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僕には好きな人がいる。
いつものように学校を終え、教室に仲の良いメンバーだけで留まる。スマホには
「学校終わったらまた校門で待ってる」
というLIMEのメッセージが来ており
「おっけー。着いたらLIMEして」
と返事を送る。
「わかる!?マンガ家が描くマンガ家ってのは
“いくら”「あぁ〜うまくいかないよぉ〜(めっちゃバカっぽく)」って言ってたって
やれ新人賞は10代の頃に獲ってます。読み切り連載はしました。
有名マンガ家のアシ(アシスタント)してて、可愛がってもらってます。はあぁ!?な訳よ。わかる?
オレたち駆け出しというか、マンガ家志望が“どれだけ”有能だろうと
新人賞はおろか、読み切り連載?ないないないない。仮に有名マンガ家のアシやらせてもらえたとしても
有名マンガ家なんて変人だから(偏見)、人に興味もないし、アシがなに描いてるかなんてもっと興味もない。
可愛がってくれるなんてないから。マジで。全っ…然リアルじゃない。意味わからんすぎ」
といつものように愚痴をこぼす田益賀(たますが)庵(あん)。
「わかる」
目を輝かせて乗る六江野(むえの)誉繁(よはん)。庵が愚痴をこぼし、誉繁が乗る。いつもの流れ。
「いや、正確にはわかんないんだけど
ゲームの中でゲームを作って成功を目指すなんてゲーム…ま、無くはないんだけど少ないのね?
それに比べるとマンガとかアニメ、二次元の世界って、おのが世界を入れ込もうとする傾向が強いよね。
ま、マンガとかアニメ、二次元はゲームと違って
“癒し”だったり“日常”がコンセプトの1つに組み込まれることが多いから
仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれないけど」
と庵と誉繁が話をする中
「うおっ。Diamond bullseye(ダイヤモンド ブルズアイ)新曲リリースするらしいわ」
と2人を無視してスマホで音楽の情報を眺める牛鹿野(うかの)朱灯穂(ゆうほ)。
「…(むしゃむしゃ)。うん。やっぱり世に出てる食料品って完成された味って感じがするよねぇ〜」
とコンビニに売っているシュークリームを齧って中身を見ながら呟く新茶礼(さらい)涼鈴(すず)。
「ここに、たとえばローズマリー入れても、甘さと喧嘩するだろうし
ミントを入れたとしても、爽やかな口当たりになると思うけど
じゃあ、最初から甘さ抑えればいいって話だもんねぇ〜」
それぞれがそれぞれの話をしている。
この4人にオレ、堀野里(ほりのり)翔歩人(かあと)が加わり、いつメン(いつものメンバー)が完成する。
側から見れば「なんだこいつら。二次元の愚痴をこぼして、それを拾ってゲームの話にすり替えるし
1人は完全無視でスマホいじってるし、1人はシュークリームに夢中だし。仲悪そー」と思うかもしれないが
ここの5人は仲が良い…とオレは思っている。
他の高校では普通ではないかもしれないが、ここ星之光高校では割とあるあるである。
星之光高校は、太陽之光学園、月之光学院の系列校である。3校を総称して「三光校」と呼ばれたりしている。
この三光校はそれぞれが特殊な高校で、太陽之光学園がスポーツに特化した高校。
東京ではいや、全国的にもスポーツ最強校とも呼ばれ、全国大会上位入賞常連校。
スポーツならどんな部活でも強い。そのため基本的にスポーツ推薦でのみ入れる特殊な高校である。
そのため学力はすこぶる低かったりする。
そして月之光学院。ここは芸能に関わる人が集まる高校。
小さい頃から芸能活動をしている現役の芸能人。芸能人の子どもなどが入る高校。
そして我が高校、星之光高校。ここは専門学校の集結のような高校である。
全国からその分野を目指そうとする者が集まってくる。先程
「変に成功を描きすぎなんだよ。わかるよ?サクセスストーリーが必要なのも。
でもリアリティーに拘るなら抜くなよって。わかる?」
というか今もなおマンガ、アニメ、二次元への愚痴をこぼしている庵は
マンガ、イラスト専門コースに入っている。庵は静岡県出身で星之光高校の寮で暮らしている。そして
「わかるわかる」
その庵の愚痴を笑顔で聞いている相手、誉繁(よはん)。
彼はゲームクリエイトコースに入っていて東京出身。実家暮らし。
「ごあぁ〜…。Super Visual(スーパー ビジュアル)とリリース日被ってるぞ。
これレーベル知ってんのかなぁ〜。つーかわざとか」
とスマホの画面と睨めっこしながら音楽のことしか話していない朱灯穂(ゆうほ)は
歌手コースで東京出身の実家暮らし。
「美味しかったです。ありがとうございます」
とパッケージのビニール袋にお礼を言う涼鈴は料理人コース。福岡県出身で寮暮らし。
そしてオレも涼鈴と同じ料理人コースに入っている。
オレも地方出身者。地元を地方と言ったら怒られるかもしれないが、一応北海道出身である。
クラス分けはそれぞれのコース毎というわけではなく、1クラスにいろいろなコースの生徒が集まっている。
専門分野だけでなく高校を卒業するまでの最低限の勉学もする。
そのため、普通の高校と同じように毎年クラス分けもあるし、同じコースの人もいれば違うコースの人もいる。
なので自然と仲良くなった友達が別のコースに所属しているということも珍しくない。
オレを含めた5人もそうだった。
涼鈴とオレが所属する料理人コースは比較的同じ料理人コースの人と仲良くなりやすい。
現在高校2年生で同じクラスだが、1年生の頃は涼鈴とは違うクラスだったが
同じコースで作業を一緒に進めたり、教えたり教わったりで仲良くなった。
しかしそれは料理人コースの話であって、庵が所属するマンガ、イラストコースは
庵曰くジメジメした、キノコを育てるキノコ菌だらけの部屋みたいなのだそう。
庵自身、現在アニメ化されているマンガだったりの悪口をめちゃくちゃ言う。
本人曰く「愛があるが故」らしい。それに他人の絵柄に嫉妬するし
自分が描くストーリーが一番おもしろいと思っているため
同じコースでは友達ができないらしい。というか本人は「ヲタクの友達はいらん!」らしい。
そして誉繁(よはん)。彼のゲームクリエイトコースも特殊で、というか誉繁の考えが特殊なのかもしれないが
