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「話し合いですって?
それよりどういう事なんです!?
どうしてわらわの力が……!」
雪女のような彼女の吹雪を止める事には
成功したものの―――
今度は混乱しているようで、
「その、落ち着いてください。
私はウィンベル王国所属の平民、
シンといいます。
こちらは娘のラッチです」
「そしてボクは氷精霊の
お友達だよ!
勝手に連れて行くなんて許さないの!」
私の説明の後に、黒髪ショートの燃えるような
赤い瞳の娘が続く。
「というか、わらわが忘れているって、
何を忘れたっていうの?」
ミドルショートの、透明に近い白い髪の
少女が首を傾げると、
「はー……
もう、面倒ですわね。
とにかくその子をこちらによこして
頂けますか?
どうせ力は封じているんでしょう?」
諦めたかのように雪女さんが、氷精霊様を
手招きする。
まあそれなら確かに大丈夫か?
と思いながら―――
とことこと少女が歩いて彼女に近付くと、
コツン、とおでこ同士をくっつける。
「んっ?」
「あっ」
それを見た私と娘は同時に声を上げる。
まるで母親が、子供の熱を測っているような
光景……
それが10秒ほども続くと、
「あーーーーー!!」
おでこを離すのと同時に、氷精霊様が
叫び声を上げ―――
「やっとわかりましたか……」
呆れたように雪女さんがため息をつくと、
「あーーーーー!!」
と今度はラッチが大声を上げ、
「ど、どうしたんだラッチ」
「おとーさん!
もう『鉄道』、なくなっちゃうよ!」
娘の言葉に、もうそんな時間か?
と焦り、
「あっあの、すいません!
いったん公都でお話ししませんか?
今、氷精霊様が暮らしているというか
活動しているところですので」
「な、何かわかりませんが―――
どのみち、力を封じられているわらわに、
拒否権はありません。
従う事にしましょう」
そして私たちは慌てて、ドーン伯爵様の
お屋敷のある街から、公都『ヤマト』へと
戻る事になった。
「この担々麵というのはなかなか
美味ですねえ♪
あ、ボーロ(カレーの事)もまた
お願いします!
辛さはマシマシで……!」
宿屋『クラン』にて―――
雪女似のロングの透き通るような白髪を
持った女性が、主にスパイシーな料理を
メインに食事をし、
「氷精霊様の知り合いと聞いたけど」
「ずいぶんと辛いものや熱いものが
好きなのじゃのう」
そこでラッチに呼びに行かせた、
アジアンチックな童顔の妻と、
モデルのような彫りの深い顔立ちの妻も
呆れるように見ていて、
「それで、あのう……
そろそろ氷精霊様とのご関係について
お聞きしたいのですが」
私の言葉に、ようやく彼女が食事の手を止める。
そして、同じ精霊として公都にいた、グリーンの
サラサラした髪の隙間から、濃いエメラルドの
ような瞳をのぞかせる、中性的な外見の少年も
周囲と一緒に注目し、
「そうですねえ。
でもどう説明したものか―――
まず、そこにいる氷精霊様と呼ばれている
その子は……
わらわなのです」
その答えに一瞬場が沈黙した後、ざわざわと
どよめきが広がる。
いや、わらわって言われても―――
何かの比喩か、それとも彼女たちにしか
わからない何かが?
と思っていると、
「正確には、分身とか分体?
って呼ばれるものなのー。
別れたのがもうずいぶん前だったから、
わらわもすっかり忘れていたのー」
「確かに、この人と氷精霊の魔力は同一の
ものです。
でも、ボクは彼女に身内がいたなんて
知りませんし……
どういう事かと思っていたのですが」
と、少年少女の姿をした精霊2人が語る。
「つ、つまり―――
元々は1人だったという事ですか?」
私が何とか疑問を言葉にすると、
「そういう事になりますね。
もともとわらわは、いつの頃からかあの山を
住処としておりまして……
どうもこれといった脅威も無いので、
眠りにつく事にしたのですが、万が一の
事が起きた場合の事も考えまして、
この子を作り、山の管理を任せたのです」
そして少女を膝の上にのせると、
雪女似の彼女は氷精霊様の頬を
つまんだり引っ張ったりして、
「それがわらわが目覚めるとどこにも
おりませんし―――
そして探して回っておりましたら、
あそこで出会ったという次第です」
「だ、だからもう思い出したのー!
