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21 ◇当然の報い
「あっ、私、お義兄さんを泣かすつもりじゃなくって……ごめんなさい。
もう失礼しますね、さよなら」
元義従妹は突然の俺の涙に戦き、そそくさと席を立ったかと思うと急いで
店を出て行ってしまった。
その場に取り残され泣いてたアラフォーのオッサンは、ちょーーっ惨め全開だっつう~のっ!
元妻に俺の女遊びが知られていたのだとしたら、まっ当然の報いだなっ
これくらい!
その夜気になったのは元妻の今現在の想い人のことだった。
だっ、誰なんだそいつ!!
◇ ◇ ◇ ◇
私には夫と別れたことを一番に伝えたい人がいた。
蓮さんだ。
いつの間にか心の支えでもあり好きになっていた人に。
私は気がつくと言葉で伝えるだけではなくて、それこそ身体ごと
蓮さんの胸に飛び込んでいった。
……と言ってもそれは気持ちの上でのことで、手を繋ぐでなし
スキンシップを伴なったわけではない。
夫と別れた次の日から私は以前にも増して蓮さんの住むお寺へと、足繁く通うように
なっていった。
春夏秋冬──。
お寺の境内にセミの声が煩く聞こえる盛夏のある日のこと……。
室内で脚立に立ち、私の背丈よりも遥かに高い場所に収納されていると
いう台所用品を取り出すため探していたところに、帰宅した蓮さんが通り掛かった。
台所用品の取り出しは、蓮さんがたまたま留守だったので住職の奥さんに
頼まれてのことだった。
帰宅した蓮さんに気付き『お帰りなさい』と彼のほうへ振り向いた瞬間、
私はバランスを崩してしまい脚立から落下した。
落ちる瞬間から床に落ちるまでが、まるでスローモーションで見るかのように──
その自分の落下する様子が手に取るように私には見えた。
そんな様子を『すごいっ』と感心しながら落ちていく私の元に、蓮さんが
急ぎ足で私を救出しに来てくれて、私は蓮さんの胸の辺りに落ち、ふたり諸共
床に重なるようにして転がってしまった。
気がつくと私は蓮さんの身体の上にいた。
『ごめんなさい』と言い、蓮さんの上からどこうとしたところ、蓮さんに強く引き寄せられ
口づけされた。
なんか、頭の中がジンジンするようなキスだった。
嬉しすぎて恥ずかし過ぎた。
赤面している私を見て蓮さんが『可愛いな』って言った。
そしてぎゅっと抱きしめられた。
もうだめだっ……幸せ過ぎて、ダメダメ過ぎるわぁ~などと
私は心の中で浮かれた。
22 ◇” A Lovely Time-幸せな時間“
お互いの気持ちを見える形で確認してからは、お寺以外でも私たちは
会うようになり──。
それからお互いの距離が縮まるのにそう時間は掛からなかった。
流石に蓮さんの住むお寺の離れの住居にお泊りもできないので、もっぱら蓮さんが
私の部屋に来て過ごしたりするようになったのだけれど……。
流石お寺の住職婦人、私たちの関係に気がついたようで──
ある日お寺で、所用で出かけて居なかった蓮さんの帰りを待っていた私に、それとなく
蓮さんの話題を振ってきたのだった。
「こんなこと聞いていいのかどうか……なんだけど、あなたと蓮さん付き合ってるのよね?」
「いえ、構いません。
私のほうこそ、ずっとこちらにお邪魔してお世話になってますのに、ご報告もせず
無礼をお許しください。
実はわたくし結婚していた時に夫のことで度々蓮さんに救われてきました。
詳細まで相談したわけではありませんでしたけれど、こちらにお邪魔して
お寺に関わらせていただいたことで気持ちが救われてっていうか、蓮さんに
会うことでも救われてきたのだと思います。
あっ、奥さんにお会いすることも含めてです。
蓮さんや奥さん、遊びに来ていた子供たちとここから眺める自然の中での
景観や、そしてまた鳥やセミの鳴き声など、いろいろな人たち、動物、自然
そんな全ての恵みに私の魂は救われてきたのです。
そして、私はいつしか蓮さんを慕うようになっていたようです。
ですが、私は何も世間に顔向けできないようなやましいことはしておりません。
蓮さんとお付き合いするようになったのは離婚してしばらく経ってからのことなんです」
23 ◇話しておきたいことがある
「大丈夫、私はあなたを責めるためにこの話を切り出したのではないですよ。
ふふっ、蓮さんは僧侶にしておくにはもったいないくらいいい男振りだし、
あなたはまた何ていうか素敵な雰囲気を纏ったきれいな女性だし――――
ほんと、お似合い。
実はね、前々からあなたたちがカップルになったらいいのになぁ~なんてちょっと思ったり
してたもんだから……。
実際そうなったのかもと思うと矢も楯もたまらず、確認したくなったってわけ。
美男美女のロマンスっていつの時代になってもいいものだわぁ~」
住職の奥さんは、職業的に『らしからぬ』告白を私にしてくれた。
ちょっと恥ずかし過ぎる。
そんな恥ずかしそうにしている私に奥さんは居住まいを正し、改まった
様子で次の言葉を連ねた。
「お節介かもしれないけど、蓮さんのことで話しておきたいことがあるのよ」
「……」
「蓮さんね、前科持ちなの!」
いきなりの奥さんの話に私は面食らった。
蓮さんが前科持ち? 嘘っ、何かの間違いよ。
「ごめんなさいね、驚かすような言い方で話を始めてしまって。
夫からもよく注意されるのよ、お前は相手を驚かす天才だって。
ふふっ」
ふふって……ふふって笑ってる場合じゃないですよぉ~。
そう心かき乱されながら、私は彼女の次の言葉を静かに待った。
「あなた、ご主人のことで蓮さんに相談してたみたいだけど……
実はね、蓮さんもね奥さんとの間でいろいろあったのよ」
ガァーン!!
私の頭の中でそれこそガァーンという盛大な音が鳴り響いた。
えーっ、蓮さんに……奥さんいたんですか。
そんなこと考えてもみなかった自分を呪った。
コメント
1件
第8話読んだよ!元夫視点の涙と後悔がまず「ざまあ」な感じで痛快だったんだけど、ヒロインが蓮さんと結ばれていく流れが本当に優しくてほっこりした〜。脚立から落ちるところで「すごい」って俯瞰しちゃうヒロインの思考回路、可愛すぎるだろ!笑 で、住職の奥さんの「前科持ち」発告!?えっ蓮さんに奥さんいたの?!ここで急展開きてめっちゃ気になる…続き早く読みたいわ🔥