「ゲームは仲良しこよしでも作れるけど、友達同士で作っているときに途中で方向性が合わなくなったり
拘る部分が違った場合、制作を進めているゲーム自体も嫌いになってしまうかもしれないし
ゲームを完成させられないかもしれない。1度制作を進めたからには
完成させ、披露する。ここまでがゲームクリエイターの責任だと思っているから
ゲームクリエイトコースに友達はいらないし、自分はゲームを作ることを楽しみつつ
周りの人は仕事の付き合いと割り切り作らないといけない」
ということで誉繁(よはん)はあえて同じコースに友達を作っていないらしい。
歌手コースの朱灯穂(ゆうほ)は周りが
「SNSで人気になる“道具の1つ”として音楽を“利用”している匂いがしてマジ無理。キモい。
歌うってのは歌詞を理解し、感情を込めて歌う。自分が楽しいから歌う。楽しむために歌う。
それを見てお客さんが楽しんでくれたらいいなぁ〜ってのが音楽の本質だろ。
人気になるためじゃねーんだよ。SNSでバズ…あぁ。吐き気がする。
地下アイドルでいいからキャーキャー言われたい?ふざけんな。マジキモい」
という理由で仲良くなりたくなかったらしい。
「あぁ〜…翔歩人(かあと)ぉ〜。なんか食わしてぇ〜」
とイスの背もたれに寄りかかりすぎながら背中を逸らしてオレに言う。朱灯穂の口癖である。
「あぁ〜…。ま、オレの分ならあげてもいいよ」
「え。待って。また彼女か」
と言う朱灯穂。その言葉に庵も誉繁も涼鈴もオレのほうを向く。
「出たぁ〜。翔歩人はオレと同じ小市民だ思ってたのに」
と言う庵。
「なん?小市民って」
「日常に波風を立てず平穏に過ごすことを好む人間のことだよ」
「またアニメネタ?」
と微笑む誉繁。
「そうに決まってんだろぉ〜。庵は二次元にしか興味ねぇんだから」
と言う朱灯穂。
「そうですが!?」
「じゃあなんで悪口ばっか言ってんだよ。いくら優しい誉繁でも、もう聞き飽きてるぞ」
苦笑いする誉繁。
「あんな?二次元に我々ヲタクは癒しを求めてるわけ。こんな世界ないよなぁ〜。
でももしかしたらこんな世界もあるのかも。って思ってるわけ。
前半の「こんな世界ないよなぁ〜」要素が強いのがマンガタイムサララね」
「知らんけど」
「古のマンガタイムサララのマンガはサララ独自の世界観で可愛い女の子のキャラクターばかりで構成されて
我々ヲタクは側から見守る。いわばモブとしてその世界に存在できさえすればよかったのよ。
でも最近のマンガとか…最近のマンガタイムサララの連載マンガもそうだな。
妙に「もしかしたらこんな世界もあるのかも」ってのが強いのよ。
でもそれが悪いわけじゃない。ヲタクに「この世界に生きる希望」を見出してくれるから。
でもね?その「もしかしたらこんな世界もあるのかも」要素ってのは脆くて、リアリティーがあるからこそ
リアルじゃない描写が見えたときに「あ、所詮はこんな世界はないんだ」と冷めるの。
ってなるとはなから「こんな世界ないよなぁ〜」って思って見てたものとは違って
モブでもいいから側でその世界を見守りたいってほどの愛はなくなるわけ。
だからこそ、オレは愛が故に悪いところを指摘してるわけよ」
「DV彼氏かよ」
「脳死で見てる二次元愛もないヲタクとは違うわけ」
「めんどくせぇ〜オタク」
「そんなめんどくさいヲタクいるなら見てみたいわ」
「誉繁〜メイクとか美容とかヘアメイクコースのやつから鏡借りてきてぇ〜」
と誉繁が鏡を借りてきて庵に向かって見せる。
「ほれ。めんどくさいオタクの姿だ」
「誰だこのブサイク。だからヲタクはダメなんだよ」
「でも翔歩人の彼女さん、料理うまくなったよねぇ〜」
と言う涼鈴。
「そうだねぇ〜。もうだいぶ長いし、熱心に聞いてくれるし」
と話しているとスマホが鳴る。
「着いたー」
とのメッセージだった。
「ヤベッ。待たせちゃう」
と呟いて
「すぐ行く!」
と返事を送って
「ちょ、出てくる!」
と教室を飛び出していく。
「美味しいやつ頼むぅ〜!」
と翔歩人に去り際に言う朱灯穂。走って階段を下りていき、先生がいたら歩いて昇降口へ行って
上履きを脱ぎ捨てて、自分の下駄箱からスニーカーを取って、踵を入れることなく正門のところへ向かう。
正門のところには赤く金色のラインが入った派手な制服の女生徒が立っていた。
ミルクティー色の彼女が翔歩人を見つけて無表情で手を挙げる。
翔歩人も踵を入れていないスニーカーでカクカクなりながら手を挙げる。
彼女がオレの好きな人。もとい彼女である。彼女は達磨ノ目高校2年生の流湖田(なこだ)真夜衣(まよい)。
「ごめん。待たせた」
「ううん。全然」
「じゃ、行こっか」
「ん」
真夜衣を連れて学校の敷地内へ入っていく翔歩人。
部外者が入るため、受付で名前などを書いてから校舎内に入る。
「焦らせてごめん」
と真夜衣が謝る。
「ん?いやいやいや。焦ってないよ」
「でも」
と真夜衣の視線の先には脱ぎ捨てられた上履きが。
「あぁ…」
となんとも言えず、下駄箱にスニーカーを入れて脱ぎ捨てられた上履きを履く。
真夜衣はスリッパを借りて校舎内を歩いていく。
目指すのは翔歩人が所属している料理コースの授業が行われる調理室。
言わずもがな星之光高校は専門分野を学ぶために各専門の授業が行われる部屋がある。
料理コースだったらまるでキッチンスタジオのような調理室。
歌手コースだったら音楽スタジオに防音室、レコーディングスタジオなど。
マンガ、イラストコースだったら液晶タブレット、通称液タブだったり
タブレットだったりが設置されているパソコン室のような部屋。
ゲームクリエイトコースだったらそこそこ高性能な外付けハードのパソコンが数台置いてあるパソコン室など
普通の高校ならない施設が揃っている。達磨ノ目高校のギャル感の強いオレの彼女、真夜衣。
そして庵にも言われた通り、マンガやアニメだったら“小市民”
静かで目立たない、いわばモブに近しい存在の星之光高校のオレ。
なぜオレが真夜衣と出会ったのか、そしてなぜ付き合うにまで至ったのか。
それは中学生の頃、そして去年、高校1年生にかけてのことである。実はオレと真夜衣は同じ中学出身だった。
中学生の頃から多少ギャル感があった真夜衣と
中学生の頃から静かで目立たない、いわばモブに近しい存在だったオレ。
