太陽の眩しさに、思わず目を瞑る。
とは言っても、俺に目なんてものは存在しないため、眩しさを感じる理由は不明だが、眩しいものは眩しいのだ。
手で日光を遮りながら、青空を睨んだ。
冬の始まりらしいこの地域は、少し肌寒く、ローブがあってちょうど良いくらいの気温だ。
姿を見られないように、ローブを深く被りながら歩く。かなり視界を遮られるが、仕方ないのだろう。
「…外に出たは良いけどよ…」
「なに?まだ何か?」
「……もういい、お前に任せる」
「???」
ナリアの足に迷いがないのを見る限り、行く宛は決まっているのだろう。
「にしても、随分と廃れた街ねぇ…街全体が死んでるみたいよ」
「…ここら辺はだいたいそうさ」
周りの建物は廃墟のようだった。建物にまとわりつくツル、地面のあちこちに転がる破片、誰のものかわからない白骨。
俺にとっては日常茶飯事だが、彼女にとっては“異様”な光景なのだろう。
周りを見渡しながら歩いていると、すぐ横から、可愛らしい歌声が聞こえてきた。
驚いて下の方を見てみると、ナリアがご機嫌な様子で鼻歌を歌っていた。
その歌は、どこか聞き覚えのある、不思議な曲だ。
その曲をきいていると、頭の中に星空が浮かんでくる。
「…何してんだ」
「あら、歌も知らないの?」
「違う」
「…私の…姉が歌ってくれたの。」
「お前の?」
「そう」
家族の話をするときの彼女は、寂しそうで、つらそうで…とても見ていられるものではなかった。
でも、今の彼女には、どこか懐かしむような、そんな表情があったような感じがする。
「…私の歌なのよ。私のための。姉が作ってくれたわ」
「……」
少し間を置いた後、震える声で彼女はつぶやいた。
「この歌を妹に歌っている所なんて、見たくなかった」
「……」
無意識に俺は、彼女の手を取っていた。彼女も、一瞬驚いたような顔をしたが、手を振り払うような真似はしなかった。
この時、何か言うべきだったかもしれない。
それでも、その時の俺は、そんな勇気など持ち合わせていなかった。
「……どこに行く予定だよ」
「…そうね…神秘の森を超えた先よ」
「…は?」
彼女の口から、神秘の森 という言葉が出てきた。
でもあの森は…
「…なぁに?怖がってるんじゃないでしょうね」
煽るようにこちらを見上げる。
「…別に」
怖いんだよ、悪いかよッ!?
なんて、彼女の前で言ったら大笑いされるに違いない。
それは俺のプライドが許さない。
神秘の森とは、人呼んで“迷路”
深く入り組んだ地形に、道を弄ってくるお喋りな妖精。
それを抜けた先には、気難しいことで有名なエルフ達の集落だ。
勝手に集落の敷地に入ろうものなら、いとも簡単に殺されてしまうだろう。
今までこの森に入ったものたちが、何人も行方不明になり、ここ数十年見つかっていない。
中には死体で見つかった者までいるくらいだ。
閑話休題。
とにかく、あの森へ入ることは極力避けたい。
「迂回する道は…」
「ないわ。ここら一体、神秘の森。もうここは精霊たちの敷地内よ」
「マジかよ」
どうやら森の中に入る他ないらしい。
重い足を無理やり運んで、森の中へと入っていった。
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