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「じゃあ、行ってきます」


「いってらっしゃい九条さん」


「九条。みやげだ! みやげを忘れるな! 出来れば酒がいい!」


 ソフィアとカイルに手を振り返し、馬車は王都スタッグへと走り出す。

 コット村からベルモントを経由して北上する四日間の旅路。

 幌付きの旅客用馬車で快適といえば快適なのだが、ちょっとした段差でも馬車が跳ねるので、結構尻に響く。

 まあ、デスハウンドの背中よりはマシだ。

 馬車の中にはバイスとネストと俺とミア。もちろんカガリも一緒だ。

 カガリはミアを乗せて馬車と並走していたのだが、すれ違う人全てがカガリを見てビビってしまうため、車内へと入ってもらった。

 丸くなるカガリの上に覆いかぶさり、モフモフを堪能しているミアは幸せそうである。


「ねえ九条。あなた私の誤解は解いてくれたのよね?」


「ええ。もちろん」


「じゃあ、なんで私はこんなにも威嚇されてるのかしら?」


 カガリは常にネストを睨んでいて威嚇というほどではないものの、警戒はしている様子。

 ミアにもカガリにも、あれはミアを守るためにやったことなのだと説明して誤解は解いておいた。


「知りませんよ。個人的に嫌いなんじゃないですか?」


「ええ……。私もモフモフしたいんだけど……」


 そう言ってネストが手を伸ばすと、カガリは牙をむく。


「グルルルル……」


「ハハハ……。見事に嫌われたなネスト」


「笑い事じゃないわよ……」


 ミアを羨ましそうに見つめるネスト。カガリがまるで高級なソファのように見えているのだろう。

 多少の皮肉を込めて、カガリに寄りかかる姿をネストに見せびらかす。


「主は重いので止めてください」


「あっ、はい……」


 平均的な体型ではあるのだが、大人の体重は厳しいようだ。


「そうだ九条。これをカガリの首に掛けておきなさい」


 ネストが差し出してきたのは、ギルドで貰えるプレートと同じ物。

 だが、見たことのない色だ。


「なんです? これ」


「それはアイアンプレート。|獣使い《ビーストテイマー》専用のプレートで、使役する従魔に付けておくものよ。それを首に掛けておけばカガリも街に入れるわ」


「おにーちゃん貸して。私がやるう」


 隣から伸びてきた小さな手がそれを受け取ると、ミアは嬉しそうにカガリの首に腕をまわす。

 それを大人しく見守るカガリであったが、どう考えても魔獣サイズではないため、短めの紐が若干窮屈にも見えた。

 すると、御者が振り向き申し訳なさそうに声を上げる。


「すいません。ゴールドの方。どちらでもいいのでプレートを貸していただけますか?」


「ああ、そうだった。俺のを渡すよ」


「ありがとうございます。助かります」


 首にかけていたゴールドプレートを御者に渡すと、それを馬車の幌についていたフックの部分にぶら下げる。

 日の光と僅かな風を受けながら、キラキラと輝くゴールドプレート。


「あれは何を?」


「盗賊除けだよ。見える位置にプレートを置いて、この馬車には冒険者が乗ってますよってことをアピールしてるんだ。シルバー以上なら結構効果あるからな」


「なるほど……」


 確かに強い冒険者が乗っている馬車は襲わないだろう。結構考えられているんだなあと感心する。

 荷物にもよるが、基本的に馬車を使い長距離移動するときは、冒険者の護衛を付けるのが一般的らしい。

 客として冒険者が乗る場合は、護衛も兼ねているようで、割引も効くとのこと。


「それよりバイス。あの件はどうなったの?」


「ん? ああ。多分ダメだな」


 なにやらもったいぶった言い方をするので聞いてはいけない話なのかと思い、一応断りを入れる。


「あ、聞かれちゃまずい話でしたら、外出てますけど?」


「いや、大丈夫だ。話ってのはニーナの事だからな」


「ニーナさんがどうかしたんですか?」


「こう言っちゃ悪いが役に立たなかったからな……。俺はまあ、経験が浅かったから仕方ないと言ったんだが、シャロンが酷く怒っていてな。多分降格になるだろう」


 ダンジョンでシャドウ相手に戦っていた時のことだ。遠くから見ていたが、確かにニーナの動きは悪かった。

 降格ということは、シルバーからブロンズへと格下げになるのだろう。


「じゃあ、担当は外れるの?」


「だろうな。まあ見え見えのパワーレベリング目的だから仕方ないっちゃ仕方ないが……」


 バイスは両手をヒラヒラとさせると、諦めたように首を振る。


「パワーレベリングってのはなんです?」


「自分の評価を上げるために格上の冒険者の担当になることよ」


「そう。例えば今ブロンズのミアが俺の担当になったとしよう。その状態で何度か依頼をこなせば、ミアはすぐにシルバーに昇格される。それを意図的に狙ってやることをパワーレベリングと言うんだ。ニーナも組み始めた頃はブロンズだったが、すぐにシルバーに昇格したよ」


 簡単に言うなら寄生といったところだろう。


「それが最近露骨すぎてな……。九条は多分ゴールドはあるだろうから、気を付けた方がいいぞ?」


「どうしてです?」


「ゴールドにもなると、多少融通が利くようになるんだ。最終的にはギルド側の許可が必要だが、冒険者側が担当を選べるようになるのさ。そうなるとカッパーやブロンズの下級ギルド職員が自分から売り込んでくるんだ。まあそれ自体はかまわないんだが、条件として身体やカネを提示する輩がいるんだよ」