中学2年、3年で同じクラスだったのだが、ほとんど関わることはなかった。
なんなら北海道出身で中学の頃から寮暮らしのオレは表面上の友達はいたが、親しい友達ができずに
卒業アルバムのお世話になった先生方や友達などからメッセージを書いてもらう部分は
まあまあなスペースが空いていたほどだ。そんなこんなで中学を卒業し、念願の星之光高校に入学。
真夜衣は達磨ノ目高校に入ったのだが、そのときは知りもしなかったし興味もなかった。
オレは星之光高校で朱灯穂や庵、誉繁に涼鈴といった「友達」ができた。
学校へ行けば朱灯穂や誉繁と会えるし、寮では庵と涼鈴と一緒。
大好きな料理も学べる。最高の高校生活で「彼女」とか考えることすらなかった。
それは夏休みだった。急に真夜衣からLIMEが飛んできたのだ。
達磨ノ目高校は行事を祭り事と呼んでおり、どこの高校よりも祭り事に力を入れている。
球技大会も球技祭、テストも教師陣は「赤点祭りにならないように」など冗談を言っている。
そして毎年とんでもない規模で行われるのが文化祭。
気合いを入れないと1日ではすべて周り切れないと言われるほど1つ1つの出し物に力を入れている。
その年の文化祭、私のクラスは「女装、男装カフェ」をやることになった。
女装、男装をするホール係、料理を作るキッチン係と分かれた。
もちろん私はホール係は嫌だったのでキッチン係になることに。
「ルビーちゃんの男装ヤバ!」
「え。ホストじゃん」
「円は生意気なマセガキ感強いな」
「誰がマセガキだ」
などと女装、男装をするホール係はウィッグ、制服、メイク道具などを調達すればなんとかなったが
厄介だったのがキッチンだった。先程も言った通り、うちの高校は1つ1つの出し物に力を入れている。
なのでたかが女装、男装カフェではダメなのだ。
ホールの女装、男装のクオリティーも、そして提供する料理のクオリティーも拘ることになった。
しかし、全員ただの高校生。料理に拘るといってもネットで
美味しい オシャレな料理 簡単
と検索して試行錯誤するくらい。予算もあるし、料理をしたことがある子もいたが
したことがあるといっても家庭料理レベル。もちろんそのレベルでもいいのだが
「もっと拘りたい!」
ということになり、そのことを同じ中学で今も仲の良い猿移木(さるすき)紗夜(さや)に電話で言っていたところ
「あぁ〜…なんだっけ。えぇ〜…ちょい待って」
「なに?」
「卒アル卒アルゥ〜…どこだぁ〜…」
「卒アル?」
「…あった。えぇ〜とぉ〜?…まよちゃんまよちゃん…。いた。
ぷっ。変んねぇ〜。もうギャルじゃん」
「うるさ。つか恥ずいからやめ」
「違う違う。あぁ〜…。あぁ!そうそう。堀野里(ほりのり)くん」
「…すまん。誰?」
「誰?…説明ムズいな…。堀野里(ほりのり)翔歩人(かあと)くん」
「フルネーム言われてもわからんて」
「うち、まよと1、2年とき同じクラスだったじゃん?」
「あん」
「2年とき同じクラスだった」
「え。そのほりのり…くんが?」
「下の名前忘れたろ」
「ビンゴ」
「3年ときはまよと同じクラスよ」
「マジか。クラスLIMEにいるかな」
「いるんでね?」
「で?その子がどしたん?」
「堀野里くん小学生のときから行く高校決めてて
今、星高(ほしこう)(星之光高校の略称)行ってるらしくて、なんと…料理人コースらしいです」
「お、へぇ〜。小学生から。すごいな。…で?」
「で?って。料理人コースなんだから、文化祭で出す料理教えてもらえばいいじゃんって話じゃん」
「えぇ〜。話したこともないのに?」
「そこはほらぁ〜。ギャルのマインドで」
「私ギャルの自覚ねぇけど」
「ナイスバディでおっぱいとか使って」
「胸もデカくねぇけど。あとそーゆーのは好きな人にしか使いたくねぇ」
「それな!!」
「うるさっ。音割れてんのよ」
「でもクラスLIMEにいるんだろーし、LIMEしてみるだけしてみたら?」
という紗夜のアドバイスで初めて翔歩人にLIMEをした。
初めて届いたLIMEは意外なものだった。
真夜衣「おひさしぶりです。覚えていないでしょうが
中学3年生のとき同じクラスだった流湖田(なこだ)真夜衣(まよい)です。
急にLIMEすいません。大丈夫でしょうか?」
というものだった。一瞬誰かわからなかった。
卒業アルバムを出して流湖田(なこだ)真夜衣(まよい) を探してビックリした。
「え。ギャルってこんな丁寧なん?」
と。そして返事をすると
真夜衣「堀野里くんは星之光高校の料理人コース?とやらに入ったと聞きましたが本当でしょうか?」
と聞かれたので「本当です」と誰から聞いたんだろうと疑問に思いながらも返事をすると
真夜衣「私、達磨ノ目高校に入りまして、文化祭に出す料理を拘りたいという話になりまして
もしよかったら話を聞けたらなと思ってLIMEしました」
とのことだった。正直、人に教えるなんてレベルじゃないし
百歩譲って自分の料理を人に食べてもらえる機会があるとしても
人に教えて、それをどこまで再現できるのかもわからない。
しかも中学では関わったことのない、なんならこれからの人生でも
おそらく関わることのないギャルという人種。丁寧に断ろうと思った。しかし朱灯穂の
「翔歩人ぉ〜。なんか食わせてぇ〜」
というセリフと庵と涼鈴の寮で夜更かししてお腹が空いてカップ麺を3人で食べたときの美味しさと
朱灯穂と誉繁に放課後料理を作って2人がその料理を食べたときの笑顔を思い出して
翔歩人「自分でお力になれるなら」
と送っていた。
「自分でお力になれますか。よかったじゃん」
と紗夜に言われたが
「料理ってどこですんの?」
という問題が浮き彫りになった。
「え。そりゃキッチンでしょ」
「それは知ってるわ。どこのキッチン使うんだって話」
「あぁ〜ね。まよん家(ち)は?」
「え。ふつーに嫌くね?」
「まあ嫌か」
「たぶんママが嫌がるし」
「じゃー向こうの家は?ってそうか。寮暮らしなんか」
ということを翔歩人に相談したら
翔歩人「じゃあ、うち高校でどうでしょう?」
とのことだった。
オレは事前に調理室を使う申請をして真夜衣と会うことにした。
変に緊張した。変にオシャレをした。どうせエプロンをするのに。
星之光高校の正門前で待ち合わせで、早めに行ったのにも関わらず、正門にはもうすでに真夜衣が立っていた。
ヤバッ。待たせてる!
