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24 ◇衝撃的な事件
「あっ、もしかして私ったらぁ、またやらかしちゃったかしら──
ごめんなさい」
私の青ざめて固まっている様子に気づいた住職の奥さんは、そう私に謝ってきた。
「正確には蓮さんの元奥さんとのことなの」
この奥さんと話してるといちいち心臓に悪い。
涙目で私は続きを待った。
「蓮さんの奥さんって人がね、それはもうそんじょそこいらではお目に
掛かれないほどきれいな女性だったみたいで……。
あっ、もちろんこれって蓮さんから聞いた話じゃなくて人伝手でなんだけどね。
まぁ、蓮さんと結婚してからもいろいろとあっちやらこっちやらと男衆から
粉掛けられまくりで、口説かれることが多かったみたいでね。
だけどあれよぉ、蓮さんだっていい男だからね、結婚してしばらくは
いい男振りの夫が足枷っていうかストッパーになってたようなんだけど……。
蓮さんが結婚してから3年後辺りで会社から異動の話が出て、単身赴任
することになったのよ。
蓮さんも奥さん連れて行きたかったみたいだし、奥さんも一緒に付いて
行きたかったみたいなんだけど、一人娘を持つ両親がいい顔しなくてね。
高々ほんの2~3年の転勤なんだからひとりで行けと言わんばかりの態度で、
蓮さんが折れる形で独り任地へ行ったわけ。
当初は蓮さんがひと月に一度こちらに帰って来たり奥さんが向こうに
行ったりしてたみたいなんだけど、そのうち蓮さんが激務になってこちらに
帰れなくなった頃から奥さんもそれに合わせるように蓮さんの住む任地へ
全く足を運ばなくなってしまって。
蓮さんも寂しかったろうにって思うのよ。
だけど自分も激務で体力が追いつかなくて、きっと毎日奥さん思って
一生懸命働いてたんだと思うの。
そんな中で、ちっとも自分の所へ来なくなった奥さんが恋しくなって
会社に無理言って休みを2日間ほど取って自宅へ帰ったんだって。
毎日の仕事で疲れてるだろうにね、それでも恋女房恋しさに列車に
飛び乗って帰った蓮さんの気持ちを思うと私──今でも泣けてきちゃうわ」
『あのう、そこで泣かれてもですねえ~もっと具体的に何とかお願いしますぅ~』と、突っ込みを入れつつ私は奥さんの次の話を待った。
25 ◇蓮の元妻
「蓮さんが自宅に入ると見知らぬ男物と思える靴があって、咄嗟に蓮さんは
疲れてる身体を奮い立たせて、残ってる力を振り絞り抜き足差し足で少し長めの廊下を
突き進んで行こうとしたの。
そしたら、途中で浴室から男と聞き覚えのある奥さんのはしゃぐ声が
してきて、躊躇なく浴室のドアを開けたそうよ。
全裸のふたりの姿が蓮さんの目に飛び込んできて、蓮さんは気も触れん
ばかりになって怒りに震えたそう」
『えーっ、そんな連さんが可哀そ過ぎる』
酷い奥さんだわ。
蓮さんが家族のために一生懸命働いてる間に浮気してたんだ。
私はあまりの話の展開に泣きそうになった。
「蓮さんはね、大事にしてた奥さんを寝取られたことを知って、
自分の全人生を掛けて相手の男を潰そうと思ったんだって。
それでね、ゴルフのドライバーを自室へ取りに行き、浴室であたふたと衣類を着ようとしていたふたりの元へ戻り、相手の男を死ぬほど滅多打ちにしたの。
そして御用ってなったわけ」
なったわけ、って……そんなぁ~蓮さんが可哀そ過ぎる。
私の目は洪水の決壊を我慢できなかったみたいで気がつくと、私の顔は涙で
とんでもないことになっていた。
「蓮さんの奥さんは、奥さんはどうなったのですか?」
「大丈夫よ、蓮さん奥さんには一切手を出さなかったみたいだから」
「出せばよかったのに。そんな女、ドライバーで滅多打ちにしてやれば良かったのにぃ~」
私は私でも今まで知らなかったドス黒い感情で、そんな恐ろしい言葉を
口にしてしまっていた。
蓮さんの奥さんに、そして嘗ては夫だった人へも向けた私の正直な気持ち
だったのだと思う。
元奥さんって言ってたから、結局蓮さんは奥さんを許せず離婚したのね。
奥さんのほうの気持ちはどうだったんだろう、他人事とは思えずとても
気になった。
26 ◇お節介でごめんなさい
「あらあら、すごいことになっちゃったわね」
そう言いながら住職の奥さんがタオルハンカチで私の涙を拭ってくれて、
そのあと手渡してくれた。
「当事者になるとそれくらいの気持ちになるのでしょうね」
そう言って奥さんは私の過激な物言いを責めずにいてくれた。
きっとあきれられていると思う。
だけどパートナーを簡単に裏切るような人を、きれいごとで済ますわけには
いかないのだ。
「蓮さんの奥さんね、蓮さんの起訴が決まった日、蓮さんに泣いて許しを
請うたそうよ。
自分が間違っていた、蓮さんを本当に愛している。
だから蓮さんが刑務所から出てくる日を自宅で待ってるって。
蓮さんはね奥さんに言ったの。
君が待ってても待ってなくても、もう自宅には戻らない、君の元へは
戻らないって。
ずっとね、奥さんは刑務所へも通い続けてたけれど蓮さんの決意を
覆すことはできなかったのよ。
そして刑を終えた蓮さんのことは、このお寺で預かることになったってわけ!」
「どうしてこの話を私にしたのですか?」
「ほんと、お節介でごめんなさいね。~っと、何ででしょうね」
などと、とぼけたことを住職の奥さんは言う。
私と蓮さんのことに反対だから?
こんな重要な個人のプライバシーを話すなんて、って少し私はあきれてしまった。
私の思考が顔に出てたらしくて、住職の奥さんが困った顔になり
何かを思案しているように見えた。
それともあれだ……前科のある人だから私に蓮さんとのつきあいを
やめさせようとしてのことなのかな?
私のことを思って? 蓮さんのことよりも?
いやいや、それもなんだかおかしいよね、理由としては。
一体全体住職の奥さんはどんな意図で私にこんな重大な話を
打ち明けてきたのだろうか。
コメント
1件
うわ……一気に重い過去が来たね。蓮さんの奥さんの話、聞いててこっちまで胸が苦しくなったよ。単身赴任中に裏切られて、帰宅したら浴室から声が聞こえてくるって、想像しただけで辛すぎる……。それで奥さんに手を出さなかったのが余計に切なかった。あと私、主人公の「そんな女、ドライバーで滅多打ちにすればよかったのに」って言葉にはちょっとドキッとしたよ。それだけ主人公が蓮さんに入れ込んでるってことだもんね。住職夫人がなぜこの話を今したのか、その意図もすごく気になる。