのか」
「……全く」
「…へぇ………は?」
調べはついてない…と。
ならしらみ潰しに探すつもりか?冗談じゃない。
そんなの、迷い込んだ砂漠で井戸を探すようなもんだ。
とてもじゃないが、無理だろう。
「…俺以外にも頼れる奴は居ただろうに」
「…し、仕方ないのよ。仕方なくよ」
「…わかった、途中までな」
あんまり騒がないでくれ…と続ける前に、彼女の表情は180度変わっていた。
不満そうな顔から、花を咲かせたような笑顔へと…
そんな表情されては…余計に彼女と重なってしまう。
容姿だけでも瓜二つだと言うのに…表情まで真似されてしまっては…
閑話休題。
「それで?早速出発か。お嬢さん
会えてよかった」
「…ダメよ」
「は?」
予想もしない、意味不明な答えに思わず疑問符が浮かぶ。
「人探しなら、思い立ったが吉日って話だ。」
「そんな格好で外に出るつもり!?」
「なんだよそんな格好って…」
「な、何言ってるのよ…貴方にそんな常識がなかったなんて…」
信じられない…と付け足し、軽蔑の権化のような瞳で見つめてくる。
人探しに付き合うなんて一言も言ってないんだが…
「……ちゃんと着てるに決まってるだろ!? そこまで野蛮じゃねぇよ
俺だって……」
着ている服を引っ張りながら、そう言いかけたところで、ハッと口を閉じた。
「俺だって…何よ」
「お前にはまだ早い」
「……」
不満そうな顔をするものの、それ以上何も聞いてこなかった。
物分かりのいい奴だ。
「と、とにかく!その格好だと私が落ち着かないのよ!服着てちょうだい!」
「そう言われてもなぁ…」
“商品”である俺に、ちゃんとした洋服なんて大層なものは貰えないのだ。
無論、人権なんて与えられていない。
最低限のモラルくらいは叩き込まれるが。
「……」
突然、ナリアはガサゴソと持ってきたであろう袋を漁り始めた。
彼女が取り出したのは、大きなローブ。恐らく、彼女のものではない。
親の物…と言った所だろうか…?くすねて…いや、“頂戴”してきたのだろう。
「これ、着てちょうだい。貴方の身分を隠すのにも十分でしょう」
「どうも」
“身分を隠すべきなのはお前だろう”なんてツッコミをする暇もなく、ローブを押し付けられた、
当然、拒否権なんて概念はない。
「うへぇ、何だよこの高そうなの」
「安物よ」
「嘘つけ」
押し付けられたローブは、今まで着ていた服からは想像もできないような生地をしていた。
肌触りが良いし、何より虫がいない、棘だって刺さっていないのだ。
俺よりも少し大きいローブは、いとも簡単に俺の体を覆った。
薄い生地だったが、意外にも暖かい。
冬になり始めた季節にはちょうど良いかもしれない。
…なんて、俺はどこの仕立て屋だよ。
大層なコメントできる立場でもないだろうに。
「うーん、面白いくらいには似合ってないけど…まぁ、いいわ。
あれよりマシよ」
「随分失礼だな、このガキは」
「よく言われる」
ナリアはそう文句を言いながらも、着々と準備を進めていた。
全くこれだから子供は…見つかりやしないだろうに…
なんて呆れながらも、彼女の準備を止めるような真似はしなかった。
何をとち狂ったか、俺は彼女と共に人探しを始める気でいたのだ。
「さ、行きましょ」
小さな体には大きすぎる鞄を背負った彼女が、期待を込めた目で見つめていた。
「…行きたいのは山々なんだけどな」
「なに?まだ文句でも?」
なんて言ったら良いのやら…
今こいつが連れ出そうとしている俺は、ただの見せ物じゃない。
役目を終えた“商品”なのだ。
つまり、連れ出すには金がかかる。
金を払って買ったなら、そのあとは買い手の自由だ。
奴隷にするなり、サンドバッグにするなり。活用方法は様々。
殺したって、誰も咎めやしない。
閑話休題。
“商品”である俺を連れ出そうものならそれは立派な犯罪だ。
罪状は盗みだったか、重い罪に変わりはないだろう。
「俺がここから出るには、金がいる」
「なんでよ」
「俺が商品だから」
「商品?」
「ペットみたいなもんだよ」
辺りを見回して、彼女は言った。
「……店員さん、居ないみたいだけど」
幼女を膝に乗せて一夜を越した時点で気づくべきだった。
今此処に“主”はいない。
もし俺が居なくなっても気に留めないかもしれない。
どうせ、そこまでの値段は期待されていないだろうから。
「お金なら、親に請求すれば良いわ」
「へぇ…中々の我儘娘だ」
「ちょうど、屋敷は人手不足だし。
人探しを終えた後、家で働けば良いのよ」
そして、彼女はにっこりと笑ったかと思うと、こう続けた。
「私専属の、使用人としてね」
俺の反論も待たないまま、彼女は厩舎の外へと駆け出していった。
彼女の後を追うことなく、その場に立ち尽くす。
ふと、割れた鏡に目を移すと破片に写っていたのは、間違いなく“化け物”だ。
こんな人外が彼女と一緒に居て、隣を歩いて良いものか。
そんなことが許されてしまうのか…
彼女なら笑顔で頷いたはず、
その言葉が頭をよぎり、ないはずの“目”を見開いた。
やめろ、もう思い出さないって決めたんだ。
もう、彼女は……
「ちょっと!何してるのよ?!もう出発よ?」
彼女、ナリアの言葉で我に帰る。
どうやら彼女は途中で俺が居ないことに気づいて、走って引き返してきたらしい。
文句を言いながら、俺の足をポカポカ叩いた。
「あー…悪かったって…」
「貴方が居ないから、私は誰もいないのに話かける変な人じゃない!」
「…」
頬を膨らませて、俺の方を見上げた。
色白の肌は恥ずかしさや怒りから、ほんのりと赤く染まり、大きくて丸いその目は、不機嫌そうに揺れていた