と思って走って行った。するとその走っている気配に気づいたのか真夜衣が翔歩人のほうを見た。
ペコッっとお辞儀をする真夜衣。翔歩人もペコッっと頭を下げる。
「すいません。お待たせしてしまって」
「あ。いえ。全然」
「こちらです」
と一緒に高校の敷地内を歩いていく。受付で名前などを書いてスリッパを履いて校舎内に入る真夜衣。
翔歩人も夏休み中に校舎内に入るのが新鮮で少しウキウキしていた。調理室に入る。
「うわぁ〜。すごっ」
無表情であまり「すごっ」っ思っていないように見えるが、これでもちゃんと「すごい」と思っている真夜衣。
「事前に送っていただいたメニューの中で、どれにするか、そしてどう美味しく作るかですよね」
「あ、はい。お願いします」
「あ、座ってください」
と言われ、イスに座る真夜衣。
「じゃあぁ〜…」
と言いながらホワイトボードを持ってくる翔歩人。
「えぇ〜っと。…オムライス…ナポリタン…」
とスマホの画面を見ながらホワイトボードに書いていく。
「こんな感じですかね?」
とホワイトボードに書かれたメニューを見て頷く真夜衣。
「そうですね。カフェということですよね?」
「はい」
「となるとガッツリ食べたいお客様も獲得したい。でも女装、男装もメインに据えたい。
ということは回転率を良くするために軽く食べられるメニューも置いておきたい。…なるほどなるほど」
という翔歩人の言葉を頭の中で噛み砕いて
あぁ〜なるほど。こいつ頭良いんだな
と思う真夜衣。
「そうですね。メインメニューを2つ。サブメニューを4つ。デザートを3つ。
ドリンクを5種類ほどでいかがでしょう?」
と問われて
いかがでしょう?と言われてもなぁ〜…
と思う真夜衣。
「メインメニューは拘って、でも簡単に作れるメニューにして
種類の多いサブメニューやデザートは既存の商品だったりを使って簡単に多く出せるようにして
飲み物はもちろん既存の商品をお出しする。
こういう感じだったら高校生でも、料理を普段しない方でもこなせるんではないでしょうか?」
「なるほど?とりあえずそう伝えてみます」
と言って真夜衣は今翔歩人に言われたことをすべて覚えている…わけはなく
「…なんでしたっけ?」
と翔歩人に聞きながらクラスLIMEにそう流した。
「じゃあ、メニュー数やメニューをどうするかはまだ決まらないと思うので、今日は包丁の扱い方。
…まあ、だいたいの料理に使われる食材の切り方などを実際にやって覚えてもたいた…」
と言いながら翔歩人は真夜衣の爪を見た。長い派手な付け爪。
あれじゃ〜包丁は無理か
と思い、パンッっと軽く手を叩いて
「今日は僕がどんな風に切るか、などをお見せします。
簡単にオムライスとか作りましょう。アレルギーとかはないですか?」
と真夜衣に体験してもらうのは諦めて、自分が実演することにした。
「あ、アレルギーはないです」
「わかりました。メニュー候補にありますし
おそらくオムライスはメニューに入れたいと思うと思いますので、オムライス作ってみますね」
と翔歩人がオムライスを作る。
「うわ。手際良いぃ〜」
「ありがとうございます。あらかじめ電子レンジで軽く加熱することで涙は出にくくなります」
「へぇ〜。すげぇ」
「卵はトロトロがいいですか?固めがいいですか?」
「あの包丁でスパッってしたらトロォ〜ってやつできます?」
「あぁ〜。やったことはないですけどたぶんできると思います」
と翔歩人がオムライスを作り上げ
「こんな感じですね。じゃ、失礼します」
と包丁で切ろうとしたら
「あ、ちょっと。みんなに見せたいんで動画撮っていいっすか?」
「みんなに見せたいから…。あ、はい」
とスマホを準備する真夜衣。その姿を見て
SNSに投稿したいから。ではないんだ。
ま、単純に素人の料理だからSNSには投稿したくないだけかもしんないしな
と思った。真夜衣のスマホがピコンッ。っと鳴って、真夜衣が無言で「お願いします」と手で促す。
翔歩人も無言で了承してオムライスの玉子を切る。すると糸が切れた人形のように、爆破解体のビルのように
支えがなくなり中からドロドロドロォ〜と半熟の卵が流れ出た。
「うおぉ〜」
思わず声が出て手で押さえる真夜衣。その様子を見て思わず笑顔になる翔歩人。
もう一度ピコンッっ。という音がしてスマホをしまい
「ありがとうございます」
とお礼を言う翔歩人。
