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カタカタヘルメット団鎮圧を完遂した後のこと。私たちは、長い道を辿り、アビドス高等学校に戻った。私含め大人たちは、徒歩以外の移動手段のない移動に文句を吐きまくった。どっと溜まった疲れを背負いながら扉を開けば、遠い場所で支援をしてくれたアヤネが待っていた。
「お帰りなさい。皆さん、お疲れ様でした……特に先生方々は……あはは……」
アヤネが私たちの至る所まで舐め回したのち、苦笑しながら労いの言葉をかけた。苦笑するのも無理はない。生徒より、多くの砂埃で汚しまくった服に所々目立つかすり傷が付いた大人たちがいるからね。
「ただいま〜」
特にこれといった損傷は受けていない余裕なホシノが応えた。
「はぁ〜、せっかく大金叩いて買った服がこんなにも汚れちゃったじゃない……。ねぇ、ここにクリーニングオフとかないの?」
「帰って早々にそんなこと言いますか……?あっ、アヤネさん、お疲れ様です」
その隣、ロージャが汚れてしまった服を見て、悲しそうに尋ねた。それにイシュメールがツッコみながら、感謝を述べる。
「もう、何やってるんだか。アヤネちゃんも、オペレーターお疲れ」
それを見てセリカが呆れながら、しっかりとアヤネに感謝した。
「おう、帰って早々だが保健室使っていいか?」
今度はヒースクリフが応えた後、保健室の使用の許可を提案する。
「ああ、傷を癒すんですね。いいですよ。それと、切らしていた包帯と軟膏も補充できたので使っていいですよ」
「ありがとうよ」
アヤネは許可を承認し、ヒースクリフは感謝した。
「珍しいですね、ヒースクリフさん。まさか見ない間に社会性が育ってるなんて」
「うっせぇぞお前。……ん?その足……」
揶揄うイシュメールに、ヒースクリフは軽く遇らったが何かに気づいたか、相手の足を眺める。
「結構血出てねぇか?」
「え?あっ、本当ですね。気が付かなかったです」
どうやらイシュメールの足から相当な血が出てるらしい……いや、気が付かなかったって……。 彼女らに少し違和感を持ったが、まだやることがある。一旦、この感覚は打ち消しておこう。さっきの傷を心配したか、ヒースクリフは提案する。
「保健室寄ってくついでに、巻いてやるよ」
「ありがとうございます、やっぱりあの人がいない状況は慣れないですね……」
「ヒース〜!やけに優しいじゃん?頭でも打ったんじゃない? 」
「……チッ。さっさと行くぞ」
何だか意外な一面を見て、ロージャがまたもや茶化したが、ヒースクリフは特に言い返さず観念したか、イシュメールを連れて保健室へと向かってしまった。
“行っちゃった……ロージャは同行しなくていいのかい?”
「ん?私は大丈夫よ、イシュと違って肌まで傷ついてる訳じゃないからね〜」
ヒースクリフは 怪我人を連れて行っているが、そういえばロージャも当てはまるのではないかと心配したが、ロージャは軽く流す感じで、服が破けている箇所を見せながら言った。
「ん、ヒースクリフは意外と観察眼が鋭い。例えば宝探しで関係ない話してる時に、私も気が付かなかった物を見つけてたりしてた」
「おおっ!分かるでしょ!私もこの前、アクセサリー無くした時、来てすぐに見つけてくれたんだ〜」
シロコとロージャが意気投合してヒースクリフの良いところを言い合っていた。まだ私だけあの人と一緒にいる時間が少なかったから、あまり実感を感じれなかった。そんな会話が深まりかけたところに、ノノミがそっと言葉を差す。
「こんなにも和やかに話せるのも、火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付いたからですね。これで一息つけそうです」
「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」
そこにシロコの一言。重要な問題?問題はまだあったのかと、今日来たばっかりの大人2人は首を傾げる。
「うん!先生のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!」
青春を謳歌する年齢にしては似つかわしくない問題の言葉が聞こえた。セリカが続きを言う前に、咄嗟にその単語に反応したのは、驚いた顔をしたロージャだった。
「えぇ!?借金返済!?」
「うわぁ!?ちょっと遮らないでよ!?って言うか言ってなかったけ!?」
「聞いてないわ!もう問題は解決したと思ってたのに!」
互いの予想外の言葉に、驚きの声を大音量で交互に言い合っていた。
「そ、それは……」
アヤネが戸惑った顔で補足しようとしていたが、セリカが遮った。
「ま、待って!!アヤネちゃん、それ以上は!」
「いいんじゃない?セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」
学校の奥底で封じられている問題に話していいかと慌てるセリカに、ホシノは落ち着かせる。
「それにヒースクリフ君にも、言ったじゃない。悪そうな人だったけど、実際悪い事企んでなかったし、その後も真剣に手伝ってくれたじゃん?」
ホシノは、信じ切ったかのように落ち着いた声で話した。だが、内容とは裏腹に何だかホシノは不服そうな雰囲気を漂わせていた。何だか裏がありそうな言葉に私は妙に引っかかって、より真剣になった。
「大丈夫、先生は私たちを助けてくれる人だから」
「ホシノ先輩の言う通りだよ。セリカ、先生は信頼していいと思う」
先輩からの言葉を受けたセリカは、しばらく考えたのち、こんな事を言った。
「……これについては言っていいと思うわ。だけど!今まで私たちだけでどうにかしてた問題に今更大人が首を突っ込むなんて……私は認めないから!!」
やけになったか、セリカは怒って話を投げ出し颯爽と教室を抜け出していった。そっか、結構ヒースクリフと接してたような気がしてたけど、 セリカはまだ不信感が消えないんだね。
「セリカちゃん!?」
「私、様子を見てきます」
不意に駆け出してしまったセリカを心配した2人のうち、ノノミはセリカの跡を追っていった。
「ごめんね〜。うちのセリカちゃん、普段はあんな感じじゃないけど。何かに刈られちゃったかもね」
その一連を眺めていたホシノが先輩として茶化した。
「無理もないって。それほどお金のトラブルは、人を狂わすからね」
視線を地に向かせながらロージャは言った。彼女の言葉に、事の重大さを知ったことによる真剣さと、掘り返したくないほど重い後ろめたい感情が垣間見えた。
「トラブルっていう言葉じゃ収まらないよ、これは」