忘れていたのは悪かったと思って
いるのー!」
娘を叱る母親のような構図の2人を、
周囲はまあまあとなだめて、
「あのう、やはりまずいですか?
その山を離れていては」
「わらわがいればどうという事はありません。
数年、山を空けたところでたいした事も
ありませんが。
そもそもわらわの分体でありながら、
山を離れたがる事がよくわかりませんので」
あー、精霊基準というか前提で、どうして
あちこち飛び回っているのか、それ自体が
理解出来ないという事か。
「しかし、ここに来てわらわの考えが少し
変わりました……
いつの間に人間はこんなに美味なものを
作り上げたのか。
これだけ誘惑が多ければ、この子が山を
離れたのもうなずけます。
ていうかわらわもここにいたい」
「まあねえ」
「ドラゴンの我でさえ―――
この生活を捨てる気は無いしのう」
メルとアルテリーゼは、それぞれ自分の子供、
シンイチとリュウイチを抱きながらうなずく。
「でも分身? 分体? かー。
そういえば土精霊様はー?」
急に話を振られた彼は、首をふるふると
左右に振って、
「少なくともボクにそのような記憶は
ありません。
それにここ数年はともかくとして、
ボクも自分の『場所』から離れる事は
ほとんどありませんから」
なるほど。
そういう意味では土精霊様もまた、精霊の
性質通りに行動しているわけか。
「しかし人の住む里がこのような暮らし
だったなんて。
ここに来てから、いろいろな亜人や人外を
見かけましたが……
むしろわらわのような存在が目立たぬ
ほどです。
という事でわらわもここでお世話になりたいと
思います!!」
雪女さんの言葉を聞いたギャラリーたちは
苦笑し、
「そんなの、ここ最近だって」
「万能冒険者が来て以来さ」
「ドラゴンも魔狼も、何でもこの人が
連れて来たんだよ」
そう言って人々にからかうように言われ、
「ふむ、そうなのですか?
ではわらわもここにいて構いませんよね?」
そう念を押されるように言われ、
「一応、ちゃんと手続きをすれば、
問題はないかと。
明日にでも手続きに行きましょう」
「それは助かります。
そういえば、あなたはどこで寝泊まりを
しているのですか?」
母親が娘にたずねるように氷精霊様に
質問すると、
「児童預かり所か冒険者ギルド、もしくは
『ガッコウ』のどちらかですね」
代わりというように、土精霊様が答え、
「そうなんですか?」
野宿はしていないだろうと思っていたけど、
でもそこで泊まれるのかな?
と首を傾げると、
「うん。そこに来客用の施設があるから、
空いていたらそこで寝るのー」
「それに、各地に冒険者や労働者用の
一時休憩場所もありますから」
そういえば、土精霊様は農業であちこちに
行っているし―――
合理的に考えても、そこで寝るのは自然か。
氷精霊様も気まぐれだけど、保存用の氷や
避暑用、あと病院関係でも氷作成をやって
くれているという話だし。
「じゃあ、今日のところは氷精霊様と泊まって、
明日手続きだねー」
「それがよかろう。
ゆっくりと休むがよい」
そうして、雪女似の氷精霊様の本体?
の公都初訪問は無事に終了したのであった。
「う~ん……」
その後、自宅の屋敷に戻った私は、
眉間にシワを寄せてうなっていた。
「どったの、シン?」
「また人外が増えたから、悩んでおるのか?