「では冷めないうちにどうぞ」
と翔歩人が言うと
「え。なんも書いてくれない感じ?」
と言う真夜衣。
「あぁ〜…そうか。男装、女装カフェですもんね。なんか書くか。普通。
でも卵にも軽く味つけちゃったし、中もケチャップライスだから…」
と言いながらもケチャップの容器を持ち、蓋を開け
「これくらいならいいか」
とオムライスにハートを書いた。
「おぉ。ハートか。いいね」
と微笑み、親指を立てて「GOOD」の代わりに指ハートをした真夜衣。
「あ」
別にハートに深い意味はなかったが、初めて微笑んだ真夜衣にどこか心が動いた気がした翔歩人。
「じゃ、いただきます」
長い爪の手を合わせてスプーンを持つ。
持ちづらそうぉ〜
と思う翔歩人。口へ運ぶ。思わず目を見開く真夜衣。
「…おいしっ…」
呟く。ほっっと胸を撫で下ろす翔歩人。スプーンが止まらなくなる真夜衣。
その様子を見て、もちろん嬉しかった翔歩人だが、それよりも
美味しそうに食べるなぁ〜
と思った。ペロリと完食した真夜衣は
「ご馳走様でした」
と手を合わせた。
「完食していただきありがとうございました」
翔歩人もお礼を言う。
「めちゃくちゃ美味しかった」
「よかったです」
「ま、作れる気はしないけど」
という真夜衣にクスッっと笑う翔歩人。
「大丈夫です。作れます。僕が教えますんで」
と笑顔で自分の胸に手をあてる翔歩人。
「…ん」
自分の手を見る真夜衣。食洗機にお皿を入れて調理室を出る。
昇降口で外履きに履き替え、真夜衣はスリッパを返し、正門まで歩く。
「送ってかなくて大丈夫ですか?」
「ん?あぁ大丈夫大丈夫。この後友達と約束あるから」
「これからですか?もう夕方近いですけど」
「自慢するわ。美味しいオムライス食べてきたって」
と軽く笑う真夜衣に明確に心が動く翔歩人。
「あ、いや」
「じゃ、先生。今日はありがとうございました」
「先生って」
「料理の先生じゃん」
「まあ…そういうことになるのか」
「じゃ、またLIMEする」
「はい。お気をつけて」
と言って真夜衣は帰っていった。
「見たぞぉ〜。誰だあれ」
寮に帰ると翔歩人の部屋の前で庵と涼鈴が座っていた。庵は涼鈴に貰ったらしい小さなエクレアを食べていた。
「中学の同級生だね」
「彼女か」
「まさか」
「翔歩人も食べる?」
と涼鈴が小さなエクレアの入った袋を差し出す。
「じゃあ」
とエクレアをもらい部屋に入る。もちろん庵も涼鈴も入ってくる。
「なんでうち来たの?転校でもしてくんの?」
「いや。流湖田(なこだ)さんっていうんだけど、流湖田さん、達磨ノ目高校に通ってるんだけど」
「達磨!うわぁ〜…パリピの集団。相容れねぇ」
「で、達磨の文化祭で出す料理の相談されて。あ、涼鈴もよかったら手伝ってほしい」
「ん?全然いいけどぉ〜?」
と話していると
「はいはい!リア充は爆発してもろて」
と区切る庵。
「だから違うって」
「それより今日も夜、朱灯穂と誉繁とゲームするぞ」
「またぁ〜?誉繁が遊びながらボコボコにするから嫌なんだよ」
「大丈夫。今日は点呼後に全員集まって、3対1対1でやるから」
「あ、朱灯穂は1人なんだ。可哀想に」
なんて話していて何気なくスマホを確認すると
真夜衣「今日はありがとう。動画クラスのみんなに見せたら騒いでた。
あとメニューなんだけど動画見せたらオムライス入れたいって話になった。
他はまだ決まってないけどこれから話し合う予定。
友達にもこんなオムライス食べてきたって自慢したらめっちゃ羨ましがってた。
ごめんだけどこれからもよろしく」
とメッセージが来ていた。翔歩人はそれに返信をして、真夜衣とまた会う日まで何気ない日を過ごした。
調理室を使う申請を出して星之光高校の正門待ち合わせ。
早く行ったつもりがまた真夜衣が先に着いていて、小走りで向かう。
受付で名前などを書いてスリッパを借りて校舎内に入り、調理室へ向かう。
「メニューまだ決まってません?」
「うん、まだ。オムライスは満場一致で入れるってなったんだけど。あの先生の動画見せたら」
「あぁ」
「でも他がまだ。飲み物は大方決まったけど」
「じゃ、今日はとりあえずオムライスの作り方」
と言ったところで
あ、そうか。流湖田さん、ネイルしてるから…
そうだ。ネイルしてる人でも持ちやすい包丁の持ち方とか切り方調べてたんだった…どこだったっけ?
