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アリエッタが屋敷の人々を血の海に沈めてしばらく経ち、徐々に騒ぎが落ち着いてきた。変態達の鼻には小さく千切った雲が突っ込まれ、ちょっぴり赤く滲ませながら仕事を続けている。
ミューゼ達はアリエッタを座らせ、どうやって言葉を教えていこうかと会議中。
一仕事?終えたアリエッタは一旦のんびり休憩し、次の計画を練っていた。
(ふーむ、いつも着せ替えられてるし、たまには仕返ししたいなぁ。服に絵を描く感覚は分かったから、3人に似合う感じに仕上げたら、喜んでくれるかな)
どうやら、まずはミューゼに柄付きの服を着せる事を考えているようである。もちろん勝手にやって怒られたくないので、対策も既に考えてあったりする。
(たしかいつもみゅーぜは草木使ってるよね。だったら……)
アイディアを思いつき、続いて部屋の中を見渡す。目的の物のありかは元々知っているので、すぐに椅子から降りて荷物の場所へと駆け寄った。
「……アリエッタ?」
急に動き出したアリエッタを目で追い、首を傾げる3人。荷物の中を少し見たアリエッタは振り向き、ミューゼに声をかけた。
「みゅーぜ、ふく」
「なになに? 着替えたいの?」
知っている言葉は増えているものの、限られた名称とほんの少しの動詞しか知らないアリエッタは、手を必死にピョコピョコ動かしながら、単語を並べて意思を伝えようとしている。
その姿を離れた場所で見ているパフィとネフテリアが、ほっこりしながら内心興奮している。
「みゅーぜ! ふく! え! ふく!」(みゅーぜの服に絵描くから、着てくれないかな!?)
「ん~? もしかして絵を描くから服を着て欲しいのかな?」
つい先程、自分自身で絵を描いた服を着ている姿を見れば、少ない情報でも推測は容易である。
珍しく完全に正しく伝わった事で、ミューゼは嬉しそうに微笑む……なんて事は無く、微妙な顔になった。
「えっと……その絵を私の服に描くのかな?」
アリエッタの服に描かれているのは、コミカルな雲と虹と花。小さくて可愛いアリエッタやピアーニャなら一切の問題も無いが、15歳のミューゼは自分が着ると思うと躊躇してしまう。
年上のパフィ達も、巻き込まれたらどうしようと思いながら視線を逸らし、戦々恐々としていたりする。
「みゅーぜ! ふーく! みゅーぜ! ふーく!」(うおー! 書かせろくださーい!)
必死なアリエッタは、段々とエスカレートし始めた。ジャンプしながら一定のリズムで叫び続けている。ハイテンションで無邪気な姿に、ミューゼの抗う心は徐々に削れていく。可愛さに抗える者など、この屋敷にはピアーニャ以外にはいないのだ。そのピアーニャも結局アリエッタという存在には抗えないが。
その時、部屋の外で待機しているメイドがその可愛い声をドア越しに聞き、何を想像しているのか真っ赤になった顔を押さえて膝をつき、おでこを床にこすりつけながら、上に突き出したお尻を振って変なうめき声をあげていた。そして離れた場所の他のメイド達が、部屋の前のメイドを気持ち悪いモノを見る目で見ていた。
「わ…分かったからぁ! いいよ! 描いていいから! えっと、この服でいいのかな?」
そう言いながらミューゼが咄嗟に出したのは黒い服。想定していた薄い色ではない事でアリエッタが一瞬硬直したが、すぐに考え直してワクワクしだした。
(おお! なんか試すのに良さそうな感じ! やったー!)