じゃが人間の姿をしておるし、溶け込むのは
容易かと思うが」
メルとアルテリーゼが心配そうに話しかけて
くるが、
「いや多分、トラブルとかは起きないと思う。
仕事も氷精霊様の本体というのであれば、
氷関係の仕事がいっぱいあるし―――」
「じゃあ何が問題なのー?」
ラッチが不思議そうに私を見上げる。
「彼女の着ていた服……
それに外見もそうなんだけど、
私の世界にいた雪女という妖怪に
そっくりなんだよね」
その言葉に家族はお互いに顔を見合わせ、
「そうえば何か、鬼人族か天人族のような
衣装を着ていたね」
「こちらでは見慣れていたので気付かなんだが」
「じゃああの人も、おとーさんの世界から
来たのー?」
私はいったん飲み物に口をつけた後、
「今のところは、そういう可能性がある、
というくらいだけどね。
それに土精霊様すら知らなかった存在と
いう事は、かなり昔……
それこそ魔王・マギア様すら知らない
レベルの大昔に来たんじゃないかな。
氷精霊様があちこち飛び回るようになったの
だって、ここ数年の話だろうし―――」
「でも、それの何が問題?」
メルがシンイチをあやしながら、私に
聞き返す。
「私が『境外の民』というのは、
限られた人しか知らない。
もしあの人も私の世界から来た存在だと
すると、いくら時代が違うとはいえぺらぺら
しゃべられるとマズいかも知れない」
私の答えにアルテリーゼとラッチが、
『確かに』『なるほどー』とうなずく。
「だけど、鬼人族だって天人族だって、
シンの世界から来たんだよね?」
なおもメルが疑問を口にすると、
「彼らは初代ではないからね。
祖先が私の世界から来たというだけで。
それなら、伝説や伝承、おとぎ話の類で
済まされるけど……
実際に、本当に別世界から来た存在となると
話が違う」
もしそんな事が可能だとわかれば、自分にまで
疑いの目を向けられかねない。
事実、何度か命を狙われているからな。
周囲と良好な関係を築くように心がけては
来たけど、それでも危険視する連中は
いるわけで―――
言わんとしている事を察したのか、
妻たちは、
「あー、だから一緒に手続きに行くって
言ってたのか」
「うん。だから最初はギルド長……
ジャンさんに話を持って行って、
そこからライさんにも説明しようと思う。
もちろん、彼女本人にも事情を話して」
「なるほどのう。
美人だから、というわけではなかったのだな?
少し安心したぞ」
そう返されて私が苦笑すると、ラッチも含めて
みんなで笑い合ったが、
「ふええええええ」
「びええええええ」
そこでシンイチとリュウイチが泣き始め、
4人で慌ててお世話する事になった。
「わらわが別の世界からやって来たと
いうのですか?」
翌日、冒険者ギルドの支部長室に私と
氷精霊様、雪女?さんの3人でおとずれ、
取り敢えず事情を説明する。
「まぁその出で立ちはなぁ」
「確かに鬼人族や天人族と同じ印象ッス。
そう言われても納得出来るッスよ」
アラフィフの、白髪交じりの筋肉質の
ギルド長と、
褐色肌に黒い短髪の次期ギルド長の青年が
うなずきながら答える。
「でもどうしてわらわを別の世界の存在と
思ったのでしょうか?
まるで確信があって言っているような」
「まあ、その―――
私が本当に異世界から来た人間だからです」
「そうなのー!
シンは『境外の民』っていうの」
私の言葉に、彼女の分身である氷精霊様が
補足する。
「ふむ……それで、わらわはそちらの世界では
いったいどのような?」
「それが、怪異とか人外とか―――
伝説上の存在だと思われるのですが」
そこで私は、雪女の伝承を聞かせた。
「悲しくも美しい物語ですわね。
それでその、わらわはニホン、という国の
出身で、こちらの世界にやって来たと
いうのですか?」
「言い伝えにある姿かたちそのものですから。
ですので、昔の記憶とかそういったものは
ないのでしょうか?」
私の問いに雪女さんは考え込み、
「そうは言われましても……
一番古い記憶でも、雪深い深山という
思い出くらいしかありません。
それとも、こちらの世界の山はそちらとは
違うのでしょうか?」
彼女の言葉に、ジャンさんが『あ~』と
声を上げて、
「そりゃそうか。
山なんて、それも雪山の山奥なんて
どれも似たようなモンだし―――」
「じゃあ人間と会った事も無かったんスか?」
続けてレイド君が疑問を口にすると、
「稀に、迷い込んでくる人はいましたねえ。
たいてい死ぬか気を失っておりましたけど。
その時は山の麓まで運んで
おりました。
それを食べて、人の味を覚える獣が出て来ても
困った事になりますので……」
ああ、気絶か死亡しているのが前提なのね。
「その時、人間が着ていた衣装とか服とか、
公都のものと比べてどうでしょうか?」
そう聞くと彼女は困ったような顔をして、
「すいません、あまり見ていませんでした。
ほとんど雪まみれで、それでいて吹雪の中を
運んでおりましたから」
そうだよなあ、とでも言いたげに、
ギルド長と次期ギルド長が両腕を組む。
「でも鬼人族か、天人族の人が着るような
服を着ているのー」
「そうなのですか?