とスマホを出して操作していると、スッっと翔歩人の横に来た真夜衣。
「まずは?手洗うとこからだよね?」
とシンクの横のまな板を置いたり具材を置いたりする調理台と呼ばれるスペースに両手をついている真夜衣。
「あぁ。そうですね」
と言ってスマホから真夜衣を見るまでの視線の道中で、調理台に置いてある真夜衣の手が見えた。
あの長い爪ではなくなっていた。
「あれ。爪」
思わず声に出た。
「あぁ。ま、単純に?」
と自分の爪を見ながら言う真夜衣。言葉足らずではあったが翔歩人にはそれでも嬉しかった。
「手洗って、ゴム手(ゴム手袋)つけましょう」
「手洗うのに?」
「はい。ま、今回はそんなことないんですけど
お肉とかって、脂身が手の温度で溶けちゃったりすることもありますし
丁寧に手洗うと案外滑りますし、あと単純に手荒れしちゃいますから。
手荒れした手で料理作られるのも嫌でしょ?」
「まあ。たしかに」
とオムライスの作り方を真夜衣に教えた。ゆっくり丁寧に翔歩人がお手本を見せて、真夜衣がマネして。
「ムズい…。普段料理しない私にはレベルが高すぎる…」
とケチャップライスを作ったところで休憩を挟むことにした。
「そうですよね。普段しないことをすると疲れますよね」
「うん…。つかごめん。普段しないって言ったら先生も教えることないもんね。ごめん」
「え。いやいやいやいや。僕は全然。僕なんてまだまだ。本当は人に教えるなんてレベルじゃないんですけど
自分の料理を作って食べて人が幸せになってくれるならって、ただそれだけの想いなんで」
「…いや、充分立派っしょ」
「え。そうですか?」
「私そんな目指すものも好きなこともないし…」
「じゃ、これを機に料理することにしたらどうですか?」
「えぇ〜…。ま、でもママの助けになるか」
「そうですね」
「じゃあ」
真夜衣が翔歩人を見て
「先生がこれからも付き合ってくれんなら、料理続けるわ」
と微笑みながら言った。
「あっ…。まあ、自分でよければ…」
「マジで?いや、自分の料理もあるだろうし、無理しないでいいよ」
と言う真夜衣にどう返していいかわからなかった翔歩人。
「あ、そうだ!今回はケチャップライス作ったとこまでにしておいて、卵なんですけど…」
とフライパンを2つ同時に温め始め
「固めの昔ながらのオムライスと、こないだみたいなトロトロだとどっちがいいでしょう」
と言う。
「んん〜…。たぶんみんなはあのトロトロやりたいんだと思う。あの動画見せちゃったし」
「そうですよねぇ〜…」
と言いながらフライパンに手をかざし、温度を見る。卵を解きながら
「でも最終、ケチャップでなにか描きたいなら固めがおすすめです」
と言う。
「あぁ〜そうか。トロトロだと描きづらいか」
「そうなんです」
と話しながらフライパンに油をしいて、フライパンに卵を流し込む。
「あとは卵をどう解くかーとかもあったりします」
「どう解くか?」
「はい。ま、空気入れるように解くのは共通のなんですけど
よくオムライスって均一に卵を解くのが正解みたいに思われてますけど
あえて黄身と白身を均一に混ぜないことで
食べるところによって白身部分とか黄身部分とか違って美味しかったりもするんですよね」
「へぇ〜。食べたことない」
「すいません。今はめっちゃ均一化しちゃったのでまた今度」
「うん。楽しみにしてる」
「あ、…はい」
「てかスゲェな先生。喋りながらできるんだもんね」
「まあぁ〜…。これでも一応料理人目指してますんで」
と2つのフライパンを起用に使いこなし、片方は固めの昔ながらのオムライス
片方はトロトロオムライスを仕上げた。
「先生、ハート描いてよ」
と真夜衣に言われてハートを書く翔歩人。
「まあ、たしかにトロトロはケチャップないほうが見栄えはいいかも」
「そうなんですよ」
「そうだよね。ハートとか書くんなら固めのほうがいいよね」
「たぶん描きやすいですし、…うん。そうですね」
という感じで夏休みの間、真夜衣とメニューについて話し合って料理の練習などもしていった。
メニューも決まり、あとは料理の練習のみ。
「だいぶ上手くなりましたよね」
「先生のお陰。ありがとうございます」
「いえいえ」
「まさか私が野菜を切るのが楽しいと思える日が来るとは」
「上手くなってるのがわかると楽しいですよね」
「でも人に教えるなんて無理だしなぁ〜…。あ、先生今度うちの高校(達磨ノ目高校)来てよ」
「え」
「キッチン係全員集めるから、教えてあげてほしいんだよね」
「あぁ…。まあ、そうですよね。流湖田さんがうまくなってて勝手に嬉しくなってましたけど
そっか…。目的は文化祭ですもんね。そうか…」
「…。そうなんよ。だから、ま、もちろん先生の日程に合わせるし」
「…わかりました。でもなんか緊張するな…」
「大丈夫大丈夫。私に教えてくれたように教えてくれればいいから」
「はい。…あ。友達も連れていっていいですか?同じ料理人コースなので」
「あ、うん。ありがたい」
ということで日程を合わせて翔歩人は涼鈴を連れて達磨ノ目高校へ赴いた。
真夜衣と涼鈴が初めましての挨拶を済ませ、達磨ノ目高校の家庭科室へと行った。
そこにはキッチン係の十数人の私服の生徒たちがいて、その達磨ノ目高校の生徒に教えることとなった。
まるで翔歩人と涼鈴が料理学校の先生のように。
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
終わりの挨拶もまるで料理学校…よりも体育会系のような挨拶だった。
そこから数回、翔歩人と涼鈴は達磨ノ目高校へ行って料理を教えた。
そして達磨ノ目高校の文化祭が明日へと迫った。真夜衣から達磨ノ目高校の文化祭の招待券を貰っていて
仲の良い朱灯穂と庵、誉繁に涼鈴の5人で行くことになった。
「あぁ〜!ようやく翔歩人のオムライス地獄から解放されるぅ〜!」
と伸びをする庵。
「悪かったって」
「なんであんなほぼ毎夜食オムライスなん?」
「いや、たまにオムそばにしてたじゃん」