「あ、良いんだ……まぁ部屋着にすればいいかぁ……」
「楽しみにしてるのよー」
「……どうせパフィも巻き込まれるよ」
絵という新境地が、着ている服と合わさる事に戸惑い躊躇し続ける大人達を尻目に、アリエッタはニヤニヤ笑顔で手を動かしていく。
ミューゼは絵の知識が無い為知らなかったが、普通は黒地に何かを描くのは難しい。しかし、たとえ布が黒であろうと他の色であろうと、アリエッタの『彩の力』には関係無い。好きな色を上乗せするだけである。この力の使い方は力を与えたエルツァーレマイアにも出来ない為、本神はアリエッタの中で関心しながら、その絵が出来上がる様をのんびり眺めていた。
「うぅ……一体何を着せられるんだろう……」
「それ、たぶんアリエッタちゃんがいつもお店で思ってる事だと思うなぁ」
怖がるミューゼと、原因を察して遠い目をしながら自分も巻き込まれるかもしれないと覚悟を決めるネフテリア。そして、
「しばらくアリエッタに全力の料理を貢がなきゃなのよ……」
胃袋に賄賂を詰め込もうと画策するパフィだった。
しばらくしてアリエッタが立ち上がり、服を手に取ってまじまじと眺める。
(ふむふむ、我ながら良い感じの出来だね)
《はー凄いわねー。私も着てみたいから、今夜作ってもらおうかしら》
エルツァーレマイアは精神体の為、現実の服を着る事が出来ない。精神世界の中で服を作るつもりである。
その声が聞こえているアリエッタは、まぁいいかとため息をついてから、ミューゼの方へと振り向いた。
「あ、出来ちゃったのね……」
ついにこの時が来てしまったと、恐る恐る立ち上がるミューゼ。どんな可愛い服を着せられるんだろう…と思いながら、頑張って笑顔を作りアリエッタと一緒に姿見の前へ。
パフィとネフテリアは、そんなミューゼを真剣な目で見送った。次は我が身なのだ。
「もう逃げられないんだから、可愛くなったミューゼを思いっきり笑ってやるのよ」
「そうね。どうせアリエッタちゃんは説得できないし」
諦めきって、ついに開き直ったのだった。
「ネフテリア様はどんな服だと思うのよ? 渡したのは黒いシャツだったのよ」
「ミューゼさんって植物使いだから、可愛いお花がいっぱい咲いてるとか」
「案外ミューゼの顔かもしれないのよ」
「それいいね!」
折角だから今は楽しむ事にした2人は、怖くて背を向けていたミューゼの叫びによって、身体を大きく震わせる事となる。
「えええええええっ!?」
『!!』
たとえ開き直っても、怖い未来はやはり怖い。振り向いた先にいるのはもう少し後の自分達の姿である。想像するのはアリエッタとおそろいの服を着た自分達の姿。可愛すぎて似合わないと、苦い顔になってしまう。
覚悟を決めたつもりの2人は、ゴクリと喉を鳴らし、緊張している。
「パフィ、テリア様」
背後からミューゼに声をかけられ、2人は視線を交わして頷き合う。今度こそ覚悟を決め、振り返った。
『…………えっ』
せめて笑ってやろうと決めていた2人はその姿を見て絶句し、なんとか反応を…いや、声を絞り出した。
ミューゼはシャツとスカートというラフな格好になっている。その着ている黒いシャツには、思った通り一輪の花が描かれていた。しかし、アリエッタのようなファンシーでコミカルな絵ではない。
ミューゼの右半身を覆う程の植物が咲かせる大きな花は、背中まで半分覆っている。下には大きな葉が開き、細い蔓は美しくも妖しげに多方面にくるくると伸びている。そんな大胆でリアルなタッチの絵は、まだあどけなさを残すミューゼから、大人の魅力を感じさせていた。
『思ってたのと違う』
「ちょっ第一声がそれ!? いやビックリするのは分かるけど、なんか他に言う事無いの!?」
目の前のミューゼの姿が信じられない2人は、目を点にしながらよく分からない感想を息ピッタリで述べた。
その反応を見て、横にいるアリエッタはご満悦。
(やった! 驚いてる! 仕返し大成功!)
アリエッタの目的は驚かせる事であって、いやがらせをする事ではない。大人がファンシーな服を躊躇うのは良く知っているので、最初は可愛い絵ではなく美しい絵で彩ってやろうと思ったのである。
(ふっふっふ。このままぱひー達とぴあーにゃをカラフルにしてやろうか)
アリエッタの中で、新たな目標が決まった。ピアーニャとネフテリアは当然として、クリムやロンデルも巻き込もうとしていたりする。
目の前でミューゼをいろんな角度から見るパフィを眺め、次に描く服の柄を考え始めるのだった。
「いいなぁミューゼさん」
「こんな服なら、私も着てみたいのよ」
あっさり柄シャツの虜になったパフィは、アリエッタと目が合って呼ばれ、怖がっていた事すら忘れながら綺麗なシャツをアリエッタに手渡した。そのまま絵を描く事を察し、頭を撫でてからテーブルにつく。
「ワクワクするのよ」
「さっきまで怖がってたくせにー」
「……それは仕方ないのよ」
「いいよねー。すっごく綺麗な絵だと、こんなにも大人っぽくみえるんだ」
3人はワクワクしながら、パフィの服が出来上がるのを待った。
──そして、出来上がったのがこちら。
「なんでケーキなのよ!? なんで私のは可愛いのよ!?」
(ごめんぱひー……ぱひーって食べ物のイメージだからつい)
「ぷふっ……パフィ可愛っ……あはははは!!」
「はははは……」(なにこれ、もしかしてアリエッタちゃんの気分で絵が変わるの? 注文……出来ないよね、通じないし……)
ケーキ柄シャツですっかり可愛くなったパフィをミューゼが笑い、ネフテリアはこの後の自分がどうなるか予想が出来ず、再び戦々恐々とするのであった。