「そこまでします?」


「まあ、ギルド職員でゴールドともなれば、かなり大規模な街の支部長を任されるレベルだからな。必死なんだろう」


 コット村のギルドに常駐するようなゴールドの冒険者はいないので懐疑的ではあるのだが、気を付けろと言われても実感はわかない。

 結局は可能性の話である。俺がまだゴールドとは決まった訳ではないのだ。

 だが、もしゴールドだったら、ちょっとくらいつまみ食いしてもいいのではないだろうか――などと考えていると、それを知ってか知らずか、ミアは胡坐をかいていた俺の足に飛び乗った。

 見上げる顔は、少々不貞腐れているようにも見える。


「ま……まあ、俺は何があろうと担当を変えるつもりはないですけどね!」


 膝の上に乗る気分屋な猫を、なだめるように優しく撫でる。

 人前で言うのは恥ずかしくもあったのだが、俺はミアと約束したのだ。

 ネストとバイスはそれを見て笑っていたが、ミアは得意気な表情を浮かべながらも、満足そうにしていた。


 ――――――――――


 そして二日目の夕暮れ時に事件は起きた。

 馬車の幌には夕陽を浴びてキラキラと輝くゴールドプレート――にもかかわらず、盗賊に囲まれるという緊急事態。


「意味ないじゃないですか、アレ!」


 ぶらぶらと揺れるゴールドプレートを指差し訴える。


「まあ、そんなこともあるさ」


 こんな状態でもバイスは平然としていた。余程自信があると見える。

 相手は盗賊を名乗っていたが、正直それには疑問が残る。

 馬車を取り囲んでいる奴らは、どう見てもゴロツキといった見た目で違和感はないのだが、それに命令している男はどう見ても騎士。立派な鎧を着込み、一人だけ騎乗しているのだ。

 ボルグの方がまだ盗賊らしい盗賊であったといえる。

 全員が同じような装備なら、街の盗賊はおしゃれさんなのかな? とも考えたが、どうやらそうでもなさそうだ。


「荷物を全部寄こせ!」


 馬車内にも聞こえる大声。それをまるで相手にもせず話し合うバイスとネストは、相手に若干の心当たりがあるようだ。


「どこの家の者だと思う?」


「うーん。レストール家かブラバ家あたりじゃないか?」


「ありえるわね。この辺の領地だし……。ブラバ家の情報網はバカにできないわ」


「おにーちゃん……」


 ミアが俺の服の裾をぎゅっと掴むと、不安そうに顔を見上げる。


「どうするんです? 応戦しないんですか?」


「いや、戦えば勝てるのは間違いないが、出来るだけネストの存在は隠しておきたい。恐らくだが、奴らの狙いは魔法書だ」


 どこから聞きつけたのだろうか……。相手は相当優秀な情報網を持っているようだ。

 御者はすでに馬車の中に避難していて、ガタガタと震えていた。


「九条、がんばれ!」


「えっ!? バイスさんは?」


「いやあ、俺とネストは貴族だからさ。ギルドの依頼以外で暴れると後々面倒なんだよ。ここは俺の家の領地でもネストの家の領地でもない……。何かあった時、後から難癖をつけられる可能性が高いんだ……」


「ええ……」


 貴族めんどくさ……と思ったが、だからといってこのまま黙って籠っているわけにもいかない。


「はあ、わかりました。一応やってみますけど、死人が出ても捕まったりしませんよね?」


 バイスとネスト、それに加えてミアも俺を唖然とした顔で見ていた。

 この期に及んで何言ってんだコイツ……って顔である。


「九条、お前の考え方が良くわからないんだが、この状態で捕まるとか考えられる余裕があることは素直に評価するよ……」


 それは奇妙に映ったのかもしれないが、そこはハッキリさせねばならない。

 異世界とはいえ、仏門に身を置いていたのだ。殺生は決して許されない。

 もちろん、それを貫き通して自分が死ぬのは愚の骨頂。そこで法の登場である。

 ぶっちゃけてしまうと逃げ道だ。言い換えればどちらが悪なのかということ。


「大丈夫だよ、おにーちゃん。どう考えても悪いのはあっちだから」


「そうか……」


 ならばどうやって追い払うかだが、戦闘経験がなさ過ぎて相手の強さが全くと言っていいほど読めない。

 スケルトン程度ではやられてしまう可能性が高く、かといって本気を出してはやりすぎだろうから手を抜くべきなのだが、どれくらい加減するべきなのか……。

 バイスが勝てるのであれば、シャドウが丁度良さそうではあるのだが、それを呼び出すには触媒である頭蓋骨が必要だ。

 残念ながら、それは魔法書にストックしていない。

 シャドウと同程度の強さで、今ある物でなんとかするには……。


「バイスさん。その装備一式、借りる事って出来ますか?」


「それは構わないが……。九条じゃこの鎧は入らないんじゃないか?」


「いえ大丈夫です。それよりもちょっと傷がついちゃうかもしれませんが……」


「かまわないぞ? 鎧を着て戦うんだから傷くらい付くのはあたりまえだろ? 着れなくなるほど壊されるのは困るが……」


「じゃあ、ちょっとお借りしますね」


 御者に馬が暴れないよう手綱を握っておいてくれとだけ言い残し、バイスの鎧を綺麗に並べると、そこに右手をかざした。


「【|魂の拘束《ソウルバインド》】」

死霊術師の生臭坊主は異世界でもスローライフを送りたい。

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