テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「吠くん」
現在地、テガソードの里。
時計の針は10を指していて、店内には注文されたカフェオレを注ぐ竜儀、カウンター席でむしり取った花の蜜を吸いながら履歴書を書く吠。そして、同じくカウンター席でそれを眺める陸王の3人だけ。
カフェオレを注ぐ音と履歴書を書く鉛筆の音しか聞こえないこの沈黙を破ったのは陸王だった。
「あ?なんだよ、今忙しいから後にしろ」
「デートしよ」
「……は?」
「デート。しよ?」
なんだ急に、からかってんのか。その不信感は思うだけに留まらず、つい声に出していた。
「からかってないよ。ただ、吠くんとデートしたいだけ」
「お前のファンとやらに頼めばいいだろ」
「そういうことじゃなくてね。僕は吠くんとデートしたいの」
……このままこいつと話してても埒が明かねぇ。
無視してまた履歴書に向き合おうとした瞬間、冗談だよ。という声が飛んできた。
コイツは一体何がしたいんだ。
「吠くん今日暇?ショッピングに付き合ってほしいんだよね」
「はぁ?そんなん勝手に1人で行けばいいだろ」
「この間、僕の財布からお金を取ったのは誰だっけ」
「……わかった」
今日は一日中次のバイトを探して、あわよくば面接日を決めてしまいたいと思っていたがコイツのショッピングとやらで潰れることになった。
ただ、この間竜儀へのツケを返すために陸王の財布から金をぶんどったのは事実で、それを盾にされると何も言えねぇ。
大人しく、書きかけの履歴書をしまおうとすると陸王が「書ききってから行こ、僕もカフェオレ頼んでるし」と言ってきた。
それと同時に、竜儀が陸王の前にカフェオレを差し出した。
「お前達、あまり遅くはなるな」
「ありがとう、竜儀」
カフェオレをすすり出した陸王を横目に、履歴書を書く手を再開させた。