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病室に差し込む朝の光。
俺は点滴の管をぼんやり眺めながら、
隣のベッドの涼ちゃんの柔らかな声に耳を傾けていた。
「おはよう、元貴。顔色は昨日より少し良さそうだね」
いつもの優しい声。
俺が苦しくないように、
ゆっくり話してくれるのがありがたかった。
けどその直後、病室の外からガヤガヤとした
女子看護師たちの声が近づいてきた。
例の「若井先生ファンクラブ」だ。
「やっぱり先生って、
毎朝ちゃんとラウンドしてくれるじゃん?
ほんと王子様みたい」
「でもさ、最近ずっとあの子
ばっか見てない?なんか気に障るんだけど」
「藤澤さんって同じ病室でしょ?
味方になってくれないかな」
……え。
俺は心臓がバクンと跳ねた。
ドアのすぐ向こうからそんな会話が聞こえてくる。
ドアが開いて、白衣じゃないけど
派手なナース服の人がひょいと顔を出した。
「おはよう、藤澤さん。
ちょっとお願いがあるんだけど……いい?」
涼ちゃんはきょとんとした顔で、
すぐににこりと微笑んだ。
「僕にできることなら」
……え!?
味方になっちゃうの?心臓がヒュッと冷える。
看護師たちは周りを気にしながら声を潜めて、
「若井先生ってさ、なんかあの子にだけ甘いの。
だから、藤澤さんからそれとなく引き離してほしいのよ」
涼ちゃんは目を瞬かせて、
俺と看護師たちを交互に見た。
「……引き離す?」
「そうそう。
だって、先生って藤澤さんにも
優しいじゃない?だったら、
あなたが間に入ったら自然と……」
――何言ってんだよ!!
俺は声に出したいけど、喉が詰まって言葉にならない。
代わりに、点滴の管をぎゅっと握りしめた。
すると涼ちゃんがすっと俺のほうに目を向けた。
その目が、いつもの柔らかさとは違う。
まるで「安心して」って言ってるような真剣な眼差し。
「……ごめんなさい。僕、元貴の味方だから」
涼ちゃんが柔らかいけど
はっきり言い切った瞬間、
看護師たちの顔が凍った。
「えっ……」
「そ、そう……」
バタバタと退散していく足音。
病室には静けさが戻った。
俺は呆然と涼ちゃんを見た。
「……藤澤さん」
声が震えてしまう。
涼ちゃんはいつもみたいに穏やかに笑って、
「大丈夫。元貴は僕が守るから」
その言葉に、胸がじんわり熱くなった。
若井先生以外からこんな風に言われるなんて思わなかった。
でも同時に、不思議なざわめきが胸に残る。
――涼ちゃんは、俺にただの
病室仲間以上の気持ちを持ってるんじゃないか?
そんな予感が、ひそやかに芽生え始めていた。