「あんな卵ばっか食わされてたら卵アレルギーなるわ」
「未来の料理人のうまい卵料理食べれただけでありがたく思え!」
と翔歩人は自分の枕を庵に投げた。
「まあ、美味かったけどな?たしかに」
「てか明日どうすん?」
「ん?」
「現地集合?ま、オレたちは寮から一緒に行けるけど、朱灯穂と誉繁」
「あぁ…。聞いとくか」
ということで達磨ノ目高校の文化祭当日を迎えた。5人で達磨ノ目高校の文化祭へ足を運んだ。
「うえぇ〜…マジ?」
「スゴいね…」
「レベルが違う…」
5人とも達磨ノ目高校の文化祭のレベルに言葉を失った。他の高校の文化祭がお遊戯に思えるほどのお祭り。
野外ライブも本格的なフェス状態。外の屋台もお祭りの屋台のそれ。
校舎内もクイズ大会などもあって、そのクイズ大会もまるで番組。
単純なビンゴ大会もあるが、そのビンゴ大会に出場するまでの道のりなんかもあって
その道のりを経て出場できるビンゴ大会の景品が、1位はゲーム機だったりとかクオリティーが桁違いだった。
文化祭定番のお化け屋敷なんかもあったが、某アクティビティ施設の世界一怖いと言われるお化け屋敷のように
途中でリタイアができるシステムになっており、お化け屋敷の呼び込みの人が
「リタイア続出!あなたはゴールできますか!?ぜひどうぞぉ〜」
と言っており
「あれ、呼び込み逆効果じゃね?」
と朱灯穂が言い、しかしお化け屋敷の行列に並んで
結局ゴールできずにリタイアしたりとまるで遊園地に来たかのように楽しんでいた。
「そろそろ休憩するか」
セリフもおのずと遊園地に来たときのようなセリフになる。
そして休憩のため真夜衣のいる男装、女装カフェに5人で入った。
入るまでは例に漏れず行列で、並んでいるとき女性が
「ここめっちゃイケメンがいるらしい!」
「でも男装、女装カフェだし女の子なんでしょ?」
と話していた。いざ入ると
「いらっしゃいませ」
と出迎えてくれたのが金髪の目が蒼い、日本人とかかけ離れたイケメンだった。
他の女性客の視線を独り占めしており
「5名様ですね」
と案内してもらったが、他の女性客がその所作1つ1つを目で追っていた。
イケボ(イケメンボイス)を出そうとしているものの、声はさすがに女の子だとわかる声だった。
「ヤバッ。オレよりイケメンじゃん」
「朱灯穂は自分に自信あるよねぇ〜」
他にも耳がピアスまみれの背の小さい、元気系のイケメンもいた。
女装はギリ似合っている男子もいれば、あぁ、マスコット的なネタ枠ね?という男子もいた。
メニュー表もイチ文化祭とは思えないほどのクオリティで
「うわっ。オムライス。無理無理。たぶんもう1食食べたらアレルギーになるわ」
とか言いながらそれぞれメニューを決めて注文をした。
その金髪碧眼のスタッフさんがメニューを取ってくれて、それをキッチンへ伝えに行った。
「まよぉ〜」
「ん?どしたルビー様」
「あれあれ」
「ん?」
キッチンとホールの仕切りのカーテンからホールを覗く。
「あれってまよの、ってか料理教えてくれた先生でしょ?」
「あ。ほんとだ」
「オムライスのご注文だったので…よろしく」
「はいはい」
真夜衣は翔歩人に教えてもらった通り作り上げ
「ほらほら。エプロン取って」
「…ありがと。うたいー」
「あんまありがとう感ないね」
とエプロンを取らされて
「いってらっしゃい」
とホールへ出される真夜衣。
「え。あんなイケメンもいたんだ?」
「ヤンキー系?」
「いや脱力系じゃない?」
と他の女性客が騒つく。
「お待たせいたしました。オムライスです」
そのイケボのイの字も出そうとしないその声を見上げる翔歩人。
「え!?もしかして流湖田さん!?」
「…そ」
「え。なんで男装してるんですか?」
「…似合ってないでしょ」
「いや…僕よりは遥かにイケメンですけど…。なぜ?」
その問いには答えずにオムライスにハートを書く真夜衣。
「どうぞ」
「あ、どうも」
そのまま立ち去ろうとする真夜衣をルビーと円が翔歩人たちの席の側へ戻す。
「戻ってきた」
と呟く誉繁。食べる翔歩人。写真を撮る涼鈴。その写真に
「「イエイ!」」
とノリノリで入るルビーと円。
「…」
少し不安気な真夜衣。翔歩人はスプーンを置いて真夜衣を見上げ
「めちゃくちゃ美味しいです」
と笑顔で言った。
「よかった」
不安な顔が解れた真夜衣。
「じゃ、楽しんで。新茶礼(さらい)さんも、他の皆さんも」
「あ、うん。美味しいよぉ〜。ありがとぉ〜流湖田さん」
庵も朱灯穂も誉繁もお辞儀をする。
「すいません。私もあの方にハートを書いてもらいたいんですけど」
と他の女性客がルビーにそう言う。ルビーは
「すいません。あのキャストはウルトラレアなキャラで、あのお客様限定みたいなものなんですよ」
と言った後
「私じゃ…ダメでしょうか」
と憂いを帯びた目でお客様に言う。
「全然!お願いします!」
お客様はメロメロである。
「よかったぁ〜「合コン行ったら〜」見といて。
リアルで役立つことがあるとは思わなんだ。ありがとう蘇芳(すおう)さん」
と呟いていた。
「いやぁ〜!楽しかったぁ〜!」
「てかめっちゃ疲れた」
「わかる。これが達磨の文化祭…。日本一かもという噂は伊達じゃないわけか」
「明日最後打ち上げ花火するらしいよ。見に来る?」
「いいねぇ〜見に来ようぜ」
「打ち上げ花火?シルフィーランドじゃん」
ということでその日は帰り、次の日全員疲れで昼過ぎまで寝ており
夜、達磨ノ目高校の文化祭が終わる頃に達磨ノ目高校の文化祭へ参加した。
真夜衣たちもギリギリまでお客さんをさばいて、ようやく花火を見に行けることになった。
「円!」
「はい!」
「詩衣!」
「はい!」
「私たちはまよの知り合いを探す!」
「「はい!」」
「いや、いいって」
「こんな人多かったら探しづらいでしょ」
「うちも参加しまぁ〜す」
「私も!」
「「私たちも」」
ギャル2人と海外の顔が瓜二つな女の子2人が参戦してきた。
「おぉ紗夜(さや)。あ、こちら私の中学の同級生で」
「猿移木(さるすき)紗夜です!よろしく!
