テラーノベル
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一週間後
スマホには一件の通知
差し出し人は白鬼のマネージャー。
添えられたメッセージは簡潔で事務的なやり取りのようなものだった。
━ご依頼頂いた楽曲の歌詞と仮歌になります
ご確認のほどよろしくお願いします
僕は静かにイヤホンを取り出しファイルを再生した。
流れてきたのは、何処か鋭く、そして熱のこもった歌だった。
仮歌とは思えないほど感情が乗って満ちていた
自然と手が止まる。
曲調は何処か寂しげで、まるで語りかけているようなもの。
「あの人に似てる気がする…。」
僕は無意識のうちに再生ボタンを押し直した。
そしてもう一度。
3度目には、目を閉じていた。
「勢いがある……けど、それだけじゃない
胸の奥でざらりと撫でられるような感覚。
感情をぶつけるような強さと、
それを包むような繊細さが共存している。」
曲の最後、微かに入ったブレスの癖に心臓が跳ねた。初めてじゃないこの感覚。何処か聞いて、感じたことあるような……。
リピート再生はもう十回ほ超えている。
白鬼が送ってきた楽曲ファイル――そのひとつの曲に僕は聞き惚れていた。
最初はただ、勢いのある楽曲だと思っていた。
シンプルなビートに、飾らないコード進行。
けれど何度聞いても、そのシンプルさの中に
過ごせない”手癖”があった。
その呼吸の仕方が――懐かしかった。
歌声も確かに引っかかっていた。それよりも今は、曲の作りがぼくの記憶を刺激していた。
白鬼が誰かは分からない
けれどこの曲には、「過去を知る誰か」の手が入っている。
「なんだろう、この親近感」
僕はギターを抱えて、無意識にメロディーをなぞった。指がかってに動くのはその曲が”知らない曲”ではないこと。
その音に触れる度、胸の奥に眠っていた記憶が、じんわりと目覚めようとしていた。
コメント
2件
ありがとうございます! こんなにも速くコメントしてくれて嬉しいです!!励みになります!
記憶よ…目覚めてくれ…! 最高でした、文章が美しくて丁寧で最高でした。。。 続き待ってますね!