そもそも、何かと比べた事がありませんので」
娘が母親に聞くように、氷精霊様が雪女に
たずねると、彼女もまた不思議そうに首を
傾げる。
「ええと……
それで、わらわが別世界の存在だとすると、
何か問題があるのでしょうか。
この街にいられないとか」
「そういう事ではないんですけど、私が
そういう存在だと知った途端―――
危険だと見做して排除するような勢力も
いたんですよ」
そこでジャンさんがコホン、と咳払いし、
「報告で聞いているが、実際にコイツの能力は
味わっただろ?
魔法とか魔力とか、シンの常識の範囲内に
無いものは、何でも無効化出来てしまうんだ」
「はい……
それはもう、この体で確と。
つまりわらわは―――
このシン殿と同じ、別世界から来た
可能性がある。
でもそれを吹聴しないで欲しい、
という事ですね?」
意図が伝わったようで、私は頭を下げて
肯定する。
「まあ、そもそも本当に異世界から来たか
わからない状態で……
そういう事をお願いするのもどうかと
思うのですが。
ただ私の危険説が再燃しないとも限り
ませんので」
「わかりました。
お願いはそれだけでしょうか?」
そこでレイド君がんー、と頭をかきながら、
「あとは―――
何か、公都でもどこでもいいッスけど、
役に立つ仕事をやってもらえないかと。
まあ多分、氷精霊様と同じ事をやって
もらう事になると思うッスが」
「ええ、それは昨夜一緒に宿泊した際に、
この子から教えてもらいましたわ。
でもそんな事でよろしいのでしょうか?」
そこでギルド長が、
「出来りゃ、公都だけじゃなく……
他の村や集落にも行ってもらえりゃ助かる。
まあそれで―――
それなりの生活は保障するからよ」
そこでようやく話が一段落したと見たのか、
そのままジャンさんがこちらを向いて、
「じゃあ、彼女の手続きとかはこちらで
公都長代理に頼んでおく。
ライの野郎にも俺から伝えておくからよ」
「助かります」
私が頭を下げてお礼を言うと、
「それと、シンさんですか?
わらわ自身、別世界の者かどうか、
確かめる術はありませんが……
手がかりならばあるかも知れません」
「!?
それはどういう?」
私が聞き返すと、彼女は氷精霊様を抱え、
おでこをくっつける。
「この子に、わらわの記憶を移しました。
わらわの一番古い記憶、その場所―――
そこに行けば何かわかるかもしれません。
もし調査したければ、この子を連れて
わらわの山へ入ってください」
「えー!?
何でわらわが!?」
その説明に氷精霊様は不満そうに反発するが、
「そもそもあなたが山の管理をおろそかに
していたから、わらわが目覚めてあなたを
探す事になったのですよ?
少しは託された事をきちんとやりなさい」
「は、はーいなの」
そして彼女は素直にそれを受け入れ、
「おう、あの山に行くんだったら、
ついでに『ウサギ』も仕留めてきて
くれねぇか?
チビどもに、あの毛皮で作った暖房着は
人気でなぁ」
「肉もいいッスねえ」
2人がそう言うと雪女さんも食いつき、
「そ、それは美味ですか?」
「りょ、料理によりますけど
多分それなりには……」
私が答えると、彼女は氷精霊様に向かって、
「じゃあさっそく行ってきなさい!
今夜中には間に合うように!」
そして、また私は氷精霊様の山へと向かう
事となった。
「それで―――
どうなりましたか?」
「いやあ、それが……
何も見つかりませんでした」
「そうですか。
もし何か見つかったら、貴重な研究材料に
なったと思うのですが」
中世的な顔立ちの、長い銀髪の青年と、
彼と同じくシルバーの長髪の女性―――
パックさんとシャンタルさんが残念そうな
表情になる。
あの後、私はメルとアルテリーゼと共に、
氷精霊様の案内で彼女の雪山を探索。
その過程で再度大怪獣ウサギと遭遇し、
それを倒したものの、
雪女さんのいう、一番古い記憶の場所でも、
これといった物は見つからず、
戦利品として……
大怪獣ウサギのお肉を、パック夫妻の
屋敷兼研究施設兼病院まで差し入れに
来ていた。
「あれー?