でこれがうちの今のクラスメイト、小木樽(おぎだる)夜瑠(よる)です!」
「小木樽夜瑠です!よろしくお願いしますっ!」
「んでこの2人もうちのクラスメイト」
「百噛(ももがみ)ルナです」
「百噛ニナです!」
「よろしくお願いします。よしっ。捜査員がすごい増えたところで。
まよ。お連れさんはどこらへんにいるって?」
「あぁ〜…。えぇ〜っとね」
「花火大会さながらの混み様」
と呟く誉繁。
「それなぁ〜。翔歩人ぉ〜。なんか聞いてないの?穴場とか」
「あぁ〜。どうだろ。聞いてみるか」
とスマホを出すと真夜衣からちょうど電話が来た。
「あ、もしもし?」
と言うと服を掴まれ
「うおっ」
っと引っ張られる。
「見ぃ〜つけた!」
円が翔歩人を見つけて校舎内のほうに連れていく。
「はいぃ〜家庭科室ぅ〜行ってらっしゃーい」
と言われて背中を押される。翔歩人はスリッパを履いて校舎内を歩く。
家庭科室には「入ったらコ○す。はい!回れ右!」と書いた紙が貼ってあったが
「行って」と言われたので一応ノックして入る。すると窓際にスマホをいじっている真夜衣がいた。
「失礼しま〜す」
「お。来た」
「うん。来させられた?的な?」
「来たくなかった?」
「いやいやいやいや」
翔歩人はなぜそんなにも否定しているのか自分でもわからなかった。
「そっか…。ここから花火」
「ん?」
「穴場ですか?」
「穴場…。いや、校舎の屋上から上げるらしいから、微妙に見える花火と見えない花火がある」
「あ、そうなんですね」
2人の間に沈黙が訪れる。
「あ!オムライス!めっちゃ美味しかったです」
と翔歩人が口を開く。
「そっか。よかった。先生のお陰。ありがと」
「いえいえ。流湖田さんの努力の賜物です。
よく料理は気持ち!とか心を込めたら美味しくなる!とか言いますけど、結局は技術ですから。それと知識。
いくら気持ちを込めても焦げは美味しくないし
砂糖と塩を間違えた料理なんてお世辞でも美味しくないですからね」
と言う翔歩人。その言葉にクスッっと笑う真夜衣。
「そんなこと言う料理人いるんだ」
と言った後に真夜衣はグッっと翔歩人に詰め寄って
「私の気持ちは入ってなかった?」
と言った。
「…え?」
「あのオムライス、気持ち込めて作ったんだけど、意味はなかったってこと?」
と少し怒ったような、少し寂しそうな顔をする真夜衣。
「あの…」
「私先生のこと好きになっちゃったんだけど」
そう言われたときオレの心臓は止まったように、でもとてつもなく早く動き始めた。
そう言ったとき私は、すごく緊張していた。翔歩人の気持ちは1つもわからなかったし
文化祭が大成功した変なテンションで言ってしまった感も少しあった。
「…流湖田さんのオムライスだから…」
「…」
「流湖田さんが作ってくれたオムライスだったから美味しかったの…か…な?」
「ん?はっきり」
翔歩人は生唾を飲み込み、覚悟を決め、しゃんと立って
「僕も…。僕も流湖田さんが好き…かも…しれない…です」
「好きかもしれない?」
「今まで料理しかしてこなくて、中学でもろくに友達もできなくて
高校で初めてと言っていい友達ができて、流湖田さんに料理を教え始めて
最初はギャルが気まぐれで、学校行事のために仕方なくなんだと思ってたんですけど
二回目にうちの高校来たときに、ネイルしてないのに気づいて
あぁ、なあなあにやるつもりはないんだなって。それが嬉しくて。
料理がどんどん上手くなっていったのも嬉しかったですけど
それよりも流湖田さんの心がどんどん解れていっている気がして、それが嬉しくて。
流湖田さんあんまり表情に出ない人だけど、そんな流湖田さんが笑った顔、悔しそうな顔、疲れた顔
そんないろんな流湖田さん見てるうちに、なんか別の気持ちが湧いてきて…でもこれが好きっていうのかが」
と翔歩人が思い出しながら嬉しそうに
でも明確化できないのが申し訳なさそうに言うと真夜衣が1歩翔歩人に近づいて
「そっか。先生は料理はプロ並みでも恋愛は初心者か」
と少しイタズラっぽく言う。
「その気持ち、私以外の女の子にはない?」
「ないです!」
「昨日接客してたルビーって子にも?」
思い出す翔歩人。
「金髪の?」
「蒼い目の」
「…あぁ。はい。まあ、男装してましたけどね」
「ま、それもそっか」
と言った後
「じゃ、恋愛は私が教えてあげる」
と真夜衣が翔歩人に顔を、唇を近づけていった。花火が打ち上がった。
「おい花火始まったぞ」
「翔歩人トイレ長っ。つかトイレなら言えよな?」
「…」
二次元大好きっ子クラブ毒舌部部長の庵は何かを嗅ぎ取り
「この花火の合図であのギャルとキスとかしてたら、寮帰ってから処す」
と呟いた。
「ほら。こっからは真上の花火は見れないの」
「たしかに。でも綺麗ですよ」
「これからも料理教えてくれる?」
「教えてほしければいくらでも」
「会えるしね」
「っ!…そっ…そうですね」
というのがオレと真夜衣が付き合い始めたキッカケである。
そして高校2年生になった今でも真夜衣はうち、星之光高校へ来て、オレが料理を教えているのである。
「でも随分うまくなったよね」
「翔歩人のお陰だよ」
調理道具を片付けながら喋る。床が濡れており
「うおっ」
っと真夜衣が転けそうになったので翔歩人が咄嗟に手を伸ばす。
キッチンの調理台と呼ばれるスペースにギリギリ頭をぶつけずに済んだ真夜衣。
「大丈夫?」
「うん。ありがと」
「ううん」
離れようとする翔歩人を真夜衣が翔歩人のネクタイを掴んで引き留める。
「あのさ…調理室ってオレにとってというか、料理する人にとっては神聖な場所なんだよね?」
「うん」
「だから…」
「だからいいんじゃん?」
「うっ…」
反論はできなかった。
「恋愛については私が教えてあげるって言ったじゃん。ま、私の恋愛経験」
と言ったところで翔歩人は耳を塞ぐ。
「聞きたくない!真夜衣の過去の彼氏とか聞きたくない!」
と言う翔歩人。
…ま、私も恋愛経験ないんだけどって言おうとしたんだけどな…
と思いながらも真夜衣は翔歩人の両手を耳から外す。
「聞きたくないなら塞げばいいんじゃない?」
「え?」
オレと真夜衣の
という 恋の話。
私と翔歩人の