さらに一言付け足したホシノも同様の感情が漂っていた。
“……その君たちが抱えてる問題について話してくれないかな。私たちも一緒に解決したいからさ”
このままではダメだ、と感じた私。アビドス高校が抱える問題について聞き出してみた。
「まぁ、簡単に説明すると……この学校、借金があるんだー。まあ、ありふれた話だけどさ」
察して、ホシノも流れを変えようと、明るさを装ってその問題の話の続きを話してくれた。
「でも問題はその金額で……9億円ぐらいあるんだよねー」
「9億!?子供が抱えるにしては大きすぎない!?」
口には出さなかったが、私も驚いた。さっき言った通り子供が抱える問題にしては、あまりにも大きく、5人の小さな背中では足りない程だった。
「……9億6235万円です」
そこにアヤネが訂正する。9億という数字も、その端数単体でも余りにも膨大な数だった。
「アビドス……いえ、私たち『対策委員会』が返済しなくてはならない金額です。これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く……。ほとんどの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて、去ってしまいました……」
「そして私たちだけが残った」
「学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実はすべてこの借金のせいです」
“それが昔栄えていたはずのアビドス自治区が、統治できず廃れていってる理由か……”
初めてここへ来てからずっと疑問に思っていたこと。何故、人気のない街となってしまったか。何故無法地帯は化しているのか。それは『統治しない』ではなく『そもそも統治すらできない状況』だからだった。だけど、何故この学校は借金を背負うことになっただろうか。私は払えきれない疑問について質問した。
“何でそうなったか、その事情を説明してほしいな”
「借金をすることになった理由ですか?それは……」
アヤネはその事情を丁寧に説明する。
「数十年前、この学区の郊外にある砂漠で、砂嵐が起きたのです。この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした。学区の至る所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まる一方……。その自然災害を克服させるために、我が校は多額の資金を投入せずを得ませんでした……」
なるほど。この砂を統治できない結果だと勝手に納得していたが、そもそもこれが元凶だったのか。
「しかしこのような片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず……」
「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった」
「最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手を付けられないほど悪化の一途をたどりました……。結果、アビドスの半分以上が砂に呑み込まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです……」
アヤネがそう締め括った後、残ったのは沈黙だった。私が黙り込んでしまった理由は、どうしようもない理由に何か言ってあげれなかったからだ。
自然は決して、人間如きに待ってあげられない。学校は、解決したいという一心のみで動いただけ。銀行も悪徳とは言ったが、ただ私情を挟まず規則通り動いただけ。 この問題に関わったもの達に非はない。ただその選択を取るしかなかった。
私は、彼女らに何も言ってあげれないことが悔しかった。
「私たちだけの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で……。弾薬も補給品も、底をついてしまったのです」
「セリカがあそこまで神経質になってるのは、ヒースクリフと先生たち以外の人たちが今まで向き合わなかったから」
「世間から見れば、自分の欲求より、責任を重んじるあなた達の方が異常に見えるからね」
黙り込んでいたロージャが口を開く。世間一般的に、欲求以外のものを大切にするのはおかしいかもしれない。
「……まあ、そういうつまらない話だよ」
ホシノが冗談っぽく話を締めくくる。別にこれは笑い事ではない事を、彼女らは誰よりも知っているだろうに。
「で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投球できるようになったってわけー。もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくていいからねー。話を聞いてくれただけでもありがたいし」
「そうだね。先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけれない 」
ああ、何て優しいんだろう。助けが1番欲しているのは彼女らだが、人を心配する心を持ち合わせている。だが……私は『先生』。生徒の問題を無視するわけにはいかない。
“迷惑なんかじゃないよ。むしろ、君たちの問題を放っておくなって私にとっては辛い。だから、私も対策委員会の一人として、一緒に頑張りたい。でしょ?ロージャ”
ロージャに話しかけると、予想通りの返事が返ってきた。
「勿論よ!こんなセンシティブな問題、子供じゃなくて大人が背負うべきものだからね!」
対策委員会の人に向かって、明るい大人は自信満々に安心の言葉をかける。
「そ、それって……あっ、はい!よろしくお願いします、先生!」
安堵に満ちた声、砂漠に降り注ぐ日光に負けないほど輝く笑顔で、アヤネは応えた。
「へぇ、先生ていうか、最近の大人は変わり者だね〜。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて」
ホシノは皮肉混じりの口調だったが、何処から安心という感情が読み取れる。
「よかった……『シャーレ』が力になってくれるなんて。これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」
「そうだね。希望が見えてくるかもしれない」
まだ根本的な問題の解決には至ってないが、希望を持てて何よりだ。
結局その日はセリカを見つけるは叶わず、こちらにもやるべき事があったので、大人3人を連れて帰ることにした。