レムちゃんは?」
「レムなら、頂いたお肉を料理するって
張り切っていましたわ」
「最近あの子、人間と同じような体が
出来たからか、いろいろな事に挑戦して
いましてね」
夫婦して、ラッチの質問に目を細めて答える。
レムちゃんは元々、岩から出来た自然の
ゴーレムであり、その核をパック夫妻が作った
体に移植していたのだが、
その手は球体で器用な操作は出来ず、
厳密には人間と同じ事は出来なかった。
それが亜神・フェルギ様を追って来た
少女型ゴーレムを倒し、そのボディを
手に入れた事で、レムちゃんの核を
そちらへと移植。
晴れてレムちゃんは、人間の少女のような
姿と機能を手に入れたのである。
「へー、料理まで出来るんだねー」
「ウチのラッチも、少しは見習って
欲しいものぞ」
同行して来た妻たちはそう言って娘へ
視線を向けるが、
「おとーさんの料理が美味しいのが、
いけないの!!」
と、なぜか私に責任転嫁して来て、
「シチューが出来ましたよー。
みなさまもどうぞ!」
そこへ、12・3才に見えるシルバーの
長髪をした女の子が、お鍋を持って
入っていて、
家族2組で、料理を囲んだ―――
「すごくお肉柔らかいねー。
これなら、シンイチとリュウイチも
大丈夫かな?」
「しかし、そんなに長い時間煮込んでいたとも
思えぬが、いったいどうしたのだ?」
メルとアルテリーゼが、フーフーしながら
それぞれ我が子の口にそれを運ぶ。
「シンさんが獲物を獲ってくるかも知れない
というお話は聞いておりましたので、
シチューは予め仕込んでおきましたし、
ウサギのお肉はわたくしが叩いたり
握り締めたりして、柔らかくしつつ
熱しましたから」
怪力かついろいろな機能があるレムちゃん
だからこそ、出来た料理か。
そんなレムちゃん自身は食べる機能が
ないためか、弟であるリクハルド君を
抱いて、シチューを食べさせる。
「しかし、もう離乳食を食べられる
ようになるとは。
子供の成長は早いものですね」
「ええ、まったく。
レムがいて助かっています」
私の言葉にパックさんがうなずいて、
「そうだねー。
ウチもラッチちゃんがいていろいろ
手伝ってもらっているから」
「2人とも、いいお姉さんになりそう
だのう」
「そうですねえ」
今度は私とパックさんの妻、女性陣が
料理を食べながらうなずく。
「しかし手がかり無し、ですか。
でも彼女の衣装は、シンさんの世界の
ものと似通っていたんですよね?」
「ええ、完全に和服でしたね、アレは。
しかも物語に出て来る雪女と完全に
印象が一致しておりまして。
この世界出身とすれば、ただ偶然に
似ていたとしか」
今食べている大怪獣ウサギを獲ってきた、
雪女さんとその山について話題が移ると、
「ですが、それだけ似ているとあれば
全くの無関係と思えません。
もしかすると、逆、というのは考えられ
ないでしょうか?」
シャンタルさんが研究者として意見を述べる。
「逆、と言いますと?」
私が聞き返すと、妻の代わりというように夫が、
「ああ、なるほど。
つまり、今まではシンさんや鬼人族、
天人族のような……
『向こう』から『こちら』へ来た、
そういうケースしか確認出来なかったの
ですが、
逆に―――
『こちら』から『向こう』へと渡った
ケースもあるのでは?
という事ですね」
「そうです。
その場合、こちらでは確認出来る事では
ありませんので、証明のしようが無いのが
欠点ですれど」
夫妻の説明になるほど、と私はうなずく。
確かにそうだ。
今までは一方的に、あっちの世界からこちらへと
呼ばれるケースしか想定していなかったけど、
もしこちらからあちらへ行くケースも
あった場合……
それが伝説や伝承、怪異や妖怪として
記録されている可能性は十分考えられる。
「なるほどねー。
それなら、シンの世界にもいたって
いうのはわかる」
「確かに、シンの話を聞くに―――
実在はしないが物語にはあった、という事が
多いからのう」
「それなら説明はつくねー」
そう家族も同意と納得で返し、
「そうですね。
それに、鬼人族や天人族のみなさんは、
こちらで適応したみたいですけれど。
逆に魔力や魔法の無い世界に行けば……
危険視されたり、討伐対象となって、
怪物と扱われるか、人知れず生きていくしか
無かった事でしょう。
そう考えると辻褄が合います」
最後に、レムちゃんが科学者夫婦の娘らしく
まとめて―――
そこからまた、食事が再開された。
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